Magic game   作:暁楓

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第三十七話

 医務室で計算機、モニター、書類の三つとにらめっこして早数日。

 確認の演算の周回数ももはや二桁に達してきている中、俺の手はすでに止まっていた。

 

「やっぱり、そう……なんだなぁ……」

 

「……なにが?」

 

 氷室が尋ねてきた。

 

「この前の才の模擬戦。あれでの才の魔法運用効率の計算をしてたんだが」

 

「魔法運用効率?」

 

「読んで字のごとく、魔法を目的に沿って最も効率良く運用するためにどれほどの魔力を使えばいいのかってやつ。管理世界で世間的に出回ってる魔導術式のテンプレートはその計算で出た最適な値を基準にしてるそうだ」

 

「へえ、そんなのがあるのか。それで?」

 

「最適な値……すなわち理想値となる訳だが、現実として誤差等の影響で完全にその理想値で行うことはできない。それはわかるな?」

 

「まあ、当然だな」

 

「ところがだ。これ見ろ」

 

 俺は書類とモニターを氷室に渡した。

 

「モニターは才が実際に模擬戦で魔法行使をした時の数値。順に追うと、数値が理想値に近づいている」

 

「近づくぐらいじゃあ、何でもないんじゃないのか?」

 

「近づいていった結果、誤差0.01未満が何度も出ている。クロノやマリエルに聞いたが、まぐれや機械任せで出る数字じゃないらしい。そもそも近づくってことは調整してるってことだ。戦闘中に誤差0.01未満にすることを考えたら、それでも何でもないと思えるか?」

 

「……ふーん。まあいいさ、俺は今生きれるようにすることが目標なんでね。お前みたいにあいつを超えようなんざ思ってねえし」

 

 そう言って氷室は渡したデータを返してきた。

 それから、氷室は思い出したように話してきた。

 

「ああ、そういやよ。すっかり忘れてたんだが」

 

「あ?」

 

「お前が色んなとこにうろついている間にリンディが来てよ。お前が無茶やらかさないようにだとかでここにはアラートが聞こえないようにしたんだが」

 

「……? それで?」

 

「原作軸で考えれば、なのはらはもう守護騎士との第二戦やってるぜ?」

 

 

 

   ◇

 

 

 

 建物の陰に走り、白杖のカートリッジをロードする。

 

「……射撃。精密誘導弾、三発……」

 

 才は呟くように命令を下して建物から僅かに出て、白杖から魔力弾を発射した。

 発射された精密誘導弾――通常の誘導弾と比べてより細かく正確に操作できる――は、それぞれが法則性の見えない複雑な軌道を描き、目標――ザフィーラに襲いかかる。

 

「クッ……」

 

 複雑な軌道を読み切れず、ザフィーラは手や足に魔力弾を受けてしまう。威力自体は大したことないのだが、関節や筋肉が反射的に強張り、動きが硬直してしまう。

 

「どりゃあああああっ!!」

 

「っ! ぬおおおおっ!!」

 

 そこに追撃要員のアルフが魔力を込めた拳で殴りかかる。追撃の存在を確認したザフィーラは、半ば強引に身体を動かし、アルフと拳をぶつけ合った。

 

「……砲撃」

 

「っ、チィッ!」

 

 拳同士で均衡している間を狙って、才が真上から至近距離で砲撃をかました。

 ザフィーラは避けようとする……が、掠って、手甲が一部砕けてしまう。

 才はザフィーラと距離を置き、アルフの隣に立つ。

 

「……即席コンビにしては、いい感じじゃないか?」

 

「まっ、あたしはフェイトとコンビの方が百倍いい連携だけどねっ!」

 

「……そう」

 

 才は大して気にした様子もなく白杖を構えた。

 カートリッジシステムを手にしたとは言え、本人のスペックでは劣っているものが多く、戦闘での勝率は依然低いことを理解している才はコンビを組んで戦うことにしたのである。

