Magic game   作:暁楓

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 連続投稿です。最近自動車学校で忙しい関係で、いつパソコンに向かえるかわからない状態なので。
 絶望の中、己の知恵に全てをかける。


第四十二話

 俺の叫びは、スターライトブレイカーの轟音によって掻き消され。

 さらに巻き起こった風圧によって、俺と末崎は奥の壁まで押し飛ばされた。

 

「ぐはっ!!」

 

「ぐわっ!」

 

「綾! 末崎!」

 

 そこに海斗達がやってくる。

 

「綾さん! 大丈夫ですか!?」

 

「あれ……烏間さんは? あの人はどうしたんですか!?」

 

「……………。……おい、末崎、高田」

 

 ……俺は、最後の希望に縋って二人に訊いた。

 

「無印終了時に氷室のチップ所持数は三つ……ザフィーラとシグナムに勝ったことによってプラス六つ……あと一つ手に入れていれば、氷室は生きてるはずだ……」

 

「……………」

 

「……………」

 

「氷室は……ここ最近でチップを手に入れたのか?」

 

「……………」

 

「……………」

 

 二人からの答えは……なかった。

 

「……っ!」

 

「おい、綾!?」

 

 俺は外に、道路に飛び出した。道路に飛び出して、道を確認した!

 

「……あ、ぁ」

 

 ……誰も、いなかった。

 誰一人いない。元からいなかったかのように。ついさっきまで脇道にごった返していた人達も……光に飲み込まれる直前に笑った氷室も……いない。

 

「ぁあ……」

 

 俺は逃げろと言った。だからあいつらは近くの脇道に逃げようとした。

 俺は末崎を助けようとした。間に合わなかったから、氷室は俺達を蹴飛ばして避難させた。

 どっちも……俺のせいで……

 

「あぁ……うわああぁあぁあああああっっっ!!!!」

 

「ぎゃああああっ!!」

 

「!!」

 

 誰かの断末魔が聞こえる……誰かが、殺される。

 どうする!? どうすればいい!? どうすれば、これ以上誰も死なずに済む!?

 これ以上……誰の犠牲も出さない方法は……!!

 

 

 

『汝は負傷すると指令の遂行に支障が出る。しかし、汝の負傷はルールに一切関係ない……』

 

 

 

「……!!」

 

 これ以上、誰も死なない未来……それができるのは……。

 

 俺しかない……!

 

「竹太刀! 由樹!」

 

「なんや!? どないした!」

 

「なんだい?」

 

「みんなの統率は、お前らに任せる! これ持ってけ!」

 

 俺はバルディッシュを竹太刀へと投げ渡した。

 

「おっとっと……って、ちょい待ちぃ綾! 自分はどないするつもりや!」

 

「俺はっ……、俺はもう、誰も死なせはしない!」

 

「おい、待て! 綾ーっ!!」

 

 俺は、走り出した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 叫び声がした方向を探すと、逃げ惑う転生者と、その転生者に攻撃しようとする闇の書を見つけた。

 

(させるか!!)

 

 夜天の書起動。

 蒐集魔導行使。魔力弾形成。弾数二発。

 蒐集魔力行使。一頁分消費。

 

「撃て!!」

 

 魔力弾を飛ばす。彼女の後頭部に直撃した。威力に期待はしていない。

 

「……………」

 

「……来いよ。お前の相手はこっちだ」

 

 挑発。そして逃走を開始する。

 追ってきているのを確認して、花火を数発一気に投擲。光の壁を作る。

 光の壁を突き抜け、紅い刃が飛んできた。頁を削り、防御魔法で防ぐ。

 残り頁が二十を切った。

 蒐集魔導行使。砲撃魔法展開。

 蒐集魔力行使。残り全頁分消費。

 光の壁が消える。奥には、掌に砲撃魔力を込めた闇の書。

 

「いっけええええっ!!!」

 

 残った全ての頁を使った大火力砲撃。

 灰色が、紫を飲み込んで突き進んだ。

 

「ぜぇ、ぜぇっ……」

 

 まだだ。これで終わりにはならない。

 吹っ飛ばされた彼女が来ない内に、場所を移すべく足を進める。

 

「レイジングハート……ここから先、少し手伝ってくれ……」

 

《了解》

 

「今のお前の最大の形態……エクセリオンモードも使う。……いいな?」

 

《了解。……ただし、条件があります》

 

「……言ってみろ」

 

《生きてください、マスター。それが、私の願いです》

 

「……そうかい。いいぜ……誰も死なせはしないし、俺も死ぬ気はねえっ……!」

 

 そうだ。俺が死ぬ訳にもいかない。

 だから、勝つ。俺が……勝つっ……!

