Discordにおける同一プロット作品企画に投稿した内容です。

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ヘッショシスター

 アメリカのとある平和な街の警察署にて、豊かな髭を蓄えた男が椅子に深く腰掛けていた。

 しばらくして深いため息を吐いた男は懐から取り出したタバコケースとライターを机の上に放り投げ、向かいに立つ若い女性警官に向かってチラリと視線を向ける。

 

「で、申し開きはありますか?"署長"!」

「…持ってただけだもん」

「いい歳してもんとかキモいんですよクソジジイ!奥さんと禁煙の約束してたでしょうが!」

「知らん!大体なんでお前がそれ知っとるんだ!」

「奥さんから直接頼まれたんですよ!とにかく!これはきっちり報告しますからね!」

「あっ!ちょま!」

 

バンッ!

 署長のタバコとライターを鷲掴みにした後、勢いよくドアを開けて出て行った女性警官の後ろ姿を眺めながら深いため息を吐いた署長は、しばらくして引き出しから一冊のファイルを取り出して机の上に優しく置いた。

 

「感傷に浸る時くらい良いじゃないか…」

 

 そう言って『「救済」連続射殺事件』と書かれたファイルの角を優しく撫でた署長は、苦い思い出を噛み締めながら浅い眠りに落ちていった。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 あの日の夜、私は両親を失った。

 幼かった私の記憶に残っているのは生気を失った大人たちの目と…脳漿をぶちまけて倒れる強盗犯の姿。

 あの日…私は…!私は……

 

「ギャビー…ギャビー!!起きろー!!」

「んべっ…!?エマぁ…!」

「あ、起きました?」

 

 お腹の圧迫感による最悪な目覚めに顔をしかめた私…ガブリエラ・ジャクソンは、お腹の上にまたがって私の顔を覗き込んでくる同い年の少女…エマ・ブラウンにじとりと抗議の目線を送った後、その小さな体を押しのけてベッドから起き上がった。

 

「もう!大寝坊ですよギャビー!掃除を始める時間から2分もの遅れです!」

「はいはい…ごめんなさいねエマ、少し…悪い夢を見ただけよ」

 

 相変わらず時間に厳しいエマのお叱りを軽く受け流し、シーツを整えながら先程の夢の事を考える。

 そう、悪い夢…あんな事を伝える必要なんてない…悪夢として思い出すだけでこんなにも鳥肌が立つんだ。彼女に罪を背負わせるわけにはいかない。

 そう自分に言い聞かせ、精一杯の慈愛の笑みをエマに向けた私は孤児院の掃除に向かおうとして…腕を掴む小さな手に引き止められた。

 小さくて細い手には似合わぬ力の強さに少し目を見開いて振り返ると、何故か額に青筋を浮かべたエマがこちらを睨んでいた。

 

「エマ…?どうかしましたか?」

「……今私の身長をバカにしましたね?今度こそ怒ります、怒ってますとも…!もう許しませんよぉ!!」

「ええ…?」

 

 突然の言いがかりについ困惑してしまうが、エマと付き合っていく上でこの低身長へのコンプレックスから来る暴走はよくあることだ。それにしても今回は異様なほど脈絡がない。

 先程の私の行動のどこに…………もしや私の慈愛の笑みが低身長への嘲りに見えたと…!?

 

「エマ…私の笑顔に不満があるのですか…?」

「勿論です!その見下すような目線が……あ」

 

 先程と一変して顔から血の気が引いた様子のエマ。どうやら誤解に気付いたようですね、いつもなら少し注意する程度で終わらせますが…今回は流石に私もムカッ腹が立ってきました。

 徹底的に戦ってやります!!!

 

「気付きました?見下すような目線…ようなも何も実際私達に身長差がある以上どうしても私はあなたを見下さなければいけないのですが…」

「あー…」

「……そんなに私の笑顔が気に入りませんか…"おチビちゃん"?」

「あ゛あ゛!!?」

 

 先程を優に超える大きさの青筋を浮かべたエマが顔を真っ赤にして掴みかかってきました。顔色がコロコロ変わって忙しいですねえ。

 

「ギャ…ギャビーのバァァーーカ!!!」

「はぁ!?バカって言った方がバカなんですよぉ!!」

 

 この女バカって言ってきました!!今日こそわからせてやりますよ!!

