1986年
スコットランドのある山奥には――巨大な城郭があった。
それこそが――魔法使いと魔女の学校、ホグワーツ魔法魔術学校である。
ホグワーツ魔法魔術学校――
そこは世界における11の国際魔法使い連盟認定校の1つ。
グレートブリテン、及びアイルランド島の11歳から17歳の魔法族が魔法についての理論や実技を学ぶ為の七年制の教育機関である。
数々の偉大な魔法使いが巣立っていった学校である。
その城の中のある部屋に1人の老人がいた。
その老人こそがホグワーツの校長である。名はアルバス・ダンブルドアという。
アルバス・ダンブルドア――
彼はホグワーツ魔法魔術学校校長にして20世紀で最も偉大と謳われる大魔法使いである。
そんな彼は――紅茶を作ろうとしていた。
「――おぉっ……材料が切れたのぉ……補充しなければ」
紅茶を作ろうとするのはいいが、その為の材料がないのに気付いたダンブルドアはそれを補充しようと校長室から降りた。
そのまま材料が置かれている厨房に向かおうとしているところに意外な人物と出くわした。
「おぉっ、これはこれは……珍しい」
「あら、校長」
ダンブルドアの少々驚きながらの会釈に派手な服装で大きな眼鏡を掛けた彼女も会釈し返す。彼女の名はシビル・トレローニーという。
シビル・トレローニー――
彼女はホグワーツ魔法魔術学校の人の運勢や未来を見る方法を学ぶ「占い学」教授である。
実は彼女は魔法界で著名な「予見者」であるカッサンドラ・トレローニーの曾々孫にあたる……が、少なくともダンブルドアの目からみて「予見者」の才能がないように思われている。
それが6年前、彼女がダンブルドアの「占い学」教授の採用面接を受けている、まさにその時に本物の予言――それも当時の情勢を一変させかねない予言を発したのだ。
その予言を発した彼女の身の安全を懸念したダンブルドアにより「占い学」教授として採用される形で彼女の身を保護したのだ。
そんな深い事情を知る由もないトレローニーが芝居かがった大げさな喋り方で自身の動きについて説明した。
「いえ、なに――一度ホグワーツ内を周るべきだとの知らせを受けて、そうしているだけですわ」
「……ほぅ、そうかね」
普段は「占い学」の授業が行われる北塔にこもっており、そこから出る機会が少ない筈の彼女の現状の説明にダンブルドアはつい苦笑してしまう。
そもそも――彼女を「占い学」教授として採用したのは彼女の身の安全を守る為で、彼女にはそんな才能がほとんどないように思われる――少なくとも元々「占い学」に懐疑的なダンブルドアにはそう考えていた。
「ところで校長は……?」
「おぉ、いやなに。紅茶の材料が切れてのぉ…補充しに行くのじゃよ」
「なるほど…ではホグワーツを周っていきますわ」
「おぉ、ではな」
とりあえず会話を支障なく切り上げた2人はそのまま歩もうとし――
「ー」
厨房に向かおうとするダンブルドアの背後から太い荒々しい声が聞こえた。
「!」
その聞き覚えのある声にダンブルドアが素早く振り返った。その振り返った先にはトレローニーしかいなかった――筈が。彼女の様子が一変していた。
彼女が虚ろな目をして、口をだらりと開けていた。
やはり見覚えのある彼女の様子にダンブルドアは目を大きく見開く。
「なんと」
だがダンブルドアの驚愕をよそに彼女の目がギョロギョロ動き始め――いつもの声とは全く違うさっきの荒々しい声で話し始めた。
「遥かに古き時代に世界と遠く離されている空間に封じられた闇が長き年月を経て檻を破り世界に舞い戻り暗き闇の時代の到達が成し得られるだろう」
「だが」
「獅子と熊と鷲と蛇の加護を受けている古き城で集結する4人の子供達」
