Magic game   作:暁楓

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 八十五話です。追憶編はあと二話となります。予想以上に話が増えました。
 話数が少し多くなったので、八十三話から『追憶 (つるぎ)の姫』としてまとめました。
 現時点で第五章一話目まで書き終わっているため、こらえ性がないのも合わさってさっさと投稿していくと思います。そしてまた更新が止まります。(オイ


第八十五話

 目が覚めて目に見えた天井は、ここが自分の慣れた日常とは違うことをよく教えてくれた。

 午前四時。早起きの俺でも少し早すぎたと思える時刻に起きた俺は、とりあえず執事服に着替え……それからどうするべきかと少し頭を悩ませた。

 普段なら早朝にはランニングなどで身体を動かしているのだが、他人の敷地内を勝手に走り回るのはよろしくない。そもそも執事服で走り回ることも好ましくないし、普段の運動服は手元にない。

 この時間にはもうメイド達は起きているのだろうか。だとしたら何か仕事を貰ってくるのがいいかもしれない。客人に仕事はさせられないとか言ってきそうだが、「執事として従事している身だ」と言い張ればなんとかなるだろう。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 メイドが困った顔をしながら言い渡してきた仕事は、お嬢様――つまり東上院瑠璃々を起こすことだった。

 思春期に入っているかもしれない女の子を男が起こしにいくのはどうかと思うが、無理言って受け取った仕事を断る訳にもいかない。今はまだ早いため時間になるまで待つ。

 時間になって、東上院の寝室の前に来た。

 扉を四回ノックし、声をかける。ノックの回数にはマナーが存在し、礼儀がいる相手には四回が正しい。

 

「お嬢様、朝です」

 

 ……父さんがこの光景を見たらどう思うのだろうか。許嫁として送り出した息子が召使い。きっと叱られるんじゃないだろうか。

 ……東上院からの返事がない。

 

「お嬢様?」

 

 再度四回ノック。……返事がない。

 

「……入りますよ?」

 

 ドアノブを回し、中へと入る。

 部屋には天蓋付きの大きなベッドがあり、東上院はそこで気持ちよく眠っていた。

 お嬢様を揺さぶって起こす訳にはいかないので、日光を遮るカーテンを開けて明るさを東上院に届ける。

 瞼の上に降り注ぐ眩しさに堪えたのか、東上院は声を漏らして身じろぎした。

 

「朝です、お嬢様」

 

「んにゅぅ……」

 

 上半身を起こした東上院はまだ寝ぼけているのか、その場で固まってボーッとしている。昨日の凛とした彼女が嘘のようだ。

 

「お嬢様は、朝が苦手なので?」

 

「そうですわね……こう、ふかふかであたたかいベッドがあるとつい吸い込まれるような気になりますのよ……」

 

昨日(さくじつ)はあらゆる勝負で俺に十連勝したお嬢様も、早起きの勝負には敵いませんか」

 

「そうですわ……むしろこの幸福感を早々に手離すなんてとても……………俺?」

 

 再びベッドに戻ろうとしていた東上院の動きが止まる。逆再生するかのように身体を起こし、俺に視線を向けてくる。

 

「……………」

 

「……………」

 

「……いつからいましたの?」

 

「先ほどから」

 

「……まさか、聞いてました?」

 

「話し相手が俺だったのですが」

 

 お嬢様の眠気は綺麗に吹っ飛んだようだ。証拠に目はしっかり開いており、顔が引きつっている。ツーッと汗をかいてるように俺には見えた。

 お嬢様を起こす仕事はこれで達成と見ていいだろう。仕事が達成できて嬉しいかぎりだ。決して一回も勝つことができなかった相手の弱点を知れたとか、これで少しは鬱憤が晴らせるなんていう下賤な気持ちはない。

 ないが、しかし。

 

「……お嬢様は朝が苦手」

 

「―――――ッ!!」

 

 次の瞬間、俺の顔面めがけて枕が突っ込んできた。

 

 

 

   ◇

 

 

 

「最悪ですわ……メイド達とお父様お母様以外には誰にも知られていなかったのに……」

 

「むしろそれ以外の人を招き入れて泊めること自体がなかったのでは?」

 

「……………」

 

 図星だったのか、東上院がプルプルと震えている。

 東上院が朝食を食べ終え、その後俺も朝食を済ませてから昨日に引き続き稽古をするべくスポーツジムに来てからも東上院は未だに落ち込んでいた。

 ……うん、『いた』だ。もう過去形だった。

 

「ふ、ふふ、ふふふふふ……」

 

 今更だが、やりすぎたと思った。本当に今更で手遅れだった。

 明らかに黒い笑みを浮かべた東上院が竹刀を構える。東上院が得意とする平突きの構えだ。

 

「口答えして主を困らせる悪い執事には、少々懲らしめて躾ける必要がありますわね……」

 

 寝起きが悪いことを知っただけでどうしてこうなるんだ。

 俺はため息をついて、それから竹刀を中段に構えて東上院を迎え撃った。

 ……結局、全部打ち負かされることになった。

 

 東上院による『仕返し』もそこそこに、真面目に剣術指南に入った。

 

「さて、まずはわたくしの流派の解説ですが、朝霧さまはこれまでのわたくしの剣技を見てどう思いました?」

 

「……突きが多い。いや、突きに比重を置いている?」

 

