Magic game   作:暁楓

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 失格すれば消滅のデスゲーム、本格始動。
 第四話です。


第一章 願望機争奪編
第四話


 違反者の襲撃、そして失格者への処罰を目の当たりにした次の日。

 朝食を取り、由衣を学校に送り出して、家に帰ってから、俺と海斗で緊急会議を開いていた。

 議題は、夜中に送られてきたらしい、奴からのメール。

 

 

 

差出人:管理者

 

件名:指令1

 

内容:

 次の指令を指定期間内に実行、達成せよ。

 

指令内容:ジュエルシードを3個以上入手せよ。入手と判定される条件は、所有時間12時間以上、もしくは緊急指令等で管理者から入手承認を得た場合に限定する。なお、同シリアルのジュエルシードの複数回入手はカウントされない。

 

期間:PT事件終了(時の庭園崩壊)まで

 

報酬:入手したジュエルシードと同数のスターチップ

 

 

 

「……ジュエルシード争奪戦ってことか? これ」

 

「だろうな。ジュエルシードは全部で二十一個。理論上の入手最大値は二十一個になる」

 

「いや、それ無理じゃね?」

 

「当たり前だ」

 

 ごまかすことなく肯定。全部集めようとするのは馬鹿と限られた勇者だけだ。

 

「でも、これなら今すぐ町中を捜索すればいいんじゃないか? 原作で見つかった場所もわかるし、全体の七分の一だから案外あっさり見つかるかも……」

 

「馬鹿だなお前は。七分の一じゃない。お前散々俺に見せてきただろ。海の中に何個ある?」

 

「あっ、六個……」

 

「まずその時点で十五個。さらに原作で描写されてたものはなのはやフェイトにすぐに見つかり、十二時間も持ってられない。それが確か……七個だったか? 正確な数は忘れたけど。つまり俺達が実質探せるのは結局のところ約八個。そのうちの三個以上を指令の参加者に加えてなのはやフェイト、管理局を差し置いて入手しなければならないんだ」

 

「……それ、なんて鬼畜ゲー?」

 

「それに半分以上が強制参加って時点で、こりゃハメだな」

 

 これの恐ろしいところは、不可能じゃないように見せているというところに加えて強制参加させられる奴がいることだ。

 指令の下に追記として、『不参加の申告は指令が届いて24時間以内に行うこと』と書かれてあったが、ルールには不参加の申告をするにはスターチップを二つ消費する。払えなければ、その人は強制的に参加となり、期間終了までにチップを手に入れなければ失格となってしまうのだ。

 

「強制参加って、大体どれくらい?」

 

「お前が由衣を連れてくるのを待つ時にざっと見たけど、あいつに群がることがなかったのが俺達を含めて十三人程だった。壁際から全体の四分の三見渡せたとして、人混みで見えなかった四分の一を加えたら大体十六人前後。そこから逆算して、大体八十人以上があの場でチップを使ったはずだ。群がった奴らの中でチップを二個以上残した奴はまずいないだろ」

 

「……。それって、つまり……」

 

「三つ以上手に入らなければ、八十人以上が問答無用で失格になる」

 

「……………。……あ、あの時、チップ使わなくってよかったなぁ。おかげで俺達スルーでき――」

 

「生き残っても、その先にあるのはより激闘になる第二期」

 

「―――――」

 

 ここまでの会話で海斗の顔は見てないが、絶句したのがすぐにわかった。

 そう、この指令の成功は絶望的だ。だが仮にチップを二つ払って不参加にしても、第二期のA's編で狩られる。

 この指令の難易度――いや、難易度なんて生易しいものじゃない、鬼畜度と言った方が正しい――を見て改めてよくわかった。俺が質問をしようがしなかろうが、ほとんど関係なかったんだ。あいつは端から俺達を生かすつもりなんてない。

 失格者の断末魔を聞きたいだけ。

 失格者が踊り狂う様を見たいだけ。

 あの時笑ったのはただ、それが早く見れるようになったから。

 ああ、そうか。俺達はあの神様を喜ばせるために呼ばれたのか。大義なことに選ばれたんだなぁ……。

 

「二十一個集めるぞ」

 

「……は?」

 

「失敗しようが棄権しようが大して変わりないんだ。なら成功して、大量のチップを稼ぐしかない」

 

「いや……お前、さっき無理って言ったろ?」

 

「普通にやればな。だけど普通のやり方をやってるようじゃあ奴に適わない。だから、普通より一線越えたやり方で二十一個の獲得を目指すんだ」

 

 目が笑ってない笑みというのをラノベとかでよく見るけど、多分今の俺がそれのような気がする。

 ……冗談じゃねえ。あいつの満足のために死んでたまるか……!

