【悲報】元気おじさん、なんかよくわからん超過酷なジャングルに飛ばされてしまう   作:空豆熊

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何でだよ! 俺が何したってんだよぉ!

「ひいいいいいいぃ、無理無理無理! なんか身体から変な汁出てるし、ヒルっぽいのがウネウネしてるんですけど! あと花粉もヤバい! 俺花粉症持ってないはずなのに!」

 

 元気おじさんは絶望していた。

 先程までは家族たちと普通に西表島(沖縄の離島)を観光していただけなのに。

 そこに突如隕石が落ちてきたかと思うと、その圧倒的なエネルギーにより空間が歪曲したのか、見知らぬ場所へと飛ばされてしまったのだ。

 

 否、全く見覚えがない訳ではないかもしれない。彼が今いる密林、先程までガイドを受けながら歩いていた西表島のそれだと言われればそんな気がする。

 小柄なイノシシ、瑠璃色の尻をした爬虫類など、微妙に既視感のある生き物も多く見られた。

 だがしかし、それは一部にすぎない。

 

 他は全て、明らかに地球には存在しそうもない化け物どもだった。

 体長以上に舌を伸ばすあり得ない(カエル)や、温度が低くとも馬鹿みたいに活発な百足(ムカデ)蜘蛛(クモ)のように跳び回りながら阿呆程棍棒を振り回す猿など、どれもこれも非常識な存在である。

 

「痛ぇええ! 防いだ腕がぁああ!!」

 

 そして、ジャングルを歩くコツなど持ち合わせていない彼は、当然の如くこの怪物どもに何度も襲われていた。

 足を蛙の舌に取られ転倒したところで百足や蛇に脇腹を噛まれ、木の枝でなんとか潰し殺したところで猿に襲われるという負の連鎖である。

 

 常人であれば既に7回は死んでいる程の目にあっているが、彼の頑丈さもまた尋常ではなかったため辛うじて生き残っていた。

 もっとも、それもいつまで持つか分からない状態だが。

 

「馬鹿野郎! 足を止めんじゃねぇよ俺ええ!! 死ぬぞボケェ!!!」

 

 如何に元気おじさんと言えど、限界は超えられない。

 今はどうにか足に鞭打って走り回っているものの、それも長く続かないであろうことを彼は薄々感じ取っていた。

 

 地味に厄介なのが花粉だ。べらぼうに強い毒気を放つそれを吸い込むだけで、彼の体力は急速に奪われていく。

 このジャングル、常人であれば入るだけで行動不能に陥ることはまず間違いないだろう。

 それほどまでに濃密かつ暴力的と言える程の異臭を放っていた。

 

「くそぉ! せめてもう少し楽出来る方法はないか! 考えろ俺ぃいいい!」

 

 こんなことなら普段から少しくらいサバイバル知識を身につけておくべきだったと後悔しつつも、元気おじさんは必死になって生き残る術を模索する。

 

 元気とは、身体の機能を最大限引き出した状態のこと。

 元気なおじさんは、頭も常に最大限に回転させることが出来る。

 頭自体の出来はさておき、安定したパフォーマンスで行動することが出来るのだ。

 難しいことを思いつく必要はない。

 少しでも楽に、あるいは上手くこの状況を乗り切る方法を考え抜くのだ。

 

(そう言えば生物専攻の伊藤君から、百足(ムカデ)はハーブの匂いを嫌うって聞いたことがあるな。熱帯雨林の生物には全体的に塩が効果的とも聞くけど、塩もハーブも持ってねぇ!

 取り合えず逃げながらハーブっぽい匂いを……こんな植物だらけの場所で匂いの嗅ぎ分けなんか出来るかボケぇ!)

