Magic game   作:暁楓

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第四十九話

「ッハァ!!」

 

「……っ!」

 

 弾丸のような速さで繰り出される刺突。的確に急所を狙ってマテリアルが放つそれを、リインフォースは間一髪の距離でよける。

 マテリアルは突きの後の戻しも早く、すぐに次の刺突を繰り出す。

 突く。突く突く突く。

 高速の連撃をリインフォースは防ぎ、弾き、かわし。

 そしてマテリアルの刀を流して懐に入り込み、魔力を込めた掌打を叩き込み、吹き飛ばした。

 

「げほっ!! ……カカカカカッ!!」

 

 吹き飛ばされたマテリアルは、不気味に笑いながら魔力弾を飛ばす。弾数は十発。

 対するリインフォースはブラッディダガーを射出。実体剣であるブラッディダガーは魔力弾を貫き、マテリアルへと向かう。

 襲いかかるダガーを刀で弾き、かわし、マテリアルはリインフォースへと突っ込む。

 

「オラァァアッ!!」

 

 刀を突き出した突進。

 リインフォースは防御陣を傾けて展開した刀と障壁が接触して火花を散らせながらも、勢いは止まりきらずマテリアルはリインフォースの右側へと流れる。

 

「はぁあっ!!」

 

「ごはっ!?」

 

 流されて隙ができたマテリアルに渾身の正拳突き。マテリアルが吹っ飛び、地面を転がっていく。

 

「ゲフッ、ごほっ! がはっ……」

 

 この一撃が効いたらしく、マテリアルは盛大に咽せ、なかなか立ち上がれない。

 ……だが、それでも彼の笑いは止まらない。

 

「……ク、クフフフ……効くじゃねえか……とてもオリジナルを殺しかけて反省してるような奴の拳とは思えねえなぁ……実際、特に何も思ってなかったりとかってすんのか?」

 

「自分で言っていただろう。お前は、彼じゃない。お前に遠慮する必要なんてない」

 

「わかってないねえ……トラウマってのは、その人かどうかなんて関係ないんだよ。必要な一部を再現すれば、後はお前の頭が勝手に記憶を再生してくんだ」

 

 マテリアルは刀を逆手持ちにし、右腕と左腕を交差させた。

 

「……こんな風にな!」

 

 次の瞬間、マテリアルは刀を持つ右手を引き、自分の左腕を斬り飛ばした。

 

「――ッ!?」

 

「ガアァアアァアアアッ!!!」

 

 ドチャリと左腕であった肉が落ち、プログラムとして霧散する。

 切断された激痛に絶叫するマテリアル。しかし、激痛に歪んだ表情も次第に笑みへと変わっていく。

 

「ク、クカカカカ……! どうだよ闇の書ぉ……これでちったあ思い出せるか!? あいつもお前との戦いで、左腕がなくなったんだよなぁ!!」

 

「……っ!!」

 

 ぞわりと、リインフォースの脳裏の光景が映った。

 こうして生きていられるようになり、今までのように忘れることはないあの光景。

 クリスマスイブの日に、闇の書の意志として破壊と殲滅を振り撒いていた光景。そんな自分に立ち向かう『彼』。自分が砲撃を撃ち出し、彼は左手で受け止めた。受け止めた故に、彼は左手を失った。左腕が焼かれた。

 そう、自分のせいで、彼は左腕を……それだけじゃない、その後も自分は容赦なく彼に――。

 

「――ッ!!」

 

 リインフォースは再生されていく記憶を振り払うように、大量のブラッディダガーをマテリアルへと撃ち出した。

 刃の雨がマテリアルを襲う。しかしマテリアルは一切防ごうとせず、全身に突き刺さり、斬りつけていく。

 そしてそのダガーの一つが、マテリアルの右目を斬り飛ばした。

 

「……ッ!!」

 

「あの時もお前はこうして、あいつを斬り刻んだ。そして右目を奪ったんだよなあ!」

 

 ……そうだ。砲撃でダガーを吹き飛ばした彼に、追撃の第二陣。抵抗する手段もよける時間もなく、彼は右目を失った。

 目の前で再現され、脳裏で再生され、重なっていく。

 いつの間にか、リインフォースの身体はガタガタと震えだしていた。カチカチと歯が鳴る。リインフォースはそれに気がつかないほど、気が動転してきていた。

 

