1986年
スコットランド内でのある緑地。
そこを多くの人々が訪れてて、緑一杯の景色を楽しめながら遊んでいた。
そんな中での一本木の下には――
「…」
心細そうに体育座りしている男の子が1人いた。
この男の子の名はハリー・ポッターという。
ハリー・ポッター――
彼は今はまだ幼いが、魔法使いである。それもただの魔法使いではない。
実は――赤ん坊の頃に史上最悪の魔法使いヴォルデモートにポッター家ごと襲われてハリーにも死の呪いをかけたが、そこからの生還を果たした。
それだけではなくヴォルデモートは力を失い姿を消すという結果を伴った。それ故に魔法界では「生き残った男の子」として誰もが知る存在となり、英雄視されている。
最も、それを知る由もないハリーは両親を喪してしまったので親戚のダーズリー家に預けられ、そこで半ば虐待同然の扱いを受け育っていた。
そういう過程からハリー・ポッターは自身に自信を持てなく卑屈な面がみられていた少年として成長してしまった。
そんな生活でのある日、ダーズリー家が旅行する事になっていて、その旅行の際に彼らにとっての目障りであるハリーを近所のフィッグおばさんに預けようとするも――
フィッグおばさんは風邪にかかり、ハリーを預える状態ではなかった。他に預けるアテがないダーズリー家は仕方がなくハリーを連れていかざるを得なかった。
「……はぁ」
ハリーは暗くため息をつく。
そしてダーズリー家の楽しげな姿を見つめるハリーは再びため息をついてしまう。
「はぁ……」
――ほとんど家中に閉じ込められるような生活を送ってきたハリーは最初こそ生まれ初めての旅行にはワクワクしていたが、今は気分が沈んでいた。
緑一杯の景色に少し癒やされているが、やはり相変わらずダーズリー家から蚊帳の外にされているハリーの胸中にはどうしようもない孤独感が占めていた。
――少しでも気にかけてくれる人がいれば、「僕」という存在が少しはマシになるのだろうか……?
そんな考えがハリーの脳裏をよぎっていた。しかし自己肯定感が低い彼はその考えを消す。
――まさかね、こんな僕なんか気にかけてくれる人なんていないのにね……
――このままいけばハリー・ポッターの心は死にかねなかった。それ程に彼の自己肯定感の低さは異常なのだ。
だが、ハリーの考える通りに彼を気にかける人が1人さえもいない――それが彼の置かれている境遇だ。
――だが、そこに
「おい!お前!」
突然声を掛けられ、驚きに頭を上げたハリーの目前には――おそらくハリーと同齢で金髪の巻き毛、眼が濃い青色の陽気な雰囲気の幼いながらハンサムな容姿をしている男の子がいた。
その子が自身をジロジロ見てくるのにハリーが目を見開く中、彼が訝しげに口を開く。
「なーんか、つまらなさそうな顔してるなぁ…一体何してるんだ?」
はっきりと言葉を出す男の子にハリーはおどおどし――
「……べ、別に」
その言葉を残し、それっきりに彼から目を逸らし頭を下げるハリーに彼は目を細める。
「……座るぞ」
「え、え…い、いいよ……!?」
その言葉をハリーが否定しようとするが、答えを待たずに彼はハリーの隣に座り込む。
行動的な少年にハリーはますます目を見開く。そんな彼に男の子はニカッと活発的な笑みを浮かべる。
「オレは――アビスと呼んでよ!」
「――ぼ、僕は……ハリーだよ」
男の子――アビスの名乗りにハリーもつい名乗り返す。
ハリーの反応に満足気に頷いたアビスは続いて言葉をハリーに掛ける。
「そんで、何をつまらなさそうにしているんだ?」
「!べ、別に……」
アビスのその問いかけにハリーはしかし何でもなさそうに顔を逸らした。彼の態度にアビスは頬を膨らませ――
「――言ってみろよ!言わないと分からないぜ!ほらほらほら!」
アビスがハリーに取り掛かってみる。そのしつこさにハリーもつい堪忍袋の緒が切れ――
「――うるさいよ!」
「お!」
「――アビスには分からないよ!」
「お!お!」
ハリーが立ち上がりながら怒鳴りつけた。それに対してアビスはなぜか嬉しそうな表情を浮かべていた。
ハッとするハリーは座り直し――ボソッと零す。
両親の死、預かられたダーズリー家からの冷遇、それによって感じてしまう孤独感――
ハリーの話にアビスは真剣に耳を傾げていた。
話し終えたハリーは少し我に返る。
――僕は一体何を言っているんだ?
