Magic game   作:暁楓

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第九十二話

「護衛対象のリニアを確認したわ」

 

 スコープ越しにリニアを捉えたシノが声をあげる。

 

「ミユ、ヘリを対象の真上につけてくれ」

 

「はい! ――『リニアの真上に追従して』!」

 

 ミユが操縦席に向かって声をかける。操縦席には、誰もいない。

 しかしヘリはミユの言葉に反応しひとりでに旋回、一気にリニアに向けて直進する。まるでミユの指示に従うようで――否、実際に従っているのだ。

 『機械の先導者(マシナリー・ルーラー)』と名付けられたミユのレアスキル。機械に対して命じれば、対象がAIを搭載している・いないに関わらずその命令に従わせるというものだ。

 このスキルには制約が二つ。一つは『機械の性能上実現不可能な命令はできない』こと。もう一つは『人間が直接触れている機械には命令が効かない』こと。

 制約こそあれど、ミユのスキルは極めて強力であり、活用の範囲が大きい。今やっているヘリの自動操縦による戦力の輸送のみならず、戦車などの自走・自律兵器に命令すればリスクゼロの兵士となる。他にも情報端末に命じれば容易に情報の引き出しができ、また彼女以外では絶対に開けないシステムロックをかけることだってできる。応用の幅が極めて広いのだ。彼女がゴーストにいるのも、そのスキルの有用性を知った上層部が体よく使うための囲いこみであったと聞く。

 

「しっかし、不幸なもんだ」

 

 不意に、セダンがそうぼやいた。

 

「誰がだ」

 

「全員さ。俺達はこんなショボい任務に駆り出される。リニアレールはレリックを積まされたがために壊される。敵どもは皆死ぬ。誰一人として得がありゃしねぇ」

 

「ごちゃごちゃ言ってないで、行くわよ。綾、敵がリニアに取り憑くまであとどのくらい?」

 

「今の速度のままだと、五分後には接触するだろう」

 

 俺はシノと同様にスコープ越しに、リニアレールの後ろに目を向けていた。見えるのは、五~六十は下らないであろう物が、リニア目掛けて飛んでいる。

 卵型と、小型戦闘機型の機械の軍勢――ガジェットドローンだ。今はまだリニアとの距離は遠いが、確実に距離が詰められている。

 ガジェットの狙いは間違いなく、貨物として積まれている“記録にないレリック”。

 

「車両の真上に着き次第降下、迎撃しろ。俺は上空から狙撃支援する」

 

「今更だけど、私が狙撃の方がいいんじゃない?」

 

「俺は司令役だからな。そしてセダンは魔力の扱いが雑だ。もしもの場合にはシノ、お前がレリックを回収して離脱しろ」

 

「まあ、いいけど」

 

 肩をすくめながら、シノは懐からデバイスの待機形態であるドッグタグを取り出す。セダンも同じくデバイスを取り出した。

 

「キラーバレット、セットアップ」

 

「ヨロイ、セットアップ」

 

 二人の姿が変わる。

 シノのバリアジャケットは、全身を覆うインナーの上にハーフスリーブジャケットとショートパンツ、そしてフラッシュ対策のゴーグル。腰や太腿には魔力カートリッジを始めとした道具類が入ったホルスターがついており、手には狙撃銃型デバイス『キラーバレット』が収まっている。狙撃専門のシノは近づかれたら即敗北に繋がるため、『討たれる前に撃つ』そして『近づかれないよう素早く逃げる』。そんな機能性から最適化された姿だった。

 対して、セダンの装備は黒革のジャケットとジーンズに、金属製のアクセサリーがジャラジャラと巻き付いていた。サポート型のデバイスなのだが、彼の戦闘は完全にレアスキル任せであるためデバイスとして入れるべき機能のほとんどが入っていない。機能性を完全無視した装備だった。ちなみに、バリアジャケットのデザインについては『当時の趣味』らしい。

 

「さぁーて、行くかね」

 

「ミユ、モニタリングお願いするわね」

 

 目標にたどり着き、装備を展開した二人が降りる。

 

「二人を支援する。ヘリの高度を上げろ」

 