 アルフと組んだのは消去法なのだが、前衛で格闘戦を行うアルフと後衛で射砲撃を行う才のコンビネーションはなかなか以上の出来であった。特に才の射撃サポートは的確で、ザフィーラの行く手を阻み、かつアルフの邪魔をしないでいる。

 

「……また、サポートする。そっちに合わせるから……………!」

 

 指示をしようとして、才が何かに気づいた。

 才が気配がする方向に防御陣を張る。すると、才に放たれた砲撃が張ったシールドに直撃した。

 

「え!?」

 

「……………」

 

 突然の奇襲にアルフが驚く中、才は射線上を辿る。

 その先にいたのは、派手な装飾が施された杖を手にした、一人の少年だった。歳は大体十二、三歳といったところか。

 

「なんだいあいつ!? おい! あんたの仲間か!」

 

「知らん」

 

 ザフィーラは即答した。

 才はあるものを確認した後、白杖を少年の方へと構えた。

 

「……アルフ、ザフィーラの相手を任せて、いい?」

 

「別にいいよ。あんたこそ、しくじんじゃないよ」

 

「……わかった」

 

 才は魔力弾を少年の方に飛ばした。少年は建物の陰へと消えていったため、自身も飛び出した。

 才が確認したのは、今きたメール……神からの緊急指令だった。干渉・解析魔法で見たのである。

 内容は、

 

 

 

差出人:管理者

 

件名:緊急指令

 

内容:

 守護騎士が撤退する前に『田所 郁也(たどころ いくや)』を戦闘不能にせよ。

 なお、この指令の条件を満たし、守護騎士に一定のダメージを与えた場合、その守護騎士に勝利したと認定する。

 

成功条件・報酬:守護騎士が撤退する前に『田所郁也』を戦闘不能にする。スターチップを一個配布。

 

失敗条件・罰:自分が戦闘不能になる。もしくは『田所郁也』を戦闘不能にする前に守護騎士が撤退。スターチップを一個剥奪。

 

 

 

(ついに転生者同士の潰し合いが指令になったか……)

 

 予想はしていた。きっとこういう指令が来るようにはなるはずだと。逆にそのようなことをしないなら、チップ強奪は即失格というルールは公開され、未然に失格者が出るのを防ぐはずだ。

 『田所郁也』とは、おそらく先ほどの少年だろう。今回の指令は彼を潰せは達成ということのようだ。

 そしておそらく、彼が戦闘不能になれば……

 

「……………」

 

 才は少年が入っていった曲がり角へと消えていった差し掛かった。

 

「お前が、天翔才だな?」

 

「……………」

 

 差し掛かった先に少年……田所郁也がいた。

 

「指令は見たよな? まあ読まなくてもいいけど。お前に恨みとかはねえけどよぉ……俺のために死ねぇ!!」

 

 田所は言って、二つの魔力弾を才へと飛ばした。才はそれをよけるまでもなく、魔法防御で受け止める。

 

「……………」

 

「へっ! これならどうだよ!!」

 

 田所は続けて事前にチャージしていた高威力砲撃を撃ち出した。魔力弾を防いだために身体が硬直していた才を、砲撃が直撃、爆風が巻き起こる。

 

「へへっ……これでチップは俺のもの……」

 

 田所はこれで勝利を確信した。だが、田所は相手とその力を見誤っていた。

 まず才のデバイス『白杖』は、守護騎士やなのは、フェイトのデバイスより劣るとは言え、専用のカートリッジシステムを組み込んだことによって大幅に強化されている。

 だが、それは追加事項でしかない。

 

 

 

「……………」

 

 

 

 何よりも、才がその程度の戦法を見切れないはずがないのだ。

 ――無傷。煙が晴れた後、見えた結果がそれだった。

 

「……は?」

 

