1988年
スコットランド内でのある村は――
燃え盛っていた。
それも村そのものを焼き尽くそうとする程だ。
驚くべき事に村を焼き尽くす青い大火炎が数匹の怪物の姿になっていて暴れていた。
その猛威は一村を崩壊させかねなかった。
このままでは打つ手なし――かと思われた。
「こ、これは!!」
「な、なんて凄まじい魔法だ!!」
突如どこから現れた数人がその青い大火炎に動揺していた。そんな人々の中からその声が響いた。
「村の周囲に散らばって呪文を唱えるのだ!!この炎を止めるんだ!!」
その声に人々はハッとし表情を引き締まる。その直後に突然姿を消した。
村の周囲にそれぞれ姿を消した人々が突然姿を現し――
「「「フィニート!!! 終われ!!!」」」
村の周囲に散らばっている人々――魔法使いと魔女達が一気に杖を地面に付けて呪文を唱えた。
その周囲から湧き出た赤い火炎のようにみられる光が青い大火炎を抑えようとしていた。青い大火炎――形作られた数匹の怪物の方も抵抗している事でしばらく釣り合って、やがて赤い光が青い大火炎を抑えつけた。
青い大火炎が消え去ったのを確認して胸を撫で下ろしてしまう人々に再び声が響く。
「まだだ!!先程の魔法を唱えた者を捕らえるんだ!!中心地にまだいる筈!!」
その声に頷く人々は中心地に突然姿を現し移動し、青い大火炎を引き起こした者を捕えようとするが――
「え!?」
「こ、これは…!!」
「……子供?」
青い大火炎――村の中心地には――1人の男の子が横たえていた……
●
魔法省――
それは魔法界の統治機構。
それは国際魔法使い連盟の元に各国に存在している。
もちろんイギリスにも存在している省庁はイングランド、スコットランド、ウェールズを含めたグレートブリテン及びアイルランドの魔法コミュニティにおける法の管理と施行を行っているのだ。
その省庁の中のある廊下を歩いている老人が1人。
――アルバス・ダンブルドアだ。
どこか慌てているようにみられる彼は少し急いでいた。やがて
「――おおっ、アラスター」
「おう」
ダンブルドアが着いたある扉の隣の壁にもたれる男が1人。彼の風貌は恐ろしげだった。顔に無数の傷跡が残っており、身体の一部もなかったのだ。また360度回転する他、あらゆる物を透視することができる義眼――「魔法の眼」を付けているのだ。彼の名はアラスター・ムーディという。
アラスター・ムーディ――
またの名をアラスター・〝マッド-アイ〟・ムーディとも呼ばれてる彼は闇の魔術、または犯罪全般から魔法界・マグル界を防衛すべく、闇の魔法使いを逮捕することを主な任務としている闇祓いだ。それもただの闇祓いではない。イギリス魔法界の監獄アズカバンの半分を埋めてきた腕利きの闇祓いなのだ。
そんな彼とダンブルドアは戦友関係だ。故に彼らは少し穏やかに会話し始めた。
「ダンブルドア、あなたを呼んだ理由は聞いているな?」
「もちろんじゃ……年若い男子の運命を決めなければならないと聞けば出ない訳にはいかぬのじゃ」
真剣な表情を浮かべているダンブルドアだが、ムーディの顔を見た途端に少し眉をひそめた。
「……理由はそれだけじゃないのか?」
「……あぁ、その男子――その身元こそがあなたを呼ぶべきだと思わせられてな……」
ムーディの深刻な説明にダンブルドアは表情をますます鋭くする。
「――その男子とは?」
ダンブルドアのその問いかけにムーディは瞼を閉じて深呼吸する。やがて――
「――その子の名は……」
「――アビュッスス・グリンデルバルドだ」
「…!!!」
その名にダンブルドアは目を大きく見開く。何せ彼にとってはその名――名字は無視できないのだから。
――グリンデルバルド。
その名字はアルバス・ダンブルドアにとって色々な意味で忘れられないのだ。何せ――
固まったダンブルドアを少し気遣わし気に見つめるムーディの口が開ける。
「――あなたが動揺するのも分かる……何せ、一応けりが付いた筈の過去が再び現れたのだから――」
アルバス・ダンブルドアの事情――過去を知ってるムーディは俯いている彼に言葉を続ける。
「――少なくとも、そのままで居続けると話が進められないと思うんだがな……」
