ようこそポケモンバトル至上主義の教室へ 作:せご曇(せごどん)
入学式が終わると、私たちは1年生の校舎へと移動することになった。
その間に、出来る限り
まずは私たちのクラス、Dクラスから。
ショータくんはカロスリーグベスト16。トレーナーとしてのキャリアは私よりも短いけど、伸びしろは十分にある要注意人物。
他には……………!?
「あの子………!!」
バスの中で、手鏡で髪の毛を整えていた唯我独尊男…………あの時はよく考えていなかったけど、前回のチャンピオンリーグベスト4のロクスケくん……。
何故か準決勝でバトルを辞退して不戦敗になったけど、彼のバトルは覚えているわ。ミロカロスを使った、圧倒的な実力者。対戦相手をほとんどミロカロス1体で6体抜きしていた。
もしあのまま準決勝を戦っていれば………恐らく彼は決勝まで駒を進めて、優勝も夢じゃなかったはず。なのに、どうして……。
「おや? 私の顔に何か付いているのかね?」
すると、ロクスケくんは私の視線に気付いたのか、こちらを振り向いて歩み寄ってきた。
「いえ……別に付いてはいないわ」
「ほう。ならば、私の美しさに見惚れていたということか」
「は………」
「人気者は辛いねぇ。しかし残念だ……私はまだ妻を娶れないのだよ。君も美しくはあるんだが、いささか私とは不釣り合いだからねぇ……」
「ちょっ……何を……!!」
私の肩にポンと手を置いて、彼は会場を去って行った。
「…………………………」
ポケモンバトルの腕は一流なのでしょうけど、人間的には関わりたいとは思えないわね。
と、これ以上彼のことを考えていてもしょうがない。私も会場を出て、1年生校舎へと向かうことにした。
『皆さんには今、選択肢を与えましょう。これから先、皆さんはもしかすると『こんな学校になど入らなければ良かった』と後悔するかもしれません。泣いて自己の選択を悔い、二度と立ち直れない程の傷を心に負うかもしれません。したがって、もしこの話を聞いて入学を躊躇する思いが欠片でもあるのならば、是非お引き取り下さい』
オレは会場を去りながらツキシロ学長の言葉を頭の中で反芻していた。
この言葉を受けて、アラゾメシティを去る者は誰もいなかったな。ここにまで足を運ぶということは、ポケモンバトルについて並々ならぬ熱意があるとみて間違いない。最低でも数年はバトルに時間を使ったのだろう。
当然、バトルの世界の過酷さは知っているはずだ。あの言葉で引き下がるなどはあり得ない………のだが、妙に引っ掛かる。
わざわざ退路を用意するものだろうか。発破をかける程度で済むといえば済む話だ。そこまでする必要性は感じられない。それに「二度と立ち直れない程の傷」とは?
大袈裟にも思えるかもしれないが、ここは調べてみる価値がありそうだ。
教室に着くと、私たちは指定された席に着いた。私の席は、最後列の窓側の一歩手前の席。後ろに誰もいないから、視線を感じずに済むのは助かる。
あのロクスケくんは既に足を机の上に置いて組んでいるなどやりたい放題。不真面目に見える態度は鼻につくけれど、実力者であることは疑いようが無いので、何も言う事は出来ない。
後の面々は、チャンピオンリーグ出場者などの有名人は見られなかった。
私も全地方のポケモンリーグの出場者を覚えている訳じゃないから、細々とした分析が出来ないのが残念ね。少しずつ覚えていくことにしましょう。
「全員、揃っているか」
すると、やや低めの女性の声が教室の前方から聞こえてきた。ダークブラウンのポニーテールの女性。多分、このクラスの担任を受け持つ先生ね。
その声を聞くと、生徒たちは自分の席に着席していった。
「私が今年度、1年Dクラスを受け持つことになったチャバシラだ。教科では『バトル学史』を担当している」
黒いスーツを纏ったこの人は、チャバシラ先生。
「まずは入学おめでとう、と言っておこう。お前たちは各地方から推薦された選りすぐりのトレーナー、未来を期待されている才能の原石だ。これからの3年間、絶えず研鑽を重ねてその才能を形にしてもらうことを期待する」
先生は私たちに祝いの言葉を投げ掛ける。でも、どうしてだろうか。先生の目が、全く笑っていないように見えるのは。
「さて、お前たちにここでの生活について教える。事前に支給してある携帯端末を出せ」
