Magic game   作:暁楓

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 なんていうか、うまく表現できてないってのが顕著に感じてきたような……。い、いつものことだし!
 ……もっとうまく書きたいなぁ。


第八十二話

 フローリアン姉妹とマテリアルズとユーリ、それからなぜか顔も名前も思い出せない次元漂流者四人ほどが元の世界に戻ったのがすでに一時間ほど前。

 彼女らの見送りをしてから戻ってきた医務室は今、重苦しい空気が漂っていた。

 原因は俺……と、俺の目の前にいるアリシア。

 普段の人懐っこそうで笑顔の絶えないアリシアはなく、その表情には悲しみの他に躊躇いなどがあるように見えた。

 周囲にはなのはやフェイト、アルフ、リンディさんなど、プレシア事件に関わっていた人達が揃っていた。ただ、才や海斗達は俺の指示で来ていない。

 アリシアから話があると部屋に入ってきてから数分、目の前に来てから沈黙していたアリシアが、その口を開いた。

 

「……綾さん、あのね? 綾さんが眠ってる間にフェイトから、お母さんのことを聞いたの。お母さんは、本当はもう死んじゃってるって」

 

「……そうか」

 

「綾さんは、お母さんはお仕事で遠くにいるって言ったよね? ……ねえ、どっちが本当なの?」

 

 そう問うアリシアから、まだ母の死を受け入れられていないことが見てとれた。そして妹の言葉よりも、プレシアが生きているという俺の言葉を信じようとしていた。

 俺はすぐには答えず、一旦視線をリンディさんに移した。俺の視線に気づいたリンディさんはコクリと頷いた。

 視線をアリシアに戻す。

 

「……フェイトの言ったことが本当だ。そして俺は、お前の母さん――プレシアが死ぬのをこの目で見た」

 

「……!」

 

アリシアの表情が、信じていたものが崩れ落ちた瞬間のそれになった。

 

「……どうして、あんなウソをついたの?」

 

 俯き、震える唇でアリシアが問う。

 

「幼いお前には耐えられない話だと俺が判断した。それで今まで他のみんなにも口裏を合わせるよう俺が指示した」

 

「――嘘つき!」

 

 アリシアが怒鳴った。ボロボロと涙を流して、俺を睨んだ。

 

「嘘つき、嘘つき、嘘つきっ……! お母さんに会えるって、信じて……ずっと頑張って……た、のに……………うぇ、うえぇえええん!!」

 

「……………」

 

 泣き出してしまったアリシアを、フェイトに部屋から出すよう念話で指示する。

 アリシアを乗せた車椅子を押して出て行くフェイト。それに続いてアルフとなのはが出て行く。

 

「きっと、時間があなたとアリシアさんの関係を治してくれるわ」

 

 励ましのつもりか、リンディさんがそう言った。

 

「……どうだろうな」

 

 それに対して俺は否定的だった。

 

「仮にあいつの中で解決しても、その時に相手がいないんじゃあ修復にはならないだろ」

 

「……何を急いでるのかは知らないが」

 

 ポン、とクロノは俺の肩に手を置いた。

 

「少なくとも、お前の傷が完治するまではゆっくりしてもらうぞ」

 

「……………」

 

 俺は言葉を返さなかった。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 粥状の料理をスプーンで掬って口に運ぶ。過剰強化で体内にダメージを負った俺に出されているこの食事にももう慣れてきた。喜ばしくないことに。

 粥状なので噛む必要もほとんどなく、すぐ飲み込む。見た目とも相俟って食ってる感じがしないが、今朝のことがあってか、それを気にする気にはならない。

 アリシアのことが気にはなるが、早く身体を治すためにも目の前の料理を食らう。そして右隣に声をかける。

 

「……で、何の用だ?」

 

「……………」

 

 椅子に座っているのは八神はやてを主とする融合騎リインフォース。今この医務室には俺と彼女の二人だけである。

 リインフォースは俯いて暗い表情を見せているだけだった。

 彼女がここに来たのがつい先ほど。話があるということなのだが、椅子に座ってから、一言も発さず沈黙している。

 呼びかけに対しても反応なしかと思ったが、ようやくリインフォースが口を開いた。

 

「……砕け得ぬ闇事件への対応をしている間、一度ウレクと二人で言葉を交わしたことがありました」

 

「……へぇ」

 