「ええ。剣術の型の一つ、突きに昇華していますわ。剣術の基本形態は九つですが、相手までの距離が最短であるのが突きです。他の八つの型はいずれも剣の腹で打ち込むのに対し、突きは剣先で突くのですから、距離が最短であることはより顕著になります。すなわち、それぞれを極めた場合、最短である突きが最速となりやすい」

 

 まあ、理解できる。そのまま彼女の説明を聞くことにする。

 

「最短距離を最速最強で貫く、このわたくし流刺突剣術を極めてしまえば、目の前に敵などいませんわ!」

 

 東上院は自信満々にそう言い放つ。言ってることは理解できる。要は突きの速度に特化させて相手より先に決定打を打ち込む、完全なスピードアタッカーだ。

 だが……

 

「……敵なしなんて言葉、そこらの流派にあたればいくらでも聞きますよ」

 

「う、うるさい! 文句があるなら、わたくしに勝ってみせなさいな!」

 

 若干顔を赤くしながら怒る東上院。なんというか、ここに来てからというもの彼女のお嬢様らしくないところばかり目についている気がする。まるでどこにでもいる、やや背伸びしている年頃の少女のような……。

 二日目にして早くもそんな評価を胸の内に押し留めながら、それからしばらくの時間また打ち合った。

 

 

 

   ◇

 

 

 

 東上院に従事して四日目。

 二日目の一件以降、なぜか東上院を起こす仕事を一任された。あんなことがあったんだし、寝室を出入り禁止にされてもおかしくないと思っていたんだが……彼女の考えていることがわからない。

 それはそうと夕方の現在、俺は一人竹刀を振るっていた。

 今夜、東上院は金持ち達が集まるパーティーに出席するとのことでこの屋敷にはいない。俺が同行することなど当然できず、こうして一人鍛錬をしている。

 『東上流』と名付けられた剣術の動きを確認をしながら竹刀を振っていると、ふと一人のメイドがこちらを見つめているのに気がついた。

 

「あなたは確か……如月、さん?」

 

 それは、ここに来て初日に東上院のことを頼んできたメイドだった。

 名前を呼ばれたメイドは、バツが悪そうに頭を下げる。

 

「あ……申し訳ありません。お邪魔するつもりではなかったのですが……」

 

「いや、気にしていませんが……何か御用ですか?」

 

「いえ、用という程のものでもないのですが……」

 

「……?」

 

 用という程でもないというが、言葉の濁し方からして何か用ではあるはず、話をしたいとかだろうか。そう言わないのは、俺が鍛錬の最中であるからと考えるのが妥当か。

 そう憶測を立て、俺は竹刀を元あった場所へと片付ける。

 

「汗を流してきます。それから、お茶にしませんか?」

 

「はい。では、お茶と茶菓子を用意しておきますね」

 

 如月さんはまたぺこりと頭を下げた。

 

 シャワールームで汗を流し、居間にて俺と如月さんはテーブルを挟んで向かい合っていた。テーブルには如月さんが用意した紅茶と茶菓子が置かれている。まだ手は付けられていない。俺が手をつけていないのは、来るであろう如月さんの話題を待っているためだ。

 予想通り、程なくして如月さんの口が開いた。

 

「お嬢様とは、どんな感じでしょうか?」

 

「……どんな感じ、というと?」

 

 非常に曖昧な質問に、思わず質問で返してしまう。

 

「屋敷に来て四日目となりますが、現時点でのお嬢様との関係や、お嬢様をどうお思いかを聴きたいのです」

 

「……どう思うか、ですか」

 

 俺は少し悩んで、それから答えた。

 

「……ありふれた年頃の少女、ですかね」

 

「そうなのですか?」

 

「朝には弱いし、やや行き当たりばったりなことも言ってくるし、意見したら逆上してくるし、そういったところは、俺が学校なんかでよく見る奴らと同じようにも見えます」

 

 そう答えると、如月さんは驚いたような表情を向けていた。

 

「お嬢様が、逆上されたのですか?」

 

「ああいえ、そんな大したほどではなくてですね……彼女の我流剣術が敵なしだと言ったところで、敵なしなんて言葉は他の流派でも使われてると意見したら、文句があるなら自分に勝てと……」

 

「……お嬢様は、他人に対して感情的になることはまずありません」

 

「……はい?」

 

「お嬢様にとって朝霧さまは、何かしら特別に見ているのかもしれませんね」

 

「特別?」

 

「はい。私が見てきた中では、お嬢様は常につまらなさそうな様子でした。私達とお話する時も、見合いの相手にも……きっと、自分の立場を意識して感情を吐き出すことができなかったのでしょう」

 

 ……そういえば、メイドが来るときにはあいつは常に毅然とした様子で振舞っていた。

 

「きっと、お嬢様は朝霧さまのことを認めていらっしゃるのだと思います」

 

 だけど、疑問が生まれる。

 なぜ俺なのか。なぜ少し前まで何の繋がりもない赤の他人であった俺にそこまで気にかけるだろうか。

 彼女にとって、俺は一体何なのだ?

 疑念が晴れないまま、話は終了し、それからしばらくはその疑問が頭から離れることはなかった。




 次回が追憶編の山場です。多分本作において最も希望に溢れた話です。StrikerS? わかりませんね。
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