 

「とにかく、俺はやるぞ。海斗も手伝え」

 

「お、おう。……で、何をすればいいんだ?」

 

「今は、まだ待機。今のうちにバイトを探しておけ。俺は今腕がこんなだし、周辺調査でもしてる」

 

「え、ジュエルシード探しに行かないのか?」

 

「行動するタイミングも大事なんだよ。俺の考えに任せとけ」

 

 第一期での指令が、ジュエルシード絡みだというのは予想がついていた。ある程度の動き方なら、もうシュミレートできている。

 由衣にも手伝ってもらおう。やはり、管理局に接触する必要がある。

 

 チーム反逆者も、静かに動き出した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 なのはと接触するために由衣には塾に通ってもらうことにして、それから数日後の夕食の時のこと。

 

「え、なのはがもう魔導師に目覚めてる?」

 

「はい……制服の下から出ていた紐を尋ねたら、待機状態のレイジングハートを見せてくれて……」

 

 由衣は塾に行った初日に色々と偶然が重なってなのはと隣の席に。それから由衣がなのはに問題のフォローをしてから三人と知り合いになったらしい。ちなみに由衣曰わくまだ友達にはなれていないとのこと。

 で、今日はなのはの制服の襟から見えた紐を発見、訊いてみるとレイジングハートだったそうだ。

 

「ってことは、なのはの初変身シーンを見逃したってことか!?」

 

「……そうなるけど、そもそも俺達が来る前に始まってたんじゃないのか? ユーノの念話も聞こえてこなかったし」

 

 どっちにしろ、最初と神社のジュエルシードは回収されたと見た方が良さそうだ。

 

「あ、そうなんですかね? 私もそこは不思議に思ってて……」

 

「それはいいとしてだ。多分巨大樹の事件はまだ起きてないはずだから、気をつけろよ」

 

「というか、その事件が起きるのは休日なんだし、俺達三人揃っていれば問題なくね?」

 

「まあ、そうかもな」

 

「あ! というかその日のサッカーの試合観に行こうぜ! なのは達に会える!」

 

「あ! 私も賛成です!」

 

「へいへい……」

 

 呑気な考えである二人に呆れつつ、夕食の麻婆豆腐を口にした。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 土曜日。例のジュエルシード事件の日。

 そんでもってそれより先にある翠屋JFCの試合を観に、俺達はその場所へとやってきた。

 

「おー」

 

「わー」

 

 二人して感動の声を漏らしている。そんなに感動するものなのか?

 

「ばっか、原作の場面に立ち会っているんだぞ? 感動しない方がおかしいって」

 

「俺は変人だと言いたいんだな? それとこれから何回感動するつもりだ」

 

 俺のツッコミを聞かず、二人は歩いていく。仕方なくついていくと、俺達が知る顔に会った。俺と海斗は一方的に知っているのだけれど。

 

「あ、由衣ちゃん!」

 

「なのはちゃん!」

 

 なのはである。さらに彼女の後ろにはアリサとすずかもいる。

 由衣もなのはに近づくと彼女へと駆け寄っていく。……なんだ、仲良いじゃないか。

 

「偶然だねー。由衣ちゃんもサッカー観に来たの?」

 

「うん。ちょっと興味持って」

 

「そうなんだー。由衣ちゃん、よかったら一緒に観よ! 私達が応援するチーム、お父さんが監督してるの!」

 

「うん!」

 

 完全に友達の会話だよ。

 

「由衣、後ろの二人は?」

 

 そこに、アリサが近づいてそう尋ねた。よかった。蚊帳の外に出されるかと思った。

 

「あ、えっと……」

 

