Magic game   作:暁楓

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 三ヶ月以上の更新停滞、ホントに申し訳ありませんでした(土下座)。
 マジで話が進まず、形にならず、気がついたら八月。いや、ホントに申し訳ないの一言です。
 そんな風に待たせた挙句に短い上にちょっと微妙です。


第七十五話

 ――カタン。

 

「アリシアが、プレシアに会いに行ったそうですよ」

 

 ――コトン。

 

「へえ、結果は?」

 

「目の前でプレシアとその使い魔のリニスが消滅したのがショックだったようで、部屋に篭っているとのことです」

 

「全く酷いねぇ。案内したのはどこのどいつなんだかね」

 

 カタン。

 コトン。

 

「あなたのオリジナルですよ、ウレク」

 

「ハハッ、まあ、だろうとは思ってたさ」

 

 カタン。

 コトン。

 ……カタン。

 

「んで、そのオリジナルは今何してんだい?」

 

 コトン。

 カタン。

 コトン。

 

「医務室にいる仲間を見て回っているだとか」

 

「ふーん」

 

 カタン。

 コトン。

 カタン。

 コトン。

 カタン。

 コトン。

 カタン。

 コトン。

 カタン。

 コトン。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……だああっ! うぬら、何呑気にチェスなどしておるのだー!!」

 

「うるさいです、王」

 

「黙ってろ、じゃじゃ馬王」

 

「んなっ……!」

 

 配下と部品に一蹴され、ディアーチェがたじろいだ。

 アースラの一室。マテリアルズの私室となっているそこで、ディアーチェの言うとおりウレクとシュテルはチェスをしていた。優勢はウレク。

 

「き、貴様ら、やはり我のことを尊敬しておらぬな!?」

 

「勝負の邪魔をしてくるなら、例え王でも容赦はしませんよ」

 

「俺にとっちゃあ尊敬の対象でもねーしな」

 

 しれっと答える二人。その間にもチェスがサクサクと進められている。というより主な意識はディアーチェではなくチェスに向いている。

 握った拳をわなわなと震わせて怒りを我慢しているディアーチェを無視して、ウレクはおもむろに懐から水色の菓子袋を取り出し、迷うことなく真後ろに放り投げた。

 

「キャーッチ! ウレクよくわかったね! なんでわかったの?」

 

 菓子袋を落とすことなく受け取ったのはレヴィだった。手に入った物に嬉しそうな表情をしながら尋ねる。

 ウレクは当然のように一言。

 

「気配が丸分かりだ」

 

「へー。あ、お菓子ありがとー!」

 

「何レヴィは餌付けされておるのだ、このうつけぇ!!」

 

「ですからうるさいです、王」

 

「ほらよチェックメイト」

 

「おや、詰み……ですね。私の負けですか」

 

 マイペースな連中を前に、こいつらを従えたのは間違いだったかもしれないという考えが、わずかに頭をよぎったディアーチェであった。

 

 ……。

 ………。

 …………。

 

「ウレクよ、貴様に一つ訊きたい」

 

 シュテルと何度かチェスを続け、全勝記録を打ち立てたウレクに向かってディアーチェはそう声をかけた。

 

「あン?」

 

「なぜ、あの時我を庇った? あの程度なら、我もいずれ回復していたであろうものぞ。それを、回復もできぬ貴様がなぜ身代わりになどなったのだ?」

 

 あの時とは、ユーリがディアーチェらマテリアルズ三人に攻撃した時、ディアーチェを庇ってウレクが負傷した時のことだ。シュテルとレヴィが回復できたのだから、当然ディアーチェが回復できた可能性も高かった。

 

「さてね。そんなこと忘れちまったぜ」

 

「とぼけるな」

 

「気分屋なんだよ俺は」

 

 やや強い口調で強引に話を打ち切ろうとする。ディアーチェは小さく舌打ちした。

 

「では、こちらからも質問がいくつか」

 

 そう声をかけたのはシュテルだった。

 うっとうしそうに睨むウレク。しかしシュテルはそれを気にすることなく質問を始めた。

 

