Magic game   作:暁楓

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 この第三章は、他の章と比較してものすごく短いです。
 だって、原作ではほんの一日で終わった物語ですから(多分)。もう三話ぐらいしたら終わりかなあ。戦闘が長引くような理由が内限りは。


第四十五話

 十二月二十八日。

 綾の自宅には現在、海斗と由衣の姿があった。闇の書事件が片付いたことにより、マンションからここに戻ってきたのである。アリシアは綾が治療中であること、フェイトがいることからマンションのままである。

 

「もうすぐ大晦日に正月かぁ……」

 

「そうですね……」

 

 チームの二人がいない今、二人揃って雰囲気が暗い。

 

「こうして見ると、俺達って綾も竹太刀もいないと正月すらまともに過ごせないんだな……」

 

「ですね……お節とか作ったことないですし……」

 

「まあ、正月とか考えてる場合でもないんだけど」

 

「はい……綾さん、早く目を覚まさないかな……」

 

 重い沈黙。

 それに耐えかねた海斗がガリガリ頭を掻いてソファから立ち上がった。

 

「あー、ダメだ。どーしてもしけちまう」

 

「海斗さん?」

 

「由衣ちゃん、買い物行こうぜ。確かもう食材切らしかけていたろ」

 

「あ、はい」

 

 二人は出かける支度をした。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「あ、海斗さん、由衣ちゃん!」

 

「なのはちゃん、みんな……」

 

「……おお、お前らか」

 

 商店街に足を運んだ海斗と由衣は、そこでなのは、フェイト、アリサ、すずかの四人と会った。

 

「何してるんですか?」

 

「ん……まあ、食材なくなってきたから買い物を、な。つっても、綾みたいに料理うまくないから、適当に肉と野菜買っただけだけど」

 

「そう、ですか」

 

 綾の名前が出てきてなのはとフェイト、それからアリサとすずかまでもが表情を暗くした。

 アリサとすずかはなのはとフェイトが魔導師であることを知ってそう間もなく綾の現状も知った。直接の面識は多くないが、由衣の家族の重傷ということには同情を隠せなかった。

 

『ところで二人とも、最近のリインフォースの様子がどうとか、知ってるか?』

 

 海斗は念話でなのはとフェイトに尋ねた。アリサとすずかにはあまり聞かれたい話ではないからだ。

 

『リインフォースは……はやてから聞いた話だと、あまり元気がないように見えるって』

 

 フェイトがそう答えた。

 やっぱりか、と海斗は思った。竹太刀から言われた言葉が効いているらしい。

 

(どうすりゃいいんだろうな……)

 

 それはリインフォースについてだけでなく、自分に対してのものでもあった。

 せっかく生き長らえることに成功したリインフォースにはしっかり前を向いてほしいと思う反面、竹太刀の言った通り、綾を殺しかけたリインフォースを許せないと考えている自分もいる。

 リインフォース自身は悪くない。改竄プログラムによって自由を失い、破壊行動に走る他がなかった彼女が一方的に悪い訳ではないとわかってはいる。しかし、結局のところ実行犯が彼女であり、彼女が止まることができなかったからといって親友を傷つけた彼女への恨みを消すことはできないでいる。

 一体、どうすればいいのだろう。どうあるべきなのだろう。

 彼女のために許すべきなのか。

 それとも許さずに、綾への償いをさせるべきなのか。

 

「……あのー、海斗さん?」

 

「ん……」

 

 呼ばれて気がつくと、目の前ですずかが自分を見上げていた。

 

「海斗さん、急に喋らなくなったので。どうかしたんですか?」

 

「そういえば、魔法でこっそり話すこともできるんだっけ。なのは、フェイト、何か話してたの?」

 

「あ、いや、ええと……」

 

「……あまり詮索はしない方がいいぞ。面白くない話だから……」

 

「別に、面白半分って訳じゃ……」

 

「……悪い。じゃあ、これで……」

 