 

 自身の考えにツッコミを入れながらも、他に思い浮かぶこともない彼は、何か見つからないかと鼻を利かせつつ必死に駆けていく。

 猿に叩かれ、百足に噛みつかれながらも彼は進んだ。

 すると、求めていた匂いとはまた異なるが、現状打破に使えそうな生物を想起させる香りを発見する。

 

 それは、こういった自然界で見る個体と、近代的な人里で見る個体では匂いの質が全く異なる、人里において最も忌み嫌われる生物。

 英語で言えば、cockroach(コックローチ)

 

 つまり、まあ、あれだ。うん。

 名前を出すのも躊躇われる、昆虫Gである。

 もう一度言うが、自然界におけるコックローチは決してイメージするような溝臭さを発している訳ではない。

 見た目にしても、黒光りするあれとは別物なので安心されたし。

 

 話が逸れた。このコックローチという昆虫、百足(ムカデ)の好物でもある。何なら、(カエル)もよく食している。

 ならば、その群れに突撃すれば百足や蛙もそちらに引き寄せられるのではないか? 彼なりに頭を使い、生きて帰るために考えついた策であった。

 

「伊藤君! 君からペラペラ長ったらしく聞かされた雑学が役に立ちそうだぜ! もし帰れたら、ハンバーガー奢ってやんよ!!」

 

 現実逃避の雄叫びを上げ、彼はコックローチの群れへと突撃した。

 コックローチ達は当然逃げていく。

 元気おじさんの引き連れてきた大量の百足(ムカデ)(カエル)が、コックローチの群れを追いかける形となる。

 

 コックローチは飛行が出来るため、殆どの個体は百足(ムカデ)(カエル)の届かぬ高さまで上昇した。

 しかし、中には怪我をしているのか、上手く飛び立てない個体もいる。

 不運な者達は、為す術なく百足(ムカデ)(カエル)に食べられていくのであった。

 

「うぉおおおお!! 今のうちだ!!」

 

 元気おじさんは死にものぐるいで走り続ける。

 未だに追いかけてくる猿の攻撃は厄介だが、散々手を焼かされた小型生物達を振り切ってしまえば、猿の群れにだって対応は可能だ。

 

 森の中にポッカリと開けた草原へ飛び出すと、猿たちも平地で巨漢を相手取る不利を察し、撤退して行った。

 それを横目に元気おじさんはようやく一息つく。

 

「ぜぇ……はぁ……し、死ぬかと思った」

 

 一先ずの難は去った。

 開けた場所にも厄介な生物が出現しない訳はないものの、何処かに潜む何かから不意打ちを受ける恐怖は確実に薄れたと言えるだろう。

 

「ああもうっ! ここの生物達はどいつもこいつも好戦的すぎない!? 普通小さい(カエル)が人間相手に戦おうと思う!? こんなデカブツのおじさん相手にっ!!」

 

 ついつい叫ばずにはいられない元気おじさん。

 好戦的な生物が多い以上、少しは潜む努力をするべきかもしれないが、そんな余裕もなかった。

 どうせ足音を隠すことも出来ない素人が、ジャングルで息を潜めて行動など出来るはずもないのだ。

 

 ならばまだ、爆音撒き散らして耳の良い獣を威圧した方が生き残れる可能性は高いだろう。

 とても生身の人間が取る生存戦略とは思えぬ考えだが、異常なフィジカルを持つ元気おじさんだからこそ成し得る無謀である。

 

百足(ムカデ)に嚙まれたとこの腫れがちょー痛ぇ。つか腫れすぎじゃね?

