傭兵ギルドの日常譚   作:烊々

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『暴竜』のジーク/マイティス連合内乱・中

 

 

 その男は、人ならざるモノの悪意から産まれた。

 ある妊婦を邪竜の呪いが襲った。その呪いは母ではなくお腹の中の子にのみ付与された。逆を言えば、赤子は産まれる際に母の呪いを引き受けたのだ。

 その男は、人々の善意によって生きてきた。

 呪いを受けた忌子として産まれたその赤子を、周囲の人間たちは間引こうとはしなかった。その人々は、人の愛で呪いを乗り越えることができると信じていたほどに善人たちの集まりだった。

 呪いによって人並外れた力と威圧感を持たされた少年だが、それを個性として周囲の人間たちに受け入れられた。

 少年が青年になった頃、戦争時代が始まった。小さな農村だった故郷は簡単に滅び、青年たちは難民となり住処を転々とした。その際に野盗に襲われ、青年は仲間を守る為に初めて武器を取った。すると、青年が剣を構えるだけで野盗は皆倒れ伏した。その時、初めて青年は自分の力の強さを自覚した。

 しかし、強いのは青年だけであった。難民として生きる中で、仲間たちは困窮し、弱っていき、一人また一人と減っていった。そして最後に青年だけが残った。仲間たちから生き抜くことを託されて。

 青年はその後、自らの力の使い方を漸く思いついた。自分の強大な力で戦えない全ての者たちの為に戦う、と。人の善意を信じていた彼は、その善意を守る為に戦うのだ。

 

『君が噂の怪力の竜剣士か。その力、我ら傭兵ギルドで振るってみないかい?』

 

 そしてその頃と同時に、その力を行使する為の肩書きを得た。

 

 

 ◇

 

 

 三傑ジークと最高戦力(フゥイスト)ヴォルフの熾烈な戦いは続いていた。

 戦況は互角。両者一歩も譲らぬ押し合いだった。

 

「解せんな!」

「……?」

「何故お前は平和を望む⁉︎ 俺たちのような人間から外れた者たちが、俺たちらしく思うがままに力を振るえるのが戦争時代だ! そんな俺たちの理想の時代を、お前は何故終わらせようとしている!」

「……!」

 

 獣人である為、ジークの極小の声量を聴き取れるヴォルフは問答を交わす。

 たとえ自分たちからすれば弱い者たちだろうがその弱い者たちの善意の積み重ねで自分はここにいるのだと、ジークは語る。だから、それらを守る為に戦うのだと。

 

「そんな理屈! 俺とお前には相応しくないぞ!」

「……っ」

「弱い者たちが作った窮屈なルールの中で生きるなど! そんなもの、俺たちにとっては死んでいることと同じだ!」

 

 その強さ故に社会の爪弾き者にされてきたヴォルフは、ジークの主張を到底受け入れることができない。

 強さは類似していても、生まれ育った環境が違う彼らは分かり合うことはできない。故に、戦うしかないのだ。

 

「オオオオオオオオーーーーーーッ‼︎」

 

 ヴォルフが吠え、その爆音の声量が衝撃波となり周囲を破壊する。

 ジークは大剣を盾がわりにして衝撃波を防ぎ、怯むことなく前進し、大剣を薙ぎ払う。

 

「傭兵殿だけに頼るわけにはいかない! 我らの住処は我ら自身で護るのだー!」

 

 その時、ジークとヴォルフが激戦を繰り広げる戦地に、ジークの依頼主の勢力の自衛団が加勢に入ろうと前進してきた。

 

「……⁉︎」

 

 援軍、ではあるのだがそれはジークにとって好ましくない。ジークが一人で戦うのは、その圧倒的な力から敵味方見境なく被害を与えてしまうことが理由でもあるのだ。

 

「なんだあの雑魚共は……! 俺と防竜の間に入ってくるな!」

 

 ヴォルフは怒りを露わにし、前進してきた自衛団たちを殴り飛ばそうとする。

 

「……ッ」

 

 その打撃をジークが庇うが、ヴォルフの一撃を正面から食らうことになり、大きなダメージを負う。

 

「名付けて『強敵よりも無能な味方』作戦っスね」

 

 その様子を、ビナトが戦場の後方から眺めながら呟く。

 戦闘力ならば最高戦力(フゥイスト)最弱の第六席のビナトだが、諜報力やコミュニケーション能力などが非常に高く、どんな組織や団体にも馴染めるという長所がある。

 ビナトは、ジークがヴォルフに気を取られている隙に、ジークが守っている小勢力の集落に潜伏し、その話術で小勢力の自衛団を奮起させ、戦場に差し向けたのだ。

 

「いくら防竜っつっても、雑兵たちを守りながらヴォルフさんに勝てないっしょ。一人で戦いたかったっぽいあの人は悪いっスけど、これも仕事なんでね」

 

