Magic game   作:暁楓

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 由衣の出番が少ない……。
 デバイスもない九歳の少女にできることは極端なまでにないってわかっちゃいるけどさ……。


第八話

「なあ」

 

「なんや?」

 

「綾、大丈夫なのか? さっきから爆発音が聞こえてる気がするんだけど」

 

「安心せえ。みんな聞こえとるから」

 

 どの辺に安心すればいいんだろう。和也を脇に抱えて走りながら海斗はそう思った。

 フェイトは一時ダウン、アルフは囮の綾と交戦、ジュエルシードを持つ自分達がその間にひたすら逃げる。ここまでは綾と竹太刀で組み立てた対フェイトの作戦通りらしい。そう竹太刀が言っていた。

 

「綾さん、大丈夫かな……」

 

「……ケッ。デバイスもねえ雑魚が適う訳がねえだろ」

 

「デバイスあっても適わへん雑魚もおるけどな」

 

「なんだと! やんのかコラ!」

 

「やれる奴なら自力で走っとるやろ」

 

 確かに担がれてる状態で威嚇しようとも、全く迫力がない。

 海斗は和也を、竹太刀は由衣を抱えて走っている。理由は至極簡単なこと。担がれてる二人の身体能力が年相応に低い。和也にはデバイスがあり、身体強化魔法も使えるのだが、当の本人が格好を気にして使おうとしない。見えるものでもないのに。

 

「こいつが勝手に担いでんだろうが! おい離せよ!!」

 

「だあぁっ、暴れんな! ジュエルシード持ってるお前を置いてくことなんてできねえだろが!」

 

 ジタバタして大声出す和也に、海斗はなんとか押さえながら同じく大声で対応する。この二人は相当仲が悪い……否、ただ和也が一方的に嫌っているだけだった。元々、海斗はお人好しな性格である。

 

(同じ転生チートに憧れとる二人やのに、なしてここまでちゃうんやろなぁ)

 

 そんな様子を見て竹太刀は心の中で呟く。

 海斗が二次創作の代表例である転生チートに憧れていることを竹太刀が知ったのは、大樹事件から数日後。似た時間帯にバイトがある二人は、馬が合う分バイトの行き帰りによく話をしていたのだ。和也については、早くもチップを消費したことから容易に判断できた。

 ちなみに海斗がスポーツが綾以上に万能なのも似たようなもので、『主人公=強い』を理由に鍛えているからである。そういう自分に真っ直ぐで、努力を惜しまない海斗に竹太刀は好感を持った。

 

(そういう性格やから、綾も親友と認めとるんやろなぁ)

 

 正直、羨ましい。

 竹太刀は転生前の世界では親友と呼べる人がいなかった。

 父は大手企業の社長。とても優しい父だったが、母を亡くしてから感情が抜けたようになり、会話もすっかりなくなって冷めた間柄になった。

 学校では金持ちかつエリートということで妬みの対象にされた。嫌がらせを受けた。以前話した告白の話も、自分が金持ちだから、それだけの理由で気持ちなどこもっていなかった。

 そんな灰色の世界に、竹太刀はいた。

 そして、このゲームに参加させられた。

 何もかも変わった。財力を失った。ただ一人の肉親ももういない。そして、彼らに出会った。

 こんなふざけたゲームに集められた百人。その中で友人関係を持つ者自体いるだろうか。二人は自分達の中で……このゲームの中で最も固い絆で結ばれている。それがとても羨ましい。

 そして、その絆は途切れることなく続いてほしい。

 

(そのためにわいが守らへんと……)

 

 今、綾がアルフの囮をやっている。フェイトは海水を浴びせられたが、それでいつまでもダウンしている訳がない。必ず来る。その時には、指令云々よりまず海斗を守るために動くつもりだ。海斗だと、フェイトに攻撃するのには躊躇いがあるだろう。

 未だに和也と口論している海斗を見て固い決意を鉄パイプを握る手に込め、角に差し掛かる。

 コンテナの陰から、金色が躍り出た。

 

「「っ!!」」

 

 反応した竹太刀と海斗は急ブレーキをかける。急停止によって動きが硬直した海斗にめがけて、バルディッシュが襲いかかる。

 

「そうはいかんわぁぁっ!!」

 

 竹太刀が斬り上げるように鉄パイプを振り上げ、バルディッシュの軌道が止まった。

 

