Magic game   作:暁楓

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 なんとか早めに投稿できました。
 しかし、やると言っておきながら番外編を投稿できる兆しが見えないのはどういうことか。
 すいません。でも投稿は頑張ってします。


第六十九話

 散開して初撃を回避してから、海斗はユーリへと突撃した。

 攻撃が通らないのは始めからわかっている。だが救援がくるまでこの場に張り付かせるためにはターゲットの存在が不可欠。ターゲット、つまりは囮になるのは、この中で身体能力が最も高い海斗となるのは自然であった。

 ユーリは接近してくる敵を最初の目標につけ、魄翼を動かす。

 魄翼の爪が細く鋭く、針状に変形し、海斗を刺殺せんと高速で襲いかかる。

 

「うおっ!」

 

 目前に迫ってくる爪を身体を捻り、僅かに横にズレることで回避する。が、爪は僅かにだが海斗の顔の皮膚を切り裂いた。

 

(あっぶ――いや、アウトか……!)

 

 直後、スターチップが二つ浮かび上がって砕け散る。闇の書事件にてリインフォースと戦っていた時にも見た光景だ。

 海斗が持つチップの総数は十九個だった。そこから二つ引かれ、十七個。あと九回も攻撃を受ければ失格となる。

 

(――でも引かねえ!)

 

 だが海斗は突撃を続行する。

 魄翼が引き裂きにくる。斜め上からの攻撃をしゃがんでよけ、さらに接近する。

 立て続けに攻撃が来る。右から、左から、顔面を狙って、心臓を貫く気で。

 それをしゃがんで、バックして、身体を逸らし、時には蹴り飛ばして狙いをずらせて。ひたすら避ける。由衣や末崎のバックアップを受けながらユーリに張り付く。

 

「おらっ!!」

 

 攻撃を間一髪でよけ、砲撃を撃ち込む。ダメージを与えるためではなく、反動で飛んで一旦距離を開ける。

 

「海斗さん! あまり無茶をしないでください」

 

「大丈夫だよ。最初以外は全部完全によけてっから」

 

 そーじゃなくてっ、と由衣は反論するが、海斗は聞く様子もなく再突撃の機会を伺う。

 

「っし、行くぜ!」

 

 気合いを入れ、再びユーリへと突貫する。

 ユーリは接近する海斗に向けて魄翼の爪を振り下ろすが、先読みしていた海斗は素早く横へと回避する。

 

「ヴェスパースプラッシュ」

 

「っ、うおおっ!?」

 

 大量の赤黒いリングが海斗に向けてばらまかれる。その質量及び、ゲームでは出てこない攻撃方法に驚くも、海斗はなんとかかいくぐった。

 海斗はよけきった。だが、よけきれなかった者もいた。

 

「ぐわっ!」

 

「きゃあ!!」

 

「っ!? 由衣ちゃん! 末崎!」

 

 拡散するリングは由衣と末崎にも襲いかかった。それに対応できず、二人とも被弾してしまう。二人からそれぞれチップ二つが砕け散る。

 仲間の負傷に海斗の注意が逸れた。感情を棄てた相手はその隙を見逃すことはない。

 マズいと思っても、もう遅い。

 

 ドスドスドスドスッ!!

 

「が、ぁっ!」

 

「海斗さん!!」

 

 針状の爪が次々と海斗の身体を貫いた。左足二カ所、腹、右手首に穴が空く。左足や右手首は骨も砕かれた。

 身体を貫く爪が抜かれ、海斗はその場に膝をつく。

 痛みに顔を歪めながら海斗が見ると、ユーリは右手に赤黒い魔力を収束させていた。

 動かなければ、と思う。なのに海斗の身体は動かない。単に身体が破壊されただけでなく、激痛によって身体が麻痺している。

 

「エターナルセイバー・カノンモード」

 

「ああああああああああっっ!!!」

 

 横から絶叫と共に海斗の身体が突き飛ばされた。

 突き飛ばしたのは末崎だった。末崎によって海斗は射線から逃れた。代わりに末崎が射線に入ってしまう。

 

 ドゴンッ!!

