Magic game 作:暁楓
本当なら年が明ける前に投稿しようと思ってたのですがなかなか進まず、結局は年が明けてしまいました。
この話はなのぽで言うところのマテリアルとキリエ確保とプログラムカートリッジ実装の間ってところです。
あと、もう一つ事前に言っておきます。
前回の感想で綾の出番のなさを危惧されて、綾の出番を用意しようと思ってたのですが、今回ものの見事に綾の出番が蒸発してしまいました。どうしてこうなった。
ま、まあ次回からは綾も本気だすはずだから(震え声
才は一息をついた。
才がいる周囲は戦闘の跡が刻まれていた。結界の中なので、結界を解除すれば全て元に戻る。
この爪跡を刻んだのは全て闇の欠片だ。才は攻撃を外すことはなかったし、無駄に魔力を消費して砲撃のような高火力の魔法を使うこともなかった。
それはそうとして。
才は自分の得物、白杖を見つめていた。正確には白杖の中にある、とあるものを見ていた。
「……………」
しばらく見つめた後、才は白杖に登録された回線からアースラに通信を始めた。
『才くん? どうかしたの?』
応答したのはエイミィであった。
繋がったことを確認して、才はまず最初の質問を訊く。
「……いえ、そちらや他の様子はどうですか?」
『ああ、他のところはね、海斗くん達がユーリと交戦して大怪我しちゃったの。交戦中にランス使いの子が乱入したおかげで、命に別状はなかったけど』
「ランス使いの子、ですか?」
『うん、由衣ちゃんの話だと、突然乱入してそのままユーリと交戦したんだけどね、その子ユーリに何度も有効打を与えることができたんだって。でもなんで有効打を与えれたのかは由衣ちゃんにもわからないみたいで……』
エイミィの話に、才はこう答えた。
「……阻害プログラムを撃ち込んだのでは?」
『何か知ってるのか?』
一緒に聞いていたらしいクロノがそう訊いてきた。
才は静かに答える。
「……倒した闇の欠片のうち数体から、解析不能のプログラムカートリッジの回収に成功しました。用途は不明ですが、由衣の話が事実であればそのランス使いはユーリの防御能力などに異常をきたす何らかの手段を用いたと考えられます」
『その手段が、君が回収したというカートリッジである、ということか?』
才は無言で頷いた。
ランス使いはほぼ確実に転生者。加えてユーリの資料映像からユーリの防御力は桁外れであり、転生者どころかなのは達でも有効打を与えられないほどだということが明らかになっていた。
さらに、綾がユーリと交戦してから発覚さたオーバーアシストプログラム。異常強化を行うそれは、発動されたら勝ち目がなくなる。これらの理由からして、ユーリを弱体化させる『何か』がなければおかしいと才は分析したのだった。
それに今回追加された指令、スターチップ獲得の条件がユーリを止めることに最も“貢献”した者という条件。それもこのプログラムをより多く集め、より撃ち込むということであれば納得がいく。
「効果の有無、種類や程度を調べるために検証が必要ですが」
しかしこれはあくまで憶測に過ぎないため、加えて才はそう言った。
『……わかった。検証には僕も向かおう。エイミィ、ユーリの現在の居場所はわかるか?』
『えっと、一応特定できてるけど……』
「……クロノに加えて、さらにもう二人ほどの戦力増強を求めます。ただしこの増強要員には、いずれユーリの救出行動時に主力となるであろう魔導師や騎士以外のメンバーでお願いします」
『その要望は確かにそうだが、その条件だと選択肢はだいぶ限られるぞ。誰か検討をつけているのか?』
クロノのその問いに答えるべく、才は口を開いた。
◇
「なんでこいつと一緒に動かなきゃならないんだか」
「我慢しなさいロッテ。仕事なんだから」
才が指名したのはリーゼ姉妹だった。
アリアはともかく、ロッテは自分達を指名した相手が闇の書事件の時に煮え湯を飲まされた奴であることから機嫌が悪い。ロッテは才とはやり合ってはいないが、綾と同じく計画を妨害されたことから快く思ってはいないらしい。アリアも口では平静であるように見えるが、表情は硬い。
『……才、大丈夫なのか? 二人の様子がアレだと、君主導の作戦の遂行に影響が出るぞ』
二人の様子を見かねたクロノが才に念話で尋ねた。
しかし当の本人はいつもの無表情で、なんでもないように答える。
『……二人とも、私情だけで作戦をねじ曲げることはないだろうから……それはクロノが一番良く知ってるでしょ?』