「海斗走れぇぇぇっ!!」

 

「お、おう!?」

 

 続いて海斗に叫ぶ。聞き慣れぬ竹太刀の怒声にびっくりしながらもフェイトを抜けて走り出す。

 探知魔法で和也がジュエルシードを所持していることを知っているフェイトは彼らを逃がすまいと海斗に身体を向ける。しかし動く前に竹太刀に腕を掴まれ、海斗とは反対側へ一本背負いで投げ飛ばされた。

 

「由衣ちゃんはどっかに隠れとき」

 

「は、はいっ」

 

 竹太刀の指示を聞き、由衣は物陰へと避難する。

 

「さてと……ちょいとおにーさんの相手してもらおか」

 

「……邪魔するなら、容赦はしない」

 

「おお、怖い」

 

 鉄パイプを双剣のように構える。

 はっきり言って、勝機はほとんどない。強いて言うなら綾の場合とは違って相手は子供。身体能力で勝つ他になかった。

 だがアルフとは違い、ジュエルシードを持たない人を襲う理由がなく、そんな無駄なことをするほど激情している訳でもない。抜かれれば終わりだ。

 救いは、フェイトには飛ぶ高さのハンデがあることだった。この辺りはコンテナで比較的低い。コンテナを超えて飛んで管理局に見つかればジュエルシードどころではなくなる。

 

「そこを……どいてっ!」

 

「どくかぁっ!」

 

 フェイトが一瞬で駆ける。バルディッシュを叩き落とすつもりで鉄パイプ二つを振るう。

 スパンッ。鉄パイプが四つに増えた。

 

(しもた!)

 

 振るう直前にサイズフォームに姿を変えたバルディッシュ。それによって鉄パイプは二つとも真っ二つになってしまった。もうこの短さでは武器にはならない。

 

「くそっ!」

 

 すぐに鉄パイプを捨て、フェイトに掴みかかろうとするが、あっさりと後ろを抜かれる。狙いは言うまでもない。和也だ。

 追いかけるため、後ろを向く。と、

 

「おらよっ!」

 

 そんな声。そしてフェイトがこっちにすっ飛んできた。

 

「ぶげっ!?」

 

 後ろを振り向いて直後だった竹太刀は対処仕切れず、フェイトを身体で受け止め、そのまま倒れる。

 とりあえずフェイトをホールド。そして起き上がると、そこには逃げたはずの海斗がいた。

 

「おまっ、海斗ぉ! 手柄やけどなにすんじゃぁっ!!」

 

「だってそうしねーと怪我すんじゃん」

 

「つーか、和也はどないした!?」

 

「置いてきた」

 

「おい!?」

 

 まずい。和也一人なんて無謀だ。綾がいつまでも持っていられるはずがない。そのために、一人でも多く護衛をつけるために四人で動き、そして海斗を逃がしたというのに。

 

「大丈夫だって。綾はやる奴だし、ここで抑えればあいつには届かないって」

 

「あのな……!」

 

「それに!」

 

 海斗が語調を強くした。

 

親友(・・)を置いていくなんて、俺の柄じゃねえんだよ!」

 

「!!」

 

 竹太刀は目を見開いた。

 初めてだ。親友と、はっきり言ってくれたのは、彼が。

 思わず、笑みが漏れる。

 

(……なんや。羨ましがってたのがアホらしくなってしもうたやないか)

 

 青春の一コマが展開された。

 しかしその間にもフェイトはホールドから脱出しようと抵抗している訳で。

 

「……っ、離せっ……!」

 

 バチッ!

 

「へ? あちっ、あちちっ!」

 

 業を煮やしたフェイトは、魔力でできた電撃を放出。その電熱やら痛みで竹太刀はとっさにフェイトを離してしまった。

 

「ああ! お前に押さえてもらうためにそっちに蹴り飛ばしたんだぞ!?」

 

「おい、蹴ったんか! よりによって蹴ったんか! 普通に考えても幼女を蹴るって正気か自分!」

 

「俺だって乗り気じゃなかったんだよ! でも手で突き飛ばそうとしてもっとタブーなことになったら嫌じゃん! ……って逃げんなコラ!」

 

 二人の口論の隙に抜けようとしたフェイトの腕を掴み、投げて二人の間に戻す。

 

「さて……俺達の相手をしてもらうぜ嬢ちゃん……」

 

