〝何も思いつかない〟
なし崩し的にカンパニーの顧問探偵になったまだは良かったものの、事件なんてそう起こる事ではないし、依頼がなければ収入もないし、収入がなければ家賃も払えない。
しかも『カンパニーの顧問探偵』という肩書きのせいで敷居が高くなり、元々いた顧客数も激減してしまった。
そのくせカンパニーは仕事を寄越さないし〝仕事してない者に給料は与えられない〟などと言いやがる。
最悪なのは副業禁止の規則、厳密には【高級社員及び顧問•助手によるカンパニー業務の副業、これを禁止する】。
要するに〝カンパニーが主に関わっている分野を副業にしたら駄目だよ〟と規定すること。
逆に言えば関わっていない分野なら働いていいのだが、カンパニーが関わっていない仕事の方が少なく、唯一許されているのが芸術関連の仕事で、しかもクリエイティブな方面しか認められていない。
故に爪に火を灯す思いで筆をとっているのだ。
コンコンコン、と控えめなノックがアトリエに響いた。
「どうぞ」と返事をすれば、少しして大量の書類を抱えた少女がドアを開けた。
「失礼します先生、仕事ですよ‼︎」
メガネの底を輝かせながら書類を見せびらかす仕草とは裏腹に、先生と呼ばれた男は少し嫌そうに書類を受け取った。
【十二月一日の昼頃、公園を散歩中、少し買い物をするため目を離した瞬間にいなくなってしまいました:十の石心トパーズ】
「〝また〟犬の捜索願いか」
「〝また〟ではありませんよ、大きな事件が起きないことは良いことです」
「それに異論はないけど犬探しだけでは食べていけな、、、ん?」
見間違いかと思い紛失届けの名前の欄を確認する。
紛失届には、何時頃に•何処で•誰が、物を無くしたのかを記さなければならず、どのような高名な社員であろうとも例外では無い。
そして名前の欄には所属といつでも取れる連絡先を載せる必要もあった。
「ねぇ、この届け状って誰から渡されたの?」
「誰って、書いてあるじゃ無いですか」
「本人から直接渡されたって事?」
「えぇ、そうですよ」
〝ふぅん〟と訝しげに書類を見つめ、アトリエのの机から毎週送られるカンパニー情報冊子を取り出す。
ペラペラとページを捲り最後尾に辿り着くと「あった」と呟き、指を刺した。
「何があったんです」
「トパーズのPだよ、ベロブルグの事業でちょっとしたミスをしたらしい、少し下がってる」
「それが今回の犬探しに関係があるとお考えなのですか、考えすぎなのでは」
トパーズを含む十の石心の権限は絶大であり、それに伴った責任も絶大、下手に人に弱みを見せたがらないのが普通なのだ。
「そもそも十の石心クラスにならばボディーガードが付いているもので、いくらトパーズの警護に集中していたからって犬一匹を見失うわけない」
立ち上がりトレンチコートを羽織るとアトリエの出口に向かう。
「というか見失ったのならその場で探させれば良いのだ、外部に頼る必要がない」
「少し出てくる、午後には戻るからそれまで部屋を自由に使っていいよ」
そう告げてアトリエを後にした。
ありがとうございました。