同じ四列強でも、君主制のフォルテ、共和制のシュターク、共同体連合のマイティス、謎の多い未開の地ツァンドゥ……のように政治制度は異なる。
そして、共和制のシュタークにおける国政最高機関である『シュターク国政議会』の議長選挙が本日行われた。
「議長当選、おめでとうございます」
傭兵ギルド代表でありながらシュターク国政議会の議員の一人に名を連ねているラルフ、本名を『ラルフォード・ローレンベルグ』が、選挙の結果議長に選任された猿人の男『グヴァイツ・アブソルート』の元に駆け寄り、握手を交わす。
グヴァイツは七十という年齢ながらもそれを感じさせないエネルギッシュな雰囲気と筋骨隆々な肉体を持つ軍人上がりの政治家であり、それ故にシュターク国民からの人気も高いのだ。
「おぉありがとうローレンベルグ議員。とはいえ、もし君が出馬していたら、俺が当選できていたかは怪しいがね」
「そんなことありませんよ。それに、私が議長になってしまったら、ただでさえ良くないフォルテとの関係が更に悪化してしまいますし」
「あぁ、傭兵ギルドのことかね」
「それも含めてですね。フォルテにおいて私は犯罪者ですから。入国と同時に逮捕されてしまいますよ」
傭兵ギルドを目の敵にしている国は多々ある。その代表が列強の軍事大国フォルテであり、以前のバルフォス山岳地帯攻略戦では傭兵ギルドを利用はしたものの、代表であるラルフのことは指名手配している。
「それほどに傭兵ギルドの活動が上手くいってるわけじゃないか。良いことだ」
「国際法的に黒寄りのグレーである傭兵ギルドを容認してくれているシュタークの柔軟さには助かっていますよ」
「傭兵ギルドがグレーであるおかげで、俺が作ったシュターク平和維持部隊じゃ手の回らないとこを補強してくれてるから助かってるよ。まぁ、お互いが邪魔し合うこともあるらしいが」
「なるべく交戦しないように立ち回ってますけどね。フォルテが関わる戦争紛争だとどうしても」
「まぁ、そこはしょうがないな」
雑談しながらシュターク国政議会堂の廊下を歩く二人を、他の者は自ずと道を譲るように避ける。
熟練の政治家であり議長のグヴァイツと、若手議員の期待の星で議会の実質のナンバーツーであるラルフ、この二人が揃って歩く様は、他の議員や職員にとって圧巻なのだ。
「戦争の被害に遭う無辜の民には悪いが、戦争時代を利用しない手はない。この時代で俺はシュタークを、フォルテを超える覇権国家にしてやるのさ」
グヴァイツは拳をぐっと握り、議長としての野望を語る。
フォルテを超える、それはグヴァイツ個人のみでなく昔からシュターク国政議会に根付いているスローガンのようなものなのだ。
「グヴァイツ様……いえ、今はもうグヴァイツ"議長"でしたか」
二人が議長室の前まで来ると、物陰からヌっと一人の魔人の男が現れ、グヴァイツの下に寄ってきた。
「おおソルーク! ちょうど良かった。紹介しよう、彼はソルーク。俺の部下の一人で、シュターク平和維持部隊の隊長を務めている」
「ラルフォード・ローレンベルグです。皆にはラルフと呼ばれてます。よろしく」
「存じております。ソルークと申します。よろしくお願いいたします」
ラルフとソルークは軽い挨拶と握手を交わす。
「さて、ただでさえ忙しいのに議長になったから更にだ。君も多忙の身だろう? ここらへんにしておこうか、ローレンベルグ議員」
「ええ、では失礼します」
「お互い苦労が多いと思うが、頑張ろうではないか。はっはっは」
グヴァイツと別れたラルフは、先程までの笑顔から一転冷めた表情に様変わりし、自身の空間魔法で適当なドアを自室に繋げる。
「……狸爺め」
ラルフは、自分以外誰もいない部屋で、独り言をそっと呟いた。
*
四列強の一つマイティス連合は、戦争や紛争の難民たちが作り上げた共同体が成り立ちである。
その為、数十もの集落や民族が連なり、規模だけでいうならフォルテやシュタークをも上回る大国なのだが、その連なる者たちの種類の多さから一枚岩というわけでなく、同じマイティス連合に所属する集落民族同士でも対立が絶えない。それどころか、主導権を奪い合う内乱が度々起こる。
今回の紛争は、マイティス連合内のある大勢力部族が、自身の勢力を更に増す為に他の小勢力を武力制圧によって統合しようとしている、というあまり珍しくもないことだ。弱肉強食、それが戦争時代における今の世の常なのだ。
