傭兵ギルドの日常譚   作:烊々

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強襲/巨竜討伐任務

 

 

 

「俺の仕事に同行してえなんて、変わった嬢ちゃんだなぁ?」

「狩猟が好きなので、以前から気になっていたんですよ」

 

 傭兵ギルド所属の魔人の大男『ゴワンダ』に連れられ、ファリスは『魔物』討伐任務に赴いていた。

 フォルティス大陸には今では前人未到の土地は殆ど存在しないが、人間の居住地でない自然地帯には『魔物』と呼ばれる危険動物が存在する。

 かつての覇権国家フォルテが行った居住地拡大の為の魔物討伐(デストルクトール)によって、フォルティス大陸内の魔物の数は激減したが根絶には至らず(というより魔物の存在もまた生態系に根付いたものであり人の手によって根絶することは不可能)、偶に魔物が人々の生活を脅かすことがあるのだ。

 傭兵ギルドは魔物討伐依頼も請け負うのだが、魔物討伐依頼は戦争紛争の傭兵稼業と比べて報酬が安い割に危険度が高く、殆どの傭兵たちに敬遠されがちなのだ。

 しかし、ゴワンダは競合が少ないことを逆手に取り、魔物討伐をほぼ専業にし、たとえ一件一件の報酬が少なくても依頼を多く受け続けることで大金を稼いでいるのだ。

 

「魔物討伐は良いぞ〜。皆は嫌がるが、慣れちまえば簡単だし、何より人間相手にするより気が楽だ」

「ゴワンダさんは、どうして傭兵ギルドに?」

「ラルフォードとアレンに誘われてな。当時は俺もフリーの傭兵だったんだがよ、今よりも色々むちゃくちゃで嫌気が差しててな。そこで、制度をちゃんと定めたギルドを作るっつーから乗ってやったわけだ」

「じゃあ、ほんとに傭兵ギルドの初めからいるんですね」

「まぁそうなるな。その後、ジークが入って、ルキナが入って……感じで、俺がそこまで積極的にやらなくて良くなったから、魔物討伐の方を始めたわけだ」

 

 二人は喋りながら、依頼先である山を登っていく。

 今回の依頼は、山に道を通して人々の往来を増やしたいというある自治体からの依頼で、その山に竜が棲みついてしまっているから討伐してほしいというものだ。

 

「……っていう、よくある依頼だな。しかし野生の竜とは結構レアだな」

「私、見たことありません」

「数百年前のデストルクトールでほとんど駆除されたんだよ。海の向こうのツァンドゥ大陸にはフォルティスの比じゃないぐらい強いのがウヨウヨいるって話だけどな」

「竜が相手なんて……大丈夫なんですか?」

「俺ァ魔物討伐のプロだぜ? 心配すんな! ガッハッハ! それに、ジークの野郎より強い竜なんていねえよ」

「ふふ、それもそうですね」

「さて、そろそろ竜のナワバリに入るぐらいだと思うが…………あん?」

 

 山を登り続け、いつ竜と遭遇してもおかしくない地点に着いた二人。

 するとゴワンダが、長年の経験からくる勘のようなもので異様な様子を感じ取った。

 

(なんだ? やけに静かだな……? まるで、初めから竜なんていねえかのように……)

 

 竜などの巨大な魔物は、姿が見えなくとも呼吸音や足音などの生活音が人間の比ではなく大きいので、姿が見えなくても生息を確認できる。長年の経験があるゴワンダなら尚更だ。

 しかし、そのゴワンダをもってしても、竜の生息が確認できないほど山の奥は静かだった。

 

「……嬢ちゃん」

「はいっ!」

「なんか聞こえるか?」

「え? えーと……風の音と、それで木々が揺れる音……ぐらいですかね?」

「……とりあえず、進んでみるか」

 

 ゴワンダは、聴音に優れる獣人のファリスですら竜の音を聞き取れていないことに違和感を持ち、周囲に警戒しつつ先へと進み、ファリスもそれに続いて山奥へと足を進めていく。

 しばらく進んで行くと…………

 

「……おいおいおい」

 

 木々が薙ぎ倒された竜の巣のような荒地の真ん中に、既に生き絶えた竜が転がっていた。

 

「魔物討伐の良いとこはよ、こんな感じで俺たちが討伐しなくても勝手に死んでた時、依頼主に死んだことを報告すりゃ達成扱いになって報酬が貰えることなんだが……竜をぶっ殺すような奴がいる山に道なんて危なくて通せねえよなぁ」

