Magic game   作:暁楓

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 デスゲーム、開始。


第四十話

 十二月二十四日。もうすっかり夜となっている今、俺は夜天の写本と一部道具を入れたポーチを持って街中に一人でいた。

 

「……………」

 

 目の前にはビル。そこに入っていくなのはやシグナム達の姿を確認したので、この屋上が闇の書覚醒の場所で間違いない。

 ここに来れば、奴から指令が来るって話だが……具体的にいつだ?

 ドォン、と爆発音が聞こえた。見上げると、屋上の一部から炎が見える。交戦が始まったらしい。

 

 プルルルル。プルルルル。

 

「!」

 

 着信……電話だ。すぐに通話ボタンを押す。

 

「もしもし」

 

『……汝の携帯に、インビンシブルアプリを追加した。今からそれを起動せよ。なお、起動時に表示される注意事項に従うこと』

 

 ブツッ。切られた。

 すぐに確認するて、確かに『インビンシブルアプリ』というものがあった。

 

(インビンシブル……英語で無敵の意味……無敵のアプリ……?)

 

 とりあえずアプリを押すと、神が言っていた注意事項というのが表示された。

 

『注意

 このアプリを実行すると使用者は一定時間無色透明となり、加えて使用者の所持品を除いてあらゆる物体との物理干渉が不可能になります。

 使用する際には周囲に誰もいないことを確認してから使用してください』

 

 その後には『アプリを実行しますか?』『はい』『いいえ』という文字。

 周りを見回して、誰もいないことを確認してから、『はい』を押した。

 ヴン……。

 そんな小さな音がした。だが、それだけで他に変わったような感じがしない。

 

(あらゆる物体との物理干渉ができなくなるとか言ってたな……)

 

 試しに、近くの壁に触れようとすると、手が壁の中へと入っていった。

 ……なるほど。どうやらすり抜け効果を得たらしい。外から見れば無色透明らしいから、実質的にしばらくの間俺は存在しないことになる。

 

(さて……存在が消えて俺にどうしろと言うのか……って!)

 

「うおっ!?」

 

 思わず声が出た。急に毒々しい紫が辺りを包み込んだからだ。

 これはおそらく、ディアボリックエミッション。つまり、

 

(闇の書が覚醒したか!)

 

 アプリの効力によって、干渉できないだけでなく干渉されもしない俺は現在進行形で直撃を受けてる今でも痛みを一切感じない。

 しばらくして、紫一色の世界から解放される。上を見上げるとビルの屋上から紫の軌跡が、空へと飛んでいった。

 

 プルルルル。プルルルル。

 

「もしもし! 今度はなんだ!?」

 

『……闇の書の意志を追え』

 

 ブツッ。それだけ言ってすぐ切りやがった。

 

「だあぁっ、ちくしょう! あいつが飛ぶ前かさっきの電話の時に言えよ!」

 

 文句言っても過去は変わらないので、先ほどの光の軌跡を頼りに追跡を始める。

 だが運良く闇の書の意志は比較的近くで見つかった。なのは達と交戦していたからだ。

 桜色の射砲撃や金色の斬撃を容易く回避、防御をし、紅のダガーや紫の砲撃する闇の書の意志。

 俺は近くの建物の陰に隠れてその様子を観察することにした。今はインビンシブルアプリで守られているが、それがいつまで続くかわからない。しかもあのアプリは使い捨てにできているらしい。もう押しても確認画面にすらならなくなっている。

 

(それにしても、一体いつ俺を割り込ませようって言うんだ……?)

 

 闇の書と交戦中にフェイトが捕まっても、なのはが残る以上俺が入る余地がないはず。逆になのはが捕まると闇の書の暴走を止める人がなくなるため、物語的にマズい。いくら奴の指令が鬼畜と言っても、絶対不可能な指令は出さないはずだ……。

 

「っと、移動か」

 

 確か戦闘中海上と街中を行ったり来たり、場所が結構変わってたな。体力切らさないようにしないと……。

 ペース配分に注意しつつ、闇の書を見失わないよう後を追う。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 闇の書を追いかけ、ついに闇の書が暴走とそれによる崩壊が始まってから、俺はあることに気がついた。