『……そうだな』
クロノはとりあえず納得した。
交差点に差し掛かったところで、一行の足は止まった。
情報ではこの交差点を出て右側、そこにユーリがいる。まずは見つからないように、壁から慎重に顔を出して確認する。
「……いないな」
『建物の中から反応があるから、多分そこにいるんじゃないかな』
通信と共に詳細な情報が送られる。ユーリの現在地を確認し、才は三人に言い渡す。
「検証実験を開始します……各員配置につき、作戦通りに……」
◇
ビル内の一室に潜み、ユーリは先の戦闘で負ったダメージの回復に努めていた。
まず優先して、ユーリにとっては原因不明の理由によって壊れた右腕を再構築、修復していく。肩から損失していた右腕は、すでに手のひらまで再構築が進んでいた。右腕の回復に優先しているために、顔は皮膚が剥がれて黒い姿のままだ。
余計なエネルギーの消費を避けるため、ここに潜伏してからは指一本動かさずにいたユーリであったが、敵の接近を感じ取ってピクリと首を動かした。
周囲をぐるりと見回して、数秒後。
ババンッ!
ユーリは後方の左右から撃たれた。
幻影魔法で身を潜めていたクロノとロッテの砲撃によって前方――窓の方へとユーリの身体が吹き飛ばされる。
襲撃者に対処すべく、空中で身体を切り替えて壁に足をつける。
だが次の瞬間、ユーリのすぐそばの窓が魔力弾によって叩き割られ、外から入ってきた魔力の糸にユーリが絡め取られた。外でスタンバイしていたアリアのものだ。
ユーリを捕らえたアリアは、魔力糸を引っ張ってユーリを外へと引きずり出す。ユーリを追ってクロノとロッテも外へ出る。
ユーリは魄翼の爪で自分を拘束する糸を一瞬で切り裂き、まずは一番近くにいるアリアに襲いかかった。
……才が提案した検証実験のプランはこうだ。
まず、プログラムを撃ち込む前のユーリと戦闘し、その戦闘記録を取る。先の戦闘のダメージや、阻害プログラムがまだ残っているかもしれないため、比較するデータを手に入れるためだ。
戦闘記録が取れたら次に、離れた箇所から才が狙撃で現在持っているプログラム“四つ全て”をユーリに撃ち込む。ユーリ相手に持久戦が難しい以上、効果が出る可能性を高めるためである。
プログラムを撃ち込んだ後は、才も戦闘に参加。代わりにアリアが戦闘から離脱し、撤収用の転移魔法を準備。転移の準備ができ、戦闘記録も取れたら即時全員撤退、アリアが用意した転移で逃げる。これが今回実行されるプランである。
魄翼の巨大な爪を回避、アリアは魔力弾を叩き込む。顔面に直撃させた。だが効いている様子は見られない。
「っと」
再び引き裂きにきた爪を後ろに跳んで回避する。
魄翼の爪がセンサーに引っかかりバインドが機動、ユーリを拘束する。
すかさずクロノが砲撃。吹き飛ばされたユーリはさらにロッテの魔力強化をした足で蹴り飛ばされ、壁に叩きつけられる。そしてアリアがバインドで拘束する。
が、一連の攻撃は全てダメージとはならず、バインドもすぐに破壊される。
「ジャベリン」
ユーリのその一言で、魄翼から無数の槍状の塊が三人に襲いかかる。
「くっ……! 才! 狙撃はまだか!?」
シールドで猛攻を防ぎながら、クロノは才に念話を飛ばした。
◇
「……うん。データはもう十分だよ」
五百メートル以上離れたビルの屋上。肉眼ではほとんど見えない距離にいる才はそう呟くように念話を送る。
「……プログラムカートリッジ……フルロード」
手にしている白杖にそう命令する。カシュンカシュンと四回音を鳴らし、現在持っているプログラム四つ全てがロードされる。
構える。ライフルで狙撃を行うように、白杖の先端を五百メートル先のユーリに向ける。白杖の先端に魔力弾を形成させる。
神が仕組んだこのプログラムカートリッジは時間制ではなく、ロードした直後の一発だけが有効という可能性が高い。
外せない。そんなプレッシャーが才にかかっているはずなのにも関わらず、才はいつもの無表情で、望遠魔法でユーリを狙う。
――パァンッ
そして、撃った。
白杖から離れ、超高速の弾丸が飛んでいく。
「命中確認」
それだけ確認した才は、すぐに現場へと飛翔する。
移動中にも誘導弾を五つ形成。ついでに白杖内のメモリーを確認するが、やはりプログラムカートリッジすでに効果を失っている。
表示を全て閉じ、魔力弾五発を放つ。