ムーディのその言葉にダンブルドアはハッと顔を上げ――
「……そうじゃ、そうじゃな」
頷いたダンブルドアはムーディにも頷く。
「――心配かけたな」
「あぁ」
「――行こうかのぉ」
ダンブルドアがそう言うのを合図に2人は扉を開けようとした。
●
魔法省の中のある会議室に十数人の魔法使い、魔女達が座していた。
その中で1人立っている進行係の魔女が口を開く。
「こんな時間にも関わらずに臨時総会を開催するのは――先程起こった大事件の後始末をつける為です」
彼女がそう言い切った。
――そして彼女が口にした大事件とは……
スコットランド内でのある村を闇の魔法使い集団――「死喰い人」残党が襲いかかったのをきっかけとして――そこから青い大火炎が湧き出てきたという出来事だ。
その青い大火炎は闇の魔術――「悪魔の護り」だと判明された。
そして大火災は勘付いて急ぎ向かった魔法省の闇祓い達により収束できたものの、村の住民約500人と「死喰い人」残党20人を合わせた上での生者は――たった1人だった。
魔法省の念入りの大調査により「死喰い人」残党がその村を襲いかかった動機は――その村こそが闇の魔法使いゲラート・グリンデルバルドの直系の末裔の住む地だったからだ。
彼らによれば自身の主――「闇の帝王」ヴォルデモート卿が現れるまで最も危険な魔法使いの王座にあったとされていた程の闇の魔法使いの一族ならば、ヴォルデモートを復活させられる筈だと思い込んでいた。
「死喰い人」残党がグリンデルバルド家の人々にできもしないヴォルデモート復活を強いし、不可能だと否定した彼らに焦れた残党は村の人々を殺戮してしまった。
それでもやはり不可能だと言い続けた彼らに怒りを爆発させた残党が彼らをほとんど殺害してしまった。そんな中、最後に1人残されたグリンデルバルド家の人間――アビュッスス・グリンデルバルドが突如無意識ながらも「悪魔の護り」を発動させてしまった。その炎が残党を焼き尽くし、村に広がってきたのだという――
魔女の説明、そして空中に浮かんでいる燃え盛っている村の映像にダンブルドアが痛感な表情を浮かべた。
「(なんと――まだ年若い男子に降りかかる悲劇としては……あまりにも惨すぎる……)」
俯いているダンブルドアをよそに魔女が言葉を続ける。
「無意識ながらも「悪魔の護り」を発動させて村を焼き尽くした――アビュッスス・グリンデルバルドはご覧の通りです」
魔女のその言葉と共に空中にアビュッスス・グリンデルバルドの映像が浮かんできた。その映像を目にしたダンブルドアは息を呑んでしまう。
「――ゲラート……」
――それは若き日のゲラート・グリンデルバルドをさらに幼くしたような容姿だった。
その姿を見たダンブルドアの脳内に失われた遠き日の思い出が甦った。その思い出につい感傷に浸ってしまうダンブルドアだが、すぐ意識を現実に戻す。
「(――もう過ぎた事だ。それより今だ)」
そんなダンブルドアをよそに魔女が言い放つ。
「今回の題は――アビュッスス・グリンデルバルドの身柄をどうするかという事です」
魔女がそう言った途端に会議室が一気に震わされた。
「アズカバンに幽閉すべきだ!!」
「待て!まだ子供だぞ!そんな残酷な事を許しておけるのか!!」
「何甘い事言ってんだ!!あのゲラート・グリンデルバルドの末裔だぞ!!しかも――村を焼き尽くしただぞ!!」
「その通り!そんな事をしでかした者を生かすと必ず将来の災いになるぞ!!」
「だからといって――幼い子供への扱い方を間違えてはいけない!!」
「あぁ!!しかも、あの子は村を襲われて家族を奪われたばかりだぞ!!もうこれ以上のものを与える必要はない!!」
アビュッスス・グリンデルバルドの処遇を巡っての激しい論争が起こった。
まだ幼いながらも無意識といえ闇の魔術を発動して村を焼き尽くした彼の才を危険視して排除すべきだという派とまだ幼いだからこそ過激な扱い方をせずに導くべきだという派の二派に分かれて――激しく言い合った。
そんな論争の中、ムーディが立ち上がり、言い放つ。
「アビュッスス・グリンデルバルドの面倒はこのワシが見る」
「「「!!?」」」
ムーディの宣言に会議室にいる人々の目が一気に彼に向けた。
