Magic game   作:暁楓

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 随分遅くなってしまいました。
 前回、『才やその他のチームの人達の頑張りを書いていこうと思います』……と言いましたね。ええ言いました。
 すいません、前言撤回します。才の頑張りに限定します。
 それに頑張りというか、才の天才を披露するような感じですね。
 そして駄文。レベルがものすごい落ちてます。


第三十六話

 転校から二日程。学生となった才は、学校から帰宅する夕方から夜にかけて、アースラへ向かう日々になっていった。

 才は独自で調べてミッド式デバイス用のカートリッジシステムの理論を組み上げて提出した訳なのだが、それを実際にデバイスに組み込む作業も行っているのである。

 

「才くん、C-21のパーツ取ってくれる?」

 

「はい……これですね」

 

「そうそう。才くんは物分かりが早いね〜」

 

 才のことを子供のように(実際身体は子供だが)褒めながら、管理局技術部、マリエル・アテンザは机上の純白の杖にパーツを組み込んでいく。才はその様子を横目で見ながら、目の前に展開したディスプレイのキーの操作を再開した。

 いくら理論を組み上げたと言えど、実際にデバイスを組み立てる技術まで持ち合わせていない才はマリエルにそれを頼み、自分はその作業を見学しつつもデータの確認と調整、さらにはレイジングハートとバルディッシュのカートリッジシステム運用理論の制作までやっていた。

 

「いやー、それにしても……」

 

 マリエルは困ったような、あるいは参ったような顔を才に向けた。

 

「カートリッジ理論を組み上げるだけじゃなく、そんなマルチタスクもこなせるなんて、ホントすごいよね〜……」

 

「……マルチタスクは、魔法戦では必要な技能では?」

 

「まあ、確かにそうらしいけど。いや、私は戦闘員じゃないからよくわからないけど」

 

 涼しく返す才に、マリエルは苦笑を通り越して顔が引きつっていた。

 才は椅子に座ってディスプレイ操作を行っている訳なのだが、その表示数が異常だった。カートリッジシステムの汎用理論、自分のデバイス用理論、レイジングハート用理論、バルディッシュ用理論。これら四つの高速演算を同時にやってのけ、その結果を両手は勿論のこと、両足(裸足)を用いて入力、再度確認して微調整を行っているのだ。しかもその作業を、大量のなのはやフェイトの魔法戦などのデータ映像、ベルカ式デバイスのデータ、その他諸々を見ながら行い、マリエルの作業を観察し、手伝い、会話もこなす。

 ぶっちゃけたマリエルの感想を言えば、この人本当に人間なのかと疑いたくなるような光景だった。

 

「えっと……そんなに一辺にやって大丈夫? こんがらがったりしない?」

 

「……一つ一つ冷静に判断すれば大丈夫です。確認もしてますが、その上でマリエルさんにも再度確認をお願いしてますし」

 

「うん、私の確認の時点で直す必要がないのが怖いんだよね」

 

 そもそも、才が確認して微調整するところでも調整前で十分だと思えるぐらいである。

 

「こんなにすごいなら、管理局に入って技術部で理論立てればもう凄い活躍になるんじゃないかな? 戦闘員ばかりに目がいきがちなんだけど、他のスタッフも結構人員不足なんだよねぇ」

 

「……どうでしょうね」

 

 マリエルのさり気ない誘いに、才はなんとなくそう返した。

 

「……ところで、『白杖(しろづえ)』のカートリッジ機構の完成はいつになりそうですか?」

 

「え? ああ、うん。才くんのお手伝いのおかげで、早くて明日にはもう完成かな? 完成したら早速起動するつもり?」

 

「はい。現段階では理論上の安全性ですから、試験運用をいくつかして立証しなければいけないかと……」

 

 『白杖』とは、今マリエルがカートリッジシステムの組み込みを行っている、才のデバイスである。

 そして白杖には、『ミッド式デバイスにカートリッジシステムを組み込んだ試験機体』として導入される。ミッド式デバイスはベルカ式に比べて強度面で脆いため、術者だけでなくデバイスにも負担がかかるカートリッジシステムは搭載されていなかった。そこで発案者である才が自らのデバイスで試験運用することを志願したのである。