「闇の帝王の魔手から生き残った男の子」
「右眼に無限の未来を映せし悪魔の護りを身体に纏いし男の子」
「不死鳥の加護を受けし心身を癒やす術を持つ女の子」
「闇の帝王の血を受け継ぐ女の子」
「この4人の絆もまた闇に対抗せし新時代の到達を成し得られるであろう……」
彼女の頭がガクッと前に傾き、ウゥーッと呻くような音を出したかと思うと彼女の首がまたピンと起き上がった。
「あーら、ごめんあそばせ」
彼女が夢見るように言った。
「あたくし、ちょっとウトウトしたみたいですわ」
少し不調気味な彼女にダンブルドアが微笑み
「おぉ、それはいかんな。なら塔に戻り休んではいかがな」
「えぇーえぇ、そうさせて頂きますわ」
ダンブルドアの言葉に従うトレローニーは塔に戻ろうと歩む。それをダンブルドアが微笑みながら見守るも――その姿が完全に見えなくなった途端にダンブルドアの顔が真剣な顔つきになった。
●
校長室に戻ったダンブルドアは先程の予言に関して思案に耽った。
「――「生き残った男の子」……間違いなくハリー・ポッターの事じゃろう……」
――「予言の4人」の1人の身元に当たりを付けたダンブルドアは悲痛な表情を浮かべた。
「……あの子はヴォルデモート……トムと戦う運命を強いられているのに…その上に更なる運命を押し付けられるというのか……」
ハリーの過酷な宿命に涙を流したい気分だったダンブルドアだが――
「……嘆いてもしょうがない。ならば、あの子の肩に負わされる重荷をできるだけ減らすように我らが動かなければ」
覚悟を決めたダンブルドアが続いて「予言の4人」の残りの身元を推測する。
「――闇の帝王の血を受け継ぐ女の子……トムの娘か……」
愛を知らない、信じないあの子が子を残すのはおそらく自身の利になるからそうするだけだろう……
それに子を残すには女と結ばれる必要がある……それもただの女じゃトムにとってはダメだろう。かなりの純血と強さを秘める魔女……
「……確認する必要があるじゃな」
頭に思い浮かんだある女性の周囲を調査する必要があると結論したダンブルドアは推測を続ける。
「――不死鳥の加護を受けし心身を癒やす術を持つ女の子……」
不死鳥の加護を受ける女の子――不死鳥の加護を受けるにはそう簡単ではない。それなりの条件を必要としている。
――不死鳥といえば、我がダンブルドア家に縁がある。
「……まさか、あの子が?」
心当たりはあるもの、その推測を信じたくないダンブルドアだったが、もし推測通りだとすれば――
「……運命は残酷じゃな……」
運命の残酷さに決めた覚悟が揺れかけて、再び涙を流したいダンブルドアだが
「……アバーフォースに忠告する必要があるじゃな」
それでもダンブルドアは自身のできる限りの手を打とうとする。
「問題は……最後の1人じゃな」
「予言の4人」最後の1人の身元に関してはダンブルドアもさっぱりだった。
だが――
「……未来を映せし右目……「悪魔の護り」……」
そう呟くダンブルドアの頭にある男が浮かんでくる――
彼にとっては色んな意味で忘れられない男。
もしや――あの男の関係者が――?
「――まさかな……あやつに子はない筈じゃ」
ダンブルドアは首を横に振り
「とりあえず保留じゃな」
最後の1人の身元に関しての推測を保留した。
そして――
「――遥かに古き時代に世界と離されている空間に封じられた闇……か……」
ヴォルデモートとは違う新たな脅威の存在にダンブルドアは目を鋭くする。
「――古き書物に書いてあれば良いんじゃがな……」
そう呟くダンブルドアは脅威の正体を見極めようとする――
――闇の時代を一度築いてきた闇の帝王とは違う新たな脅威の影に対して最も偉大な大魔法使いが対抗せんと動き出す。