 毒素強すぎだろ。これおじさんじゃなかったら一発でアナフィラキーショック起こして死ぬよ?」

 

 (ハチ)百足(ムカデ)に二度刺された者は、一度目で作られた抗体による過剰な免疫反応で死に至ることもあると言うが、ここの毒素持ちは大体一発アウトの強烈な毒を持つようだった。

 全体的に、生命力がインフレし過ぎである。

 全ての生物の基礎代謝が高過ぎだ。

 

「確か伊藤君が言ってたな。

 気温の高い地域ほど、生物は燃費悪く、効率悪く進化するって。

 確かに亜熱帯と言えそうな程度には気温高いけど、せいぜい沖縄くらいだろここ? まあ他の季節がどうか分かんないけどさ。

 下手したら恐竜いてもおかしくない位生き物が強すぎる」

 

 元気おじさんは1人愚痴る。

 いてもおかしくないというか、恐竜レベルの大型生物が少しくらい居た方が自然と言える程だ。

 気温では説明出来ない何かがある。

 元気おじさんはそう感じ取っていた。

 まあ、研究者でもなければ然程詳しくもない彼に結論など出るはずもないのだが。

 

「駄目だ駄目だ! 余計なことは考えるな俺! 生きんのも大変でそれどころじゃないし!

 とにかく、ここが安全なうちに用意出来るものは用意しとこう」

 

 いつまでも手ぶらなままでは、食料や水分を確保できずに干からびるか、狂暴な現地生物相手に対処しきれずに死ぬかだ。

 必要なものは山ほどあるが、現実的にこの場で得られるものなど殆どない。

 一先ず、ロープを作ろう。

 草がこれだけ生い茂っているのだから、それらを使って丈夫なロープを作るのだ。

 

 ロープは便利だ。その辺の岩から垂れている水を濾過出来るし、頑丈なものなら武器の持ち手にしたり、木に括ってハンモックにすることも出来る。

 他にも、火起こしが楽になるし、罠に流用したり出来るだろう。

 

「DIY好きの山田君から色々学んどいて良かったぜ。

 ここは草木もしっかりしてるし、繊維も強め。

 俺の拙い技術でもそれなりなロープは作れそうだ」

 

 元気おじさんはのっしのっしと草木を吟味しながら歩き、使えそうな草を集める。

 ある程度乾かす必要もあるため、元気おじさんは自分の身体に巻きつける様にして草を集め、小脇に抱えた。

 

「家族は無事だろうか」

 

 自然と、そう呟いていた。

 あの時落ちてきた隕石は、時空が歪む程のエネルギーを持っていた。

 正直、望みは薄いだろう。

 これが夢であれば、どれだけ良かったことか。

 思わず、涙目になる元気おじさん。

 

「いかんいかん! 集中を乱すな俺! 生きてるかもしれないだろ! ポジティブに考えろ俺!」

 

 悪い想像が頭に浮かんでしまい、それを振り払う様に元気おじさんは進む。

 生き残って、いつか再会を果たせることを信じて。

 

 

 ☆☆☆

「@───……+───」

「*─,i────────────。

────────────,────────────?」

 

 元気おじさんが逃げ回っていた頃、とある男2人組がジャングルを歩いていた。

 一人は20歳前後くらいだろうか、短く整えられた黒髪に健康的に焼けた肌の青年。

 もう一人は30半ば、無精ひげを生やした少々小汚い男性だ。

 元気おじさんが扱う日本語とは、まるで違う言語を用いて会話している。

 

「^────────……\─────&───────」

「*─,+─────.=────────────────」

 

 青年の言葉に、男は何やら注意するような素振りを見せる。

 彼等が元気おじさんと出会った時、どのような展開を辿るのか。

 それは、まだ誰も知るよしもないことであった。

 




元気おじさん
本名:不詳(『元気おじさん』という呼び名とは恐らく関係ある名前)
年齢:不詳
身長体重:187cm、91kg
性別:男
出身:神奈川
趣味:ランニング、筋トレ
特技:歌、友人譲りの雑学
好きなもの:家族、友人、筋トレ用具、お日様
苦手なもの:独りぼっち、信号のない横断歩道(昔自分が渡るのを待っていてくれたバイク乗りが、後ろから来た車に撥ねられて以来トラウマ。幸い命に別状はなかったが、それ以来信号のない横断歩道を避けるようになった)
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