Magic game   作:暁楓

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 六十話です。Magic Gameもここまできました。
 この調子だとStSに到達するまでに百話いっちゃいそうだなぁ、と思ったりしてます。空白期に書くべきことが多すぎるから、ひょっとしたら百五十超えてしまうかも。
 とりあえず六十話どうぞ。


第六十話

「ぬおおおおおおおっ!!!」

 

 走る。

 全力で走る。とにかく走る。強化魔法を行使して走り続ける。

 雄叫びを上げながらアスリートさながらの走りを披露している末崎の方向指示機になりつつ、由衣を左脇に抱えて走る。

 

「走れ走れっ! 減速するな! 絶対止まるなっ!!」

 

「死ぬ死ぬ死ぬ死ぬ! こんなの、失格じゃなくても死んじまうだろォォォッ!!!」

 

 止まることは許されない。止まれば最後、迫り来る滝に飲み込まれて終わりだ。

 滝の水は色とりどりで、意外と綺麗な虹色となっている。

 チラリと後ろ上方を見る。見えた範囲だけで、少なく見積もっても二、三十……魔力弾の滝に隠れて見えない分も合わせると四十は超すんじゃないだろうか。そんな数の闇の欠片がこっちを狙ってきている。

 

「綾さん! 前っ!!」

 

「っ!」

 

 前方から闇の欠片トーマが来る。戦闘は避けられない。だが止まってる暇はない。

 なら、走りながら一撃で葬るしかない。

 

「邪魔だああああっ!!」

 

 レイピアを抜く。トーマが銃剣を振るってくる。

 斬り上げを回避。そしてトーマの眉間に刃を叩き込む。バスッ、という音と共に刃は頭を突き抜けた。

 

「……ッ!」

 

 筋力強化(フィジカル)、強化魔力追加。右腕の腕力だけで強引にトーマの首を引きちぎる。レイピアに刺さったまま残った頭部は程なくして崩れ去った。

 

「どこまで逃げればいいんだよおおおっ!!」

 

「とにかく走れ! 一発でも食らえば終わりだっ!」

 

 こんなことになったのは、ほんの数分前からだった。

 突然、闇の欠片の数が爆発的に増えた。ただそれだけのことだ。しかしそれで窮地に立たされている。二、三体ならまだいい。五体になるとさすがにきつい。十体は論外。それが四十ともなれば、語る前に満場一致で逃走一択で即決だ。だから逃げている。

 だが逃げてるだけではどうにもならないのも事実。どうしたものか……!

 

「っ、脇道に逃げるぞ! こっちだ!」

 

「おわあっ!?」

 

 進路を九十度ねじ曲げ、近くの脇道に駆け込む。こちらの方向転換に追いつかなかった魔力弾は一気に後ろを通過していった。

 だが安心してはならない。すぐに追撃が来る。なのですぐに走り出す。

 

「ひぃっ、ひぃっ!」

 

 マズい。なんとかしないとマズい。このままではいずれ体力切れで終わりだ。現に末崎が息を切らし始めている。俺も正直、キツい。

 それと海斗の方も気になる。俺達と同じ状況に陥っている可能性が高い。才がいるとはいえこちらと同等の状態だとどうしようもないはずだ。それ以前にこっちが人の心配ができる状態じゃないのだが。

 脇道から広い道路に出て、進路を変えて逃走する。

 その時、抱えられてる分視野が広い由衣が気づいた。

 

「り、綾さん!」

 

「何だっ!」

 

 あわあわと口を震わせ、顔を真っ青にして、由衣は言った。

 

「ス、ススス、スタッ、スターライトブレイカーとっ、ルルふぇ、ルシフェリオンブレイカーが来ますーーーっ!!」

 

「「はぁ゛っ!!?」」

 

 末崎とちょうど声が重なった。後ろを見ると、本当に桜色の塊と朱色の塊が発射寸前まで溜められていた。

 ――加速強化(アクセル)、追加付与。

 加速強化(アクセル)、追加付与。

 重複強化によって身体が吐き気を訴えてくるが、無視する。

 

「――走れえええええっっ!!!」

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っっ!!!」

 

 走る。何も言わずに強化魔法を上乗せしたが、後ろから声がちゃんとついてきてることから末崎も強化上乗せをしていたようだ。

 

「やべぇ死ぬ! やべぇ死ぬ!! 死ぬってこれえええっ!?」

 

「しゃべる暇あんなら走れえええっ!!」

 

 走っている間にも集束は進む。マズい、まるで間に合わな――

 

 

 

 

 

 ――ズドンッ!