私は、入学前に送られているこの学校専用の携帯端末を取り出した。
ちなみに、自分用の携帯電話については学校側に預けるという形で没収されている。外部との連絡は基本絶たれていて、親族との面会等も特殊な事情を除いて禁止されている。かなり情報管理に厳しい学校だ。
まず、私たちはこの学校の学生寮にて生活を送る。1年生寮の中に男子寮と女子寮があって、下の階の方が男子寮となっている。エレベーターでの移動に時間が掛かるのは少し気に入らないけど、それは一旦受け入れるとする。
そして、日常生活に必要な日用品や衣類、食材等は「
「お前たちにはまず10万BPが提供される。ちなみに外部との通貨単位と差はなく、1BPが1円の価値を持つ」
「………ということは、10万円!?」
黒髪の男子生徒がそう叫んだ。
「それだけの価値が
相当な好待遇ね。この学校に入学するということは、それだけ期待をされているということ。
絶対に夢を叶える必要がある。
……………でも、何か違和感がある。いくらなんでも、10万円なんて手放しに振り込んでくれるものかしら。
BPは毎月1日に振り込まれるという話だったけど、「毎月10万BPが振り込まれる」とは言っていない。ポケモンバトルを学ぶ学校ということもあって、バトルの成績が関係してくる気がする。
他には、それらの日用品は「ケヤキモール」という大型複合店にて販売されていること、ポケモンバトル用具は外部と同じく「フレンドリーショップ」で販売されていることが教えられた。
食事は3食ともアカデミアが提供してくれるらしい。とはいっても、BPを支払う必要はあるみたいだけれど。
「寮の部屋の鍵は、このホームルームの終了後に各自に渡す。必ず受け取るように」
次に、ポケモンバトルのトレーニング施設や明日以降の授業の時間割についての説明があるなどして、入学後最初のホームルームは幕を下ろした。
これだけの環境には、もう二度と身を置けないかもしれない。私は絶対にこの学校で一番になってみせる、そう強く思った時間だった。
1年Bクラスの教室で、オレは担任の「ホシノミヤ」先生の説明を受けながら、この学校のシステムについて把握していく。
10万BPの話、これには間違いなく裏がある。各々才能を見込まれているとは言っても、現時点でのオレたちはあくまでも「原石」でしかなく、手放しに10万円という金額を与えられる立場にあるとは思えない。「毎月10万BP」とも言っていないしな。それに、バトルの実力がものをいう学校で、全員等しいBPを配るなどという話はあってはならない。
もっとも、日用品だけならばいざ知らず、ポケモンバトル用品もとなると10万BPでも足りないという可能性はゼロではない。ともかく
ホームルームが終わると、各々解散となるが、そこである女子生徒が笑顔で口を開いた。
「皆、少し良いかな?」
オレも含め、桃髪の女子生徒の方に視線が集まっていく。
「1年間、同じクラスの
自己紹介、か。
「どうかな?」
そう言って、女子生徒はあたりを見回す。特に反論を述べるような生徒は見当たらない。
「うん、じゃあ私から言うね。私は────」
「俺は帰らせてもらう」
その時、突如として透き通る声で女子生徒の話を遮る者が現れた。
「えっ…………」
「俺は仲良し小好しをしにこの学校に来た訳じゃないからな」
紫色の髪の男子生徒は、そう言うと廊下へと向かおうと歩き出す。
「で、でもさ! お互いの名前ぐらいは知っておいた方が………」
「フッ……」
すると、男子生徒は振り返って嘲るように鼻で笑った。
「温いな」
「え……」
「お前のような甘い奴から、この世界では消えていくんだ。じゃあな」
男子生徒は、今度こそ振り返らずにこの場を去って行った。
「何だよあいつ……」
「感じ悪いな……………」
クラスからは、そう言ってあの男子生徒を非難する声がぽつぽつと聞こえてくる。
女子生徒も、どこか困惑した表情を浮かべていた。
「気にすることは無いぞ。えっと…………」
その女子生徒の隣に、天然パーマの男子生徒が歩み寄る。
「ホナミだよ。私はカントー地方、ハナダシティのホナミ。宜しくね」
女子生徒はホナミというらしい。
「そうか。俺はリュウジだ。ジョウト地方のコガネシティ出身だ」
天然パーマはリュウジと名乗った。
ホナミにリュウジ、か。
