Magic game 作:暁楓
今回から綾の過去編です。前回一、二話で終わらせるとか言いましたが、早速無理っぽそうです。収まりよくするには三話ぐらいになりそうです。
第八十三話
俺の父親は、大手企業の幹部だった。
父さんは成果主義であると同時に、出世に対して貪欲と呼べるほどにまで意識が強かった。とにかく結果を残し、上へ上へと上り詰めていくことにこだわる人だった。
その性格は俺の成績に対してもそうで、とにかくいい成績を出すよう厳しい躾をされた。
そんな父さんだが、嫌いという訳ではなかった。いい成績を出せば褒めてもらえたし、ある程度自由も許された。何より父さんの性格が遺伝でもしてるのか、勉強やスポーツその他諸々、自ら一番になってさらに高みへ目指すということが好きだった。小学校中学年からはほとんど常に一番を取り続けるようになり、叱られることもなくなっていた。
仕事で忙しい父さんとは会話することがなく、なんとなく寂しかったが、そこは母さんがいてくれたおかげで孤独ということはなかった。
◇
中学一年の頃。
俺は父さんからある縁談を持ちかけられた。
父さんが勤めている企業の社長、その娘との縁談である。相手は俺と同年代で、許嫁を探して見合いをしているということだった。
しかしその見合い、企画は社長とその妻なのだが、件の令嬢自身は乗り気でないのかこれまで会った相手はことごとく断っているらしい。全く決まる様子もなく社長が困り果てているところに父さんが俺を売り込み、見合いをすることが決定したそうだ。
はっきり言って、興味がなかった。
父さんはここで縁談がうまくいけばさらなる出世がとかを考えているようだったが、俺にとってはどうでもよく感じていた。なにより当時の俺は同年代の人と仲良くなるということが、ものすごく苦手だった。
当時すでに学校の成績で他者の追随を許さなかった俺は、クラスの中で浮いていた。俺もクラスメイトのことは年下の子供のようにしか見ていなかったため、進んで仲良くなろうともしなかった。そのため、俺にとって最も苦手だったのが『同年代と仲良くする』こととなっていた。
どう考えても、無理だ。
しかし、それを言ったところで叱られるだけで終わるのはすでにわかっていた。そのため渋々、俺はその見合いに頷くことになった。
――相手もその気じゃないみたいだし、適当な話をして終わりだろう。父さんには悪いが……。
いかに父さんの立場を悪くせず、相手の興味をなくすか……そんな無駄に高度な条件の答えを探しながら、見合いの日を待った。
◇
見合い当日。
豪勢な屋敷の中、父さんに連れられて見合いの席へ向かう。
ここだと言われて入った先には、すでにその相手が席についていた。
まず目に入ったダークブルーの着物と、それに対して淡く色づいた白い髪が、まるで夜空の星のような輝きを放っているようだった。それから綺麗に伸びた背筋や指先、容姿の一つ一つから気品が溢れていて、まさにお嬢様という感じだ。
ただ瞳だけは少し違って、表面上はこちらを歓迎しているが、どこかこちらを見る気はない、要するに興味がなさそうな感じだった。
名前は、
俺が席についてから親同士でいくつか話し合ったのち、あとは二人の会話だと俺と彼女を残して退室した。
――さて、どうしたものか。
やる気がないのは相手も同じようであることは確認できた。無難な会話をして、印象に残らないようにすればいいか。
「九条」
そう思った矢先、東上院が誰かを呼んだ。ふすまを開けて出てきたのはメイドだった。
東上院はメイド――この人が九条なのだろう――に何やら指示を出した。かしこまりましたと言ってメイドは静かに部屋を後にする。
「……朝霧綾さま、でしたわよね?」
「え? ああ、はい。……どうかされましたか?」
「あなたが私の許嫁となる方かどうか、これから試させていただきますわ」
「……試す?」
メイドが戻ってきた。両手で持っているのは、二本の竹刀。
東上院はその一本を受け取り、庭へと出た。
「あなたも、竹刀を受け取ってこちらへ来てくださいな」
……なんなんだ一体?