「……違う……っ。お前は、お前は彼じゃない……っ」

 

「何が違うんだ? この身体は、朝霧綾と言ってもいいんだぜ?」

 

「違う! お前は綾じゃないっ!!」

 

 恐怖でヒステリックな叫んだリインフォースが砲撃を放った。

 動転して加減を忘れた砲撃の威力は、間違いなく大きな一撃のはずだ。しかしその一撃は簡単に受け止められ、逆にその魔力で叩き返された。ザフィーラの魔法、烈鋼襲牙だ。

 

「がはっ!!」

 

「オラァアッ!!」

 

 吹っ飛ばされたリインフォースにマテリアルが追撃。リインフォースの胸倉を掴み、地面に叩きつける。

 

「ケケケ……いくら管制人格でも、精神的にイッてるなら御しやすいことこの上ねえ……なぁ!」

 

 さらに、マテリアルは刀をリインフォースの腹に突き刺した。

 

「リインフォース!」

 

「キキキ……どうだよ……てめぇのトラウマが炙り出されるのは……あいつと同じく腹を突き刺されるのはどんな気持ちだよぉぉぉ……!」

 

「ぐ、あぁあああっ!!!」

 

 はやての叫びなどなかったかのように、マテリアルは突き刺した刀をねじ込んでいく。ねじ込まれる度に走る激痛に、リインフォースが絶叫する。

 

「ククククク……! 痛いか? 痛いよなあ! 俺もわかるぞ。そういう記憶を持ってんだからなぁ!」

 

「あああああっ!!」

 

「やめて! お願いやから今すぐやめて!!」

 

 動けないはやては、ただ叫ぶしかなかった。

 しかしそれが届いたのか、マテリアルは刀を引き抜いてリインフォースを蹴飛ばした。

 

「リインフォース!」

 

「ごちゃごちゃうるせえ主様だなぁ。言っとくが、てめぇも射程圏内なんだぜ? 射砲撃は勿論、その気になりゃ烈火の将の空牙で首を落とすことだってできるぜ?」

 

「や、やめろ……主に、手を出すな……!」

 

 うつ伏せで倒れていたリインフォースが、ゆっくり起き上がりながらマテリアルを睨む。

 マテリアルは顔だけをリインフォースの方に向ける。

 

「主、ねぇ。つっても、こいつは()主であって、お前が現在プログラムを置いてるあの写本の主はあいつなんだろ?」

 

 マテリアルの言う通り、はやては厳密には主ではない。現在の夜天の写本の主は綾である。はやてがその写本を扱えているのは、リインフォースが管制人格としての権限を行使しているためで、リインフォースがはやてとの融合がうまくできないのもそれが理由である。

 だが、そんなことは彼女には関係なかった。

 

「それでも……、私にとっては、八神はやては私の主だ!」

 

「……ふぅん。じゃあ、こいつ死んでも生きるお前はどうなるんだろうな?」

 

 マテリアルは実験するような物言いで、はやてに向けて刺突の構えをした。目も、殺る気だ。

 

「やめろっ!!」

 

 リインフォースがマテリアルを止めようと走り出した。

 その時、マテリアルの口角がつり上がった。

 

「バカめ! こんな子供騙しに引っかかりやがって!」

 

「っ!?」

 

 リインフォースが気づいた時にはもう遅かった。

 いつの間にか仕掛けられていた設置型バインドが作動し、リインフォースを絡め捕った。

 

「おらよぉっ!」

 

「うああっ!!」

 

 無防備なリインフォースにマテリアルが砲撃。リインフォースを吹き飛ばした。

 しかも吹き飛ばされた先にもバインドが仕掛けられていて、それがリインフォースの自由を再び奪う。

 

「リインフォース!」

 

「まだやり足りねえと言いてえが……そろそろ終わりにしてやるよ。こっちにもやるべきことってもんがあるからな」

 

「やめて! リインフォースを殺そうとなんかせんでぇ!!」

 

 リインフォースに向けて平突きの構えを取るマテリアルに、はやてが懇願するように、悲鳴に近い叫びを上げた。

 はやてのその叫びを聞いて、マテリアルの笑みは濃くなる。

 

「カカカカカッ……安心しな。こいつの次はお前だ……二人仲良くあの世に行ってなぁ!!」

 