「……」
しかし、その常を打ち砕く組織こそ『傭兵ギルド』。
そして、その戦地に立つのは傭兵ギルドの最強格である三傑が一人、防竜のジーク。
あらゆる小国や小規模共同体の防衛戦争に参加し、たった一人の力でほぼ全てを守り抜いてきた防衛戦のエキスパート。
「……!」
今回もその持ち前の怪力と、常人の意識を奪うほどの重圧感で、大軍勢であろうと彼の前では意味を成さない。
小勢力に攻め入る大勢力の部隊が、ジークの殺気にやられ一人また一人と倒れていく。
「……?」
しかし、ジークは倒れ伏した軍勢の後方に確かな戦意を察知した。
「はっはっはー!」
すると、身長が三メートルにも届くほどの獣人の大男がジークの重圧をものともせずに前進してきた。
「見つけたぞ防竜ーッ!」
「……っ!」
大男はその巨体に似合わぬ俊足で、ジークに向けて身長に違わぬ巨大な拳を振り抜く。
「……ッ⁉︎」
ジークは大剣を盾のように前面に構えて打撃を受けるも、衝撃を殺し切ることはできず、数歩分後退させられた。
そのたった一度の攻防にも関わらず、その衝撃が流れた地面が割れて凹む。
「……!」
これまで力負けした経験のないジークは、すぐさま目の前の大男を自身の脅威と認識した。
「ふっふっふ、どうだ! 俺の力は!」
「……」
「そうだ! 俺の名はヴォルフ! "組織"……ではなくなったんだな……ええと、そうだ、戦争屋だ! 戦争屋の
「……」
やはり戦争屋か、とジークは納得する。
「仲間がお前を殺すように言ったこともあるが、俺自身も一度お前と戦ってみたくてな! さぁ、勝負と行こうか!」
前置きを早々に済ませたヴォルフは、再びジークに殴りかかる。
自身と同格、もしくはそれ以上の可能性があるヴォルフの怪力に対して防御を続けるのは得策ではないと考えたジークは、振りかぶられた拳に対して大剣で迎えうつ。
「……っ!」
大剣が直撃したにも関わらず、ヴォルフの拳には傷一つもついていない。
「ヌルいぞ!」
それどころか大剣を押し返し、ジークの身体も押し始める。
「……ッ⁉︎」
「その程度かっ! 防竜!」
「……!」
正面からの力比べは不利だと判断したジークは、あえて後方に身を引くことにより押し合いを止め、仕切り直す。
「……ッ!」
ジークが口から火炎弾を吐き出すも、ヴォルフはそれを素手で叩き落とす。
「この程度の熱さでは俺は止められん! ……ぬっ⁉︎」
しかし、火炎弾が防がれることを予告していたジークは、すぐさま大剣をヴォルフに向けて振り抜く。
「ふんッ!」
「……‼︎」
「……むっ⁉︎」
ヴォルフはその剛腕で大剣を受け止めるが、手の表皮が切れて血が滴った。
「先程よりも威力が上がっている! やるな!」
「……」
これまでジークは、人間相手に向ける力の量を抑えていた。それは驕りではなく、彼の本気の半分未満の力で振るわれた大剣であっても直撃すれば無事で済む者は存在しない為、本気で力を振るうのは戦いにおいて効率が悪いからだ。
しかしジークは、目の前の自身をも凌ぐかもしれない力を持つヴォルフに対して、抑えていた力を解き放ち始める。
「だが、こんなものでは俺の命には届かんぞっ!」
そして、そのジークの変化を察したヴォルフもまた、小手調べ適度に抜いていた力を、本気を出す為に入れ始める。
「……!」
「ふははっ! 行くぞっ!」
たった二人の人間の戦いにも関わらず、巨大な
また、その後方の物陰から、彼らの戦いを見物する人物がいた。
「……派手にやってるっスね〜。ヴォルフさんに加勢しようにも、下手にあの人らの戦いに近づいたら、アタシが細切れになっちゃいそうだな〜」
その人物とは、戦争屋
「ていうか、ヴォルフさんさっき第六席とか言ってなかった? 六席はアタシで、ヴォルフさんは五席なのに。やっぱりあの人強えけどアホっスね〜」
今は戦闘に参加せずただ自分が動ける機会を伺っているだけだが、方向音痴なヴォルフをこの戦場まで連れてきたのは彼女である。
「まぁでも、アホだから五席なだけで、単純な強さだけなら
ビナトは、ジークにもヴォルフにも悟られぬように、ひっそりと行動を開始した。
フォルティス大陸において、ラルフ(ラルフォード・ローレンベルグ)のように姓と名があるキャラは、王族や貴族、政治家もしくは功績を残した偉人のみで、他はアレンやファリスなど名しか存在しない者が殆どです。