Magic game 作:暁楓
内容が思いつかず悩みに悩んだ挙句今回もひどい出来になったと思ってます。具体的にはユーリが公式を超えたチートになりつつあること。
長く待たせてしまったお詫びに新作二次も投稿しました。亀更新予定ですが、良ければ見てください。
あ、それともう一つ。
誰かへの感想の返信で、ユニゾンすると言った。確かに言いました。
だが、アインスとユニゾンすると誰が言った?(ゲス顔)
といっても、今回のは正確にはユニゾンとは少し違うのでご安心を。
「――姉妹機による妨害を確認。このまま殲滅を続行します」
「お姉――」
「させる……もんですかっ……ヴァリアントザッパー! オーバーブラストォォォッッ!!!」
◇
「なんだ!? 爆発っ!?」
魔力の揺れを感知して駆けつけた、シャマルを除くヴォルケンリッターの三人。
遠く先の空中で突如起きた爆発に、ヴィータはとっさに身構えた。
「熱と物理破壊を伴っているな……威力は主達のトリプルブレイカー並――いや、それ以上か」
そう分析するシグナムは平静を装っているものの、自分が目にしている威力に顔が少し強張っていた。
爆発が収まっていく。その最中、ザフィーラが気づいた。
「む」
「? ザフィーラ、どうかしたのか?」
「転移反応だ。あの爆発の真上に誰かが来る。一人――いや、一つの身体に二人分か……?」
「……って、それ、ユニゾンしたはやてなんじゃねーのか!?」
「まずい! 直ちに主はやての援護に行くぞ!」
ヴィータとシグナムは慌てて爆発の地点へ向かおうとする。
一つの身体に二人分の反応というのは、融合しているからに他ならない。となると、可能性として一番高いのはリインフォースとユニゾンした状態のはやてである。もう一つ、トーマとリリィも融合型であるのだがわざわざ戦闘現場の真上に転移する理由がない。
しかし焦る二人に対して、ザフィーラは冷静に、そして疑問を持った目で転移地点に視線を向ける。
「いや――我が主でもリインフォースでもない……誰だ?」
とにかくは急行する二人に加わるのが先決。ザフィーラは二人に追いつくために飛翔速度を上げた。
◇
落ちてる感じがする。
重力の枷に捕らわれ、蹴るものがないため移動も許されず、自由落下の法則に従って速度を上げながら落下している。体とバリアジャケットに変換されている衣服の間に空気が入って服が捲れ、髪は見えないが逆立っているだろうと予想がつく。
このまま落ちていけば、海に叩きつけられる。高さ的に考えて、その衝撃は洒落にならない。今までの自分ならそうなるだろう。
『さ、行こうぜ。
「ああ」
左腕から脳内に振動してくるような声に応える。
真下には目標がある。それを見据えたまま、柄も鍔も刀身も真っ黒な刀――『
目標まで五メートル。
三メートル。
二メートル。
一メートル。
――振り下ろす!
ガキンッ!!
鳴ったのは肉に突き刺さる音ではなく、硬い金属に弾かれたような音。
事実、弾かれた。目標の背中から生えた翼から出てきた赤黒い装甲が、こちらの剣を妨げている。
(気づかれた……!)