 

「海斗さん! 末崎さん!!」

 

 砲撃の直撃を受けた末崎は、そのまま砲撃と共に壁に押し込められた。クレーターができた壁に埋まった末崎は血まみれとなり、意識も飛んでいる。

 海斗も、末崎によって直撃は免れたものの風圧によって吹き飛ばされ、壁際に倒れていた。その際頭を打ったのか、意識がない。

 ユーリが残った由衣へと顔を向けた。

 

「脅威判定、残り一体。殲滅、続行」

 

「ひっ……!」

 

 由衣はすぐに長杖を構えようとするが、恐怖で震えた手は長杖を取り落としてしまう。

 丸腰になった由衣を引き裂こうと、ユーリが接近する。

 

 ――パァンッ!!

 

「!?」

 

 恐怖で身体を縮め頭を抱えていた由衣は突然の音に驚いて顔を上げた。

 すると、もう目と鼻の先にいるユーリはこちらを襲う様子はなく、全く別の方向を見つめていた。

 

(え? え……?)

 

 何が起きたのかわからず、由衣はユーリの視線を追いかけた。

 ユーリの視線は僅かに上向いた方向なのだが、何もない。ただ道路が続いているだけ。

 そして二人とも人間の素の視力では見えない“何か”に意識が集中していたため、由衣はともかくユーリも気づかなかった。

 自分の背中に近づく者が、その得物をユーリに向けていることに。

 

 ズドンッ!!

 

「!?」

 

 いきなりユーリが吹き飛んだことに、由衣はギョッとした。

 慌ててユーリがいたはずである場所を見ると、

 

(え?)

 

 そこにいたのは、仮面をつけ、ランスを片手に持った女性だった。

 その人は仮面に加えてフードつきコートを羽織っているため髪も見えない。なのになぜ女性とわかるのか。スカートを履いているからだ。レース付きの黒いロングスカートで、ゴスロリのそれのように見える。彼女が持つランスは突くことに特化した円錐状の物理刀身で、鈍い銀色に光っている。

 

「下がってなさい」

 

「え?」

 

 鋭く棘のある声。彼女はそれだけを言うと、状況理解が追いついていない由衣を置いてユーリへと駆け出した。

 

「脅威判定、一体追加……迎撃開始」

 

 すでに起き上がっていたユーリは接近してくる彼女をターゲットに絞り、魄翼を腕に変化させて襲いかかった。

 ――しかし。

 

 バァンッ!!

 

「――!」

 

 由衣は驚くしかなかった。なぜなら仮面の女性を引き裂かんと振り下ろされた魄翼の腕が、彼女の一突きによって砕かれたからだ。

 さすがにおかしいという思考がよぎった。彼女の突きは鋭く、由衣の素人目から見ても熟練されているのだろうと思う。しかし、魄翼はそもそもエグザミアの魔力でできたものであり、無類の強度を誇る。熟練されていようが、突きの一撃で砕かれるようなものではない。

 だが由衣のその疑問はお構いなしと言わんばかりに、ユーリと仮面の女性の攻防は始まっていた。

 状況は仮面の女性の方が優勢だった。ユーリが繰り出す攻撃の数々は完全に見切られている。彼女の衣服が傷つくことはあれど、(由衣からは見えていないだけかもしれないが)チップが砕かれてないところから彼女の身体に傷はついていない。さらに言うと仮面には一切傷が入っていない。

 しかも、

 

(ユーリちゃんに、ダメージを与えてる……!)

 

 それが何よりも驚きだった。先ほどまでの戦闘では、由衣は海斗へのバックアップとして援護射撃を行っていたのだが、ダメージは一切入れられなかった。

 しかし、仮面の女性はユーリに明確なダメージを与えることができている。今も彼女の突きを掠めたユーリの頬が、殻のようにひび割れた。

 

「―――――」

 

 自身の身体が傷ついているという異例の事態でもユーリは無表情のまま、危険因子を排除すべく魄翼の両腕で仮面の女性を挟み込もうとする

 仮面の女性は瞬時に長杖を展開。素早く魔力弾を数発撃ち込み、同時に反動で後ろに下がって魄翼の挟み込みを回避する。

 回避してすぐ長杖を放り捨て、仮面の女性は青いベルカ式魔法陣を展開した。同時に左手を標準を合わせるようにユーリへとかざし、ランスを構える。

 

 ズダンッ!!

