長いお話が書けません。
オイラーは納得してないマーガレットを隣に付け、足並みを揃えて八百屋に向かっていた。
コーヒーを飲み干した時も、お会計を終えた時も眉間にシワが寄りっぱなしであった。
メガネの上から眉間をぐりぐりしてみても不動の様子で見つめ返された。
「別に無理に納得しなくても良いんだよ、推論が間違っている可能性だって十分にある」
「それは、、そうなのですが」
「大体何を悩んでいるの?果物屋に行ってみれば白黒分かるものじゃない」
マーガレットは眉間のシワを緩めながら答えた。
「どちらの推論が合っているか、それについて悩んでいるわけでは有りません」
「改めて思ったんです、『何故トパーズ氏は犬の散歩に行ったのか?』」
「というか『何故犬を連れてきた』のか」
足取りを緩めながら続けた。
「トパーズ氏の動物好きは有名な話です、そのために社則を破ったほどですから。そのために『カブ』という相棒を連れていると聞きます」
「動物を飼う趣味はないので理解できませんが、癒しが目的なら一匹で事足りるのでは?」
「自分も動物を飼う趣味はないから憶測に過ぎないけど最近のお気に入りとか、案外そんな理由かもね」
「ごめん下さい、約束していたオイラーです」
店番の幼い少年に声をかけると緊張した面持ちで「少々お待ち下さい」と言った。
小走りで店の奥に向かった少年は数十秒でカットされた果物を持って帰ってきた。
「もう直ぐ叔父が来ます、中の事務室でお待ちしてもらっても宜しいでしょうか?」
律儀に目を合わせるために頭を上げていた少年は慎ましく言った。
「ありがとう」と果物を受け取ろうとすると、「お待ちいたします、こちらへどうぞ」慣れてないであろう敬語に微笑ましい気持ちになった。
事務室は思いの外綺麗に整えられていた。
失礼ではあるが店構えからの想像では、ある程度散らばっているものと思っていた。
「そこにお座りください」
ベージュの本革のソファーは低反発使用でロゴには『スターピースカンパニー』の文字が見えた。
「良いソファーですね、最近購入なされたのですか?」
「いえ、そのソファーは貰い物でして知人が勝手に持ってきて置いて行ったのです」
「センスの良いご友人だ、私も同じデザインの椅子を愛用しています」
確か3年前に博識学会のサークルが限定発売したモデルだ、シンプルなデザインに心地良い座り心地から瞬く間に品薄になり緊急な追加発注が行われた。
しかし需要に供給が追いつかず予約は5年待ち、転売価格は相場の五倍になっている。
『全宇宙!丸ごと鑑定班‼︎』に鑑定に出された時は30万信用ポイントの値打ちが付いたプレミア品である。
「彼女も喜びます」
少年はまだ緊張した様子で受け答えに精一杯になっている、時計をチラチラ見ては果物を勧めたり飲み物を取ってきたり、落ち着いていないのがよく分かる。
時計の針が入室してから2分ほど進んだ頃「失礼します」と大柄の主人がノックと共にやって来た。
「ご多忙の中でお客人を待たせてしまい申し訳ありません。ロイド、お前も案内してくれてありがとう。もう休憩を取っても良いぞ」
主人はロイドと呼ばれた少年の頭を撫で、ドアの方に促した。
ロイドは遠慮がちにお辞儀をして、ドアを閉めた。
「素直なお孫さんですね」
「えぇ、ありがとうございます、しかしいつもはあんなに真面目では無いのですよ」
「そうなのですが?私が幼少期の時に同じ対応が出来るとは思えません」
「貴方はどの人物に褒められるとはロイドは大物になるかも知れませんね」
「職業柄いろんな人を見てきましたがロイドくんはその中でも一等ですよ、あぁ、お茶いただきます」
断りを入れて唇を潤すと年季の入った鳩時計が目に入った。
カンパニー鳩時計に酷似したそれは均等に秒針を刻んでいる。
「それで本題の、、、犬探し?ですかな?」
「えぇ、とある貴人の犬が突如として行方不明になったのです、ただの犬探しなら簡単な問題ですが人が人なので協力願いたいのです」
「なるほど」と頷く主人は躊躇するように答え始めた。
「犬が連れ去られたのか、それともただの迷子か、私にはちっとも分からないものですが一つ違和感がありました」
「私の気のせいかもしれませんが、、、」と前置きして。
「あの犬は人懐っこく目が合った瞬間に笑顔でこちらに向かってきました、それで頭を撫でてやっている時に不思議に思ったんです。
その犬は首輪もしてないし、抜け毛のケアも殆どされていないのです」
「もちろんペットの躾け方は人それぞれで、何も悪い事は無いのですが、強いて感じた違和感といえばそれですかな」
ありがとうございます