「接敵確認。排除開始」
「くっ――!」
すぐに装甲を蹴りつけて間合いを離す。自分のいたところを赤黒い手の爪が引き裂いた。
己を支えるものを失い、再び落下を始める。
叫ぶ。
「ウレク!」
『わぁってるよ。――堕翼、展開』
直後、炎のように揺らめく真っ黒い翼が、背中から生える。
堕翼と呼ばれた翼が羽ばたくと身体が持ち上げられ、落下のエネルギーと相殺されてその場に静止した。
◇
「俺とお前でユニゾンする……だと?」
少し前に遡る。
ウレクの話がユーリを止める方法へと移り、その内容に俺は疑問符を浮かべていた。
「おう。まあ正確に言えばユニゾンとは言えないだろうが、融合という意味ではその通りだ」
ウレクはそう答えて続ける。
「さっき説明した通り、ユーリを止めるためには今俺が所有しているユーリの感情プログラムをあいつに組み込まなければならない。そしてプログラムを組み込むには俺のデバイス『黒刀』であいつの身体と『接続』する必要がある。だが、今の俺の状態は見て、さらに先程言った通りだ。この状態で戦闘をしながらインストールするってのは無理。そこで、だったら表での戦闘は別の人に頼んで、俺はその人の中でインストールに集中しようって訳さ。これならインストールにかかる時間も短縮可能だぜ」
「そもそもお前、融合できるのか?」
「俺の基礎構造が闇の欠片だったのが幸いした。寄せ集めた断片データの中に融合システムもあるから、そのデータを弄って使えばいけるぜ」
「待て。それで綾が選ばれる理由がわからない」
「確かに、僕もそれについて訊きたい。綾はお世辞にも戦力が高いとは言いにくい。なぜその彼を融合対象にするんだ?」
リインフォースとクロノが質問する。
ウレクにもちゃんとした理由があるのだろうが、クロノの言う通り俺を選ぶ理由が不明だ。剣士ということであればシグナムがいるし、融合適性という面であればマテリアルズでもいけそうな気はするのだが。
「適性の問題さ。俺は
「だが、それならマテリアル達が――」
「てめーの集めたデータが邪魔なんだよ。今の俺の駆体構造は大部分が朝霧綾だし、他の余計なデータも混ざってる。マテリアルズはそもそもは闇の書とは別物、溶け合う訳がねえ。やりたくてもできねえよ」
そう答えてから、ウレクは俺の方を目を向けた。
「だからこいつさ。俺とオリジナルの基礎構造は同じだから、融合はまず間違いなく成功する」
「しかし、綾はお前と違って空戦はできない」
「んなもん、俺が翼になりゃいいさ。もしくはお前達がユーリを誘導すりゃいいだろ?」
「だが――!」
「リインフォース、少し落ち着け。……質問がある」
熱くなり始めたリインフォースを一旦落ち着かせ、俺はウレクに訊く。
「あん?」
「俺とお前が融合した場合、俺の能力は欠損前のお前を超えることはあるのか?」
「ああ安心しろ。
即答。
ウレクは続ける。
「戦闘技術も思考能力も同じ。魔力は圧倒的にお前の方が低い。加えてお前は身体が一部欠損状態。これらが融合一発で完全体だった時の俺に適うなんて天地がひっくり返ってもありえねーから。強いて言うなら思考の方向性が俺とお前で変わるだけさ」
「そうか」
「そうかってお前……それじゃあ勝てねーじゃんか」
「いや、完全な劣化ではないことが最後の言葉で証明された。こっちにはアースラのみんなもいる。可能性はあるさ」
「綾……ですが!」
「それに、今のウレクが行っても、それこそ勝ち目はない上、死なれたりしたらユーリを停止させる方法そのものが消える。これが確率的に一番であり、これしかない」
「物分かりがいいねえ。さすがはオリジナル様だ」
「……だが、まずは安全性の確認を」
させてもらうぞ。と言う前に、アラート音が遮ってきた。
喧しい音の中、リンディさんの目の前にモニターが表示される。モニターにはエイミィの顔が映し出されていた。
「何があったの?」
『海鳴市海上で、未知の魔力反応を複数確認! 捜査対象であるユーリ・エーベルヴァイン、アミティエ・フローリアン、キリエ・フローリアンのものと思われます!』
「だってよ。ちょいと腕出しな。両腕だ」
