傭兵ギルドの日常譚   作:烊々

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最高戦力(フゥイスト)

 

 

 傭兵ギルド三傑『狂信のルキナ』と戦争屋最高戦力第一席『殺興のアクナティス』が壮絶な戦いを繰り広げていた頃、アレンはラルフから押し付けられた雑業である国を訪れていた。

 

「あーあ、やだやだ。なんでわざわざ俺があんなヤツに会いに行かなきゃいけないんだか」

 

 アレンがボヤきながら到着したその国は、剣と魔法の聖地と呼ばれる大陸の端の小国『アスデニウス』。

 

「それに、この国扉ワープ繋げないの不便すぎるだろ……」

 

 ある理由によりラルフは傭兵ギルドの仕事であってもこのアスデニウスという国には直接ゲートを繋げられるようにしていないので、アレンはわざわざ一度国境外の山村にゲートを繋げそこから徒歩で入国したのだ。

 アスデニウスが剣と魔法の国と呼ばれるのは、剣術と魔術における世界最高の教育機関『アスデニウス学園』通称『アス学』が存在すること、そしてアスデニウス出身のアス学卒業生から世界最強の剣士と世界最強の魔法使いが輩出されたことにある。

 また、アス学にはかつてあのラルフも留学していたという。

 

『ま、一年もいなかったけどね』

 

 そして、今回ラルフから押し付けられた雑業でアレンが訪ねるのは、世界最強の魔法使い、魔法学の権威こと『魔皇』の称号を持つ才女『イリス・ポースポロス』。

 その天才的な頭脳と、超越的な意志の持ち主で、いくつもの新たな魔術理論を提唱し、二十三歳という若さで魔法会の常識を塗り替えてきた天才という言葉では言い表せないほどの傑物。今現在発行されている魔法学の教本の殆どは彼女が執筆したもので、フォルティス大陸において魔法使いを志した者の中で彼女の名を知らぬ者はいない。

 

「消えろ」

 

 そんな才女イリスは、自身に訪ねてきたアレンを見るなり、冷たくそう言い放った。

 

「お前のような三下では話にならん。ラルフを出せ。話はそれからだ」

 

 イリスという女性ついて彼女が天才であることの次に有名なことは、その華奢で可憐な容姿からは想像できないほど尊大で傲慢な性格だった。愛想のカケラもなく、常に恫喝的な声色で話し、他人を顧みない。ある一人の人間を除き全ての他人を見下す、そんな悪辣な人間性の持ち主なのだ。

 

「そのラルフの小間使いで、俺はここにいるんスけど……」

「小間使いでは話にならんということだ。奴の空間魔法は術式の構築が現代の魔法学では全くの未知、私ですら解析できていない。あんな凡夫如きが独占するには余りにも勿体のない代物、奴を細切れにして研究してやりたいぐらいだ。この依頼を口実に奴を呼び出そうと思っていたのだがな……」

 

 ラルフがアスデニウスに直接ワープゲートを繋げない理由は、イリスの存在にあった。

 イリスという魔法使いの性格は最悪だが、己の魔法の知識を決して独占はせず、自身が開発または解析した魔法は全て公開する。純粋に魔法学の発展を誰よりも願っている人間なのだ。

 だが、そんなイリスのテリトリーであるアスデニウスに空間魔法のゲートを繋げてしまった場合、その魔法の"痕跡"が残ってしまい、イリスにその痕跡から空間魔法が解析され魔法そのものが大陸中に公開までされてしまう可能性があり、それはラルフにとって好ましくないことなのだ。もし自身の空間魔法が公開されたとなると、戦争時代における傭兵ギルドの優位性が失われることになり、また戦争時代の最中に人間の往来が自由になってしまえばどれほど戦禍が広がるか想像に容易いだろう。

 公開されたところで自分の特殊な空間魔法は自分以外には使用できないだろうとラルフは思っているが、その不可能を可能にできるとラルフにも思わせてしまうほどにイリスという魔法使いは天才なのだ。

 

「……まぁ良い。奴が傭兵ギルドという傲慢の本懐を成し遂げた後ならば、大人しくあの魔法を差し出す気にもなるだろう」

「傲慢……?」

「"愚"は人間の本質の一つだ。それを否定することが傲慢でなければなんだ」

「……」

 

