フリーザ軍の戦士達の間にはとある噂があった。
この基地には誰も立ち寄ることが許されていない謎の部屋があり、その部屋はエリート戦士は愚か、フリーザ様が最も信頼を置くギニュー特戦隊や幹部ですらも立ち入りが禁止されている、というもの。
""フリーザ様直々に立ち入りを禁止されている""
あのギニュー特戦隊ですらだ。
そんな噂、にわかには信じ難いだろう。
しかし中には""その部屋に誰かが入って行くのを見た""や、""そんな部屋は存在しなかった""などの噂も存在し、最早どれが本当かなど、考える事すら馬鹿馬鹿しい程。
そんな事を考える暇があるのなら任務で成果を上げ、報酬をもらった方がよっぽど有益だ。
そんな事で、結局噂は噂という程度で留まっていた。
あの日までは
『魂を捧げろ、お前らのデータは俺のモンだ!』
この
──────────
ここは惑星フリーザNo.2。あの悪名高きフリーザ率いるフリーザ軍の中枢基地だ。
フリーザ軍とは銀河系征服を目論む悪の軍団であり、数多くの部下を従え、様々な惑星で破壊や地上げ行為を行い宇宙規模で勢力を広げている。
そして、その悪名はこの宇宙の神々にまで轟いていた。
ところ変わり、フリーザ軍の母船にて
フリーザ軍にとって...いや、あらゆる組織にとって重要な役割を担うその一室。
決して狭くはない部屋の壁一面を覆い尽くす程設置された大量のモニターからは淡くブルーライトの光が放出され、カタカタとタイピングの音が幾つも響き渡っていた。
「ポッドNo.5096より通信アリ。繋げます」
その場の皆が淡々と、無機質で機械的に業務をこなしていく。
「こちら総司令部。ポッドNo.5096、何か問題が?」
そう、この場こそがフリーザ軍の頭脳、最高総司令部である。
基本は各部隊との連絡や情報収集、命令を行う通信、作戦研究や作戦評価を行っており、この役職への就職やこの空間に立ち入るのは限られた人物にしか許可されていない。
そこに、外部からコツコツと近づく足音が。
やがて足音が司令部と通路を隔てる扉の前で止まると、通常その空間に入るのに必要な認証を無視したにも関わらず、目の前の重厚な扉が開いた。
「やぁ皆、おはよう」
「おはようございます。ヴォックスさん」
ヒール付きのドレスシューズを鳴らし、コーヒーの入ったマグカップを片手に立ち入った""人間""の男こそが、この総司令部のTOP。最高司令官の
ヴォックスは部下に軽く挨拶をすると、その空間のそのまたその奥の通路へと向かった。
通路の先、現れたのはとても頑丈そうな鋼鉄の扉だった。カッチン鋼という特殊な金属を加工し作られたこれは、ちょっとやそっとの力じゃ傷一つつけることは出来ないだろう。加工に少々手間取った事はまだ記憶に新しい。
この扉の先は更に限られた者にしか立ち入ることを許可されておらず、その権限を持っているのは最高司令官のヴォックスと、この軍のボスであるフリーザだけである。
違反すれば反乱の意思ありと見なされ、死ぬより酷い目に遭わされるだろう。
通路から扉がなされ、更に厳重なセキュリティロックは文字通りヴォックスにしか解くことが出来ない。
端末にパスコードを入力し、また別の端末に手のひらを当てた。バチッという電気の弾ける音がし、分厚い扉が開く。
そして目の前には暗闇が広がった。
暗闇の先には、何百という数のモニターに囲まれた一際大きなモニターと周囲に様々な装置が設置されており、中心には書類の積まれたデスクと座り心地のよさそうなチェアが置かれている。
手に持っていたコーヒーを一口啜ってからデスクへと置き、チェアに腰をかけた。
「フム...」
数枚の書類の束を手に取りパラパラと内容を確認していく。
大体が次に侵略する星の原住民や原生生物の生態調査だったり、環境や資源の有無と、こっちは装備の開発案か。
どれもありきたりな内容で面白みも何もないが、業務である以上しない訳には行かない。
「まぁいいだろう」
書類をデスクに乱雑に投げ捨てると、目の前の巨大なモニター、メインコンピューターへ向き合う。
「フッフッフ.....」
指先でバチッと電流が弾けたのを皮切りに、断続してスパークが起き始める。
やがてそれが全身に回ったと同時に、ミシミシと音を立てながらヴォックスの身体は変化し始めた。
不気味に笑みを浮かべる口元から見える歯はサメのように尖り、肘置きを掴んでいた白い手は黒く変色し、指先にはまるで刃物のような金属の鋭い青い爪が生えている。
そして、どこからか伸びてきたコードがヴォックスの顔を被った。
「ハッ、HAHAHA!!』
笑い声と共にコードの奥から現れた彼の頭部は薄型のテレビへと変わっており、その画面いっぱいには鮮やかな赤の強膜に浮かぶシアンブルーの瞳孔とアウトラインは、キツい目元をより強調するように彩っていた。
『宇宙を支配するのは、この私だ』
メインコンピュータから伸びるコードが頭部の後ろにあるプラグに接続されたその瞬間、ヴォックスの頭の中に大量の情報が流れ込んできた。
荒廃した土地で馬車馬の如く働かされる者や、呑気に雑談してる者、遠征に行った戦士達一人一人の会話、そして今使用されている機器の状態の有無まで、全てお見通しだ。
─────今こそフリーザ軍に反旗を翻す時だ!!!