そう言うウレクの左手には、転移魔法で取り寄せたのか没収されたはずの黒刀があった。
言われるがままに手を出すと、まず右手に黒刀を持たせ、そして左腕をがっちり掴んできた。
「さっきも言ったが、俺がやるのはユニゾンじゃねえ。正確には俺の中にあるユニゾンシステムの不足データを闇の書の侵食能力で補った、身体の一部に取り憑き、取り憑いた箇所の操作権限を強奪しちまう、名付けるなら『侵食融合』。なに、融合すること自体に危険性はないし、融合中の操作権限もちょいと手ぇ加えることで返してやれる」
左腕が黒く染まり始める。途中からゾワリ、ゾワリと這い寄ってくるような悪寒を神経が感じ取った。
同時に、俺の足下に魔法陣が敷かれる。塗りつぶされたような真っ黒い魔法陣はウレクのものであった。
「っ、ウレク! 貴様、綾に何を!!」
「さ、まずは侵食融合とユーリとの実戦、これらの体験コースを受けてもらうとすっか」
視界が一時的に真っ白になり、次の瞬間、目の前の光景は夕焼けの空になっていた。
◇
状況を整理する。
現在、俺はウレクと融合してユーリと対峙している。
俺の変化は、まず侵食を受けて左腕が黒く、禍々しい鎧を着けたような姿になっている。背中も侵食を受けた感覚があるので、多分似たようなことになっている。しかし左腕はちゃんと、自分の意志で動かせる。
得物はそんな左腕で持っている黒刀。腰には一応レイピアも差している。
背中からは堕翼というらしい翼が生えている。曰わく棄てられた部品と共に流れ出てしまったエグザミアのデータを元に再現したものだとか。背中まで融合している理由がこの堕翼を操作するためらしい。
対するユーリは、映像の時と同じ姿のままであった。
確か海斗の話だと、色彩変化と刺青のような模様が体中に現れる暴走状態なる姿があるという話だが、まだ安定しているのだろうか。
いや、違う。
(暴走のトリガーとなる感情がそもそもないから、か)
だがそれは安心にはならない。安心してはいけない。
暴走する感情はないが、逆に己を抑制する感情もない。自分の行動の全てをエグザミアに任せてしまっている。言ってしまえば、平常モードで暴走レベルの出力を出している可能性がある。
これで大体の状況は把握した。後は如何にして相手の攻撃をかいくぐり、接続を果たすかだ。
『いいか』
俺の内側からウレクが話しかけてくる。
『あいつの身体のどこでもいいから、黒刀で刺すんだ。そしてその状態を保ち続けろ。その間にインストールすっからよ』
「インストールにはどれくらいかかる?」
『そうだな。……短くて一分か?』
一分……正直に言って、一分は厳しい。
そもそも、U-D相手に接続だけでも厳しい話だ。それを一分も続けるというのは、はっきり言って無理がある。
『ま、無理っつってもやるハメんなるがな!』
「っ!!」
急速接近からこちらを引き裂きに来る爪を下がってよける。
今度はすくい上げるように魄翼の爪を振り上げて来たので、身体を反らして間一髪で回避……いや、皮膚が少し裂けた。
攻撃直後の僅かな隙を逃さずにユーリの顎を蹴り上げる。硬い。効いてる様子も見られない。
黒刀を振るう。ユーリの手のひら程度まで圧縮されたシールドに阻まれ、弾かれた。
左腕を掴まれる。左腕を掴んだ手を支えに跳ね上がり、蹴りを側頭部に叩き込んできた。
結果、吹っ飛んだ。
「ごはっ!」
ユーリの見た目からは想像のつかない威力によって吹っ飛ぶ。おい、どうなってんだこれは。
『当然だろ。ユーリはその存在をエグザミアに依存しているんだぜ。見た目と性能はもはや別物だ』
「ああ、そうかよっ!」
堕翼の羽ばたきでその場で停止する。
さっきからウレクはちょくちょくこちらの思考を読んだような発言をしているが、融合によって思考が共有化されているらしい。相性がいい程思考の共有化もより細かいところまで可能となるそうだ。
それはそうと、つまりユーリの能力全てがエグザミアが設定したものになっている。あの姿で、ただのパンチやキックで岩を粉々にすることだって、数値を弄れば可能ということだ。
最悪だ。ユーリを上回ってると思っていた貴重な要素、身体能力が蓋を開けて見れば圧倒的に負けと来た。