ユーリの迎撃や防御を全てかいくぐり、魔力弾は全てユーリの腹部に命中。集中攻撃を受けた箇所が小さく抉れた。ダメージが通っている。
自分に明確なダメージを与えた才を一番の脅威判定と見なしたのか、近くにいるクロノやロッテを差し置いてユーリは才の元へと飛んだ。才を狙って、魄翼の爪が振り下ろされる。
しかし、振り下ろされた場所にはすでに才はいなかった。
攻撃が来る前に当たらない場所に回避した才は、攻撃時の隙に白杖をユーリの顔面に押し付けて砲撃を叩き込み、爆風を生む。
砲撃を叩き込んですぐ、反動を利用して後ろへと退避する。直後、吹き飛ばずにいたユーリが才がいた場所を切り裂いた。
「……………」
それからも才は相手が動く前に回避し、時折反撃を加える。クロノやロッテも加勢し、ユーリにダメージを蓄積させていく。
才は、海斗や綾のように運動能力は高くない。飛行魔法はとっさの瞬発飛行などの時に運動能力によって差が出ることが多く、才もその例外ではない。
なので、相手の動きを先読みし、先に動く。その明晰な頭脳を利用し、僅か先の未来を予測する。
「ゲイザー」
安全な場所に非難し、撃つ。
「セイバー」
当たる場所には行かず、撃つ。
「ヴェスパー」
隙を予測して、
「――砲撃」
撃つ!
才の砲撃でユーリの身体が壁に押し付けられた。すかさず、クロノとロッテがバインドで縛り上げる。
一向に才にダメージを与えられず、逆に確実にダメージを受け、かつ拘束まで受け、危機感を募らせたユーリは負担を考えることなく宣言した。
「オーバーアシストプログラム、起動開始」
直後、才が壁に叩きつけられた。
「……………ハッ」
全身で受けた衝撃で空気が吐き出される。加えて才の身体にできた
オーバーアシストの恩恵を受け、知覚不能速度となったユーリの攻撃だった。魔力の解放で拘束は解け、壁にいたはずのユーリは才がいた場所に立っていた。
ユーリの攻撃を受けたことで、才の目の前で二つスターチップが破壊される。
「才!!」
「この――!」
ロッテがユーリに蹴りかかる。が、蹴りが命中する前にユーリの姿が消える。
魄翼の炎の残像と金の髪の軌跡を一瞬描き、魄翼の爪が才の身体を――
切り裂
「―――――?」
切り裂いたのは才の手前だった。何もなく、空を切るだけ。ユーリは手応えの無さの理由がわからず、一瞬動きが止まる。
対象に当たっていないことを知り、攻撃を再開するのにかかった時間は僅かだったが、すでに才はシールドを展開していた。
しかしユーリは構わずそのシールドに魄翼で殴りかかる。オーバーアシスト起動時の攻撃力の前にはシールドなど何の意味もないと知っていたから。
――なのに、壊れない。
並みの魔導師どころか、鋼の上に魔力防護服を身にまとったアミタでさえ貫く程の力があるのに、その数倍の力を発揮しているというのに、目の前の一枚のシールドを全然割ることができない。
実際には数倍の能力を発揮していた
『……クロノ!』
『才! 無事か!?』
シールドで防ぎながら、才は念話を飛ばした。
クロノの問いに答える代わりに、才は指示を出す。
『……今すぐデュランダルで、ユーリを凍結させて』
『馬鹿を言うな! 君も巻き添えをくらうぞ!』
『僕ごとでいい……急いで!』
「なっ……!」
思わず声を漏らし、クロノは迷う。
デュランダルの凍結魔法は強力で、使えば一時的だとしてもユーリの動きを封じるのは可能だ。才が巻き込まれても、非殺傷調整によって直接的に死ぬこともない。
しかし、その後の対応が問題となる。凍結させたところで、才を解放するために氷を砕けばユーリも解放され、状況が元に戻るだけだ。
かといってユーリの凍結を維持するために放置するにしても、ユーリによって破壊される可能性が高く、仮に破壊できないとしても、今度は氷によって才の命が危なくなる。非殺傷調整が適応されるのはあくまで直接的な魔法威力であり、魔法によって発生された氷の効果は適応の範囲外なのだ。加えて、ユーリを弱体化させているであろうプログラムカートリッジの効果が切れて状況が余計悪くなる可能性だってある。プログラムカートリッジの効果が効いている今離脱しなければならない。
防御もできない。空間そのものを凍結させる魔法なので、シールドやプロテクションでは意味がないし、フィールド防御はそもそも補助用なので防御には足りない。
才もこれらは理解しているはず。それにも関わらず凍結を進言するのは、何かしらの手段があるということなのか?