 地面を強く蹴りつけ、マテリアルがリインフォースへと走り出す。

 走りながら、マテリアルは右手の狂剣を突き出す。

 

 ドッ

 

 しかし刀が到達するより前に、地面から突き出た白い棘がマテリアルの右腕を突き刺し、右腕と刀が地面に落ちた。

 ボトリと肉塊が落ちる音と、カランと乾いた金属音。

 マテリアルはよくわからないものを見るように、なくなった右腕を見る。

 

「……あ?」

 

「おらぁぁあああっ!!」

 

 これ以上なく隙だらけとなったマテリアルに叫び声と共にヴィータが突っ込み、ラケーテンフォームとなっているグラーフアイゼンをマテリアルの横っ腹へと叩きつけた。

 吹っ飛ばされたマテリアルを緑色の魔力糸が縛り付け、身動きが取れなくなったところに炎を纏った矢が貫き、爆発を生んだ。

 

「はやて! 大丈夫!?」

 

「我が主、ご無事ですか!?」

 

「みんな!」

 

 駆けつけてきたヴォルケンリッターの姿に、はやては安堵の表情を浮かべた。

 はやての元にヴィータとザフィーラ、そしてリインフォースの元にはシグナムとシャマルが向かう。

 

「将……シャマル……」

 

「随分やられたみたいだな。何はともあれ、無事で何よりだ」

 

「すぐに手当てをするわ。シグナム、バインドを破壊してリインフォースを寝かせて」

 

「心得た」

 

 シグナムがバインド破壊の術式を発動しようと手を翳す。

 だが、そこに声が届いた。

 

「ク、クカカカカッ……」

 

『!!』

 

 不気味な笑い声。守護騎士四人全員が一斉に声の方を向いた。

 

「この……人殺し共がぁ……」

 

 マテリアルだ。右腕も落とされ、鉄槌で殴り飛ばされ、矢を貫かれてなお、生きていた。

 シグナムとヴィータは、自身の武器を構える。

 

「しぶといな……まだやるか」

 

「ケヒヒ……残念。どうやらここまでっぽいんでなぁ」

 

 仰向けに倒れたままシグナム達を見るマテリアルは、体中に受けた傷からプログラムの崩壊を起こしていた。

 それでも、マテリアルは笑うのをやめなかった。

 

「おい、闇の書……てめぇに俺からの親切なアドバイスだ……よく聞け」

 

「……………」

 

「俺達闇の欠片は……オリジナルの悲しみや憎しみ、怒り、狂気……心の闇を元にして駆体構築をする……まあ中にはその闇を表に出さねえ奴もいるが……闇を持たねえで存在する人なんざいねえんだよ……」

 

 話している間にも崩壊を続けるマテリアル。残る体は遂に頭だけになっていく。

 それでも笑いの表情を一切止めない。リインフォースに、守護騎士とその主にもその言葉を擦り付けていく。

 

「クフフフ……せいぜい……また後ろからぶっ刺されることがねえように……………気ぃつけるこったなぁぁぁぁ!!」

 

 それが最後の断末魔となり、マテリアルは跡形もなくなった。

 マテリアルが消滅した後も、術者がいなくなったことでバインドから解放されたリインフォースはしばらくマテリアルがいた辺りを眺め続けた。

 リインフォースを抱えていたシグナムが、リインフォースを地面に寝かせた。

 

「リインフォース、奴の言葉は気にするな。……我々のしたことは罪だが、だからと言って悪の言葉まで聞き入れてはならん。それに、朝霧は策を弄することはあっても闇討ちまでするとは思わん」

 

「……ああ。……わかってる」

 

 そうは言っても、リインフォースの表情は曇ったままだった。

 

「手当てをして、すぐアースラに運ぶわ」

 

「我が主も、アースラへ。後は我々にお任せください」

 

「……うん。ほな、お願いな」

 

 こうして、リインフォースとはやてはアースラへと送られていった。

 

 綾が目を覚ますのは、この闇の欠片事件から一週間後のことである。




 というわけで、これで第三章は終わりです。ホントに短かったですね。
 今回出てきたオリキャラでありイレギュラー、マテリアル綾(正式名称不明)は、BOA編ではとにかく外道を目指して書いてみました。リインフォースをトラウマの再現で苦しめ、勝ったからといって解決にはならない、そんな悪を意識しました。
 さて、次回からは綾視点が復帰します。

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