Magic game   作:暁楓

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 新章突入です。BOA編とは違ってやるべきことが多いよ!


第四章 運命の歯車編
第五十七話


 三月某日夜。無人世界海上。

 元は無人世界の調査目的でリインフォースと共にここを訪れていたはやては、目の前の状況に「困ったな」と心の中で呟いた。

 目の前には、三ヶ月程前に退治したはずの闇の書防衛プログラムの残滓、その構築体(マテリアル)。しかも三基。

 加えてキリエという、変わった武器と自分達とは異質の魔導技術を行使する少女。

 キリエと同じような人として、アミティエと名乗る少女がいるが、どうやらキリエとは対立しているらしい。

 

「さて……小鴉とその融合騎。我らが揃ったからには、貴様らももう終わりだ!」

 

「そうだぞー。終わりだぞー!」

 

 はやて自身を元にした王のマテリアル、闇統べる王(ロード・ディアーチェ)とフェイトを元とする力のマテリアル雷刃の襲撃者(レヴィ・ザ・スラッシャー)が言う。自分達が元になっているだけあって、姿形はそっくりだ。

 

「また、近いうちに……………?」

 

 なのはを元にした理のマテリアル星光の殲滅者(シュテル・ザ・デストラクター)は、途中で言葉を止めた。顔ははやてとリインフォースに向けたまま、視線は全く別の場所に向けている。

 それにディアーチェが気づく。

 

「む? シュテル、どうかしたのか?」

 

「……いえ。恐らく気のせいでしょう。それでは、近いうちにご挨拶に参ります」

 

 シュテルは自分が感じた違和感を気のせいだと一蹴し、中断していた台詞を改めて言った。

 

「じゃあね〜♪」

 

 キリエが言ってすぐ、三基プラス一人はすたこらと飛び去っていく。

 

「あっ、キリエ、待ちなさいっ……!」

 

 アミティエもキリエを追って飛び去っていった。

 

「……行ってもーた」

 

 嵐のように次々と現れて、そして一気に去っていかれたものだから、残されたはやてとリインフォースは若干ポカンとしるしかなかった。

 

 実はこの様子を、隠れて見ていた者がいたことには、誰も気がつかなかった。

 それは、シュテルの違和感の正体でもある。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 マテリアル復活の現場を監視していたのは、黒い袴姿に黒い刀を腰に差した、金髪赤眼の少年だった。

 綾の身体と頭脳と技を写し、闇の書の魔力を加え、三ヶ月程前にはリインフォースを追い詰めたマテリアルである。

 マテリアルは楽しそうに狂気的な笑みを浮かべる。

 

「カカカッ……マテリアルが三基、加えて俺も復活できたとはねぇ……誰がやったか知らんが、感謝しねぇとなぁ……!」

 

 ゲラゲラとマテリアルは笑う。

 復活できたということも喜びだが、マテリアルにとってはそれ以上の情報も得た。

 

「しかも、システムU-Dが目覚めるらしいじゃねえか……ようやく目的達成のために動ける……」

 

 ディアーチェ達は飛び去ってしまったが問題ではない。

 マテリアル三基とついでにキリエ、マテリアルは隠れてこの四人にサーチャーを貼り付けた。シュテルには気づかれそうになったが気づかれなかったし、そもそも気づかれても問題にはならない。サーチャーさえついていればそれでいいのだ。

 いつもふざけた笑みを浮かべていたマテリアルは、いつの間にか笑みを止めていた。何より真剣な表情となっていた。

 

「……さて、行くか。眠り姫が待っている」

 

 そしてマテリアルは音もなく姿を消した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

差出人:管理者

 

件名:指令4

 

内容:

 次の指令を指定期間内に実行、達成せよ。

 

指令内容:闇の欠片と戦闘し、勝利せよ。

 

期間:砕け得ぬ闇事件終了まで

 

報酬:指令期間終了後、闇の欠片との勝利数÷3(少数切り捨て)の個数分配布。チームで参加する場合はそのチームの平均勝利数÷3(少数切り捨て)の個数とする。

 

 

 

 これが一昨日送られてきた指令の内容だった。

 

「なあ綾、昨日からGOD編始まった訳だけど、どうするよ?」

 

 海斗が訊いてきた。彼の言う通り、昨日の夜謎の魔導師二人の出現とマテリアルの三人が復活したという情報が入った。今日はすでになのは、フェイト、はやてがそれぞれユーノ、アルフ、リインフォースを連れて追跡調査を開始している。