 田所が呆けた声を出した。

 田所は過去に転生者を戦いで勝ち、潰したことがある。勝った時にはこの世界がデスゲームだと知っていたため、チップを奪う真似はしなかったのだが、実力には覚えがあった。

 ……だが、それ以上に、才の実力は転生者の中から抜き出ていた。

 才が、白杖を田所へと向ける。

 

「……射撃」

 

「っ!?」

 

 田所は咄嗟に防御魔法を展開した。呆けた状態からその反応の早さはなかなかと言える。

 ……が、いつまで経っても相手の魔力光は見えない。

 

「あ? ……がっ!?」

 

 衝撃は後ろから、突如としてやってきた。

 

「……迷彩弾。拘束用魔力鎖術式追加付与……」

 

 パチンッと才が指を鳴らす。田所の後ろからジャラジャラと魔力の鎖が伸び、田所を雁字搦めにした。

 

「ぐっ……!」

 

 ジャキン! と、拘束され倒れた田所の顔に白杖が突きつけられた。

 

「チェックメイト」

 

 その言葉、そして表情を一切変えずに自分を見下ろす才に、田所は恐怖を覚えた。敗北……それが表す自分の未来がわかっているからだ。田所は負けられない状況にある。

 だから、田所は切り札を切った。相手の心理を利用するという切り札を。

 

「チェックメイト……? 本当にお前がそれをできるのか? ここでお前が勝てば、俺は死ぬんだぜ? お前は人殺しになるんだぞ?」

 

 実質的殺人。この言葉で相手の動揺を誘う作戦。

 実際、田所はスターチップを持ってない。ここで指令に失敗すれば、本当に失格者として消される状況下にあった。

 この作戦で相手が動揺している隙に拘束から抜け出し、一気に才を潰す。これが、田所の切り札だった。

 

「お前は俺を殺せるのか? お前は人殺しになれるのか? ああ!?」

 

 ――だが。

 

「――できるよ」

 

「は……?」

 

「僕は神を討つ。そのために、その力を得るためなら、僕は今ここで君を殺すことも厭わない」

 

 才の言葉には、迷いの欠片もなかった。

 ガキュン、という音がした。田所にはそれの意味がよくわかった。白い杖から空となった薬莢が一つ、落ちる。

 殺される。

 殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される。

 

「こっ、この、人殺しヤロッ――」

 

「――砲撃」

 

 田所の声を遮る白い閃光が、田所の意識を刈り取った。

 田所は生きている。才が行ったのは魔力ダメージによる昏倒。だが、もう起きることはない。

 パキンッと、田所の身体が青白く光って砕けた。

 

「……………」

 

 才は指令を見たのと同じ手法で来たメールを読み、スターチップを一つ、受け取った。

 

(……これから先、転生者同士の潰し合いが確実に起きる……彼も、きっと避けられない)

 

 才は空を見上げ、アースラに乗っている『彼』を思い浮かべた。

 

「君はその時、一体どうするんだろうね……」

 

 呟いてから、才はすぐにアルフの援護へと向かった。

 アルフと連携し、才はザフィーラにダメージを与えて引かせ、ザフィーラに勝利となった。

 

 

 

 才、ザフィーラに勝利。




 もう早いとこ綾メインに戻さないと、僕のスペック的にきついです。
 転生者同士の潰し合いが起きました。
 才のやり方は残酷なのかもしれませんが、何かのために何かを捨てる覚悟も強さの一つだと思います。
 そしてごめん、ザフィーラ。そこまで出番取れなかった上に適当になった。そして多分もう出番ないわ。
 三十話で二言喋って以降出番がないヴィなんとかさんよりはマシなはず! というかその子、登場話数も二話分しかないから! ザフィーラはこれ入れて五話分、倍以上の出番なんだよ!
 ……すいません、原作キャラの皆さん。
 前にも言ったかと思いますが、原作主要キャラの出番が少ないのがこのゲームクオリティ。

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