 

「ふーん。ところで、相手って決まってるの?」

 

 才の答えに頷きながら、マリエルはなんとなく気になったことを尋ねてみた。

 

「ええ。優秀な執務官に相手を願いました」

 

 才はそう答えた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 翌日、訓練室。

 そこでは才と、クロノが対峙していた。

 クロノはすでにS2Uを手にしているが、対する才が手にしているのは、未だに待機状態の白いクリスタルである。

 才がそのクリスタルを、上に投げる。

 

「……白杖、展開。更新データを起動……バリアジャケット再構築……」

 

 才が真っ白な光に包まれ、一瞬にしてバリアジャケットに包まれ、そして新たなシステムが組み込まれた白杖を手にした。

 才がバリアジャケットとして纏っているものは、白杖と同じ純白のタキシード。特に特別な使用もないが、ボタンもネクタイも、何もかも純白一つだ。手にも真っ白な手袋がはめられていて、顔と髪だけが色を表している。

 

「……白杖、カートリッジロード」

 

 才がそう命令すると、白杖のクリスタルコアの付け根部分がスライドし、空薬莢が一つ排出される。

 すると、才の魔力が増幅され、溢れ出た魔力が髪を撫で揺らした。

 少し時間を置いて、才はモニターを複数展開。流れるようにスクロールされて表示されるデータを確認する。

 

「カートリッジシステム正常稼働……術者及び白杖への負担も規定内……稼働状況良好……」

 

『こっちも確認してるけど、異常はないよ』

 

 測定を行っているマリエルがモニターで顔を出し、才に報告した。

 

「空撃ちを数発……それから模擬戦でいい?」

 

「ああ。それで構わない」

 

「……砲撃術式形成……術式内容を空撃ち使用に変更、再計算……………砲撃、発動」

 

 白杖を明後日の方向に向け、ボフッボフッと射程ゼロの空撃ちを行う。

 その様子をクロノは黙って見ていたが、ふと口を開いた。

 

「なあ、前から思ったんだが」

 

「……何?」

 

「そのデバイスの名前……白杖って、どうも味気ないとは思わないのか? 確か、魔法も分類名称だけで固有名称を付けてないんだったな」

 

『ああ、それ私も思った。もうちょっと個性的な名前が欲しいよねー』

 

「……………」

 

 才は答えずに空撃ちを済ませ、白杖の調子を確認したり、術式の調整計算を始めた。

 

「別にいちゃもんをつける訳じゃないんだが、魔導師とデバイスは信頼しあって互いに力を発揮しあう相棒なんだから、多少でも思い入れというのを――」

 

「……機械に嘘や裏切りが、できると思う?」

 

「は?」

 

『え?』

 

「機械に嘘や裏切りはできない。嘘をつくようにプログラムを組めばできるけど、結局のところは『嘘をつけ』という開発者の命令に従っているだけ……裏切りの概念がないデバイスに信頼の概念なんて、ない」

 

『いや才くん、そんな言い方は……』

 

「マリエル、否定はするな。解釈に違いがあるのは当然だ」

 

 クロノはマリエルを止め、S2Uを構えて戦闘態勢へと入った。

 

「確かに君の言う通り、デバイスには裏切りの概念はないだろう。裏切りがないから信頼の概念だけがあるのはおかしい……それは一理あるのかもしれない。だが、君が誰かを信頼する場合には、必ず裏切りの可能性も考えるのか?」

 

「……ゼロであるとは言い切れない。だから僕は、裏切りがないとは言い切らない」

 

 モニターを全て閉じ、才も白杖を構える。

 二人の足元に、魔法陣が展開される。

 

「なら……試してみるか? 裏切りがない信頼と、信頼すらもない関係」

 

「……そんな対決以前に、僕は負けないつもりで行くけど」

 