「台詞的にも構図的にもある意味危ないな」

 

「いや、そんなこと言ってる場合じゃないから」

 

「海斗に正論言われてもーた」

 

「どういう意味だよそれ」

 

「……っ!」

 

 フェイトが動く。それに合わせて、二人も素早く動き出した。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 爆発の煙に隠れ、コンテナの陰へと身を移す。

 座り込んで体力の回復を図り、息を潜ませ気配を消す。

 

「あんの野郎! 今度はどこ行きやがったんだい!」

 

 煙の方から、苛立ったアルフの声が聞こえた。俺がキレさせて思うのも何だがこのアルフ、俺を地の果てまで追い詰める気でいるらしい。ジュエルシードのことをすっかり忘れている点では、計画通りというべきか。

 だが、こっちとしてはもう限界だった。粉塵爆発の多用で体中火傷だらけ。その上マジギレ状態のアルフの拳を何発も受け、左腕が骨折、肋骨もいくらか逝った。正直、じっとしているだけでも痛い。

 手持ちの問題もあった。粉塵爆発で最も重要な材料……小麦粉が切れたのだ。ライターや油はまだあるが、肝心のものがなければ意味がない。唯一、竹太刀から渡された鉄パイプ一本が俺の武器だった。

 

(つーか管理局も何やってんだよ……これ以上あのアルフとやりあえとか言ったらマジで持たねえぞ……)

 

 未だにやってくる気配がない連中に心の中で悪態をつく。何十分とは言わないが、それなりの時間はかけているはずだ。仮にジュエルシードの方を優先しているとしても、フェイトが管理局に気づいた瞬間にアルフに通信、二人とも離脱するはず。つまり、まだ結界内に管理局は来ていない。

 

「チッ……とにかく辛抱強く待つしかないか……!」

 

 いつまでも隠れることは、狼であるアルフの鼻が許すはずがなく、そして隠れ続ける訳にもいかなかった。万が一、アルフが本来の目的であるジュエルシードの方に気が向いたら、もう俺では足止めもできない。

 急いで武器の加工を開始する。服の袖を破き、鉄パイプに固く巻きつける。巻かれた布切れとなった袖に油を垂らし、着火。即席の松明が出来上がった。

 即席松明を手に、コンテナの陰から飛び出す。

 

「もう観念しな……」

 

「観念する訳ないだろ犬」

 

「狼だっ! ……だけど少しびっくりしたよ。あたしの拳で軽く捻ってやればすぐ終わるって思ってたのにさ」

 

「今更かよ。冷静さが足りねえぞ」

 

「あたしが怒ってたのは誰のせいだと……!」

 

「誰だそんな命知らずな奴。顔を見てみたいぜ」

 

「鏡を見ろっ!!」

 

 よし、まだこいつをキレさせたまま維持できそうだ。

 

「まあ冷静になれって。はい深呼吸」

 

「それやったら馬鹿にしてきた上に逃げたじゃないかあんた!」

 

「知らんなそんなん。引っかかるお前が馬鹿だっただけだろ」

 

「誰が馬鹿だぁっ!!」

 

 お前だよ。

 逆ギレで殴りかかってきたアルフを避け、松明で反撃。

 

「あっつっっ!!! つーかあんた、どうして火ばっか使ってくるのさ!?」

 

「犬の丸焼きというのにちょっと興味が湧いてな」

 

「ふざけんなっ!! あと犬じゃなくて狼だって言ってるだろ!!」

 

 ちなみに嘘である。丸焼きは豚か鳥で十分だ。というか犬の丸焼きなんて料理はあるのか? 俺なら拒否る。

 アルフの攻撃を避け、松明の反撃を加えていく。炎の攻撃はアルフに効果抜群である。

 しかし、それも長くは続かなかった。

 

「んなろぉっ!」

 

「っ!!」

 

 パァンッ! と、鉄パイプが弾き飛ばされた。鉄パイプの布が巻かれてない部分に一撃を入れられたのだった。

 鉄パイプを弾かれた衝撃で、身体がよろめく。

 

「くっ……!」

 

「終わりだ……っ!」

 

(ここまでか……!)

 

 魔力が込められた拳を視界に納め、一撃を覚悟した。

 次の瞬間、緑色の魔法陣が俺とアルフの間に割り込んだ。

 

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