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 俺の名前はマイケル!このUSでNo. 1と言っていい平和な街の警察官…老け顔でよく間違われるがこれでも署の中じゃあ割と新人だ!

 特に大きな事件のなかったこの街じゃあ仕事は専ら街のパトロールばかり…だが最近この平和な街にも都会で聞くような連続殺人犯が潜んでいるらしい!

 ま、犯人の犯行時間は今のところ夜中のみ!こんな気持ちの良い朝にパトロールしたって特になんの手がかりも得られまい!

 争いの声もなーんにも……ん?

 

「……だから……だって………しょバーカ……!!」

「…ぁ…!?あんた……のバーカ…………カ!!」

 

 パトロールの最中に聞こえてきた声に耳を澄ませると何やら女性同士が争っている様子…これは孤児院のガキンチョシスターがまーた低レベルな争いしてやがるな…。

 しょうがねえ…あそこの牧師は気弱だしな、俺が仲裁しに行くか!他にやることも無さそうだしな!

 

 教会の脇に自転車を止めて孤児院の方に向かう途中、牧師とばったり鉢合わせた。

 

「おお!マイケルさんじゃないか!今回も頼めるかい?」

「さん付けはやめてくれよ牧師さん!俺は新人警官だぜ?」

「やや、失敬!後でクッキーを分けたげるからそれで許してくれんか!」

「おお!あんたの作るクッキーは本職並だからなあ!やる気が出てきたぜ!」

 

 思わぬ収穫に舞い上がりながら牧師と共にシスター達の寝室へ向かう。

 だんだんとはっきり聞こえてきた口喧嘩の内容は…所詮ガキの喧嘩って事だけ伝えとく。

 

バンッ!

「やい二人とも!その下らねえ喧嘩さっさと止めて仕事しろ!」

「「はぁ!?……げ!」」

 

 扉を勢いよく開け、おでこを真っ赤にして睨み合う二人の少女の意識を俺に逸らし、二人が大っ嫌いな俺の声で喧嘩は中断!!依頼は大成功!泣けてくるね!!

 

「なんであなたみたいなのがここに来てるんですか…!」

「私達の戦いを中断するなんて…空気を読んでくださいよ」

「お前らの!尊敬する!牧師さんに!頼まれたんだよ!」

「「ええ〜…」」

 

 既に喧嘩をする雰囲気じゃなくなってはいるが二人とも不満たらたらって感じだな。

 んじゃあ使うか…喧嘩を止める度にぶーぶー言ってるこいつらを仕事に戻らせる魔法の言葉…そう!

 

「射撃訓練場…」

「「!!!」」

「…パトロールが終わったら連れてってやるよ!ただし牧師さんが仕事を頑張ったと認めたやつだけな!」

「さあギャビー、私は教会の方を掃除してくるので孤児院はお願いしますね!」

「ぐっ…わかりました!今回だけは協力しましょう!」

「せいぜい頑張れよー」

 

 あっという間に散らかった部屋を片付けて朝の掃除に向かったシスター達を見送った後、パトロールに戻るため牧師に声をかけようとしたその時。牧師がぽつりと呟いた。

 

「過去は、消えないものですなあ…」

「……?んじゃあ牧師さん、俺はパトロールに戻るぞ」

「…ああ!行ってらっしゃい!」

 

 今思えば…この時の違和感を見逃さずにしっかり調べていれば…いや、今更どうしようもない事だな。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 私の名前はエマ・ブラウン!教会が経営する孤児院のシスター兼!百発百中のガンマンよ!

 

 今日はいつも牧師さんのクッキーをつまみにくる警官のおっちゃんに射撃訓練場に連れてきてもらったわ!

 今更練習も何もないけれど、良くない慣れは失敗に繋がると聞いたことがある…自分の癖の見直しもしなきゃね!

 

「じゃ!二人とも見ててね!」

「おう!」「……見てます」

 

 よし!二人ともしっかり見てる!

 全身でしっかりと銃を支えて…時計の秒針を脳内に浮かべる…………3,2,1,今。

 

パンッ!!