「あ、アビス。今のをわ「オレは」すーえ?」
少し慌てているハリーの言葉を遮って話し始めるアビスの目は空を見上げていた。ただ――遠い目になっていた。
「オレは両親に構ってもらえないんだ」
「気のせいかもしれねぇが……」
「オレより妹との時間が多いんだ」
「オレなんかより妹はすごいからなぁ……妹ばかりを可愛がっているのも分かるが……」
そう静かに言うアビスの目にはハリーにとっての見覚えのある感情が込められていた。
――孤独
それに気付いたハリーはすぐにアビスに親近感が湧き出てきた。
「――アビ「よし!」!?」
突如勢いよく立ち上がったアビスはハリーの手を掴み――駆ける。その勢いにハリーは戸惑いながら駆けてしまう。
「難しい事はやめだ!どうせなからパーッとやろうぜ!なぁ!ハリー!」
「あ、アビス!?一体どこへ――」
「来いよ!」
「!――うん!」
戸惑うもアビスの活発的な笑みにハリーもつい――笑みを浮かべる。
●
それから――ハリーとアビスは遊び回っていた。
――アビスが木の枝に堂々と立ち、ハリーがドキドキしながら木登りする……
――空中アスレチック遊具に乗って笑みを浮かべているハリーにアビスは微笑む……
――2人揃ってアイスクリームを頬張る……
空が赤く染まった頃にハリーとアビスは歩み並べていた。
「楽しかったよな?」
「うん!」
アビスの問いかけにハリーは晴れやかな笑顔を浮かべながら即答した。
「こんなに楽しかった日は生まれ初めてだよ!」
「そりゃ良かった!」
ハリーの続いての言葉にアビスも活発的な笑みを浮かべる。しかしハリーはすぐに表情を暗くする。
「……でも、楽しい時間はこれで終わりなんだね……」
「しかも……アビスと別れるし……」
暗く俯いているハリーにアビスは困ったような表情を浮かべてしまう。そして――
「――ハリー」
「!」
「これを見なよ」
そう言うアビスの手には――
天然石でできている四つ葉クローバーだった。
――よく見れば1つ葉のペンダントが4本あって、それらが合わって四つ葉クローバーを形作っていた。
それに目を見開くハリーにアビスはサプライズ成功を喜ぶような笑みを浮かべていた。
「そこの店で見つけてな……気に入ったから買ったぜ」
「4本あって……それらを合わせると四つ葉クローバーになるんだ。面白いだろ?」
アビスの説明にうんうんと頷くハリーに笑みを浮かべるアビスは自身の手に持つ4本のペンダントのうちから2本を手にする。
「2本はオレが持つとして……残りの2本はお前にやるよ」
そう言うアビスの手に持つ2本のペンダントをハリーに掲げる。
「い、いいの?」
「おう!オレ達の思い出の証として!」
アビスのその言葉、掲げてくれる2本のペンダントにハリーは嬉しそうな笑みを浮かべ――
「ありがとう!大切にするよ!」
アビスから貰った2本のペンダントを見て頬が盛り上がってしまうハリーにアビスは声掛ける。
「ハリー」
「!」
「お前には――このオレがいる」
「そしてオレはお前をクソとは思わない。むしろいい奴だと知っている」
「だから――例えダーズリー家の奴らとか…冷たくされても自分をクソと思うな!」
「お前はお前なんだから――」
「胸を張ろうぜ!なぁ!ハリー!」
アビスからの激励にハリーは目を丸くするも――
「……うん!」
頷くハリーの笑顔には先程の暗かった男の子とは思えない程に心強いものを感じさせられていた――
――それから泊めている宿舎の前でハリーとアビスは名残惜しそうに別れた。
「――またね!アビス!」
「――おう、いつか会おうぜ!ハリー!」
それからダーズリー家の元に戻ったハリーの表情はしかし清々しかった。
「――見ててね、アビス。僕は前を向いて生きるよ」
――その日からハリー・ポッターは冷遇、虐待を受けながらも逞しく成長する事になる。