傭兵ギルドの日常譚   作:烊々

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青き日々の追憶/レンドル姫護衛・上

 

 

「あれが敵の前衛部隊か。こんな小せえ国に本気だなぁ」

「あらゆる国家の武力行使への躊躇がなくなっている。誰かが言った『戦争時代』というものが、本当に到来しているのかもしれない」

「戦争時代、ねぇ……別に俺は構いやしねえけどな。おかげで食いっぱぐれる心配がねえ」

 

 二人の少年が、丘の上から平原を進軍する敵国の兵士たちを眺めながら言う。

 

「こっちの戦力は殆ど拠点防衛に回してるから、前進を止められる奴がいねーんだっけ?」

「だからこそ、私たちが雇われたわけだ」

「俺らがいなかったら負け確じゃねーかそれ。まぁいいや、敵は雑魚ばっかだ。全員纏めて蹴散らすぞ」

「非効率的な戦い方だ。指揮官を潰せば自ずと瓦解する。全員を相手する必要はない」

「じゃあお前はそうしろよ。俺は適当に暴れっから」

「そうさせてもらう」

 

 二人の若き傭兵はそれぞれの武器を取り、戦地に向かう。

 一人は剣、もう一人は杖槍。

 

「精々死なねーようにな、ジェロム」

「それはお前もだ、アレン」

 

 それは、およそ十年前のこと。

 剣を握るのは、当時十五歳のアレン。

 杖槍を握るのは、アレンと同い年の傭兵ジェロム。

 戦争時代が激化する直前期、そして傭兵ギルドという組織が設立される前。アレン、ラルフ、ジェロムという三人の若き傭兵たちが活躍していた時の話である。

 

 

 ■

 

 

「二人とも、おつかれさま」

 

 依頼を終え拠点に戻ったアレンとジェロムに、ラルフが事務処理をしながら迎える。

 

「いちいち疲れねーよあんな雑魚ども」

「私は疲れたな、考えなしに突っ込む奴をフォローしなければならなかったせいで」

「勝手にフォローして勝手に疲れるたぁ、()()()()だな」

「なんだと?」

「喧嘩しないの。はいこれ報酬」

 

 ラルフから受け取った小切手を見たアレンは、怪訝な表情をする。

 

「なんか少なくねーか? 話と違くね?」

「防衛成功なだけで戦争に勝ったわけじゃないからね。賠償も受け取れないから、報酬も100%出せないってことだろう。足りない分は僕の取り分を減らせばいいよ。僕はお金に困ってるわけじゃないから」

「おっ、良いねえ。暇つぶしに傭兵やってる貴族のボンボンはやっぱ違えわ」

「ラルフォード。あまりアレンを甘やかすな」

「アレンの言うことも分かるのさ。ここ最近、依頼内容の条件と実情が食い違うことが多い。戦争や紛争などの武力衝突が増え、それに伴って傭兵稼業が増えたわけだが、雇い主と傭兵の間での契約などを正確に行う制度の施行が間に合っていない。報酬を払いたくない雇い主が傭兵たちを暗殺するなんて事件も起きたぐらいだ」

「制度、ねぇ……報酬が払われねーのはクソだが、ルールで雁字搦めになるのも御免だな」

 

 ラルフから追加の"小遣い"を貰ったアレンは、上機嫌な様子で椅子に勢いよく座る。

 

「アレン、私たちは戦争行為の無意味さを知らしめる為に活動しているのだ。大事なのは報酬の大小ではない」

「お前とラルフはそうかもしれねーけど俺は生活の為にやってんだよ。それに戦争に意味はなくなんてないぜ。俺が食うのに困らねえ」

「戦争を肯定するのか?」

「そんなに世界を変えたいなら傭兵なんかやめて政治家にでもなれよ。その方がよっぽど有意義だぜ」

「お前のような者を根絶やしにしてからそうさせてもらう」

 

(僕はなるつもりだけどね、政治家)

 

「それよりもラルフォード、次の依頼はもう入っているのか?」

「あぁ、その話をしようと思っていたんだ。紹介したい人物がいてね」

 

 言いながら、ラルフが指を鳴らすと、彼の空間魔法が発動し、部屋の扉が光る。

 