 由衣はその質問に言葉を詰まらせ、困ったような表情でこっちを見てきた。いや、そこまで困る程のものか? 確かにデスゲームのことは言えないけど。ほら、そんな仕草するからアリサから疑いの視線が。

 ……はぁ、しょうがない。

 

「訳あって、俺達は三人で共同生活してるんだ。俺は朝霧綾、呼び方は好きにしてくれ。……海斗、お前も自己紹介しろ……」

 

「……………」

 

 海斗は少しだけ口を開けたまま呆然となのは達を見ていた。さっき言ってた感動と似たようなもの……だと思う。

 俺はそんな無防備同然の馬鹿の脇腹に、肘鉄を叩き込む。

 

「おげっ!?」

 

 妙な喘ぎ声を上げ、馬鹿はその場に倒れる。

 

「なにしてんだ馬鹿。さっさと自己紹介しろ」

 

「てめっ……いきなり肘鉄はねえだろっ……藤木海斗だ。よろしくな」

 

 爽やかな笑みを浮かべる海斗だが、無様に倒れている上に痛みで引きつっているため、全然格好がつかない。

 

「ちなみに、同じ藤木でも由衣との血の繋がりなんてものはないから」

 

「へ、へぇ……」

 

 なのはが引き気味に呟いた。アリサも、目の前の倒れている海斗に目をとられ疑りの目はなくなっている。

 

「あはは……あ、自己紹介まだでしたね。月村すずかです」

 

 乾いた笑みの後、思い出したように自己紹介をしたすずかに続いて、残る二人も自己紹介をする。

 

「あ、そうだった。高町なのはです」

 

「……ちょっと疑ってた私が馬鹿だったかも……アリサ・バニングスです」

 

「ああ。由衣から三人のことは聞いてるよ」

 

 互いに自己紹介を終えたところで、すずかがこんなことを言った。

 

「共同生活って言うと、和也(かずや)くんと竹太刀(たけだち)さんに似てるね」

 

「ああ、そうねー」

 

「和也くんと……竹太刀さん?」

 

 由衣が反復して訊くと、なのはが説明してくれた。

 

「うん。由衣ちゃんみたいに塾で知り合ったのが佐崎(さざき)和也くんでね。さっきたまたま会って、一緒に試合を見ることになったの。それで、和也くんと一緒にいたのが、大体綾さんや海斗さんと同じぐらいの人で、坂本(さかもと)竹太刀さん。二人で一緒に暮らしてるんだって」

 

 ……間違いない。転生者だ。それにルールを読んで二人でチームを組んでる可能性もある。

 

「偶然もあるんだねー。最近塾で知り合った二人と今日会って、しかも二人とも共同生活を送ってるって」

 

「性格は全く違うけどね。片や丸メガネのせいでかわいい顔が残念な内気な女の子、片や自分勝手でやけにキメたがる男の子」

 

「え、そうなの? 俺由衣ちゃんが眼鏡外したとこ見たことねえぞ?」

 

「あら、そうなの? ちょっと前に由衣が転んで眼鏡が外れちゃった時があって、その時見えた素顔がそれは結構なかわいさで――」

 

「わああっ! あ、アリサちゃんっ、言っちゃダメ!」

 

 いつの間にか話が変わっていた。というか、そろそろ試合が近いんじゃないか?

 

「立ち話もそれぐらいにしないか? そろそろ試合も近いだろ」

 

「あ、そうでした。よかったら、みんなで一緒に観ませんか?」

 

「おう。俺は勿論いいぜ! 綾もいいだろ?」

 

「どっちでもいい。元々付き添いなんだし。由衣は?」

 

「はい!」

 

「……じゃ、頼む」

 

「はい!」

 

 なのは達の案内についていく。すると先に二人の人影が座っていた。

 一人は、こちらを見て明らかに不機嫌そうな顔をした、なのはや由衣と同じくらいの少年。銀髪……というか白髪だな。かつ、緑と金色のオッドアイ。

 もう一人は、茶色い髪の毛がクリクリのもっさもさ……所謂、天然パーマ。年齢は俺や海斗と同じぐらい。男だ。

 天パの方は俺達に気づくなり、爽やかな笑みを浮かべた。ああいう笑みを自然にできるって、モテるんだろうな。俺はよく仏頂面だ。

 