「まず、あなたは自身をU-Dの感情部品と言いましたが、あなた自身が彼女の部品なのですか? それとも、あなたのどこか一部がその部品なのですか?」

 

「どっちかってーと俺自身は闇の欠片に近い。というか、感情部品を中心に闇の欠片で駆体を構築したようなもんだ」

 

「では、そのユーリの感情はあなたの行動に介入することはあるのですか?」

 

「ないね。もしゴチャゴチャ言われてもねじ伏せるだけだ」

 

「次の質問です。あなたがユーリと呼んでいる、システムU-D。彼女もあなたのような性格あるいは人格だったのですか?」

 

「NOだな。細けえところまでは覚えてねえが少なくとも違う」

 

「そうですか。では、四つ目です」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あなたは、何ですか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ?」

 

「ユーリの部品だと言いながら、ユーリの人格が宿っている訳ではなく、ユーリの感情で動いている訳でもない。ならあなたは、一体何なのです? 王と質問が被りますが、あなたの残虐な人格とは矛盾した、私達やユーリを助けるという行動の訳と目的も教えていただきたい」

 

「目的って……」

 

 ウレクは何かを言いかけようとして、しかしその口を閉じた。

 

「……やめだ。どうせ言ったところで何も変わらねぇさ。最終的にそれを完遂できりゃあいいんだよ俺は」

 

「……そうですか」

 

「ただ、これだけは言っておこうかね」

 

 言って、ウレクは口角を吊り上げてニタリと笑った。

 

「俺には気に食わねえモンがある。この作戦が成功すれば、俺はそいつを否定できるのさ」

 

「……………」

 

「おい、それはどういう――」

 

 ディアーチェが尋ねようとするが、しかしその言葉は艦内に響き渡るアラートに遮られた。

 

「んん? 何!?」

 

「どうやら、パーティーがおっ始まるみてーだぜ」

 

 ウレクは楽しそうに笑い、ふらりと部屋を出て行った。

 アナウンスが流れる。

 

 ――海鳴市内にて闇の欠片の大量発生を確認。出撃可能な戦闘員は直ちに現場に急行せよ。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 仮面の少女とスナイパーの少年は空を見上げた。

 闇のような夜の空に、闇の欠片達の魔力が星のように煌めいている。

 

「そろそろ終盤かしら?」

 

「みたいですねぇ。すげぇ数だ、ぶるっちまいそうですよ」

 

「向かってくる欠片達を狩りながら、U-Dを探しましょう。援護をお願いしますわ」

 

「了解であります」

 

 それぞれの得物を手に、二人は夜の海鳴市を走り出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ビルの屋上から、才はビルの周囲を見下ろしていた。

 次々の現れる闇の欠片。一部はこちらをすでに捉えている。

 

「……行くか」

 

 白杖のカートリッジをロードする。

 飛翔魔法を展開し、彼は闇の欠片の群れへと躍り出る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 アラートとアナウンスが鳴り止んでから、綾は自分の得物である黒刀とレイピアを手に取った。

 

「……行くんですか?」

 

 ベッドの上で上体を起こしたアミタがそう尋ねた。

 綾は頷いた。

 

「誰かに行くなと言われても、行く理由があるからな」

 

「よーぉオリジナル。迎えに来てやったぜぇ」

 

 声をかけられる。開いた扉に背を預けてウレクが待っていた。ウレクは綾に近づくと彼と一体になり、左腕の義手が黒く染まる。

 それから誰かの走る足音が近づき、由衣が部屋に駆け込んできた。

 

「はぁ、はぁっ……綾さん、行きましょう!」

 

「ああ」

 

 綾は応えると、由衣と共に海鳴市に向かうべく部屋を後にした。

 

 

 

 

 

 決戦の時は近い。




 今回はウレクとマテリアルズの絡みです。最終決戦に入る前に入れておきたかったので書きました。
 トーマ&リリィ、ヴィヴィオ、アインハルト、キリエの出番はこの小説恒例の出番殺しを受けて思いっきりカット。アミタはかろうじて一言発することができました。
 とにかく早いところGOD編を終わらせたい。ただでさえStS編は長くなりそうな上にStS編に入るまでの間も結構長ったらしくなりそうだから。

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