「はい!」

 

 二人がリニアの上に着地したのを確認し、ミユに指示。ミユがヘリに命じ、ヘリが上空へと上っていく。

 スコープで確認すると、ガジェットとの距離がかなり縮まっていた。

 足元に置いていた狙撃銃を手に取る。デバイスなどではない、対物狙撃ライフル……質量兵器だ。これを握るのももう慣れた。

 安全装置を解除し、スコープを覗きこむ。スコープの中央に、卵形の敵を収める。

 

「――戦闘を開始する。敵は滅ぼせ」

 

 そしてその引き金を、引いた。

 

 

 

 

 

 

「これが……」

 

「俺達の新しいデバイスか……」

 

 機動六課のデバイスルームでは、フォアードメンバーへの新デバイスの紹介が行われていた。

 義彦やケイトを始め、フォアードメンバーはそれぞれの新たなデバイス、その待機形態を覗きこんでいる。――一人、ティアナを除いてではあるが。

 

「……あれ? ティアのデバイスは?」

 

 ティアナのデバイスがないことに気づいたスバルが疑問を漏らす。

 対してティアナは、無言である方向に指を向けた。

 

「……誰?」

 

 この部屋に入った時は気づかなかったが部屋の片隅で、大柄の男が一心不乱にキーを叩いていた。

 髪全体を短く刈り込んだその男は、六課では見覚えのない者だった。キーを叩く男の前に、ティアナのデバイス『ガンスナイパー』と、他に二つのデバイスが置かれている。

 他の面々も存在に気づいたのか、彼に視線を向ける。

 

「末崎さん。デバイス技師よ」

 

「知り合いなのか?」

 

「師匠の友人……って言えば良いのかしら。ガンスナイパーの整備を時々して貰ってるのよ」

 

「ふーん……」

 

 ピタリと、末崎の手が止まった。それからウィンドウをいくつか開いて流し読み、頷くとウィンドウを閉じてガンスナイパーの待機形態であるカードを手に取り、ティアナ達の方を向く。

 そこでようやく自身に視線が集まっていたことに気がついたらしか、末崎が軽く仰け反った。

 

「うぉっ……なんだよ、見せもんじゃねえぞ……」

 

 ボソボソと呟いた後、末崎はガンスナイパーをティアナに投げ渡す。

 

「ガンスナイパーのリミッターを一段外したぞ。それからリミッターの管理権限を六課の技師に渡した。これで一々俺を呼び出す必要はないからな」

 

「ありがとうございます」

 

「フールライトとブリッターレフトの整備もやんなきゃなぁ……技師も楽じゃないぜ……」

 

 ブツブツ呟きながら、末崎は再び片隅でデバイスを弄り始める。

 その光景を見ながら、ケイトはある懸念を浮かべていた。

 

 ――あのスエザキさんって人、転生者じゃないか? それも、由衣さんと海斗さんの仲間の可能性もある。

 

 最初にそう思った理由は彼の名前だ。スエザキという名前は、日本であればそう珍しい訳でもない。……無論、理由はそれだけではない。

 現在末崎が弄っている二つのデバイス。彼はフールライトとブリッターレフトという名で呼んでいた。それはケイトと義彦が所属している“ストーム”隊の上司、藤木由衣隊長と藤木海斗副隊長のデバイスの名前だ。

 ケイトは、自分達の隊長・副隊長が転生者であると考えている。原作にはいなかった人物、日本人らしい名前、そして原作にはなかった部隊。初代リインフォースの生存やティアナの変化は何らかの介入があった可能性が高く、二人はそれに関係している可能性が大いにあった。そんな二人とティアナのデバイスを整備している日本人らしき人物となれば、彼も転生者であることはあり得ない話ではなかった。

 ケイトが望むのは、転生者同士の協力だ。この世界がデスゲームであると知ってから、生き残るために仲間が欲しいと考えている。

 

 デスゲームと知ったのは三年前。偶然、失格者がガラスめいて砕ける光景を目撃した。そしてその直後に失格者の通知が来た。最初は訳がわからず混乱し、一日経っても理解できず、散々悩んだ末に貴重なスターチップを使って神に問いただし、この世界の実態を知った。

