Magic game 作:暁楓
十二月二十二日。クリスマスイブまでもう三日もない。
回復魔法を使って左手も何とか治り(転生者以外には秘密)、俺も氷室も生活に支障がない程度には回復したとして医務室から解放されている。生活に支障がない程度の回復なので、氷室の右腕骨折はまだ治りきってない。本来ならば俺の左手もそうである。
「しかしお前、本当に大丈夫なのかそれで?」
「夜天の写本、結局は使えたものじゃないからねー」
「……仕方ないだろ」
氷室と由樹の言葉に、俺はそう答えるしかなかった。
才が守護騎士に接触して夜天の写本を解析してもらって、起動すればマスター認証もできるということでそれもやった。しかし、問題はその後で発覚した。
夜天の写本は、空っぽだった。
そもそも、夜天の魔導書及びに闇の書は魔導蒐集を行うことで真価を発揮する。蒐集した魔力を行使し、蒐集した規格外級の魔法を発動するものだ。
しかし、夜天の写本に蒐集された魔導はゼロ。何一つ入っていなかった。当然、このままでは武器になるはずもない。かと言ってなのは達から蒐集することは当然無理。
結果、今夜天の写本に入っているのは俺達転生者の魔法と魔力のみ。原本相手にはとてもと言えるほどに無理があった。
しかも追加事項を言えば、俺の長杖や末崎の短剣は没収されたまま。つまり、このシステムスペックだけが有り余っている写本一つで挑まなければならないことになる。
「とにかく、手札がなくともやるしかないさ」
そう、今更それの文句を言っても仕方がない。寧ろ、戦力的に拮抗した戦いなんて俺達には無理な話だ。
「氷室や由樹は当日、奴から何か仕掛けてこないか注意していてくれ。俺も竹太刀にそう言っておく」
「おう、お前も気ぃつけれよ」
「ああ」
「まっ、僕とマリアは当日になったらクリスマスデートの予定だからさ。帰ってから生きてたら結果を聞かせてもらうよ」
由樹はニシシと笑って答えた。
そう、同じチーム『連合軍』の由樹とマリアは付き合っているのだ。だいたい半年近く前から。デートしてる二人の姿を見たこともある。
付き合い出した理由は由樹曰わく「タイプだから」。マリアは悪戯好きの由樹に手を焼いているものの、まんざらでもないらしい。
「よくこんな世界で彼女だなんて言えるねぇ」
「こんな世界だからだよ。切羽詰まってばっかだと、心に余裕がなくなるよ?」
「……まあ、それもそうなのかもな。じゃあ、お前ら気をつけろよ」
「おう。綾もしくじんじゃねーぞ」
「うん。じゃーねー」
こうして、俺達は解散した。
明後日が、勝負の日だ。
◇
「なあ、アリシア」
「なあに? 綾さん」
「なぜ、アリシアは俺の膝に座っているのか」
「だって、綾さんつい最近までずーっと帰ってこなかったんだもん」
夕食後の現在、ソファに座っていた俺の膝にアリシアが座っていた。アリシアの現身体能力では自力で車椅子から移動できないため、アリシアが頼んできて俺が移動させたのだが。
アリシアのその理由もなぁ……だって、リンディさんが動くことを許可したのがつい最近……いえ、何でもないですリンディさん。こうなったのも俺の自業自得なんで。
「ねえ、綾さん」
「……ん、なんだアリシア?」
「綾さんや、リンディさん達のお仕事ってあとどのくらいかかるの?」
「……んー、そうだな。できることなら早く終わらせたいもんだなぁ。それがどうした?」
「二十五日にはクリスマスでしょ? 一月になったらお正月もあるし、その時には綾さん達のお仕事が終わって、みんなで楽しくなってほしいなって」
「……そっか」
純真な笑みを浮かべるアリシアを、そっと後ろから抱き締める。
「大丈夫……楽しみなクリスマスもお正月も、それからも……きっと楽しいものになるから」
「うん!」
「ラブラブやなぁ、二人とも」
「いや、だからそんなことねえから。そしてそれ抜きにしても水差すなよ!」
こうして、十二月二十二日の夜は過ぎていった。
そして、二日後。
十二月、二十四日。
A's、最後の戦いが始まる。
綾、お前フラグ立ててないか。主にBAD系の。
とまあ、ふざけたことは今章ではここまでにします。なので次回からはガチになります。なので出番がないキャラを弄ったりするのも一旦終わりです。
これからの勝負、本ゲーム内でも一、二を争うほどのハードモードになると思います。挑戦前の条件から既にハードすぎる気がします。綾が生きれるのか、割と本気で心配になります。というか無理ゲー臭が……。