 

 その直後に放たれた突きはユーリの胴を捕らえ、彼女が乱入してきた時と同様壁へと強く突き飛ばした。ユーリが叩きつけられた壁にはクレーターが出来上がっている。

 

(つ、強い……)

 

 由衣にはそれした思い浮かばなかった。しかし、それほどまでに強かったのだ。

 由衣や末崎は勿論のこと、海斗や竹太刀、もしかしたら綾や才を凌駕しているのかもしれない。由衣にそう思わせるほどの強さであった。

 ガラリと瓦礫の中からユーリが立ち上がった。ユーリの腹には受けた衝撃に比べたら小さいものの穴ができている。

 ユーリは自身の損傷率を見て、相手への警戒レベルを引き上げた。そして躊躇いなしにプログラム起動の宣言をする。

 

「オーバーアシストプログラム、起動開始」

 

 宣言した瞬間、ユーリから膨大な魔力が放出される。放出された魔力が風を生み、暴風となって仮面の女性や由衣を襲う。

 が。

 

「……!?」

 

 突然、ユーリの右腕が壊れて落ちた。落ちた右腕は跡形もなく霧散する。

 さらにユーリの顔が傷を中心に壊れていく。皮膚が剥がれていき、その下はプログラム故か赤い筋肉ではなくそれに似た黒い何かだった。

 

「いったい、何が……!?」

 

 ウレクから今のユーリがオーバーアシストプログラムを乱用すれば駆体を壊すことになりかねないとは聞いている。しかしそれにしたって早すぎる。崩壊するのは乱用した結果大きな反動に耐えきれなくなるためのものであり、たった二回目で崩壊を起こすとはないはずだ。しかし、それが今目の前で起きている。

 

「ギッ……原因不明の、プログラムの……機能低下ヲ確認……一部……ホウ、壊……開始……」

 

 右腕も顔も壊れ、ノイズが入ったような声を出すユーリ。しかしオーバーアシストを止めようとはせず、そのまま仮面の女性に襲いかかった。謎の崩壊だけでなく速度も綾との戦闘時よりも大幅に低下していた。しかし、それでも速度が大きく上昇していることに変わりがない。

 

「……っ!」

 

 ガァンッ! と魄翼の腕と盾として構えられたランスで衝突が起きる。仮面の女性はなんとか防いでいるが、仮面で表情が見えなくともつらそうであることは容易に想像できた。

 一本の腕の攻撃を止めて硬直している間に、もう一つの魄翼の腕が裏拳のように振るわれて仮面の女性を吹っ飛ばされた。

 

「あ……!」

 

 吹き飛ばされた仮面の女性に由衣の注意が行く。その隙にユーリが由衣を引き裂こうと接近する。

 だが、それは桜色の砲撃が阻んだ。由衣は砲撃の出所を辿って空を見上げ、見つけたと同時に安心感を覚えた。

 

「由衣ちゃん、大丈夫!?」

 

「なのはちゃん!」

 

 やっと救援が来た。

 来たのはなのはと他にもフェイト、ユーノ、アルフ、ヴィータ、シャマルの計六人。

 増援が来たのを確認してからのユーリの行動は早かった。

 

「ギギ……脅威判テイ……増加……ギッ……コレい上の……戦闘続、行ハ……危けン……駆体保護のたメ……撤退し……ます」

 

「逃がさないっ!」

 

「逃がすかよっ!」

 

 フェイトとヴィータがユーリを捕らえにかかる。

 撤退すると言いながらユーリは自分の身体を抱いて身をかがめていたが、次の瞬間、

 

 ――ドォォオオン!!