 アレンはイリスの言葉に何も言い返すことができなかった。それは、イリスと口論になっても頭の良さや口の巧さで勝てる筈がないこともあるが、己を含む大衆が愚かであることを実際に多くの戦地に立ってきた経験から理解しているからだ。

 

「それに、馬鹿共の馬鹿な行いにより馬鹿共が何人死のうが私の知ることではない」

 

 そして、そんなアレンの理解すら見透かしたかのように、イリスは吐き捨てるように言った。

 

「それはさておき、例の自害用の呪印とやらは中々に、興味深いものだった」

「……とは?」

「お前のような脳無しに魔法の話が理解できるとは思えんが、説明してやろう」

 

(腹立つ〜。まぁ、俺は魔法あんま分かんないから事実なんだけど)

 

「魔法自体は簡素で稚拙な物だ。だが、術者の手掛かりとなるものが徹底して隠蔽されている。普通の魔法使いなら魔力の残滓からでも使用者を特定できるものだが、これほどまでに滅茶苦茶に弄られているとなると難しいだろう。術師は相当な手練と見える」

 

 彼女の言う"普通"の基準は圧倒的に高いため、これができないような魔法使いは魔法使いとは呼べないという意味が込められた言葉であるのだが、魔法知識に乏しいアレンがそれを知る由もない。

 

「だからこそ、興が乗った。もう少し時間を寄越せとラルフに言っておけ。この使用者とやらの素性を暴いてやるとな。手練の魔法使いとはいえ、私には遠く及ばんことを思い知らせてやろう」

「そスか」

「というわけで私はこれから忙しい。要件は済んだだろうからどこへでも消えろ」

「はいはい。そういえば、旦那さんは何処へ?」

 

 イリスの夫とは、アスデニウスに所属する世界最強の剣士『剣皇』のことである。

 

「……あの剣術バカか。『五剣』の捜索と言っていたな」

 

 『五剣』とは、森羅万象を司ると言われている五本の剣である。自然の力、または信仰や呪いが剣の形になったものとも言われており、ある程度の実力を持つ剣士が五剣の内一つを振るうだけで戦場を支配できるほどの絶大な力を持つ。

 剣皇は、戦争時代において五剣の存在は戦禍を拡大させると危惧し、それら全てを封印することを目的に動いている。

 

「全ての剣が一箇所に集まると良くないことが起こるとも言っていた。むしろ所持者がバラけているのならば好都合だと。私からすれば、その良くないこととやらをこの目で見たいのだがな」

「……」

「なんだその目は? 鬱陶しい。さっさと消えろと言っている」

「わかりましたよ」

 

 こうしてイリスの下から帰ったアレンはラルフに押し付けられた雑業を果たしたことになるのだが……

 

「てか、俺は何しに行ったんだ……? まぁいいか」

 

 アレンは嫌味を吐かれた以外何もしていないことに気づいたのだが、それ以上何も考えないことにした。

 

 

 

 

 時は進み、ゼエル宗教戦争の一件の終結から数日後のこと。

 

「さて、戦争屋の最高戦力会議を始めようじゃないか」

 

 薄暗い部屋の中、円卓の上座に着くアクナティスが口を開いた。

 椅子の数は六つ。戦争屋の最高戦力が六人であることを意味している。

 

「……戦争屋?」

 

 入り口から三番目に近い席に着き、鞘に収められながらも尚仰々しい雰囲気を放つ一本の剣を携えた猿人の男、最高戦力第三席『クリング』が怪訝そうに尋ねる。

 

「我々の組織名さ。今までは"組織"と呼ぶだけで名称が無かっただろう?」

「下らん……」

 

 アクナティスの言葉に対し、クリングは厭わしげに溜息を吐き捨て席を立つ。

 

「待て待て、帰ろうとするな。今回君たちを集めたのは組織名の告知だけでなく今後の我々の方針を話し合う為に……」

「俺はそもそも、こんな組織に属したつもりもないし、貴様の下についたつもりもない」

 

 アクナティスの言葉を遮るようにクリングが言い放つ。

 