 

 ゴワンダは竜の死体に近づき、その身体に触れる。

 

(死後硬直がまだ始まってねえ……てことは、殺したやつがまだ近くにいるな…………いや)

 

 そして、何者かの気配に気づき、竜の死体の上を見る。

 

「……」

 

 そこには、一人の獣人の少女が佇んでいた。

 

「迷子……ってわけじゃなさそうだな。やったのはあんたかい? お嬢ちゃん」

 

 ゴワンダが少女に話しかけるも、反応はない。

 少女の視線はゴワンダに向いてすらいなかった。

 

「……やっと、この時が来た」

 

 少女の目に映るのは、ゴワンダの後ろに立つファリスだった。

 少女は竜の死体から滑り降り、一瞬の内にファリスに距離を詰め、その首元に手刀を突き立てる。

 

「……っぷねぇっ!」

 

 その直前に、ファリスよりも早く反応したゴワンダがファリスを押す。

 

「きゃっ」

 

 ファリスは尻餅をついて倒れるが、獣人の少女の手刀を寸前で回避した。

 

「……悪いなファリス嬢ちゃん……あっちの動きに反応しきれなかったから、突き飛ばすしかなかったんだ」

「い、いえ! ありがとうございます!」

 

 少女はファリスをじっと見つめながら、失望と悲哀がこもった表情でため息を吐く。

 

「……いきなり殺しに来るってぇと、あんた戦争屋ってやつかい?」

 

 ゴワンダが少女を睨みつけながら言う。

 

「そう、戦争屋。最高戦力の第二席。名はトォト」

 

 少女の名は『トォト』。

 『殺興のアクナティス』に次ぐ、戦争屋のナンバーツー。

 

(……おいおい、上から二番目かよッ⁉︎ 気配とさっきの動きでただもんじゃねえことは分かっていたがよ……っ)

 

 そんな焦りを隠すように、ゴワンダは不敵に笑ってみせる。

 

「へっ、その二席様が俺たちを消しに来たってわけかい」

「あなたに用はない。死にたくないなら逃げ帰って構わない。アクナティスも魔物狩りのあなたは殺す必要ないって言ってたし」

 

(アクナティス……ルキナが戦ったっつー戦争屋のボスか)

 

「……狙いはファリス嬢ちゃんか」

「ファリス……? あぁ、今はそう名乗ってるんだ」

「ファリス嬢ちゃん、知り合いかい?」

「い、いいえ……分からない、です」

「じゃあなんかと間違えてんのか? まぁいい、とにかく逃げな。アイツの狙いはお前だからよ」

「で、でもっ!」

「早くいけ! そして誰か強え奴を呼んできてくれ。任せたぞ」

「……はいっ! すみません!」

 

 ファリスはゴワンダの覚悟を汲み、その場を後にして下山した。

 トォトが追いかけようとするが、その前にゴワンダが立ち塞がる。

 

「邪魔」

「そうだぜ。邪魔してんのよ」

「……逃げれば殺さないって言ったけれど?」

「後輩の新人置いて逃げるなんて、ダセェことできるわけねーだろ」

「そう……なら死ぬといい」

 

 

 ◇

 

 

「早く、早くっ!」

 

 ファリスは山を駆け下りながら、とにかく家屋があるところへ向かう。扉が存在する場所なら、傭兵ギルドの拠点にゲートを繋げられるからだ。

 しかし……

 

「見つけた」

 

 ファリスが走るよりも遥かに早く、トォトがファリスの前に回り込んだ。

 トォトの身体には傷一つなく、衣服の端に返り血が滲んでいた。

 

「……ゴワンダさんはっ!」

「あの程度で足止めできるつもりだったらしい。さて、用があるのはあなた」

「……っ、あなたは誰⁉︎ 私になんの用なのっ⁉︎」

「なんの用、か。やっぱり全部忘れちゃってるんだね」

「え……?」

「なら、全部思い出させてあげる」

 

 トォトはファリスをじっと見つめながら言う。

 

(この子……は……?)

 

 ファリスもまた、トォトから目を離せずにいた。

 目を離せばその瞬間に死ぬかもしれないという警戒と恐怖もあったが、それ以上に自分と顔立ちが非常に似ていてほんの少し幼くしたような容姿に、無意識に強い関心を持ってしまったからだ。

 

()()()()()

 

 まるで、自分の妹みたいだと。

 

 

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