 

「っ!?」

 

 後方からの突然の音に目を向け、驚くべき光景に思わず急停止する。ズザザァッ、と慣性の力で少し路面で滑った。

 

「おいおいおいっ、何してんだ綾!? 早く逃げないと――っ!?」

 

 俺が止まったことで前に出た末崎も、俺に声をかけようと後ろを向いて事態に気づいて脚を止める。

 

「……二つのブレイカーが、消えてやがる……」

 

 それだけじゃない。俺達を追い回していた魔導師や騎士が一人もいなくなっている。残っているのは焼け野原になりかけた戦闘跡だけだ。

 

「ど、どうなってんだこりゃ……?」

 

 一体何が……っ!

 

(……誰かいる!)

 

 地面からの砂煙でよく見えないが、確かに人型だ。

 シグナム達が救援に来た? いや、シグナムら守護騎士の基本スタンスは一対一の対人型だ。救援に向かってきてはいるかもしれないが、あの数を一瞬で消すのは難しい。広域殲滅の場合はこっちが巻き込まれるからはやて・リインフォースの線も違う。なのはらミッド型の大技という可能性も、同じく巻き込みという意味ではずれだ。

 リンディさん……も、違うと思う。『仲間がピンチだから』程度のことで簡単に腰を上げる程軽い立場じゃない。仮に行くとしても、二人しかおらず窮地に陥りやすい海斗と才の元へ向かうはずだ。

 

(……じゃあ、誰だ?)

 

 段々と影が濃くなっていることから、こちらに来ている。

 ……そして、姿を現した。

 

「――あー。やっぱり無理なやり方はするもんじゃねえな……」

 

 砂煙から姿を現したのは、『黒』だった。

 黒い道着に黒い刀。全身黒一色の装備が男の金髪をよりはっきり見せている。赤い瞳は一つしかない。右腕も肩から抉れたように消えている。そして腹には大きな穴が空いていた。

 普通の人であればとっくに死んでいるはずのその男の手には、なのはやシュテル他多数の魔導師の首が髪を一纏めに掴まれていた。

 

「うわっ……!」

 

「あー騒ぐな。喋るなら殺す」

 

 男は末崎にそう言って、首をポイと放り捨てた。首は全てプログラムとして呆気なく崩壊した。

 そして男は俺達を、いや俺を見て満身創痍ながらもニヤリと笑った。

 

「よぉ……こうして会うのは初めてだよな、オリジナルさんよ……」

 

 オリジナル? ……ああ。

 

「そうか……お前か。俺を元にしたマテリアルってのは……」

 

「おうよ。まあ自分でそう名乗っておいて、厳密にはマテリアルではねーんだがな」

 

 厳密にはマテリアルではない……? いや、それは今はどうでもいい。今重要なのは、あのマテリアルが何の目的で、闇の欠片を蹴散らしてまでここに来たのかだ。

 俺は由衣を地面に降ろし、マテリアルに問う。

 

「俺達の前に出てきた理由を答えろ。……イレギュラーとして、俺達を自らの手で抹消するためか?」

 

「いいや違うね。俺みたいなイレギュラーには存在意義がある。現れた時点で原作の人物の一人さ。言ってみれば、俺はイベントキャラってところか」

 

「イベントキャラ……?」

 

「……ちょいと、お前と話し合ってみたいんだが――」

 

 言って、ダメージが残ってるのかフラついた足取りでこちらに近づき始めた時だった。

 

「綾!! 離れてくださいっ!!」

 

「!?」

 

「っ!!」

 