「おー、なのはちゃん。帰ってきたかぁ。三人増えとるけど、その人達は誰なん?」

 

 天パは訛りのある声――大阪弁だ――でなのはに尋ねた。

 なのはは由衣を自分の横に誘導し、紹介する。

 

「こちらは塾で知り合った友達、藤木由衣ちゃん」

 

「ど、どうも……」

 

 友達みたいではなく、もう既に友達だった。

 

「藤木海斗。由衣とは兄妹って訳じゃなく、たまたま苗字が同じってだけだ」

 

「朝霧綾。色々あって、この海斗と由衣の三人で共同生活している」

 

「おー。そうなんかそうなんか」

 

 天パは納得したようにうんうんと頷いて、それから自己紹介に移った。

 

「わいは坂本竹太刀。名前を要約すりゃあ長い竹光や。わはははは!」

 

 笑うところなのだろうか? これ。

 

「ほれ、和也。おめーも自己紹介しぃ」

 

「……ケッ」

 

 竹太刀は未だに不機嫌な様子の少年――和也に自己紹介を促すが、和也は鼻を鳴らしてそっぽを向いた。

 

 ガシッ。

 

「自己紹介しぃゆーとるやろ? な?」

 

「ぬぁっ!? てめっ、いきなりなにしやが――いだだだだだっ!!」

 

 反抗的な態度の和也の後頭部に、竹太刀がアイアンクローを決め込んだ。

 和也は抵抗するが、体格差故か全くアイアンクローから解放される気配がない。

 

「あー! 言うっ! 言うから離せよ!」

 

「よし離した」

 

「いてて……ったく……。……佐崎和也だ」

 

 上下関係がしっかりしているようだ。

 

「色々話してみたいけど、もうすぐ試合の始まりや。試合の応援に集中しよか」

 

 名前だけ言って黙り込んだ和也に竹太刀は不満そうだったが、それを言うのはやめたようだ。

 

「あ、そうだったの。由衣ちゃん、こっちこっち」

 

「うん!」

 

 なのはは由衣を連れて誘導していく。

 

「さて、男子も集まって、一緒に見るで! な!」

 

「おう! 綾、さっさと行こうぜ!」

 

「ああ」

 

 すぐに仲良くなる海斗と竹太刀を見て、俺も男三人の中へと入っていく。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 元々二人の付き添いで来たため試合に大した興味のなかった俺は、由衣や海斗の様子を見ていた。

 俺達とは少しだけ離れた場所にいる由衣は、なのは達とすっかり友達として溶け込んでいた。最初は先程の友達と言われたことに戸惑っていたが、今では三人を友達として思えているようだ。

 あれだけ仲良くしているのを見ると、塾友達で終わらせるのは惜しいように思えてくる。なんとかして、聖祥に通わすことってできないかな……。

 海斗は竹太刀と、あっという間と言えるぐらいに打ち解け、試合観戦を一緒に楽しんでいた。元々バカ騒ぎが好きな海斗と、竹太刀は馬が合うらしい。

 ちなみに和也はなのは達のところへ行こうとしていた……というか現在進行形で行こうとしているのだが、そこは竹太刀に油断なく、首根っこを掴まれて止められていた。

 

(それにしても……)

 

 俺は辺りを見回した。明らかに、俺達に敵意を向けてる奴らがこの場に複数いる。その上俺が見渡すと咄嗟に視線を逸らした奴らが見えた……見え見えじゃないか。

 そうして敵意のある奴らを特定していると、いつの間にか坂のてっぺんまで登っていた竹太刀が、こちらに手招きをしていた。ふむ……。

 

「海斗、少し由衣達のこと頼む」

 

「へ?」

 

 返事を聞く前に、俺は竹太刀の元へと向かった。




 新しい転生者が登場しました。一人は最近ありがちな踏み台転生者。もう一人は気さくな天然パーマ。この二人はどう動くのか。
 また、綾と海斗の会話にあった通り、ぶっちゃけ百人も物語の中で登場しません。鬼畜ゲーなので一発目からものすごく削りますよ自分は。果たして、無印を終えて何人生き残ることやら。
 他にも話すべきことはあるかもですが、取りあえずこれにて。
 ではでは。

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