「元々我らは組織ではなく利害の一致で集まっているだけに過ぎない、かつてお前も言っていただろう? それを、何が席次だ。そして、お前が一で、俺が三? まるで俺がお前の格下のようではないか。それが気に入らんのだ」

 

 クリングとアクナティスのやり取りを、心底冷めた様子で横目に見る戦争屋第二席の獣人の少女『トォト』。

 

「……何か言いたげな目だな、トォト」

「何もない。一々絡まないで欲しい」

「俺は貴様がその席に座ることも気に入らん。アクナティスのお気に入りの飼い犬だからと二席にさせてもらってる分際で」

「私があなたより強いからここに座っているだけ。他に理由はない」

「ほぅ、ならば試してやろうか?」

「構わない」

「やめなさい」

 

 一触即発の雰囲気が漂うスリングとトォトを、アクナティスが仲裁する。

 

「あまり好き勝手に行動しようとしないでくれたまえ。他の者に示しがつかない」

「一番好き勝手に行動してる人に言われたくない」

「私は良いのさ。第一席だからね」

「ウザ……」

 

 得意げに笑いながら言うアクナティスに対し、鬱陶しそうな顔で吐き捨てるトォト。しかし席次が上のアクナティスに従い、クリングへの敵意を引っ込めた。

 

「クリング、組織の席次は実力や実績によって"あの方"が決めている。そこに他の要素は介在していない。私やトォトが気に入らない気持ちは分かるが、そこは理解しろ」

「……」

「それに、組織における利のみを享受し気に入らないことには従わない、というのは筋が通らない。それでも我を通したいのであれば、私やトォトより実績を上げ、私から第一席の立場を奪えば良い。第一席ならば、ある程度好きなようにこの組織を動かせるからな。"あの方"が定めた正式な手順を踏んだ上でならば、いつでも私は君にこの席を譲ってやるさ」

 

 アクナティスは尤もな理論武装でクリングを黙らせた。

 

「とりあえず、座りたまえ」

「……フン」

 

 納得はいかないまでも、ひとまずは引いた様子でクリングが席に座りなおす。

 

「さて、次の議題は『傭兵ギルド』についてだ。先日、傭兵ギルド三傑の一人『狂信のルキナ』と交戦した」

 

 最高戦力第一席という重要な役職の癖にフラッと戦場に遊びに行ったアクナティスに、呆れたような溜息を吐くトォト。

 

「なんだい?」

「……なにも」

「なら続けよう。流石の戦闘力ではあったが、我々にとっては然程脅威ではない。それに、良くも悪くも戦争時代を象徴するような人柄だ。暫くは放置しても良いだろう」

 

 凶悪な戦い方をするルキナだが、人々に恐怖を与え厭戦感を持たせるだけでなく、人々の闘争心を煽る側面もある。

 アクナティスは噂話でなくルキナ本人と接したことで、それをより実感していた。

 

「だが、厄介なのは『防竜のジーク』だな。彼の存在は戦争時代を停滞させる。傭兵ギルドは今のところ我々にとっても都合が良いとはいえ、彼は間引いた方がいい」

 

 防衛戦の依頼しか受けないジークは、戦争時代の主役ともいえる軍事大国たちを苦戦させ、戦争時代の縮小を誘発させる。戦争屋にとっては忌々しい存在だった。

 

「なら、俺にやらせてくれよ!」

 

 入り口から二番目に近い席の獣人の大男、戦争屋最高戦力第五席の『ヴォルフ』が、元気よく立ち上がりながら言う。

 

「ヤツとは戦いたかったんでな! いい機会だ!」

「ならば君に任せるよ、ヴォルフ」

「おう! 任せておけ! 防竜などではなく俺が最強の生き物であると証明してやろう! はっはっは!」

 

 豪快な笑い声を上げるヴォルフの隣に座る猿人の女に、アクナティスは仮面越しでも分かるように視線を送る。

 

「あ、アタシもスか?」

 

 その女は、戦争屋最高戦力第六席の『ビナト』。最高戦力の新入りである。

 

「そうだね。ヴォルフはこと戦闘においては心配ないが、細かいことを考えるのが苦手な性格だ。君に彼のサポートを任せたい」

「うっス。分かりっした〜」

「ソルーク。君は引き続き"表"の仕事を頑張ってくれ。君の情報が我々の頼りでもある」

 