 後ろ上空からの声。その地点を確認してすぐ飛び退くと、マテリアルに赤い雨が降りかかった。マテリアルは防壁を展開するが防ぎきれず、赤い雨に当たった皮膚が裂けていく。

 マテリアルにある程度のダメージを与えた後、俺を退かせ、赤い雨を降らせた張本人が俺のすぐ前に降り立った。俺を庇うように片腕を広げ、マテリアルを睨みつける。

 リインフォースであった。

 

「綾、下がっていてください。ここは私が!」

 

「……………」

 

 口調がリインフォースにしては攻撃的だ。以前痛い目に合わされたという出来事があったからなのか、あいつへの警戒心が剥き出しになっている。

 赤い雨――空からのブラッディダガーを受けたからか、それ以前のダメージの影響か、両方か……マテリアルは膝をつき、刀を杖のようにして身体を支えていた。

 そんなマテリアルから舌打ちの音が漏れる。

 

「チッ……一番話聞きそうにない奴が一番話聞きそうにない条件の時に来やがって……」

 

 そう悪態はついてるものの、マテリアルに動く様子は見られない。

 

 と、こちらと目が合った。

 仕方ないな……。

 俺は臨戦態勢のリインフォースの肩を掴み、少し引かせる。

 

「……!? 綾? どうしたのですか?」

 

「ちょっとこのまま待っててくれ」

 

「え……? 綾、いけません! 危険です!!」

 

 リインフォースの制止の声を無視して、俺はマテリアルの元へと近づいていく。

 マテリアルの目の前で足を止める。座り込んでいるマテリアルは顔を上げて目を合わせた。

 

「まず先に、訊きたいことがある」

 

「……なんだ」

 

「お前、なんて名前なんだ? いつまでもマテリアル呼びじゃあ他と紛らわしくなる。名前ぐらいあるだろ?」

 

「名前ね……あるにはあるが、俺がその名前使う訳にはいかねえからなぁ……」

 

 そうボヤいてしばらくして、それから思いついたように「じゃあ」と呟いた。

 

「ウレクでどうよ? 悪くはねえだろ?」

 

「ウレク、ね」

 

 頭の中で反芻。それからマテリアル――ウレクに、先ほどの彼が言いかけていた話を持ちかける。

 

「話をしたい、って言ってたっけか? 今なら取調室っていうそれに相応しい場所を用意できるんだが、どうだ?」

 

「どうだって、俺に拒否権ねえだろこの状況」

 

「言うだけならただだぜ? 言ったら後ろの綺麗なお姉さんに追っかけられるというサービス付きだ」

 

「生憎銀髪に追いかけられるのは嫌だね。俺は金髪派だ……つーか、んなもんどうでもいい」

 

 言ってウレクはニヤリと笑みを作る。疲れ切った身体で、しかしこの状況の中で心底楽しそうに。

 

「つれてけ……お前と話をするためなら、多少の条件ぐらいなら受けてやる」

 

「決まったな」

 

 身体を屈ませ、ウレクの肩を担ぎ、ウレクと共に身体を立たせる。

 ウレクの肩を貸していることに不満があるらしく、駆け寄ってきたリインフォースが非難の声を上げる。

 

「綾! 一体何故その男を!?」

 

 今回のリインフォースは結構私情を持ってきているみたいだが、俺はそれに構わず指示を出す。

 

「アースラに連絡しろ。マテリアルの一体、識別名ウレクを確保。治療と共に尋問を行う」

 

 連絡が届いてゲートが開き、ウレクをアースラへと連れ込むのはそれから一分ほど後のことだった。




 マテリアルにウレクという名前がつきました。しかし本来は別の名前があった様子。ここ重要。

 リインフォースですが、主観が綾ばかりで解説がつかないでしょうから話しておきますが、リインフォースのやや感情的言動は綾の思ったこととは違って、綾を意識するあまりの行動です。早い話過保護体質。某駆逐系漫画のアッカーマンみたいになってきてます。客観的に見て明らかに危険人物であるウレクが無力な綾の前に現れたため救援に向かった、というのは正しいのですが、リインフォースはそれを過剰に認識しているようです。その内ヤンデレるんじゃないだろうかこの人。大丈夫なのかこの人。大丈夫なのか俺。

 次回から久々に頭脳勝負になっていく予定です。頭脳は綾VS綾、全くの互角。さてどうなることやら。

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