「入ってきてくれ」

 

 そして、魔法によって外とは別の空間と繋がった扉が開き、中から獣人の少女が現れた。

 

「レンドルの姫、レレフィーナさんだ。外国留学中だった彼女を無事にレンドルに送り届けることが、次の僕たちの仕事だね」

「ふむ、護衛任務か」

「姫〜?」

 

 アレンはレレフィーナという少女の、容姿はともかくどこにでもいそうな村娘のような服装を見て見て言う。

 

「お姫さまってもっとお淑やかなもんじゃねーのか? そうは見えねえぞ。そこらへんにいるガキみてえな見た目だけど本当に姫かこいつ?」

「アレン、私たちならともかく依頼主に失礼な言動は──」

 

 ジェロムが言い終わる前に、レレフィーナは身を乗り出しアレンの脛を蹴った。

 

「──痛ぇッ⁉︎」

「黙って聞いてれば好き勝手言ってくれるわね! あたしだって好きでこんな地味なカッコしてるわけじゃないわよ!」

「てめ……っ」

「そもそもあんただってガキじゃない。このクソガキっ!」

 

(今のは完全にアレンが悪いが、このお姫さまは中々に御転婆なようだね)

 

「……」

「どうしたんだい、ジェロム?」

「……いや、なんでもない」

 

 レレフィーナの横顔をぼーっと見つめていたジェロムを、ラルフが何かを察したように見ていた。

 

(成程、ジェロムってこういう子が……)

 

「ガキだと? お前だって俺と歳変わんねーだろ!」

「年齢は同じでも精神がガキなのよこのガキ!」

「んだとぉ!」

「まぁ二人とも、とりあえず落ち着いて」

 

 言い争いを続けるアレンとレレフィーナを仲裁しようとラルフが間に入ると、レレフィーナもアレンもラルフに抗議する。

 

「ねえラルフォードさん! あたし、護衛がこんな品のないガキだって聞いてないんですけど⁉︎」

「言ってませんでしたから。でも、腕は保証しますよ」

「おいラルフ、依頼キャンセルしろ。こんなヤツ守りたくねーぞ俺」

「それはできないね。僕たちの取り決めだろう? 依頼の受注は僕に任せる、と。それか、君が一つ一つ依頼を吟味して受注して事務までやってくれるのかい?」

「ぐ……」

 

 弱いところを突かれて黙るアレン。

 十年後ならともかく、当時のアレンは戦うことしかできない為、それ以外の仕事はラルフに任せきりだったのだ。

 

「とりあえず、依頼の詳細から話そう。何故彼女に護衛が必要なのか、そして彼女の国レンドルは今どんな状況なのかをね」

 

 レンドルという国家は、フォルティス大陸における平和条約の聖地だった。様々な国家間の平和条約や不戦条約にレンドルの名が綴られており、レンドル自身もまた『不戦の契り』という他国とは戦争をしないという声明を出していた。

 しかし、戦争時代に突入し、レンドルの立場は一変する。

 

「簡単にいうと、戦争をする為にかつてレンドルで結んだ条約が邪魔になったのさ」

 

 戦争時代の初期であったこの時期だが、既に戦争は人々にとって身近なムーブメントになりかけていた。

 様々な国や勢力が戦争を繰り返し勝者は栄える戦争時代において、戦争ができないというのは他国に遅れをとることを意味するのだ。

 

「でも、条約を一方的に破棄することはできない。それが国際的なルールだからね。だから、条約そのものの効力を失わせる必要があるんだ」

「どうやって?」

「レンドルの王、もしくは王位継承者またはその資格を持つ者らが何らかの理由で意思決定能力を失った時、レンドルが批准した条約は効力を失う」

「意思決定能力を失う……って?」

「他に色々あるが、基本は死ぬということだ」

「だから、王位継承の資格者であるレレフィーナさんは、狙われているってわけ」

「……」

 

 アレンとジェロムに向けたラルフの解説を、複雑な表情で聞いているレレフィーナ。

 

「留学していたレレフィーナさんを先んじて僕が保護したから、無事にレンドルに届けるのが任務ってことさ。戦争時代の規模が拡大するか否かは、僕たちにかかってるってことだね」

 

 

 

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