「奇遇だな。僕もだ」

 

 同時に、杖の先端を相手に向ける。

 

「……射撃」

 

「スティンガーレイ!」

 

 二人の間で、魔力弾が弾けた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「うわぁ、開始の合図も待たずに始めちゃいましたよ……」

 

 射砲撃をぶっ放しあっている二人を見て、マリエルは溜め息をついた。

 そんなマリエルの耳にガシュン、という音が届いた。これは部屋の扉が開く音だ。

 誰だろ、と思って振り返ると、

 

「才が模擬戦をやると聞いた。始まってんのか?」

 

「綾さん! ホントに安静にしてないとダメですよ!」

 

「フェイトちゃん……」

 

 入ってきたのはマリエルには面識がなかった綾と、その綾の袖を引っ張って引き戻そうとするフェイトだった。かかと立ちで懸命に引っ張る姿は、駄々をこねる子供のようで微笑ましい。その後ろから入ってきたなのはは、普段は見ないフェイトの姿に苦笑している。

 綾はフェイトには気にせず、マリエルに訊いた。

 

「で、どうなんです?」

 

「ああ、はい。模擬戦やってますけど……」

 

「じゃあ、俺にも見せてもらえます?」

 

「構いませんが……」

 

「綾さん!」

 

「大丈夫だって、歩くぐらい」

 

「リンディ提督に言いつけますよ」

 

「それだけはやめてくれ。……座って観ればいいんだろ?」

 

 綾は仕方なさそうに言って近くの椅子に座った。

 

「で、どんな感じです?」

 

「カートリッジシステムの稼働状況は良好。いい感じですよー。クロノくんとも渡り合ってるし、これならレイジングハートやバルディッシュへの導入も可能そうね」

 

 綾はモニタリングされている二人の様子を見た。モニター内では二人が飛び回り、激しく射砲撃を打ち合っているのが見える。

 

「すごい……」

 

「クロノと互角……いやそれ以上かも……」

 

「……………」

 

 なのはとフェイトが二人の戦いの様子を感嘆としている中、綾は才、そして彼のデバイスの動きのみを見ていた。

 

「マリエルさん。魔力測定の記録を見せてもらえますか? それと才が出した演算結果の理論書も……あと計算機」

 

「え? あ、はい」

 

「綾さん? 何するんですか?」

 

 なのはが尋ねた。

 

「実際の値がどのくらいか、ちょいと計算をな。すぐに全部はできないだろうけど、暇潰しには最適だろ」

 

 綾はそう答え、計算機を叩き始めた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「ブレイズカノンッ!」

 

「砲撃」

 

 二つの砲撃の衝突が爆風を巻き起こす。

 爆風に髪が流されながら、才は白杖から空薬莢を一つ排出させる。

 

「……射撃。高速弾、弾数二……」

 

 呟くような命令。白杖の先端から魔力弾が二つ、高速で爆発の煙の中に突っ込んだ。

 魔力弾は煙を突き抜け、砲撃を撃ってからその場に留まっていたクロノへと突き進む。

 

「っと!」

 

 クロノは魔力弾の存在を確認してすぐ、魔法障壁を展開して攻撃に備えた。

 これは牽制。煙の陰から自分を出して、そこに砲撃をするつもりだろう。牽制に使う魔力弾は威力もさほど大きくないのが定石であるためここで牽制弾を防ぎ、追撃に対しての備えをするのが得策。

 そう考えたクロノであったが、それは覆されることになる。

 高速で突撃してきた魔力弾が、障壁に当たる直前で速度を緩めず直角に曲がった(・・・・・・・・・・・・・)のだ。

 

「なっ!?」

 

 クロノは驚きを隠せなかった。というのも、高速の魔力弾を減速なしに直角で曲げるのは高度な技術だからだ。

 基本的に魔力弾の軌道操作を行う場合、曲げる前に減速させるかもしくは徐々にカーブを描く。急ブレーキですぐには止まれない車のように、魔力弾も急に止めるのは難しく、直角軌道も簡単にできたものじゃない。できないことはないが、魔力弾を自在に操作する必要があっても直角軌道まで行う必要性がないというのもある。