 

 

 

   ◇

 

 

 

 俺は国道の真ん中に立っていた。

 もう使うことのないポーチは捨て、夜天の写本は解除(リリース)させ、格好も出来る限り身軽にさせている。

 

「……いいか、レイジングハート。どんな状況であったとしても、俺が指示しない限りは防御は張るな」

 

《はい》

 

「よし。……レイジングハート、エクセリオンモード起動」

 

《了解。エクセリオンモード起動》

 

 稼働音を鳴らし、レイジングハートの形状槍に近いものへと変化する。

 両手でしっかりと持ち、直に来る相手を待つ。

 ……来た。

 

「……愚考だな。明らかな力の差を知ってなお、立ち向かうとは」

 

 杖先を向けた俺に、向けられた闇の書はそう言う。

 

「違ぇよ。圧倒的な力の差を理解してるからこそ、俺は武器をお前に向けるんだ」

 

《A.C.S、スタンバイ》

 

 レイジングハートが四枚の翼を出現させる。俺の灰色魔力の他に、その翼を展開するために使ったカートリッジの、なのはの桜色魔力も混じっていた。

 

「俺は、捕まらない……生きるためにも、もう誰も死なせないためにも、俺は、お前には捕まらない」

 

「……………」

 

 強く、レイジングハートの柄を握る。決意を固めるために。震える手を抑えるために。

 

「――行くぞっ!!」

 

 これが……この戦いの最大の賭だ!!

 

「A.C.S……ドライブッ!!」

 

《A.C.S、ドライブ》

 

 賭の始まりのトリガーを、引いた。

 ブーストが発射される直前。俺はレイジングハートの矛先を上空にいる闇の書から水平に戻す。

 

「いっけええええっっ!!!」

 

「!」

 

 突撃してくるものとばかりと考え守りの態勢を取っていた闇の書の真下を通り抜け、そのまま猛スピードで直進する。

 

「……逃がすかっ」

 

 闇の書が追跡を開始する。

 

《後方上空より魔力反応。ブラッディダガーが来ます》

 

「まだ引きつけろ!」

 

 横や後ろを確認する余裕がない俺に変わってレイジングハートが周囲の警戒をする。

 

《ブラッディダガー接近。間もなく被弾します》

 

「よし、加速しろ!!」

 

《了解》

 

 ガシュン。と空薬莢が飛び出し、飛躍的に加速。

 加速して通っていった後ろから、ガガガガガッ! と刃の雨が降った。

 

《間もなく前方丁字路です》

 

「了……、解ぃぃぃっ!!」

 

 ガリガリと足でブレーキをかけ、レイジングハートの向きを力業で強引に左へと切り替える。

 まだ残っている前へのベクトルと、新たに生まれた横へのベクトルによりカーブが描かれ、再び道を爆走する。

 

《後方よりブラッディダガーの展開、接近を確認しました》

 

「……!」

 

 上からではなく後ろからに変えた……マズいな。

 カーブする時は杖の向きを変え、さらにブレーキをかけるためどうしても前方へ進む速度が落ちる。届く前にダガーが消えるようなことがない限り、被弾は免れない。多分振り切ることは、できない。

 

「……そのまま進め!」

 

《了解。次の壁に接触するまでの推定時間は、残り二〇・六七三八秒です》

 

 その二十秒程度の距離は、すぐに辿り着いた。

 

《ブラッディダガー、依然接近中》

 

「ちっ……進路を曲げるぞ!」

 

 足でブレーキをかけ、レイジングハートの矛先を再び左へ。

 後ろを見ると、無数の刃がこっちに襲いかかってくる!

 

「ぐっ……!!」

 

 ザシュザシュザシュッと無数の紅い刃が俺の身体に突き刺さり、切り裂く。

 俺は防御強化(プロテクト)の付与だけして、あとは左腕で最低限視界が潰されないようにする。

 

(止んだか……いや、まだ来る!!)