 相槌を打っておく。

 タイミングはプレシアとアリシアの一件辺りか?いや、そういやその時はリインフォースもレヴィと行動してたな。となるとあとは、俺がシグナムと模擬戦をする前辺りか。

 「それで?」と訊く。これで終わりという訳がない。

 

「その時にウレクに言われた言葉に、答えがわからなくなって……」

 

「……悩みなら、まず俺ではなくはやてなんじゃないのか? あいつから回答は貰ってないのか?」

 

「いえ、その……その言葉というのが、綾に関わる話なので……綾に訊くべきかと……」

 

「……俺に関わる話?」

 

 リインフォースは静かに頷いた。

 

「……その話、聞かせてみろ」

 

 リインフォースはまた頷いて、それから当時のことを話し始めた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「お前、オリジナルに随分熱心だよなぁ」

 

 そのウレクの言葉が始まりだった。

 リインフォース他アースラ乗組員への攻撃に加え、綾を勝手に戦場に連れ出して負傷させるといったことをしでかしたウレクには、医務室での治療と同時に交代で監視がつけられることになっていた。その時はちょうどリインフォースがその監視役だった。

 

「……どういう意味だ」

 

「いやさ、お前俺のオリジナルが絡むとよく首突っ込んでくるじゃん? 交渉の時然り、ユーリへの対処法教えている時だって然り。そういや俺が欠片一掃してオリジナルに近づこうとした時にも割り込んでは俺を目の敵にしてたな。あと、ユーリとドンパチやって戻ってきた時にゃあオリジナルに泣きついてたんだっけか?」

 

「……だから何だと言うんだ」

 

「だから言ってんじゃん? 熱心だなって」

 

「綾には私達とは違って大きな力がない。その彼を守ろうとするのは不思議なことか?」

 

「んな理由だけで、そこまで熱心になるもんかねぇ」

 

 ウレクは見透かしたような様子でニヤニヤとしている。リインフォースはそれが不愉快に感じた。

 

「お前、オリジナルに恋してんじゃねえの?」

 

 そしてウレクは、そんな言葉をリインフォースに投げ込んだ。

 

「……恋?」

 

「おうそうだ。オリジナルに恋してるから、お前は過剰にオリジナルを守ろうとしてんじゃねえのか?」

 

「なにを馬鹿なことを。私は恋なんて……」

 

「恋してないとお前が判断できんのか? 判断するだけの経験があんのか」

 

「……………」

 

 ウレクにそう言われると、押し黙るしかなかった。

 リインフォースは恋をした経験はない。闇の書であった頃は目覚めたら破壊を撒き散らすか、遠からずそうなる未来に絶望するかだった。それより前の夜天の書であった頃の記憶は存在しない。

 つまりウレクの言うとおり、恋をしていないと判断する証拠はない。

 

「お前はあいつに色々助けてくれてるからな。それで恋に落ちてんじゃねえの?」

 

 確かに、リインフォースは彼に救われている。

 加えて、綾と和解してからリインフォースが感じるようになった不思議な感覚。それが恋によるものだとすれば、説明がつくかもしれない。

 

「これが……恋……?」

 

「……………プッ」

 

 直後、ウレクが噴き出した。

 ゲラゲラと馬鹿にしたような笑い声が部屋に響く。

 リインフォースはむっとした。

 

「何がおかしい」

 

「お前、ホント単純だな。敵視していた、いや、今も敵視してるか? そんな相手の言葉をあっさり信じるのかよ」

 

「……………」

 

「そんなお前に朗報だ。お前がオリジナルに抱いている本当の感情を教えてやる」

 

「……どうせ、それも嘘だろう?」

 

「ああそうかもしれないな。だが事実を言ってる可能性だってある。一応言っておくが、俺は今まで嘘をついたことはないぜ?」

 

 一応、事実である。ウレクは今まで嘘は言っていない。紛らわしい言い方をするため、真実を言っているとも言えない訳だが。

 嫌な予感がして、リインフォースはウレクへの警戒を高めた。

 それを知ってか知らずか、ニタァと笑みを濃くする。

 

「お前、オリジナルに依存してんじゃねえの?」

 

「な……」

 

「何かあってもオリジナルが助けてくれる、守ってくれる。そういう思いがあるから、それを失いたくなくて熱心になってんじゃねえか?」

 

「ふざけるな!」

 

 リインフォースは声を張った。

 