 スターライトブレイカーが、撃たれてない。

 考えてみれば当然だった。闇の書はなのはの魔力を蒐集していない。原作でシャマルに蒐集されるところを才に妨害されたからだ。どうやら闇の書を追うのに必死で、アリサとすずかが避難されるところは見逃していたらしい。

 

「闇に沈め……」

 

 闇の書なその言葉と共に、なのはとフェイトの周囲を囲むダガーが爆破される。

 

「この……駄々っ子!!」

 

 なのはを抱えて爆破から回避したフェイトが闇の書へと斬りかかる。

 

「言うことを……聞けえええええっ!!」

 

「お前()も、我が内に眠れ」

 

 闇の書はフェイトの攻撃を防ぎ、魔法陣を展開した。

 

「!?」

 

「フェイトちゃん!?」

 

 フェイトの身体が薄い金色に輝き、そして魔導書内に吸収される。カランと、何かが落ちる音がした。……何の音だ?

 

「お前もだ……」

 

「あ……!」

 

 闇の書はいつの間にかなのはにも接近していた。フェイトが闇の書に吸収され、呆気に取られて隙だらけであったなのはに防ぐ余裕はなかった。

 

「全ては安らかな眠りの地……」

 

 なのはの身体が桜色に輝き、そして吸収される……って、ヤバいぞこれ。こんな状態で指令が来たりなんかした時には……。

 

 プルルルル。プルルルル。

 

(って、考えてるそばから来たし!)

 

 とりあえず物陰に隠れ、少しずつ闇の書の姿を窺いながら電話に出る。

 

「もしもし!」

 

『現状は、把握したな? これより指令を開始する』

 

 最悪の状況が、開始の合図だった。

 

『ルールを説明する。三十分間、闇の書の意志から逃げ続けよ。闇の書の意志に捕まり、吸収された場合即終了、汝は失格となる。今汝が所持している夜天の魔導書が破壊された場合も同様だ。つまり闇の書の意志から己と夜天の魔導書を守れ。三十分間捕まらずにいれば終了し、汝に報酬を与えよう。なお、今実行中のインビンシブルアプリは開始と同時に効力を失い、もう使用はできない』

 

「……報酬って、なんだよ」

 

『……フフフ』

 

 奴が、笑った。

 

『そうだな……報酬はスターチップ十個。そして……私に挑戦する権利を得るに必要な条件を、教えてやらなくもない……』

 

「……!!」

 

『では、最後にアドバイスをしよう……汝は負傷すると指令の遂行に支障が出る。しかし、汝の負傷はルールに一切関係ない……このことをどう捉えるかは汝次第だ……では始めよう』

 

「……あっ、待てよおいっ!」

 

 最後に意味深げなことを言い残して奴は通話を切った。

 ……俺が負傷するのは指令遂行に支障は出るがルールに関係ない……? 確かにルール上ではそうだが、なんでわざわざ……?

 

「まだ、いたか……」

 

「っ!!」

 

 振り返ると、闇の書の意志がすぐ目の前にまで来ていた。

 

(しまった! さっきの声でバレたか!)

 

「お前も、眠れ」

 

「うおっ!」

 

 間一髪彼女の手をよけ、道路の方に出る。

 同時に、着火装置を使い、花火の玉の導火線に火を着けて投げつける。

 爆破。閃光が飛び散って目くらましをさせている間に逃亡を図る。しかし走り始めてすぐにあるものを見つけた。

 

(……使えるなら持ってくか)

 

 それは、地面に転がったレイジングハートとバルディッシュ。二人とも吸収される時に手離してしまった……らしい。先ほどの何か落ちたような音の正体もこれのようだ。俺はその二本ともを迷わず拾い上げ、それから走り出した。

 

 捕まれば即死。写本が破壊されても即死。攻撃の直撃も当然死。そんな死の鬼ごっこ。

 スタートは、まさに最悪の状況だった。




 今回は布石回です。
 様々な布石の用意はしました。ここから布石を利用してこのデスゲームを盛り上げていきたいと思います。
 なお、このゲームの尺はあと短くて二話ほど、長くて四話ほどを予定しています。

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