 デスゲームという真実に絶望し、しばらくしてようやく動かした頭脳で考えたのが、これからどうすれば生き残れるかということだった。

 そして第一に必要としたのが、仲間の確保だった。戦力の強化、情報の収集、何をするにせよ、仲間が必要だった。そのため、訓練校で出会った義彦とコンビを組み、転生者の多くが目指すであろう機動六課に入った。

 そんなケイトの目論見は、ひとまずは順調と言える。義彦と共に六課入りに成功し、転生者らしき人物をさらに見つけることもできた。近い内に、こちらから海斗らに協力を呼び掛けようとも考えている。

 協力を呼び掛けるにあたっては、自分達の有用性を見せることも大事だ。海斗は陸曹、由衣は三等空尉と上の立場。自分達を引き入れるメリットを提示する必要がある。

 故に――

 

 隊舎中にアラートが鳴り響く。

 

 ――故に、今日の戦いは、自分達の実力を見せる重要な一戦となるのだ。

 

 

 

 

 

 

『だーーーーーッ!! 無駄にデケェ図体でちょこまかしてんじゃねーーーーーッ!!』

 

『うっさいわよセダン! さっさとその鉄屑蹴落としなさい!』

 

『あわわわわわわ、り、綾さん! セダンさんとシノさんが!!』

 

「うるさい、全員黙ってろ」

 

 迫り来る斬撃の嵐をいなしながら、うるさく叫び合う三人を一蹴する。

 ミユの命令によって自動運転するバイクに跨る俺に、踝から先をローラーにした脚で並走し前後左右を取り囲む四体の鉄人形。左右の肘に取り付けられたブレードは長大なのだが、二メートル半は下らない巨体のせいで少し大きいナイフのようだった。

 鉄人形の斬撃は単調だが、四方から来る上に場所が悪い。可能な限りいなし、直撃を避けても、次々と皮膚を割かれて血が流れる。

 舌打ちを漏らしながら、状況を見る。

 鉄人形の数は六体。こちらが相手をしている四体は新型、リニアにいる二体は空から降ってきた。正確には降ってきたのも四体だったが、二体は着地の衝撃で脚回りを損傷させセダンとシノにより破壊された。

 だが、今残っている六体が厄介だった。今まで交戦してきた個体よりも動きが良すぎる。付かず離れずの距離を保ち、こちらの攻撃は回避しつつも確実に削ってくる。

 知性のある立ち回り……おそらく、今の六体は“入って”いる。

 俺及び新型四体とリニアの距離は確実に狭まってきている。足場は必要だが、リニアに取りつかれる訳にはいかない。それに鉄人形どもに手がかかりきりになったせいでガジェットへの対処ができないでいる。

 再び舌打ちし、それから状況打開のため通信を繋げた。

 

「――各員に通達。レリックは一時放棄。“機兵”をリニアから引き離し破壊することを優先しろ」




 機械の先導者(マシナリー・ルーラー)

 ミユが所有するレアスキル。機械に対して命令することでAIの搭載・非搭載に関わらず命令通りに動かせる。
 人(正確には生物)が対象の機械に直接触れている状態での命令、もしくは実現不可能な動作の命令は無効となる。ただし、前者については命令が受理された後で触れても命令の効力は続き、後者についても手袋などを用いて直接触れていない状態であれば有効になる。

 はい、ゴーストの一員、ミユのレアスキルです。
 本文中にあった通り応用の幅が広いチートスキル。少し前にあった全自動掃除機達もミユの命令で動いてました。スキルの欠点もある程度カバー可能。
 ミユ専用の戦闘機をどのくらい出そうか思案中。モチーフだけはそれなりに考えが出てきてます。
 あとは文章にする力だな……いや、小説投稿の全てに言えることだけども。
 ちなみにゴーストでは命令の無効化を防ぐため、皆最低限手袋は常備します。必要に応じて頭部接触防止用の帽子やヘッドギア装備とか考えたり。

 最後に出てきた機兵についてはまたいずれ。
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