 だが、その直角軌道が目の前で見せられた。そもそも煙でこちらの様子が見えないはずということもあって、クロノは一瞬だが硬直してしまった。そこに二つの魔力弾が迫る。

 

「うおっと!」

 

 なんとか直撃する前に前に出て、回避に成功する。だが才の攻撃はこれで終わりではなかった。

 前方の煙から、今度は才自身が突っ込んできた。白杖に魔力付与をし、振りかぶっている。射砲撃を軸にする魔導師が近接戦をするのはナンセンスなのだが、先の奇襲をギリギリよけたばかりでクロノは隙だらけだ。

 

「っ!」

 

「っく!」

 

 ガギンッ! という硬質な音を響かせ、杖同士でしのぎを削りあう。

 才は追撃はさらに続けるつもりだったようだ。左拳を引き、殴る態勢を取った。左手にも魔力付与がされている。

 押されているクロノ。魔力弾の直角軌道は予想外だったが、相手がクロスレンジを仕掛けてくるのは読んでいた。その時の保険もかけてある。

 

(今だ!)

 

 クロノは、その保険のトリガーを引いた。

 クロノが用意した保険とは遅延型バインド。相手との接触状態を一定時間続ければ起動、拘束するものだ。そのバインドを念のため三つ、仕掛けている。

 そのバインドが起動され、才に魔力の鎖が向かい、拘束する。

 

「勝負を焦ったな。チェックメイトだ」

 

「……そうだね。僕がチェックメイトだ」

 

 才の落ち着いた声。そしてすぐにパキンッという音と共に砕け散った。

 

「……拘束破壊術式の付与。フェイトの嘱託試験を見て保険としてかけておいた」

 

 言って、才は白杖をクロノに向けた。チャージはもう完了している。

 

「……前方は砲撃、後方にもさっきの射撃二つが構えてる……これでもう、いいんじゃないか?」

 

「……ふぅ、そうだな。目的のシステム試験は十分だし、参ったよ」

 

 クロノは肩をすくめてそう言い、模擬戦は終了となった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「理論値と実値が違うな……魔導発動の度に少しずつ変わってることからして、やっぱりそういうことか?」

 

「……何をやってるんだ君は」

 

 模擬戦を終えてマリエルの元へ戻った二人が目にしたのは、いくつもの画面を見ながら計算機を叩き、出た数値を記録していく綾の姿だった。

 眉尻をピクピクと上げながらクロノが尋ねる。その声でようやく二人に気づいた綾が振り返って、一言。

 

「……ああ、戻ってきたのか」

 

「ああ、戻ってきたのか。じゃない! 何をやってるのかと訊いてるんだ!」

 

「何って、計算」

 

 特に悪びれもせず、何でもないように言った綾に、クロノは余計にキレた。

 

「安静にしろと言ってるだろう! 医務室に戻れ! そして寝ろ!」

 

「大丈夫だってこのくらい。あともうちょいで区切りがいいから――」

 

「い い か ら 寝 ろ !」

 

 堪忍袋の尾が切れたクロノが綾の襟を掴んで無理やり引っ張りだした。突然掴まれたのに計算機や書類を手放さないところを見ると、どうやら予測はしていたらしい。

 

「ああ、才。体感してどんな感じだった?」

 

 引っ張られながらも、綾は才にそう尋ねた。

 

「ああ……やっぱり、実際は理論のようにはいかないよ」

 

「そう言いながらも理想値に限りなく近い状態にしてるところがすごいけどな」

 

「計算、できたんだ?」

 

「まだ半分程度で、荒い計算結果だけどな」

 

「……そう。まあ、今は療養に集中した方がいいよ」

 

「……そうかい。じゃあな」

 

 綾はそのまま引きずられていった。




 レベルが落ちすぎてヤバイです。
 才を中心に書くのかなり難しいです。天才だし。感情ほとんど出さないし。

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