後はもう、頭脳で上回る他はない。
「ヴェスパースプラッシュ」
ユーリが手をこちらに向けてくる。
「ウレク」
『おうよ』
呼ぶ。応える。思考がわかるからこれだけで十分。
堕翼を羽ばたかせ、猛スピードで後退する。加えてウレクの魔力を借りて誘導弾を生成。数は五発。
リング状の弾幕が拡散しながら来る。
大きく迂回するように回避しつつ、魔力弾五発のうち四発を発射。
弾幕を潜り抜け、四発はユーリの身体に直撃。だが、効いていない。防御も回避もしなかったのは、そうする価値がなかったかららしい。
正確な認識だ。だがその判断は間違いになる。
弾幕を抜け、残しておいた一発を飛ばす。ユーリは避けることも防ぐこともせず、直撃。
破裂した魔力弾から、大量の煙がユーリを包み込んだ。
『煙幕弾、正常作動』
魔力製の煙が拡散していく。
これでユーリの視界が闇へと変わった。魔力を視覚化させても、魔力でできた煙が邪魔になる。あいつがシステムに全てを委ねている現状なら、取りあえず動こうなんて考えは持たないはず。
またウレクから魔力を拝借し、右手に灰色の炎を溜める。使うのは、ウレクがいつの間にやら手に入れていた理のマテリアルの魔法。
「ディザスターヒートッ!」
砲撃三連。それが煙の塊を突き抜ける。
そう、突き抜けた。
「……!? いない!?」
『上だ!』
「!」
確認するより先に黒刀を盾にする。
直後、魄翼により形成された腕と黒刀が衝突し、衝撃ではじき落とされる。
「ぐっ!!」
奇襲失敗。それどころか煙に紛れて転移で頭上から仕掛けられた――その情報だけ処理しておき、態勢を立て直し、魔力弾を生成する。
一発は高速直進する狙撃弾。誘導弾は三発。誘導弾は高密度魔力で生成。
まっすぐ、ユーリに狙いを定める。狙う箇所は、視界を潰すため顔面。
「行け!」
号令を受けて狙撃弾が飛ぶ。百メートル近い距離を一瞬で駆け抜け、彼女の右目に直撃した。
誘導弾を三方向に飛ばす。
「エターナルセイバー」
ユーリは赤黒い炎のような巨大な魔力剣を右手に作り出す。
身の丈を悠に超える剣を軽々しく振るい、魔力弾が打ち消される。
剣を振るった時の隙を逃さず、レイピアを抜き、飛び込む。
――二刀同時に突く!
ギィンッ!
「っ、邪魔だなこの腕!」
両方とも魄翼の腕に阻まれた。
距離を取る――のは得策じゃない。詰めることができたんだ。このまま続行するべきだ。
接続を試みるべく魄翼の腕を駆け上がり、そして黒刀を――!
ガァンッ!!
「……っっ!!!」
駆け上がった直後、エターナルセイバーの縦一閃が襲いかかってきた。
なんとか二刀で防ぐことはできた。が、重過ぎる。魄翼の腕を足場に立っているので精一杯だ。
「エターナルセイバー、追加生成」
ユーリは空いてる手にもう一本の魔力剣を作り出す。まずい……!
一本を受け止めて踏ん張っているのに精一杯な俺に向け、今度は横に斬りかかる――。
「おおおおっ!!」
俺の視界に突如入り込んだ蒼い影。雄叫びと共に割り込んできたそれはバリアを展開し、魔力剣を受け止めてみせた。
「綾、無事か!」
「ザフィーラ!」
「はああああっ!」
「どりゃあああっ!!」
ユーリの背後からシグナムとヴィータが獲物を振り下ろす。ガァンッ! という重い音が鳴り二人の武器が弾かれる。弾かれはしたが、ユーリの態勢も崩れた。
その瞬間を逃す手はない。前のめりになったユーリの肩に黒刀を突き刺す。
「……!」
「ウレク! インストール急げ!」
『わぁってるよ!』
「シグナム! ザフィーラ! こいつを取り押さえててくれ!」
「わかった!」
「心得た!」
シグナムとザフィーラに頼み、ユーリの両腕を締め上げて固定させる。
いけるか……?
「……………」
ユーリは一瞬黙り込んだが、周囲をぐるりと見回して、呟くように宣言した。
「オーバーアシストプログラム、起動」
直後。
膨大な魔力放出によって俺達全員が吹き飛ばされた。
「うおっ!?」
『やべぇ……! おい! とっとと引け! こいつはさすがに――』
金色と赤の軌跡が一瞬見えた。
それが何かを理解するよりも早く、俺の両腕が切断されていた。
凄まじい勢いで綾がピンチ。