「……デュランダル!」
クロノはS2Uからデュランダルに切り替えた。
才を信じることにした。もし才に脱出策がなく、そのまま凍結されたとしても、その間に可能な限りの増援を図り、ユーリに対応するのが最善だと判断したのだ。
デュランダルによって魔力が冷気へと変わり、周囲の温度が低下していく。
「エターナルコフィンッ!」
クロノの命令で、デュランダルを起点にして氷が発生。空間を氷で侵食していき、ユーリと才がいる場所をも飲み込んだ。
その直後、
「……助かった」
「! 才!」
「え!? なんで!?」
いつも通りの表情で、才がクロノの隣に立っていた。声でようやく気づいた二人は当然驚く。
「なんで無事なの!? あんた、さっきまであそこにいただろ!?」
「うん、いたよ」
若干声を荒げたロッテの問いに平然と答える。
「……一応、タネを聞かせてくれないか」
「……クリスタルゲージで自分を囲ってから、凍結が来る前に転移で脱出した」
「凍結の前に転移すれば、ユーリも逃げられるはずだぞ?」
「問題ないよ……多分、今のユーリにはゲージの中の様子は見えてなかったから……」
「……どういうことさ?」
「……まず、今回撃ち込んだプログラムカートリッジの効果は恐らく、『防御力の低下』『攻撃力の低下』『感覚機能の低下』の三つ……資料で見せてもらったランス使いとの戦闘のデータや、今回の検証から、通常時に適用されるプログラムとオーバーアシスト時に適用されるプログラムがある可能性がある……」
『防御力の低下』はプログラムを撃ち込んだ後にダメージが通るようになったことから最初に発覚した。『攻撃力の低下』は、オーバーアシスト直後の攻撃で才が受けたダメージが浅い裂傷であったこと、シールドが割られなかったことから判明。また、ランス使いとユーリの戦闘資料でユーリがオーバーアシスト起動と同時に崩壊を起こしたことから、通常時とオーバーアシスト時それぞれ個別にプログラムが存在すると才は推測していた。撃ち込んだプログラムは四つだが、残り一つは確認できていないか、もしくは重複している可能性がある。
そして『感覚機能の低下』。これはユーリが才への追撃を外したことが発覚のきっかけであり、凍結からの脱出においては重要な役割となっていた。
「ユーリはあの時攻撃を手前で外した……距離感を掴めていなかったということであり、視力低下が起きていたとも言える。そこにクリスタルゲージでフィルターをかければ、こちらの様子が見えなくなる可能性があった……」
加えてユーリの攻撃力が低下しているので、凍結前にクリスタルゲージが破壊される可能性も減っていたのも、この策が成功した一因となっていた。
転移で一足先に退避した才。しかし視力低下の影響でゲージの中の様子がわからないユーリは、ゲージの中身がないことも凍結が来ることにも気づかず、そのまま凍結されたということだった。
「説明は以上……早く離脱を……」
説明を終え、撤退を急かす。ユーリがいつ解放されるかわからない。検証はもう十分だった。
「……ああ、そうだな。――アリア、準備はできてるか?」
『いつでも転移できるわよー』
「よし。では撤退だ!」
ユーリが凍結されている内に、三人は撤退した。
◇
「……なあ、一つ訊いていいか」
「……?」
転移先である戦闘区域から離れた街の一角。そこについてから、ロッテが才にそう尋ねた。
才は地面に腰掛けて回復魔法で自ら怪我の回復を行っている。幸い怪我はそれほど酷いものではなく、もう少しで傷口も塞がる様子であった。
ロッテはどこか歯切れ悪そうにしながら、質問した。