─────フリーザめ...!この恨みは必ずや...!!
─────いずれこの星も狙われる事に...
惑星フリーザNo.68とNo.91の監視カメラに映った光景にすぐさま録画を回し、端末に転送。保存とバックアップを完了させたら資料付きでフリーザに提出するだけだ。
少しでも怪しい動きを見せれば、それは直ぐにヴォックスからフリーザに伝わり、即座に処理がなされるという無駄のない仕組みだ。
しかもそれだけでは無い。味方船の船内での会話は当たり前、敵船、敵星における天気、地理、事象、物、生物、テクノロジーが存在する限り、この宇宙において全てが彼の監視下となる。
『HAHAHA!』
""ゴミ""はさっさと片付けてしまおうか...
そう席を立とうとした瞬間、通信を知らせるウィンドウが目の前に浮かび上がった。
《ヴォックスさん、フリーザ様からお呼び出しです》
通信の相手は恐らく司令室でタスクをしているであろう部下。
そして、彼からの呼び出しとは丁度いい。
《『直ぐに向かうと伝えろ」》
《「承知しました」》
左手に書類の束を持ち、ヴォックスはフリーザの下へと向かって行った。
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私の名はヴォックス。
...いや、"今の"と付けた方がいいか?
ん?どういう意味かって?そりゃあそれは、私が転生者だという事だ。
私は地球で現世を生きていた。あぁ、お前らが今そうして生きている現世で合ってるぜ?そこでいつもの会社からの帰り道通り魔に腹を刺されて失血死。
そして次に目を覚ますとそこは、地獄だった。
ちなみに比喩じゃなないぞ。死後なんらかの罪を犯した罪人が落ちる所、そう。地獄だ。
だが、なにかが違う。
よく聞く地獄というのは鬼からなんらかの罰責を与えらたり、巨大な釜で茹でられたりなど、罪を償う目的で落とされるものなのだが.....。
この地獄の住民は酒や薬は日常茶飯事、一歩でも街へ出れば喧嘩を吹っかけられ、至る所で殴り合いや殺し合い。少しでも人が少ない所へ行こうと路地裏に入れば、そこはハッテン場になっており危うく襲われかけた。
どう考えても罪を償ってはいない。なんなら業を重ねすぎてスカイツリーなんて軽く超えるタワーができているだろう。
しかも住民は何故か全員異形の姿をしており、サメや犬、爬虫類など多種多様。
そして、それは自分も例外ではなかった。
4本の指におおよそ人とは思えない色合いの肌と鋭い爪。近くのウィンドウに写った自分の姿を見て驚愕した。
なんと、自分の頭部がテレビだったのだ。しかも現代ではもう珍しいブラウン管。
そして私は更にもう1つ、いやこちらの方が衝撃が大きかった。
無法地帯の街に赤く五芒星の浮かび上がる空。
跋扈する異形達に、自身の2m以上はあるであろう身長とブラウン管の頭。
一瞬、情報量の多さと驚きで吹き飛んでいた記憶の全て思い出した。
俺は、前世で一時ハマっていた「ハズビンホテル」という海外アニメの登場人物、ヴォックスに成り代わってしまったのだ。
ヴォックスと言えば同じくハズビンホテルの登場人物、アラスターのライバル(本人談)で地獄の強力な悪魔である上級悪魔オーバーロードの一人。
そして同じく上級悪魔のヴェルヴェットやヴァレンティノと共にチームveesを結成し、地獄の一角を統べていた。