正直に言えば、印象が良いかは微妙なところだ。確かに、人間的には良いのかもしれない。互いを知るというのは人間関係の構築の上では重要な要素だ。
だが、勝負の世界では必ずしも不可欠な要素とは言えない。相手の戦略・戦術の分析は不可欠だが、仲良くなる必要は無い。先程のホナミの反応を見るに、甘さがあるのは確実だろう。
とはいえ、この時点では相手の人間性を知ることに意義はある。それを利用することで、バトルを有利に運ぶことも出来るだろうからな。
その後、オレは自己紹介の場に残り続けた。ちなみに、オレの自己紹介は盛大に爆死したということだけを伝えておく。
オレは寮の3階にある自室へと行き、荷物を置くことにした。
部屋の広さは、1人で暮らす分には問題の無いスペースが確保されている。ベッド、机に冷蔵庫、シャワールームにトイレなど、生活に必要な最低限のものは揃えられている。
その他に必要なものについては、後にケヤキモールに赴いて買う必要があるだろう。
「さて…………戻って来たか」
「ゲ」
オレの前には、何もないし誰もいない。視覚的にはそう見えるが、実際にはそこに確かに存在する。
霊体化したゴーストポケモン、ゲンガーが。
「校内は一通り見てきたようだな」
「ゲ」
オレはバスに乗る前から、予めゲンガーをモンスターボールから出しておいた。学校内の情報を探らせるために、だ。校内には見た所、監視カメラがいくつもある。オレがボールからゲンガーを出して探らせていることが分かれば、変に学校側に目をつけられかねない。
ゲンガーから伝えられた情報によると、2年生は全員で80人、そして3年生は全員で60人しかいないらしい。
今、オレたち1年生は128人であるにもかかわらずに、だ。
事前に与えられた情報によれば、学生は毎年128人が集まることになっているはず。3年生に至っては、入学者の半分も残っていない。
なるほど、そういう事か。
やはりこの学校は甘くはないようだな。
2年までに48人が消され、さらに3年に上がる頃にはそこから20人が消される。
そして、その消えた生徒たちの行く末は────────。
独自設定・独自解釈
・BP
バトルポイントの略称。バトルアカデミアでは、このBPを使って日常生活が営まれる。
よう実で言う所のプライベートポイントに該当する。毎月1日に学校側から振り込まれる。
・通貨単位
ゲーム設定に準拠し、どの地方でも「円」が用いられている。1円=1BPというのがバトルアカデミアの基準。
・わざマシン
中にポケモンの技に関するデータが埋め込まれている特殊な機械装置。ディスクではなくキューブ型の機械であり、使い方は本作では「電撃!ピカチュウ」方式を採用している。
バトルアカデミアでは、フレンドリーショップで販売されている。なお、本作では「ひでんわざマシン」というものは存在しない。
・ケヤキモール
よう実原作にも登場する大型複合店。主に日用品をメインに売っているが、娯楽関係の販売は無い。あくまでもポケモンバトルの学びを妨げないための施設。
・フレンドリーショップ
ケヤキモールとは別に、ポケモンバトルに関係する道具が専門で売られている。わざマシンはここで売られている。
・寮
1年生、2年生、3年生で分かれている8階建ての学生寮。1階に16人の生徒が住むようになっており、1〜4階が男子寮で、5〜8階が女子寮。
・校舎
1年生、2年生、3年生で分かれている。それなりに距離が離れた所に分けられているので、基本他学年と校舎内で顔を合わせることは無い。
・ロクスケ
高円寺六助のポケモン版。本作でも他を顧みない自分勝手さを存分に発揮する。
昨年のカントーリーグを優勝し、チャンピオンリーグでも準決勝まで駒を進めた実力者だが、何故か準決勝参加を辞退して不戦敗になる。
・ホナミ
一之瀬帆波のポケモン版。1年Bクラスの女子生徒で、カントー地方のハナダシティ出身。明るく善人な性格は相変わらずだが………。
・リュウジ
神崎隆二のポケモン版。1年Bクラスの男子生徒で、ジョウト地方のコガネシティ出身。
・チャバシラ
茶柱佐枝のポケモン版。相変わらずの堅苦しい口調とダークスーツである。「バトル学史」を担当している。
・ホシノミヤ
星之宮知恵のポケモン版。本作でも軽い性格である。養護教諭を務めている。
・バトル学史
これまでのポケモンバトルの歴史、過去の戦術を学び、探究する科目。