 海斗は歩き出した。

 由衣はお辞儀をして、それから海斗の後について行った。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 思えば。

 海斗はずっと、綾に頼ってきた。この世界でも、転生前でも。

 海斗は高校一年の時、勉強が苦手だとわかっていながら進学校に入学し、苦しい高校生活を送ってきた。

 授業に全然理解できず、周りの人達からも置き去りにされ、馬鹿にされた。

 家族には出来のいい兄と比べられ、先生からも見捨てられ、自暴自棄になっていた。

 その時に出会ったのが、綾だった。

 

『何もわからなくて自暴自棄って感じだな。教えてやろうか?』

 

 綾は当時すでに学年主席の座を勝ち取っていた。そしてそんな彼の言葉は、その時の海斗にとって鬱陶しい以外の何物でもなかった。

 海斗は無視したが、それでも綾は諦めずに声をかけてきた。それに苛ついて、スポーツだけは一級であった海斗は綾を投げ技で床に叩きつけた。

 いきなりだったのにも関わらず、綾は完璧な受け身で衝撃を殺し、その後冷静に言った。

 

『随分磨かれた投げ技じゃないか。それだけ努力する根性があるなら、コツさえ掴めば結果が勝手について来るぞ』

 

 放課後、綾は海斗の勉強に付き合い、コツを教えた。的確なアドバイスは先生のそれよりも海斗の頭に入っていった。

 結果が勝手について来る。綾の言葉は本当だった。海斗の成績は確実に伸びていった。といっても平均点を少し下回る程度だが、赤点からここまで伸びたことを考えると飛躍的な進歩と言える。

 成績が上がって家族は兄と比べるようなことはしなくなり、先生もちゃんと見てくれるようになった。

 しかし自分の成績が上がったのがそれまで自分を見下してきていた奴らには面白くなかったらしく、ある日集団で絡んできた。

 いくらスポーツ関係で格闘技も強い海斗でも数の差で不利な状況に、助けに来たのは綾だった。綾と二人でその集団に大立ち回りし、圧勝だった。

 こうして、学年主席の綾とドベの海斗という異端なコンビが出来上がった。

 いつか、海斗は綾に尋ねた。なんであの時勉強を教えてやると言ったのか、なんでここまで自分を助けてくれるのかと。

 

『ん? そうだな。……忘れた』

 

 綾は、そうはぐらかしたのだった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 転生前のことを思い出しながら、海斗は由衣と共に帰路に着こうとしていた。

 

(転生してからも、綾はずっと頑張ってたんだよな……いや、これからも綾は一人で頑張ろうとするんだよな。神への反逆をするために、俺達を守ろうとするために)

 

 それが傷ついてでも。そして、おそらくは自分が死ぬことになるとしてもやるかもしれない。

 竹太刀は自分達は綾の足手まといにしかなってないと言った。随分前の話になるが、才は神を討つに相応しい人を選別していた。

 その通りなのだろう。最終的に神を討つのは綾か才か、もしくは二人が組んで討つかのいずれかだ。自分達はその現場に立つことすらできないだろう。綾の助けにはならない。

 じゃあ、今は? 綾が動けない今は、一体何をすればいい? 綾が神への挑戦をするために、自分はどうするべきだ?

 自分は綾のための、どういう存在になればいい?

 

「海斗さん?」

 

 いつの間にか自分の前を歩いていた由衣が声をかけてきた。由衣が前を歩いていたと言うより、海斗の足が止まっていたらしい。

 

「……ごめん、由衣ちゃん。先に帰っててくれ。やることができた。俺がやらなきゃ、ダメなんだ」

 

「あっ、海斗さん!?」

 

 海斗は買った荷物を由衣に渡して、踵を返して走り出した。

 

 昨日の零時に、あるメールが届いていた。

 ……神からのメール。今日の夜、次なる指令を開始するものである。




 繋ぎついでに、海斗と綾の出会いを書いてみました。
 苦手なのに見栄張ってとか、強がってとか、仕方なくとか人生にはありますよね?

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