二つ名はテレビデーモン。アラスターの事となると情緒がおかしくなるメンヘラで、公共の電波使ってレスバしたり、大規模停電おこしたり、天国に戦争ふっかけたり...。
そんな彼に、成り代わってしまったのだ。
それからはあまり詳しくは明かされていないヴォックスの過去を完全な手探りで何とか乗り切り、無事にラジオデーモンことアラスターとは決別。
今はあともう少しで原作が始まるという所まで来ていた。
その間に地獄のあらゆるテクノロジー技術が進化し、今頭部はブラウン管から最新型の薄型テレビに。
ヴォックスの傲慢な態度も何とか演じてきて、やっとアラスターとのレスバトル。もう少しで原作第一期が終わる。
そこで、俺はヘマをしてしまった。
地獄では年に一度、エクスターミネーションという天使達による罪人達の大量虐殺が行われる。
しかし今年は主人公チャーリーが天国との会談で""やらかした""ことよってその期間が半年に。
あと3ヶ月でエクスターミネーションが行われるということで地獄は大混乱に陥った。
しかし、今回の標的はそのチャーリーが運営するハズビンホテルからであり、原作ではアダムが倒されて今年のエクスターミネーションは終了し、シーズン2では天国と手を取り合うことになってこの虐殺は金輪際行われなくなるはずだ。
それに基本天使は上級悪魔の管轄には手を出してこないため、そこまで直接的に関係があるかと言われればないのだが...
そのエクスターミネーションで、私はアダムに殺された。
やはり""俺""という異物が入り込んだせいで世界線が変わってしまったのだろう。
天使に殺されると待っているのは""消滅""のみ。
ただ一人、原作でアダムに殺された後天使として更生していたサー・ペンシャスは例外中の例外だ。
彼は地獄には全く似つかわしくない程、ある意味純粋で正直者。素質があったという他ないだろう。
ヴォックスは普通に考えて更正を望むキャラではないし、実際俺自身更正は望んでいなかった。
まさかそれがここで裏目に出るとは思っていなかったが、まぁいいだろう。
──...クス!!.......ヴォ...!!
──ダー.....ン.......たの......めを....!!
二人が無事なら、それで。
しかし未来は、その選択肢を許さなかったようだ。
目を覚ますと、俺は赤ん坊だった。
しかも人間の、だ。
あの悪魔の体に慣れた俺は、久々の人の体に少し違和感を覚えながら自分の体をじっくり観察していく。
赤ん坊らしい全体的に丸々としたフォルム。
それが少し珍しくて、手を握ったり開いたりしてると不意にバチッ!っという電気が弾ける音がした。
まさかと思い意識を集中する。
すると、なんと自分の左手には見覚えのある青い電流が走っていた。
そう、俺は前世の記憶とVOXの能力を持った"人間"として生まれ変わったのだ。
そして、時は流れて数年後...
鏡に映るのは人間のような血色の良い白い肌。
そして黒い髪に一房だけ白が混じった髪を後ろに流した髪型に、鋭い目つきを彩るのは緑と青のオッドアイ。
逆さまの放送シンボルを施した白い襟付きのシャツと赤と黒のストライプが入ったベスト、その上から青いストライプのジャケットを纏い、赤の蝶ネクタイと小さな黒いシルクハットを身につけたその姿は生前のヴォックス...