 ビナトはケラケラと笑いながら、自身は手を下さずに、自衛団たちを気にかけながらヴォルフの猛攻に消耗していくジークを見つめていた。

 

「おそらくはビナトの仕業か、余計なことを……! まぁいいか! これも仕事だ! このまま死ね防竜!」

 

 敵の増援がなんとなく仲間からの援護だと気づいたヴォルフは、不服ながらもその策に乗る。

 

「…………」

 

 ヴォルフの猛攻を受け続けるジークは、諦めた表情で目を閉じた。

 

「…………ッッッ‼︎」

 

 そして、自らの中にある"何か"を解放する。

 

 

 ◇

 

 

「少し気になっていたんですけど、傭兵ギルドの三傑で一番強いのって誰なんですか?」

 

 傭兵ギルド集会所のカフェで、山盛りのパスタを頬張りながらファリスが訊ねる。

 

「この間、ルキナさんが自分が格下って仰ってたから……なんとなく気になっちゃって」

「あの人そんなこと言ってたのか……そんなことないと思うけどなぁ……」

 

 今日は仕事がないようで、カフェで寛ぎながら新聞片手に珈琲を飲んでいたアレンが応える。

 

「まぁでも、誰が一番弱いかは置いといて、一番強いのはジークさんだな」

「即答、なんですね」

「あぁ。戦場って色々シチュエーションが違うから強い人が必ず勝つわけじゃないけど、正面からやり合ったら一番強いのは間違いなくジークさんだろうな。あの人ただでさえ強いのに、自身にかけられた邪竜の呪いを抑えながら戦ってるんだよ」

「そ、そうなんですね……」

「じゃあ、もしあの人が戦いで疲れて邪竜の呪いを抑える余裕がなくなったら……どうなると思う?」

「呪いが、溢れ出すってことですか?」

「そう、単純にクソ強いのに更に強くなる。あの人自身はその力を嫌ってるんだけど。俺もも今までそれを見たことないんだが、戦争屋の最高戦力(フゥイスト)っつったけ? そいつらがやらかすかもな」

「ジークさんを追い詰めて、呪いを解放するってことですよね」

「そういうこと。その時の名前をラルフがこう名付けていたな」

 

 飲み干したカップを机に置いたアレンは、苦笑いしながら言う。

 

「防ぐに竜の『防竜』じゃなくて、暴れるに竜で……『暴竜』のジーク」

 

 

  ◇

 

 

 ジークから溢れ出したドス黒いオーラが、周囲の大地を侵蝕し、腐食させていく。

 

「なんだこれは!」

 

 ヴォルフは自身に襲いかかるオーラを振り払いながらも、無闇に突撃することなくジークの様子を観察する。

 

「ひ、ひぇえっ!」

「これでは援護などできん! 退散っ!」

 

 そのあまりにも悍ましい様子に、自衛団たちは自らの故郷を守るという覚悟すらも上書きするほどに恐れ慄き、戦場から逃げていく。

 

「ふっ! そうでなくては面白くないッ!」

 

 様子見を我慢できなくなったヴォルフは、恐れることなくジークに突撃する。

 

「────ッ!」

 

 ジークは呪いのオーラは大剣に纏わせ、ヴォルフに向かって振るう。

 すると、斬撃の衝撃波にオーラのエネルギーが加わり、凄まじい破壊の力となって空間を薙ぎ払う。

 

「ぉ、おおおおおッ⁉︎」

 

 先程とは比べ物にならない威力の攻撃に、ヴォルフは軽く吹き飛ばされ、後方の大岩に激突する。

 

「え、ええ、え、な、ななななんスかアレ⁉︎」

 

 互角だった筈のヴォルフが軽く倒され、驚愕するビナト。

 

「……‼︎」

 

 すると、遠く離れていながらもビナトの気配を察したジークが、自身の殺気をビナトに向ける。

 

「ひえぇっ!」

 

 気づかれていないと思っていたビナトは、ジークと目が合ったことに萎縮し、その場から逃げようとするが。

 

「──え?」

 

 激しい吐き気と頭痛の直後に鼻と口から血が漏れ、それに気づいた直後にその場に倒れ伏した。

 

「ば……けもん……がよ……っ……」

 

 ビナトが意識を失ったことを悟ったジークは、ヴォルフにトドメを刺そうとゆっくりとその足を進める。

 

「揃いも揃って不甲斐ないな」

 

 しかし、ヴォルフではない新たな気配と声に気づき、その足を止めた。

 

「まぁ、こんな怪物が相手となると仕方もないか」

 

 声の主は、禍々しい気配を放つ剣を携えた猿人の男、戦争屋最高戦力(フゥイスト)第三席のクリング。

 

 

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