「私は、彼に償わなければならない身だ。依存するなど……!」

 

「だが、お前は何度もあいつに助けられた。ついさっきもそうだ。違うか?」

 

「それは……」

 

「頭では償いだとか考えても、意識しない内にあいつに助けてもらおうとか思ってんじゃねえか?」

 

「違う、私は……!」

 

 リインフォースは強くかぶりを振った。依存しているんじゃないか、という脳裏に浮かんだ考えを振り払うように。

 だが、考えないようにしようとするほど、否定するほど、その意識に反発するかのように「依存しているかもしれない」という考えが強くなっていく。

 

「お前がオリジナルを過剰なまでに守ろうとしてんのも、実のところはその対価に守ってもらいたいんじゃねえのか?」

 

「っ――!」

 

「何をしている」

 

 いつの間にか医務室に入っていたシグナムが割って入った。

 会話の内容こそ知らないが、状況からウレクがリインフォースに何やら吹き込んでいると判断したシグナムはウレクを睨む。

 

「ただのお話さ」

 

 対するウレクは悪びれる様子もなく、さも当然のように笑って言った。

 

「そうか。なら私にもその話を聞かせてもらおうか」

 

 言葉とは裏腹に、並の人間には耐えられないほどの冷たさを持った目でシグナムは返す。

 シグナムの返答に笑みを崩さないウレクから、リインフォースへとシグナムは視線を移した。

 

『リインフォース、交代の時間だ。下がれ』

 

 実際には交代の時間はまだ先である。リインフォースはそれがシグナムの気遣いだということはすぐにわかった。

 

『将……すまない』

 

『気にすることじゃない。敵の言葉にそそのかされるというのは直すべきだがな』

 

『……ああ』

 

 リインフォースはそっと立ち上がり、その場を後にした。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「……そのことがあって、私は綾のことをどう思っているのかがわからずにいるんです」

 

「……………」

 

「私は……綾に、依存しているのでしょうか……」

 

 ……どうも彼女は予想以上に純粋らしい。人の言葉に簡単に影響されちまうというか。

 闇の書であった頃、自分の意思や判断で物事の取捨選択をすることがなかった弊害ってところか。加えて今まで経験したことがない感情に対して、どう受け取ればいいのかわからないのだろう。

 

「……依存、すればいいんじゃないか」

 

「え……」

 

「人の誰もがすることだ。責められることじゃないだろ。お前自身、今の自分の存在は夜天の写本とその主であるはやてに依存してるんだろ」

 

「ですが……綾は、私が償わなければならない相手なのに、それなのに依存するなんて……!」

 

 ……ああ、そういうことか。

 償わなければならないという使命感があるのに、その相手に手前勝手な思いを持っているかもしれないというのが不安なのか。そういう関係であること、少し忘れかけていた。

 しかし。

 

「それでもいいんじゃないのか」

 

「え……?」

 

「自責や償いの思いが先走って、本当の思いを燻らせたまま終わりにすると後悔するぜ」

 

「……………」

 

「……俺みたいにな」

 

「え?」

 

「……なんでもない。まあもっとも、俺がそれに応えるとは限らないがな」

 

 俺はそう言って、食後に飲むよう言われている薬を口に入れ、水で流し込んだ。

 それから横になる。リインフォースには悪いが、この質問には答えられない。答えたとしても、その後リインフォースには応えられない。

 

「少し寝る。悪いが一人にしてくれ」

 

「……はい。綾、お休みなさい」

 

 リインフォースの足音が遠ざかるのと、扉の開閉音が聞こえたのを最後に、俺はまどろみの中へと落ちて行った。




 うーん、アリシアの出番がついで臭い……。リインフォースの『恋?or依存?』は元から取り上げるつもりだったのでそれなりに書けたのですが(それでも文章力的に駄目駄目だと思いますが)。
 一応、次章での解決することを想定してますが、下手したら綾の言った通り、解決したい時に相手がいない状態になりそう……。
 ちょっと傷跡というか、しこりというか、解決できてないものが残ってますが、今回で一応は第四章は終わりとなります。ですがすぐに第五章という訳ではありません。
 次回は綾の過去話といきます。長く書く自信がないので一話、多くて二話程度を予定しています。主人公の過去を明かすのですから、あっさりし過ぎないようにはしたいです。
 今年中に第五章入れるかなぁ。

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