 次にアクナティスが声をかけたのは、姿勢良く座る魔人の男性、第四席の『ソルーク』。

 

「……かしこまりました」

 

 ソルークは礼儀正しくも、まるで感情が無いかのような平坦な声で、囁くように返事をした。

 

「クリングとトォトは、我々の方針を著しく逸脱しない限りは好きに行動してもらって構わないよ。トォトは例のタイミングを探っているんだったかな?」

「そう。だけど、以前あなたがラルフォード・ローレンベルグに分かりやすく喧嘩を売ったせいでやりづらくなってしまった。あの意味があったとは思えない襲撃で」

「意味はないよ。ただの奴への嫌がらせだからね」

「……はぁ」

 

 トォトは嫌味の込めてアクナティスをなじるも、アクナティスは気にすることなく半笑いで返す。

 

「クリングは『五剣』探しだったかい?」

「……内の二本だ。『神征剣』と『獄界剣』は所持者を把握しているが、奪うのは難しいだろう」

「神征剣は剣皇が、獄界剣はフォルテ帝が持ってるんだったかな? 確かに、あの二人から奪うのは不可能に近いね」

「残りの『闇邪剣』と『刃王剣』の獲得が俺の目的だ。特に、刃王剣は五剣の中でも最強の一振り。あれさえあれば剣皇を殺し、最強の剣士の座を頂くことができる……!」

 

 クリングは自身が持つ鞘に収めた剣、『五剣』の一つ『天蒼剣スパウツ』の柄を強く握りながら言う。

 

(……それが無ければ剣皇に勝てないって言ってるようなものね。ダッサ)

 

 クリングに対する侮蔑を、心中でのみ呟くトォト。

 

「そーいや、傭兵ギルドの三傑ってやつの最後の一人はどーするんスか? 確か『雑業のアレン』って……」

 

 言いかけたビナトの表情が緊張で強張る。

 

「……っ⁉︎」

 

 『アレン』という名を口にした途端、先程までは和やかだったアクナティスの表情が一気に凍りつき、その気配から凄まじい重圧感を放ち始めたからだ。

 

「雑業のアレン……奴は然るべき時と場で、私がこの手で殺す」

 

 詳細は知らねど、アレンの名をアクナティスの前で無闇に口にすれば命取りとなる、そこにいる誰もがそう思いかねないほどの殺気による張り詰めた空気が場を支配していた。

 

「……というわけで、とりあえずの方針は決まった。状況が変わり次第、また君たちを集めることになるだろう。次の会議を誰も欠けることなく迎えられるように祈っているよ。では各々、抜かりなく」

 

 

 






 最高戦力の愉快なメンバー紹介

・アクナティス
 第一席。二十五歳。
 普段は飄々とした態度を取っており他者に寛容だが、ある人物の話題になると性格が豹変する。仮面を付けているが仲間には素顔を晒すことに問題はないと思っている為、会議の際には付けたり付けなかったりしている。

・トォト
 第二席。十六歳。
 最高戦力最年少で二席の座につく天才児。傭兵ギルドに所属しているある人物を狙っている。第一席という立場にも関わらず道楽で戦場に遊びに行くアクナティスに呆れている。

・クリング
 第三席。二十六歳。
 アス学卒。『五剣』の一つ『天蒼剣スパウツ』の持ち主で、世界で二番目に強い剣士。しかし一番強い剣士たる『剣皇』との隔絶された差を自覚しており、それ故に常に苛ついている。

・ソルーク
 第四席。二十八歳。
 礼儀正しく寡黙な男。席次が下の者にも丁寧に接する。組織や任務に忠実だが、その根底にはどこか諦めのようなものが感じられる。

・ヴォルフ
 第五席。二十九歳。
 身体も声も非常に大きい。方向音痴な為任務には誰かを同行させないと現場まで辿り着けない。

・ビナト
 第六席。十八歳。
 最高戦力新入りで席次が最下位なので他のメンバーから下っ端のような扱いを受けているが、指示だけ聞いていればいいその立場を割と気に入っている。


 毎週更新がキツめなので隔週にします。
 読んでくれている方がいるのかは知りませんが申し訳ありません。
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