「あんたも、あの綾ってヤツもさ、今の戦闘もそうだし、闇の書事件の時でも、そうなんだけどさ……どうして戦うことを選んだんだ? あんたや綾の頭なら、無謀だってことぐらいわかってるはずなのにさ」
ロッテがこんなことを訊くのには理由がある。
最後の闇の書事件において、ロッテやアリアはグレアムと共に闇の書の凍結封印を計画していた。はやてを犠牲に、他の誰も犠牲にすることなく、その先の未来でも闇の書の脅威が来ないように、そして闇の書に復讐するために決行したこの計画は闇の書覚醒の日にクロノに止められ、結局ははやては助かり、守護騎士や融合騎も無事となり、死者もゼロという奇跡が起き、しかし綾は治ることのない傷を負うこととなり、悲しみの連鎖が残ることとなった。多くの転生者がその戦いの中で失格となり、消えていってしまったが、そのことは神によって転生者以外にとってはなかったことにされている。
グレアムの計画は正しくなかったかもしれない。最後の闇の書事件での死者は出さずに済んだ。しかしロッテは、なのはやフェイトが吸収された後に綾達が戦ったのは正しかったと思えなかった。なのは達が帰還するまでの間に綾が囮として奮闘したために結果として被害は抑えられたが、なのは達がいつ帰還するか、そもそも帰還できるかどうかがわからない、綾自身に勝ち目は一切ないとリスクがあまりに大きい行為であったのは事実だ。ロッテやアリア、そしてグレアムが現場にいたなら、なのはとフェイトが吸収された状態のまま凍結に踏み切っただろう。可能性の低い希望に縋って綱渡りするようなことはせず、犠牲を生んででも確実性の高い手段を選ぶ。グレアムの闇の書封印計画とは、まさにそういうものだったのだから。
ロッテは、綾が絶望的な希望に賭けた理由がわからなかった。綾の頭脳についてはシグナムとの決闘などから高い水準であることはわかっていた。その頭脳があれば無謀であることはわかっていたはずなのに、それでも戦いに身を投じることが理解できなかった。
才に質問したのは、才と綾が親しい関係であるというだけでなく、才も今回の検証実験のように自ら危険を冒してまで戦うため、二人で共通している何かがあるのではないかと思ったから。
「……そうですね。無謀だとわかってました」
「じゃあ……なんで」
「――スクラップだから、ですよ」
「……はぁ?」
ロッテは怪訝な顔を浮かべた。
「壊れたものが正常じゃない動きをするのは当たり前でしょう? それと同じですよ……あなた方が異常だと思うことが僕らの正常であり、あなた方の正常は僕らの異常となる」
いつもの無表情で、いつもの口調で、当たり前のように答える。
しかし言ってることの意味がわからず、ロッテは顔をひきつらせた。
「えーと……ちょっと言ってる意味がわからないな〜って思うんだけど……」
「……それでいいんですよ。僕らの生きている世界とあなた方の生きている世界は、同じように見えて違うのですから……」
才はそう言って立ち上がった。傷はすでに癒えていた。
ちょうど、その二人の元にアースラに報告をしていたクロノとアリアも戻ってきた。
「二人とも、一旦アースラに戻るぞ。ユーリを止める具体的な作戦も確立してきているらしい」
「了解。……では、行きましょう」
「お、おう」
結局自分に納得のいく答えを得られずに話が打ち切られることになったが、仕方ないのでロッテは三人と共にアースラへと向かった。
才がかなり意味ありげなことを言いましたが、この作品の中では重要な話になる……と思います。
皆さん、今年もMagicgameをよろしくお願いします!