 

 標的(ターゲット)の額に小さな穴が開く。

 よし、命中(ヘッドショット)

 

「「「おお………」」」

 

 なんの変哲もない美少女が一発でヘッドショットを決めたことで周囲にどよめきが走る。

 ふふん、あんたらとは経験が違うのよ。

 

「しっかし…お前すんごい腕前だなあ…射撃の選手にでもなったらどうだ?」

「………」

 

 手放しに私を褒める警官のおっちゃんに機嫌を悪くしたのか、ギャビーが立ち位置について銃を構えた。

 うーん…手も視線もブレッブレ!0点!

 

パンッ!

 

 案の定ギャビーの撃った弾丸は見当違いな場所に当たり、標的(ターゲット)には掠りもしなかった。

 

「ま、頑張り賞ってとこだな!」

「あなたは一回黙って下さい」

「すまんすまん!」

 

 失礼なことばっかり言う警官のおっちゃんに釘を刺している間にこちらに戻ってきたギャビーはえへへ…と苦笑いを溢し。

 

「やっぱりエマにはかないませんね…」

 

 そう言ったギャビーがこちらに向ける視線には、少しだけ恐怖が混じっている気がした。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 私とエマは幼馴染だった。

 親同士の交流が多く、よく互いの家に集まって家族のように団欒を楽しんだ。

 あの日だって、いつも通りの楽しいディナーだったはずなのに…。

 

 幸せが崩れるのに予兆なんて何もない。

 窓を突き破って乗り込んできた二人組の男が、何もわからぬ間にエマの両親と私の母を撃ち殺した。

 

 私が呆然とする間に、二人組は二階から銃を持って駆け下りて来た私の父さんに対してエマを人質に取り、エマを抱えた男が父さんに撃ち殺され、父さんはもう一人の男に撃ち殺された。

 

 それから一呼吸も置かぬ間に、父さんが殺した男から拳銃を奪ったエマがもう一人の男を撃ち殺した。

 私と同い年のエマがだ!男の隙を突いて拳銃を手にし、真っ直ぐ銃身を構えて成人男性の頭を撃ち抜いたのだ!

 私はあの時のエマの顔を忘れることが出来ない。

 あの時、エマは男の返り血と脳漿を浴びて、天啓を得たように薄らと笑っていたのだ!

 当時の私は、気が動転していた。

 幼い頭と口が短絡的な結論を出してしまったのだ。

 

「ひ…ひとごろし…」

 

 私はあの時のエマの顔を忘れることが出来ない。

 たった一人の幼馴染に、罪人(ひとごろし)と呼ばれたエマの絶望に塗れたあの顔を。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 あれから7年は経ったろうか。

 私が罪人(ひとごろし)と呼んだ幼馴染は、私と違って心からの慈愛を込めた笑顔を咲かせながら迷える子羊達の懺悔を聞いている。

 

 ……あんなもの、迷える子羊なんて可愛らしい言葉で言えるわけがない。

 時効を迎えた殺人犯に時効を迎えた婦女暴行犯…時効時効時効…どいつもこいつも今更バレても法律で裁かれない歳を食った罪人ばかり…神はあんな奴らまで許せと言うのですか…?

 

 懺悔の時間を終え、慈愛の笑みを欠かさずに懺悔室から出てきたエマと共にシスターの共用部屋まで戻り、孤児院に行く時の汚れてもいいシスター服に着替えるエマを見て…私は口を滑らせてしまった。

 

「エマ…一つ聞きたいことが」

「…なんですか?」

 

 ダメだ、シスターである私がこんなことを言ってはいけない…なのに…

 

「神なんて、本当にいると思ってるんですか?」

「…………」

 

 この部屋は既に懺悔室と化していた。シスターたる資格を失っているに等しい私は、エマに許しを請うしかないのだ。

 

「……ごめんなさいエマ」

「いますよ」

 

 そんな私を、エマは静かに否定した。

 ……何を、言っているんだろう。

 

「神は、います」

 

 エマの目は静かに、ゆらゆらと燃えていた。

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

「はぁ…標的は前科者ばっかりとはいえ…こうも後手後手に回ってるお上を見ると悲しくなって来るぜ…」

 

 今日も今日とて夜中のパトロール…例の連続射殺事件について進展があったらしい。

 銃声の鳴った時刻が最近の全ての例で一致してたんだと、さっさと気付けよそれくらい…その時間にどんなこだわりが出来たか知らねえが…お、もうそろそろだな。ま、こんだけパトロールがいる時期に実行するわけ…

 

パァン!

