【悲報】元気おじさん、なんかよくわからん超過酷なジャングルに飛ばされてしまう 作:空豆熊
「うぉおおお! 死ぬぅうう!!」
今日も元気おじさんは元気に絶叫しながら、森の中を走り回る。
謎のジャングルに迷い込んで七度太陽(と呼ぶべきか分からんが、この恒星により昼と夜が繰り返しているので便宜上太陽と呼ぶ)が昇った。
元気おじさんはその間、ずっとこのジャングルで生き抜いていたのである。
「うぇえええん!! もう嫌だぁああ! お家帰るぅうう!!」
しかし、それも限界が迫ってきていた。
体力と気力、友人の雑学だけで生き抜ける程、甘ったれた環境ではない。
怪我に対して禄な手当も出来ず、まともな寝床もなく、食料も精々その辺の果実やキノコ、毒入りかどうかの区別すらつかないそれらしか食べられない。
何故まだ生きていられるかが不思議なくらい、元気おじさんは疲弊していた。これ以上は無理、絶対無理。
そんな泣き言を言う間もなかった。
今となっては聞き慣れてしまった、あの声が聞こえてくる。
「kqap!」
「ぎぃやぁああああ!! 猿ぅぅうう!! いい加減覚えたぞ! その鳴き声は『かかれ』だってな! 辺りに仲間が潜んでるんだろ! そうはいくかよぉ!!」
七日も生存競争に揉まれていれば、嫌でも天敵達の生態を多少なりとも把握できるようになる。
特に猿の鳴き声には単純ながら言語的なパターンがあり、それを理解することで元気おじさんは猿達の指揮系統をある程度把握していた。
「かかれ」などと敵が命令してくれば、それを受けた周囲の猿が襲いかかってくる。
分かっていれば、タイミングも自ずと分かるというものだ。
「「「cpkc!!」」」
恐らくは、「応っ!」とでも言っているのだろうか。
元気おじさんに飛び掛かり、棍棒をそれぞれ振りかぶりながら声高に叫ぶ猿達。
「おらぁ! 貯めに貯めた雑草だ! 硬ぇし痛いしでたまらんだろ! 存分に味わえよ猿共!」
元気おじさんは両手に抱えた草の束を猿達に投げつけ、視界を奪うと共に怯ませる。
このジャングル特有のやたら硬い雑草は、猿達にとって武器にも等しいもの。
当然、ばら撒けば放った本人にも降りかかるが、背に腹は変えられない。
幾ら相手の動きが分かってきたところで、普通に格闘して数匹の猿へ対処することなど不可能に近いからだ。
「きっちぃ──!! ただでさえもうボロボロなのに、自分で擦り傷作るのヤバ過ぎんだろ!」
日に日に身体の悲鳴は増えている。
住居を確保して休もうにも、天敵達の対応ばかりに追われてそれどころではなく。
このまま足掻き続けた所で身体は弱り続け、近いうちに死ぬ。
分かっている。そんなことは分かっているのだ。
元気や雑な知識だけではもう、これ以上どうにもならない。
「だからって、ここで諦めてなるものかぁ!!」
元気おじさんは怯んだ猿達へ、木の枝を叩きつけていく。
元気おじさんの腕力や体重から、このジャングル特有に強靭な木の枝が振り下ろされれば、それは容易く猿達の頭蓋骨を砕く。
大して力を活かせていない拙い攻撃ながら、しかし確かに全身で振り回せば、それが致命の一撃となろう。
猿達が混乱している間に次々と撲殺する元気おじさん。
やがてあと一匹という所まで追いつめた、その時だった。
「phtfpi!!」
最後の猿が、一際大きい鳴き声をあげながら、口をいーっと開く。
そしてむにむにと口を動かしている。
「なんだ、参りましたってか? 残念ながら食料不足なんでな。
お前も美味しく頂いてやるよ! 襲った相手とタイミングが悪かったな!」
命乞いに耳を貸す余裕はない。
ようやく肉にありつけるのだ、確保出来る時に最大限確保しておかなければ。
結局、最後の猿も木の枝で頭部を潰して、戦闘は終了した。
「よっしゃー、肉だああ!! こいつらさえ食えれば、まだもう少しだけ生きられる!」
元気おじさんは歓喜しながら、猿の死骸達を集っていく。
まともな解体技術などないが、これだけ居れば適当に肉を削ぎ落とすだけで結構な量になる。
ジャングルに来てからまともに脂質やタンパク質を補給できていない元気おじさんには、不味い猿肉であろうともご馳走だった。
「薪だ薪だ! 火を起こすぞ! ただでさえ人間が猿肉食うのは危険なのに、生半可な火加減じゃマジで死ぬぞ!