「ワシがあの小僧が自らの力をコントロールするように、また使い道を間違えないように見よう」
人々の目に怯まないムーディは言葉を続ける。
「な!?し、しかし……」
「しかしなぁ……」
上げてくる懸念の声にムーディはニャリとする。
「フッ……ワシを誰と思っておる……アラスター・〝マッド-アイ〟・ムーディだ!」
「「「!!」」」
「……それだけじゃ心配なら――」
ムーディがそう言った途端にダンブルドアも立ち上がり、言い放つ。
「このワシがいるホグワーツに入学させよう」
「「「!」」」
「ホッホッ……ゲラート・グリンデルバルドを討ち破った他でもならぬこのワシがあの子を見ましょうぞ」
ダンブルドアが穏やかにそう言うと会議室の人々が半分ぐらい不快な表情を浮かべながら――それでもあれ程に激しく論争していた場が収束されてきた。
何せアズカバンの半分を埋めた腕利きの闇祓い、そして何よりゲラート・グリンデルバルドを討ち破ったアルバス・ダンブルドアが直接手にかけるのだ。
適任すぎる人材が動く以上、論争はもはや無用だろうからだ――
●
廊下をダンブルドアとムーディは歩きながら会話していた。
「――とりあえずアビュッススの処遇は様子見で落ち着きましたな」
「そうじゃな……」
ムーディからの声掛けに反応してもダンブルドアは遠い目をしていた。そんな彼にムーディは口を一文字にする――が、声を掛ける。
「――おかしいと思わんか?」
「!……どういう意味じゃ?」
ムーディのその言葉にダンブルドアも流石に顔を向けてきた。
「あなたでさえゲラートに子がいた事実を知らなかったんだ……たかが「死喰い人」残党共が、それもギリギリな生活を送ってきた奴らが一体どこでそれを知り得たのだ?」
ムーディの指摘にダンブルドアもハッとする。
「……そうじゃ。そうじゃな……相分かった、こちらでも調べよう」
ダンブルドアがそう言うのに頷いたムーディは足を早く進める。
「――では、ワシはアビュッスス・グリンデルバルドを迎えに行かなければならないからな」
少し駆けていくムーディの姿を凝視するダンブルドアはつい呟く。
「……アラスター、あの子を頼んだぞ」
ダンブルドアの呟きが聞こえたのかムーディが手を振る。
やがてムーディの姿が見えなくなったダンブルドアが呟く。
「――右眼に無限の未来を映せし悪魔の護りを身体に纏いし男の子……か……」
●
魔法省の中の客室に1人の少年が座していた。その少年こそが――
「お前がアビュッスス・グリンデルバルドか」
「……あぁ」
客室に入ったムーディが静かに座り込んでいるアビュッススを凝視する。
しばらく気まずい沈黙が流れていたが、ムーディの口が開ける。
「ワシの名は――「アラスター・〝マッド-アイ〟・ムーディ。闇祓い……だろ」!」
ムーディの紹介を遮りながら彼の身元を言い当てたアビュッススの言葉にムーディは目を見開く。
驚愕するムーディにアビュッススは振り返る――彼の右眼はかなり薄い青色になっていた。
ゲラートの持つ能力を知るムーディは納得した。
「――「未来視」か」
「――そうらしいな。右眼に未来らしい映像が映ってやがる」
冷静に説明するアビュッススの顔はしかし、少し痛々しかった。
「――情報量の多さにより頭を痛めているのか」
「そうだよ、頭が痛ぇよ……クソったれ」
顔をしかめるアビュッススがしかしムーディに視線を向ける。
「――でも、オレの持つ力の使い方をアンタが教えてもらうんだろ?……ムーディ」
「……分かってるなら話は早い――アビュッスス・グリンデルバルド」
アビュッススの前を堂々と立つムーディが宣言する。
「これからこのワシがお前の面倒を見る――ただし、厳しく躾けるからな――覚悟はしておけ」
ムーディのその宣言にアビュッススはしかし微笑む――それを見た者が不安感を感じさせる笑みをだ。アビュッススのかなり薄く青い右眼が鈍く光っている――ように感じられた。
「――これからよろしくな?――師匠様?」
「……フン」
――この日からアビュッスス・グリンデルバルドは秘めている強大な力を制御する為に闇祓いアラスター・〝マッド-アイ〟・ムーディの元で鍛えられる事になる。