 

「早く指令に取りかかった方がいいんじゃないか? なにより俺達四人チームだから、たくさん倒さなきゃならんぞ!」

 

 末崎の言うことはもっともだ。今回の指令は、前回海斗達が受けた指令に比べて難易度が跳ね上がっている。俺達の場合、最低でもチップの消費を打ち消すために3(指令の消費分)×3(チップ一つ取得に必要な勝利数)×4(チームの人数)で合計三十六体倒す必要がある。チップを増やすならさらに一つにつき十二体追加で倒さなければならない。

 けど、まずは情報だ。闇雲に探すより場所を特定させた方が効率がいい。俺はゲーム版の物語を知らないから、尚更情報が足りていない。

 

「まずは情報を整理したい。闇の欠片はもう出てきているのは確かなんだな?」

 

「ああ。追跡調査の途中でフェイトやアルフが出くわすから、間違いないぜ」

 

「闇の欠片発生の主な要因は? 魔力に反応するとか」

 

「ええと、そういうのは描写がなかったのでわからないのですが……マテリアルやユーリちゃん……あ、今はU-Dって言った方がいいのかな。……を中心に発生していたと思います。必ずではないかもしれませんが」

 

 そこは情報不足、か。

 とにかく発生場所を調べて向かうしかないようだ。

 

「じゃあ、まずアースラに行こう。なのは達の指揮をしているあそこなら、闇の欠片の居場所について情報があるはず」

 

「了解っと」

 

 俺は携帯を取り出し、アースラへと通信を繋げた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 アースラへ転送してもらった俺達は早速ブリッジへと向かった。

 

「失礼します。早速ですけど、状況はどんなもので?」

 

 ブリッジに入って早々に俺は尋ねた。

 三つの追跡チームの映像を見ていたリンディさんがこちらを向く。ちなみに、リンディさんと隣では才がモニターを眺めていた。

 

「調査が始まってそんなに時間が経ってないから、何も言えないわね」

 

「まあ、やっぱりそうですよね。対象との遭遇も、まだ?」

 

「海鳴市内でなのはさんとフェイトさんが、それぞれアミティエさん、キリエさんと遭遇したわ。ただ、逃げられちゃったけどね」

 

「……キリエが、単身で見つかったのですか?」

 

「ん? 綾、それがどうかしたのか?」

 

 海斗が訊いてきたので、俺は振り向いて説明をする。

 

「砕け得ぬ闇だとかを起動させる技術を持った本人が、砕け得ぬ闇もしくはそれを抱えているマテリアルと離れて単独行動しているって、おかしくないか?」

 

「んん? んー……まああいつらで話し合ってそう決まったんじゃねーの? 砕け得ぬ闇の起動方法をマテリアル達に教えちゃって、自分は囮をやってるとか。あっちにもシュテルっつー頭脳がいる訳だしさ」

 

「海斗らしからぬ、的を射た発言だな」

 

「ちょっ、酷くね?」

 

「だがキリエが囮をしているとしても、起動方法の全情報という重要なアドバンテージはそう簡単に渡せるものじゃない。渡してしまったらマテリアルがキリエと手を組む理由を失っちまう。そうなるのを防ぐためにも、やるとすれば……」

 

「……最後の一部手順だけ教えず、自分が担当するようにして、起動の場に立ち会えるようにする……でしょ?」

 

「……そうだ」

 

 俺の言いたいことを全部言ってのけた才に、俺は頷く。

 そうすれば、マテリアル達はキリエを切ることができず、キリエはU-Dとの接触を行うことが確実にできる。おそらくはこれが現実的な手段だろう。

 

「それってつまり、すでに砕け得ぬ闇の起動が始まっていると?」

 

「可能性としては十分かと」

 

 言うと、リンディさんは困ったようにこめかみを指でつついた。

 

「うーん、砕け得ぬ闇が危険な存在である可能性を考えると、すぐに捜索したいところだけど……」

 

「情報不足……」

 

「そうなのよねぇ……今のところマテリアル達を追って辿り着くしかないわ。闇の欠片が現れることも考えると、後手に回るかも」

 

 闇の欠片の話が出てきた。それに乗って、俺達の目的を遂行に乗りかかる。

 