いや、ヴィンセント・ホイットマンそのものだった。
「ダメだやり直せ」
そう無常に告げ書類をつき返せば、部下は「は、はい!」と怯えた様子でそそくさと部屋を出て行く。
VOXのデスクの横には書類審査待ちの列ができていた。
「こんなクソみたいな案が通ると思っているのか!?実におめでたい頭だな!!!」
いずれは完全デジタルで面倒な書類や紙なんてものは廃止にしたいが、今の状況だとこれが限界...クソ、厄介なとこに飛ばされたもんだ。
VOXが次の書類に手を伸ばすと、先程の部下と入れ違いにテレビのディレクターがオフィスへと入ってきた。
「ボス、そろそろお時間です」
「もうそんな時間か、クソ!何も進みやしねぇ!」
そう声を荒らげてデスクを思い切り叩いた。その拍子にハラハラと書類が床に落ちる。
私は人間として生まれ変わった。""ヴィンセント""という男として。
しかしそこは、元いた地球では無かったのだ。
私が生まれ育った星【惑星ハム】。
ここは元いた地球を遥かに凌ぐような技術力を持ちながら、辺り一面茶色の岩肌しか見えないような荒廃した星だった。
だが、それはまだいいだろう。
私が1番許せない事、それは...皆が原始人のような生活を送っている事だった。
ここにはテレビなんて以ての外、ラジオや新聞、本すらも存在していなかったのだ。
ここでの唯一の娯楽と言えば食事ぐらいだが...ここにはハンバーガーやフライドチキンなんて物は存在していない。基本焼きか煮込みだけだ。
家は縦穴式住居のような、ドーム状のコンクリで固められた建物。もちろん床は土のまま、ベットはボロい木枠でマットレスは薄っぺらくて岩のように硬い。
風呂は毎日入れないし、湯船やシャンプー、コンディショナーは存在しない。
ヴォックスの掲げる""最先端""とはかけ離れたこの世界に、私は酷く激昂した。
そして考えた。私が最先端を導けばいい、と。
そうしてできたのがヴォックステック第2社だ。
ここにヴァルやヴェルはいないが、私は一人で、たった齢18にしてこの会社を設立した。
その甲斐あって、一家に一台は最新型の薄型テレビが置かれ、毎日24時間放送がされている。
他にも、小型のスクリーンウォッチやスマホ、それとこの星の自警団と名乗る者たちが持っていたスカウターとかいう機器も大幅に改良し、より精密に、より高画質に、戦闘力を測るだけでは足りないと相手の行動のパターン化や行動を予測する機能もつけて販売した。
キャッチフレーズは""皆様に最先端を""。
今、この星で私の名を知らない者はいない。
しかし、このプロジェクトには弊害もあった。それは...
「クソ!終わりが一向に見えない!」
仕事量の多さだ。
私のデスクには連日大量の書類が積まれ、スケジュール表は3ヶ月先までほぼ黒で塗りつぶされていた。
書類の期限はもうギリギリだというのにスキームが一向に進まない。これからテレビの撮影と会議があるというのに...!
だが、こんなのは慣れっこだ。
地獄と比べればヴァルの暴走をなだめたりヴェルの愚痴を聞いたりしなくていい分楽だろう。
ただちょっと...いや、だいぶ仕事量が増えただけで...。
「あ、あの...社長」
「もういい!この約立たず共が!!」
部下から書類を乱暴に奪い取り、それをデスクに叩きつける。
フィンガースナップを効かせるとバチッという音が鳴り、ヴォックスの姿はもうそこには無かった。
私の会社は最初から有名という訳ではなかった。
そりゃあそうだろう、前世の記憶を持っているというのもそんなの本人である私しか知らない事で、星の奴らからすれば私はただのガキだ。
そんな奴がCEOのポっと出の中小企業、本当ならもうとっくのとうに潰れているだろう。
なら、どうやってここまで上り詰めたか?そんなの簡単な話さ。それはな...
「おい、状況はどうだ」
「はい社長。こちら不審なものは発見できません」
「こちらも同様です」
「よし、いいぞ。そのままネズミ一匹通すんじゃないぞ」
ヴォックステック社のもう1つの仕事。
それは、この星の防衛だ。
ポッと出の企業がたった数日で皆から信用を得れた方法...ズバリ、それは防衛ラインを設置することだった。
私も今世で初めて知ったことなんだが、宇宙ってのは意外と治安が悪いらしい。
もちろんこの星には自警団等の最低限身を守る方法はある。だが、それにも限度はあるだろう。私はソレに目をつけた。
こうやって主にゴロツキだったり"地上げ屋"と名乗る奴らから星を守ってやれば、自警団からは賞賛と信用が得られ、芋づる式に民間人からの信頼も高くなる。
この宇宙では弱いやつから淘汰されていく。
ならば、強いやつが守ってやればいい。そうすれば弱者は強者に縋るしかなくなる。
どんな条件を出されようとも弱者はそれに従うしかなくなるのだ。
諸君、これが需要と供給だ。
"ヴォックステックは皆様に安心をお届けします"
閲覧ありがとうございました