まっ、こいつが猿なのかは知らんけど!」
それが本当にサル目に近い生物だとしたら人間に近い遺伝情報を持っているため、住み着いている病原菌や寄生虫は人間にも脅威となり得る。
そうだとしても今は食べなければならないが、だからこそ少しでもリスクを除かねばならない。
生は勿論、脳を食べるのも論外。
これも友人伊藤から得た知識だ。
元気おじさんは乾いた木の枝を集め、初日に作ったロープが使われている火きり弓で火をつける。
これまた然程バランスの良くない枝二本を組み立てているだけなので、あまり効率良くは動かないが、手で擦るよりマシという程度の代物だ。
が、元より元気おじさんのパワーなら道具などなくとも火起こしは出来てしまう。
休憩中せめてもの楽しみで作った、雰囲気重視のものだ。
他にもっと作るものあっただろという突っ込みはナシである。
どの道元気おじさんの知識と技術では、然して役に立つものなど作れない。
偶々作り方を覚えていたロープと、精々切れ味悪いナイフくらいなものだ。
尤も、それらが無ければとっくに野垂れ死んでいるのだが。
「ロープが無かったら取れなかった木の実とか幾つもあるし、山田君に感謝だな。
んぐぅ! ……幾ら腹減ってても、雑食動物の肉は不味いなぁ」
などと、焼けた猿肉を齧り、思わず本音が漏れる。贅沢を言えば、猪でも仕留めたいところ。
実際それらしい動物は偶に見かけるのだが、どうせこのジャングルの事だ。
見た目以上の強靭さとパワーを持ち合わせた化け物に違いないと、出会ったら最優先で他へ逃げるようにしていた。
突進を喰らえば、元気おじさんと言えど致命傷は避けられないことが想定されるから。他の生き物達の攻撃を無視してでも、猪だけは避けてきたのである。
「まっ、食いもんがあるだけマシか! よしっ、口直しに果実を……」
「v─────!?」
「んん!?」
元気おじさんが盾のような形した果実に齧り付こうとしたその時、聞き慣れぬ言語の悲鳴と共に、何者かが転倒する音が聞こえた。
それに気を取られた元気おじさんが振り返ると、そこでは二人の男性が転んだ誰かの元に駆け寄り、こちらを警戒している様子。
「えっ、ちょっ、待っ……何だ何だ!? 人間!? あれこれどういう状況!?」
良く分からないまま、元気おじさんは手に持った果実を思わず手放して大きく飛び退きつつ相手の事を観察。
男二人はどちらも黒髪で、片方は無精髭を生やした往年年の男性。もう片方は二十代くらいの青年だろうか。
転んでいたのは、往年……よりは若そうな栗毛の女性。
顔付きが男性の方の青年と似ており、恐らく血縁者であろうことが見て取れる。
で、問題なのは、その三人共が武器を所持しているということだ。
槍やら弓やら、何れも元気おじさんのDIYではとても作れぬ出来のものばかりである。
ぶっちゃけ、強そう。と言うか、このジャングルに居る時点で弱い訳がない。
いくら体力あっても、所詮素人の元気おじさんでは、相手に出来る道理もなかった。
戦闘になったら、元気おじさんは確実に死ぬだろう。
(いやいやいやいや、待って待って、何これ!? 女性が何らかの理由で転んだのを、俺が何かしたと勘違いして警戒してる感じ?
弁解、弁解を……いや、言葉が通じなきゃそれも無理か!?)
何となく状況は察したが、だからと言ってどう行動するかは判断が付かない。
言語も文化も、そして生きる世界すら異なる人間同士の意思疎通などとても無理だ。
言葉どころか、ジェスチャーが通じるかも怪しい。
(どうする、どうする、どうする!? ええい! もう賭けるしかねぇ!!)
必死に頭を回した結果、元気おじさんは選択した。
賭けである、命を賭けた一世一代の大博打だ。
「phtfpi! phtfpi! たのむ通じてくれぇ!」
それは、先程殺した猿が命乞いに使っていたものと同じ鳴き声。
そう、同じ鳴き真似である。
相手がこのジャングルの生物に詳しければ、この鳴き声の意味も解るだろう。
この状況で、降参を意味するであろう鳴き声を発するのも微妙に違和を感じるが、他に敵意が無いことを訴える手段はない。
さあ、猿の命乞いを無視した元気おじさんの命乞いは、吉と出るか凶と出るか。
山田君と伊藤君
︎︎日本にいた頃、元気おじさんが仲良くしていた二人の友人。
︎︎他にも元気おじさんの友人はいるものの、特にこの二人は元気おじさんに自分の知識や技術を教えたがる。
︎︎理由は単純で、反応が面白いからとのこと。