「ッ!!!」

 

 静かな夜の街中に、銃声が小さく鳴り響いた。

 銃声が聞こえる距離…これまでで一番近い!

 

ジジ…「ブロックSF6付近で銃声!現場に向かう!応援求む!」…ジジ『了解、時刻が過去の事例と一致、連続射殺事件と見て間違いない………死ぬなよ』……「了解ッ!」

 

 こんなイカついヒゲのナイスガイが死ぬわけねーだろってんだ!

 待ってろよ殺人犯…!!

 

「………んで…!」

「…?」

 

 自転車をかっ飛ばしていると、次第に人の声が聞こえてきた。

 なんだ…この声…聞き覚えが…

 

「ひとごろしじゃないっ…!!」

「ッ!!?」

 

 ガブリエルか!!不味いぞ巻き込まれたか!?てかなんでこんな時間に外出歩いてやがる!!

 殺人犯の近くに少女がいる。その時点で俺の意識は完璧に犯人を射殺する方針に決まっていた。

 この曲がり角を曲がった瞬間に狙いを定めて撃つ。

 そう心に決めて飛び出したんだ。

 

「動くなッ!!」

「………っ!」

 

 黒いフードを被った人間の向こうに倒れている成人男性と側にへたり込むガブリエル…間違いなくあいつが犯人!人質を取られる前に射殺する!

 

「あら…マイケルさん」

「………は?」

 

 エマ…なんで…こっちに手を…銃口…まず

 

 パァン!!!

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 私の人生は神に祝福されていた。

 

 幼い頃の記憶がすっぽり抜け落ちた私は、教会の経営する孤児院で育った。

 一緒にいるとなんだか心地のいいガブリエルは中々心を開いてくれなかったけど、何度も遊びに誘ううちに打ち解けていった。

 親友と呼べる人と過ごした時は、間違いなく幸せだった。

 

 私には、射撃の才能があった。

 シスターになった私の懺悔室にやってくる罪人共は格好の標的(ターゲット)だった。夜中に出歩き、少し隙を見せて狭い路地裏に誘い込めば撃ちやすい標的(ターゲット)の出来上がりだ。

 大罪を犯したゴミ共に引導を渡す日々は、なんだかとっても楽しかった。

 

 私は、神に祝福されていた。

 なんの変哲もない日々の中で、私は記憶を取り戻していった。

 私とギャビーは幼馴染で、ギャビーの父は家族を殺した罪人と撃ち合いになって死んだのだ。

 あの時私は、正に天啓を得た。

 私の役割はこれだったのだ!罪人に死という救済を与え、人殺しという罪を背負いながら殺されるまで戦い抜けと!

 その生き様をもって『救済』を示せと!

 

「そう!これは救済なのですガブリエル!そこで脳漿をぶちまけている男は時効を迎えた殺人犯!彼の償いきれない大きな罪を私が殺すことで少しでも減らしてあげようと…」

「……なんで…!エマはあなたみたいな…ッ」

 

 私の話を最後まで聞いてくれた上でのその言葉…やはりあなたには理解してもらえないのですね…私の…

 

「ひとごろしじゃないっ…!!」

「動くなッ!!」

 

 ギャビーの拒絶の声の直後に背後から少し聞き覚えのある声が響く。

 ……警察…か。私の銃は救済に必要な弾しか入れていないし…何より警察を殺すのは私の役割ではない…。

 ああ…神よ…ここが私の死に場所なのですね。

 せめて彼が背負う罪を少しでも軽く…

 

「あら…マイケルさん」

「………は?」

 

 弾の入っていない銃口をマイケルさんに向ける。

 私は戦う意思を示しました。これでマイケルさんも咎められることは…

 

 パァン!!!

 

 ああ…これが死…ですか…私のような者にはお似合いですね…

 

 

 

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

 

 

 

 最悪な夢を見た。

 最期に彼女は笑ったように見えた。

 なあエマ…俺達はどうすればよかったんだ…?


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