 

「――っ!? フェイトー!」

 

「ヴィータちゃん!?」

 

 ユーリが大爆発を起こした。正確には魄翼の魔力を爆発させたのだが、爆煙にフェイトとヴィータが包まれる。

 濛々と立ち込める煙からユーリが飛び出した。ユーリはそのまま飛び去っていった。

 

「あ、危ねぇ……」

 

「ヴィータ、大丈夫?」

 

「そっちこそ」

 

 爆発をシールドで防いだヴィータとフェイトも出てきた。見た限り怪我もない。

 ほっと息をつくアルフとシャマル。由衣も同じく息をついていると、なのはとクロノが駆け寄ってきた。

 

「由衣ちゃん、怪我はない?」

 

「う、うん。でも、海斗さんと末崎さんが……」

 

「ユーノとシャマルで応急処置をした後にアースラに運ぶ。由衣、保護した民間人がどこにいるかわかるか?」

 

「あ、はい。それと……………あれ?」

 

「? どうしたんだい?」

 

 アルフが訊く。由衣はつい先程まで確かにいたはずの場所を見て、言う。

 

「いない……」

 

「いない? 誰かいたのか?」

 

「私達を助けてくれた、とても強いランス使いがいたんですけど……」

 

 由衣が少し目を離していた間に、あの仮面の女性の姿がなかった。ユーリの攻撃を受けはしたが、その直後に立ち上がったところまでは見たので失格にはなったとは思えない。

 

「……その人物については、後で話を聞こう。まずは民間人の手当てが先だ。案内してくれ」

 

「あ、はい!」

 

 クロノに急かされ、由衣は助けた三人がいる場所へと急いだ。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「お疲れ様です、リーダー」

 

 とあるビルの屋上。そこに一人立っていた少年は軽い声音でそう言った。

 黒い髪をやや長めに伸ばした、綾や海斗と同じくらいの歳であろう少年だった。手にはスナイパーライフルに似た形状と機構のデバイスが握られている。

 つい先程まで一人であった少年が見つめる先には、今まさに転移の魔法陣を閉じ、少年へと歩み寄っていく人影が一つ。

 人影の正体は、あの仮面の女性だった。今も仮面をつけたままで、右手にはランス、左手には一度放り投げたが転移魔法を使うために回収した長杖が握られている。

 仮面の女性は少年の目の前で歩を止めた。女性の身長は少年とほぼ同じ。年齢も同じくらいの少女だと推測できる。

 

「ええ。一撃貰いましたが、何とかなりましたわ」

 

「俺の狙撃のおかげってことですかね?」

 

「ええ。正確には、狙撃によって撃ち込まれた『プログラム』のおかげ、ですが」

 

 淡々と冷静に答える少女に、面白みがないなぁと少年は肩をすくめる。

 ここは、ユーリと海斗達が戦闘を行った場所から一キロ以上離れたビルの屋上。ユーリが海斗と末崎を蹴散らして由衣に襲いかかった時、少年はこの位置から狙撃し、少女の言う『プログラム』を撃ち込んだのである。

 

「しっかし、あのユーリはヤバくないっすか? いきなりユーリの魔力が跳ね上がった時は焦りましたもん」

 

「オーバーアシストプログラムとか言ってましたわね。撃ち込んだプログラムのおかげで弱体化しましたけど、逆に弱体化がなければ対抗できないでしょう」

 

「てぇことは、まずはプログラムの蒐集が先決っすかね?」

 

「指令のことも考えると、それが一番でしょう。撃ち込むのはあなたに任せますわ」

 

「りょーかい」

 

 指示を受けて少年は敬礼のポーズを取った。軽い冗談として取った態度に少女はため息をつき、さっさと歩き始める。少年もすぐにその横を歩く。

 そういえば、と少年は少女に問うた。

 

「仮面、そろそろ外してもいいんじゃないですか?」

 

「ああ。そうでしたわね」

 

 思い出したように言って、少女は仮面を外した。同時に被っていたフードも外す。

 フードから解き放たれた髪は白百合のように淡く色づいた白が輝き、瞳は透き通った黒い色をしていた。




 後半に出てきた謎の仮面少女のツッコミはなしの方向で(逃
 海斗と末崎がボコされてしまいましたが、普通はこんなもんです。むしろ、海斗達は善戦した方ですよ。
 そして由衣は何かと運に恵まれた子。

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