どうぞ、と頭を下げたメイドが差し出す竹刀を受け取り、いつの間にか用意されていた草履を履いて言われるまま庭に立つ。
意図はわからないが、やることの察しはついていた。
試す、竹刀と来れば、やることは一つ――勝負。
「あなたは多彩な習い事をしていらっしゃるとのことで、その中から剣道を選ばせて頂きました。一つ勝負をしませんこと?」
「ルールは?」
「打ち合って、参ったと言わせた方の勝利としましょう。勝った方がこの場で願いを聞き入れてもらえるということでどうでしょう?」
「……その服では、断然あなたが不利では?」
東上院の服装の着物は瞬発的な動きにはあまりに適さないものだ。この時点で圧倒的に彼女が不利である。俺のも運動に向いた衣服ではないとはいえ、彼女よりはまだマシだ。
しかし彼女はそんなことなどお構いなしといった様子で、不敵な笑みを浮かべた。
「心配いりませんわ。勝つのはわたくしですから」
「……………」
「ちなみに、手加減や接待プレイは結構ですわ。これまでそういう相手ばかりで余計に退屈でしたの」
自意識過剰……ではなさそうだ。本物の実力と、それに伴った自信が見て取れる。
しかし何が目的だ? まさか自分より強い奴しか認めないとか、そんな脳筋とか言われそうな選定基準をつけてるのか?
真意が測りかねずメイドの方を見るが、メイドはただ縁側に立って俺達二人を見ているだけだった。怪我の心配とかはないのか?
相手はああ言ってるが、もし怪我なんかさせたらそれが発端で父さんの立場が悪くなる可能性もあるしな……。
「怪我の心配をしていらっしゃるのですか?」
こちらのことを見透かしたかのように東上院が言う。これまでの相手がそうだったからという経験から出た推測なのだろう。
「……ええ」
「なら、この勝負でわたくしが怪我をしたとしても、そのお咎めやあなた方の立場が悪くなることは一切しないとお約束しますわ。必要とあれば、契約書でもしたためますが?」
「……いえ、約束していただけるなら結構」
俺は竹刀を構えた。
武術の習い事のうち、剣道は俺が最も得意とするものだった。教師から今まで見てきた中で一番の天才児だと言われ、これまでほとんど負けなしだった。
中段に構えた俺に対して、東上院は竹刀をこちらに向けて後ろに引き、竹刀を持たない手を竹刀の先端に添えるようにして構えた。
「……怪我しても、知らないからな」
「どうぞ」
ニコリと東上院が笑顔で返す。
竹刀の柄を握り締め、俺は先手の一歩を踏み出した――。
◇
負けた。
十分と打ち合い続け、一太刀入れることもできなかった。この日のために用意された俺の服はもう泥だらけだ。
当初はある程度打ち合ってから適当なところで降参しようと思っていた。それが初撃で突き倒され、そのまま参ったと言うのは気に食わないからと続行し……十分も打ち合い続けたら、否が応でも相手の実力を認めざるを得なかった。
負け知らずだった俺が完膚なきまでに打ち負かされ、当然悔しかった。しかし同時に、これほどまでの完敗はむしろ新鮮に思ってもいた。見合いとか親のことなどどうでもよくなるほど勝負にのめり込むのもこれが始めてだった。
対する東上院は、着物が多少乱れ、額から汗が滲んでいるものの、逆を言えばそれだけだった。その彼女は、息絶え絶えで先ほど敗北宣言をした俺をじっと見下ろしている。
しばらくして、彼女がからクスリと笑い声が出た。
「わかりましたわ。では今回の勝負、わたくしの勝ちですわね」
「さて……」と東上院は期待が篭ったような眼差しで続ける。
おい、まだなんかするつもりなのか。
「わたくしが勝利しましたから、何をお願いしましょうか」
……すっかり忘れてた。
そう言えば、勝った方がこの場で願いを聞き入れてもらえるとか言ってたな。
しかし、今更だが彼女はこれで見合いを強制終了させるつもりだったのだろう。彼女が見合いには乗り気ではなかった辺り、これでお開きか。父さんがなんて言ってくるかな。
「……決まりましたわ」
考えて思いつく振りもしっかりしていらっしゃる。
「後日、お屋敷にご招待しますわ」
「……はい?」
「招待状が届きましたら来ていただくことを、ここでお約束してくださいませ」
「……それが、今回の願いですか?」
「ええ」
……てっきり、「これでお開きにしましょう」ぐらいで済ますものだと思ったんだがな。なんか気分が変わるようなことでもあったのか?いや、そんなどストレートに断ち切るのではなく、こういう言い回しで関係の悪化は防いでいるのか?
「さ、お約束してくださいませ」
「え、ええ。……お約束します」
「よろしい。では今回はお開きにしましょう。縁談については保留ということで」
「はぁ……」
結局、よくわからないまま見合いはお開きとなった。
その後服を泥だらけにしたことに父さんから叱られそうになったが、訳の説明と招待の話をすると手のひらを返して褒められた。
中学時代の綾を簡単に説明すると、
成績断トツトップ(天才&父から出世欲が遺伝)
同年代の子供達を子供扱い(上記の要因によって大人ぶっている←ここ重要?)
友達がいない(ぼっち)
という感じになっております。
東上院瑠璃々との出会いによって、綾がこれから変わっていきます。