「闇の欠片なら、俺達が対応します。後手に回るくらいなら三チームを捜索に専念させて早期解決を図った方がいい。闇の欠片事件では欠片の掃討に才や海斗達が尽力したと聞いています」

 

「あなた達に、ね……」

 

 リンディさんは少し考え込んだ後、「よし」と考えを固めた。

 

「なら、欠片の対処はあなた達にお願いするわ」

 

「了解」

 

「ただし。それはクロノや守護騎士の皆さんがこちらに戻ってくるまで。そして、絶対に無理しちゃダメよ。わかったわね?」

 

「はい」

 

 頷く。もっとも、それは指令の進行状況にもよるが。

 

「海鳴市内にて、魔力反応検出! このパターン……闇の欠片です!」

 

 早速エイミィからの報告が来た。早いな、暇することはなさそうだ。

 

「場所は?」

 

「広い範囲に複数……五カ所で反応が出てるね」

 

「僕は、別れて行動する……」

 

 才は言って一足先に転移ゲートへと向かいだした。だがその足はすぐ止められることになった。

 止めた張本人はちょっと驚きの、海斗であった。

 

「ちょっと待った才。俺も行くぜ」

 

「海斗?」

 

「才がすげー奴でも、さすがに一人はまずいだろ?」

 

『一つに固まってると、稼げる数に限りがあるはずだからさ、俺が才と一緒に稼いでくる』

 

 念話でこっそり打ち明けてくる。

 確かにその通りだ。俺達四人がひとかたまりになれば一つの区域が限界である。だから人数を割いてチップを稼ぐ場所を広げるという選択は正しい。

 俺が知らない間に海斗は、いや多分由衣も強くなり、何をすればいいのか自分で考え、判断を下せるようになってる。守るだけじゃない、頼れる仲間だ。

 俺は頷いた。

 

「よし、わかった。……才もいいか?」

 

「……構わない。むしろ助かる」

 

「よし、じゃあ行こうぜ!」

 

「……僕らは東南の区域に行くよ」

 

 言って、才は海斗を連れてゲートの中へ。そして転移されていった。

 さて、後は俺達だ。

 モニターを見る。点で表示されているのが魔力反応が検出された場所だ。才はその点が比較的多い東南の区域へと向かった。それで、次に多いのは……

 

「……北東だな。俺達はそこへ向かうぞ」

 

 行き先を決め、ゲートへと向かう。

 だがそこで、俺に待ったがかけられた。

 

「綾くん、ちょっと待って!」

 

「マリーさん?」

 

 ブリッジに入ってきて止めたのはマリーさんだった。そして彼女の手に持っていた物を俺に差し出す。

 

「はい、これ」

 

「これって……レイピア、ですよね。完成までまだかかるはずだったのでは?」

 

 渡されたのは、俺が設計した武器、『レイピア』であった。簡素で飾りのない剣が鞘に収まっている。俺は名前をつけるセンスがあるとは思ってないし、名前にこだわりもないので武器の分類をそのまま名前にするようにしている。

 そんなデバイス、レイピアだが、本来の完成予定日はまだ少し先なのだ。というのも、設計図を渡して開発を依頼したこと自体が最近のことであり、そこから考えると、いかに開発を早めたとしてももう完成するとは思えない。

 マリーさんは俺の問いかけに対して、うんうんと頷いた。

 

「うん、完成はしてないよ。それはまだシステムを積んでないただのフレーム。一応武器としては使えるから、持って行って。本来なら完成前のシステムインストール前にグリップの確認とかで持たせる予定だったんだけど……」

 

 武器として貸し出すとついでに、フレームの確認も頼む、か。

 だがそれでもありがたいものだ。断る訳もなく、レイピアを受け取る。

 

「ありがとうございます。使わせていただきます」

 

「うん。あ、システムは積んでないって、威力調整機能も抜けてるから。間違って怪我起こしたりしないようにね」

 

「わかりました」

 

 少しだけ鞘から刀身を覗かせ、カキンと納める。

 

「よし、行くぞ!」

 

「おう!」

 

「はいっ」

 

 そして俺達はゲートに立ち、海鳴市へと向かった。




 今回はここまで。第三章に比べて難易度が一気に鬼畜使用になってる気がするげど気にしなーい。
 GOD編の実質的主役がマテリアルズであったのにちなんで、Magic Game第四章も綾ではなくアイツを主役に置いていきたいと思っております。

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