 

 もうブラッディダガーが襲ってこないのを感じて確認すると闇の書が立て続けに砲撃を放とうとしているのが見えた。避けるには速度が足りない。

 

《綾!》

 

「何もするな!!」

 

 砲撃が放たれる。俺は左手を突き出した。

 突き出された左手に砲撃が着弾し、爆発が巻き起こる。

 

「がっ!!」

 

 強烈な爆風に身体が吹っ飛び、壁に激突する。

 倒れかかった身体を左手で支えようとして……それができずに倒れた。

 

「……っ」

 

 見ると……左手が、ない。

 左腕は肘から先が黒く染まり、手首から先は完全に消失していた。

 

《綾!》

 

「っ……よく、防がなかった。良い子だ……」

 

 なんとか立ち上がり、レイジングハートを横に向ける。

 

「まだだ……行くぞ!」

 

《……了解!》

 

 再びA.C.Sで高速飛翔し、逃走劇が再開される。

 

(また同じ方法で攻めてくる可能性が高い……どうしたものか……)

 

《後方よりブラッディダガーの展開、接近を確認しました》

 

「……っ!!」

 

 来る……ここは……!

 

「レイジングハート、止まれ! 砲撃の用意をしろ!」

 

《了解》

 

 魔法陣展開。

 術式計算。ゼロ距離爆撃砲の術式を構成。

 チャージ完了。

 完全に止まり、振り返ってレイジングハートの先端を向ける。

 

「撃てっ!!」

 

《バスター》

 

 レイジングハートの先端に溜められた魔力がほぼ直接爆破し、ダガーと俺を吹き飛ばす。

 

「くっ! ――ッ!!」

 

 態勢を立て直して確認すると、第二陣が来ていた。

 よけられない――

 

 ブシュッ!!

 

「――ッッ!!」

 

 腕や腹に刺さる中、刃の一本が右目を抉り取った。

 

「っ――、まだだ……レイジングハート、行くぞっ……!」

 

《綾!》

 

 レイジングハートにもう一度翼を展開させようとして……その翼を形成する魔力が、跡形もなく霧散した。

 

「なっ――」

 

《魔力切れです!》

 

「こんな、時に……!」

 

 グラリと視界が揺れて、その場に座り込んでしまう。マズい、身体に限界が来てる。さすがに攻撃を受けすぎた。

 動け。へばってる暇なんてない。

 動け。

 動け。

 動け!

 動けよ!!

 

「もう、限界のようだな」

 

 身体に動けと命令している俺に現実を教えるかのように、目の前に立った闇の書が言った。

 

「ぐ、ああああああああああっ!!!」

 

「もう、安らかに眠れ」

 

 捕まる。捕まる訳にはいかない!

 動けない。今すぐ動け!

 死ぬ! まだ死ぬわけにはいかない!!

 

「おおおおおおおおおおっっ!!!!」

 

「っ!」

 

 聞き慣れた声が大音量で聞こえてきた。

 その声の主は金色と緑が混じった魔力を発する剣を横薙ぎに振るい、闇の書を吹っ飛ばす。

 

「ジェットザンバアアアアアアッッ!!!!」

 

 彼――竹太刀がザンバーフォームのバルディッシュを振るい、闇の書に命中。爆発を巻き起こした。

 

「綾! しっかりしろ!」

 

「酷い傷……このままだと朝霧さん、死んでしまいますよ!」

 

「落ち着いて! まず運ぶんだ! 竹太刀、海斗、闇の書を引きつけるんだ! 一瞬気を引かせたらすぐ撤退していい!」

 

「お、おう!」

 

「了解や!」

 

 末崎と高田の肩を借り、運び出される。

 

「田鴫! 回復魔法を!」

 

「で、でも、こんな酷い怪我はさすがに……」

 

「出血を止める程度でいい! 早くしないと、綾の身体が持たない!!」

 

 ……まだだ。まだ終わってない。終わってない以上、やらなきゃならないことがあるはずだ……。

 何か……やれることは、何か……!

 

「……お前ら、俺を案内しろ……」

 

「あ、案内? 案内って、どこへ!?」

 

「……、……魔力散布濃度が一番高い場所……そこに連れてけ……!」

 

 決着の時は、確かに近づいていた。




 次回、戦いが終わります。
 でも、この戦いでもまだ通過点。戦いはまだまだ終わりません。
 騎士討伐編、クライマックス。

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