【悲報】元気おじさん、なんかよくわからん超過酷なジャングルに飛ばされてしまう 作:空豆熊
結果、吉と出た。
相手も猿の鳴き声を把握出来ており、意思の疎通が可能となったのである。
「YES」や「NO」、そして「good」や「bad」といった位の簡単なものではあるが。
しかし、それだけでも随分違う。
これらや身振り手振りで何とかコミュニケーションを続けていれば、どうやら何処かしかへ案内しようとしてくれている事が分かった。
これが何かの罠である可能性も捨てきれないが、どの道一人のままでは何れ死ぬだけだ。
体力が尽き、怪我で動けなくなったところを襲われれば、それでお終い。
ようやく人らしき者に出会えたのだから、この機会を逃す手はなかった。
特に異論もなく、元気おじさんは彼らについていく。
少し歩けば木々の密集した森を抜け、二時間程歩くと川へ出た。
川を下った先に、海が見える。
その手前、船らしきものもあり、海から少し離れた場所にはテントも見えた。
定住している訳ではなさそうだが、ここが彼等の拠点なのだろう。
元気おじさんが視線を向けると、青年達は察した様に頷いた。
味方してくれるのかは、分からない。
しかし、一先ず交流を図りつつ監視すると言った感じだろうか。
不安は残るが、一番安全に思える。
彼らに思惑を知るにも、まず言語の壁が乗り越えられない。
交流を深め、もう少し高度な意思疎通が可能となるまで頑張るしかないだろう。
☆☆☆
そうして、彼等に監視されながらの生活が始まった。
多少の警戒こそされているものの、驚嘆するほど扱いは丁寧。
元気おじさん用に、予備のテントを組み上げてくれたり、食べ物を分けてくれたり、怪我の手当もしてくれる。
態度も友好的であり、コミュニケーションさえ取れれば、彼等の善意を確かに感じられた。
とはいえ、根本的な不安が拭える訳でもなし。
珍しい生き物として観察されているだけかもしれない。
もしかしたら、そのうち見せ物や実験動物にされてしまうかもしれない。
言葉が通じようになるまで、その不安は拭えぬだろう。
だが、
「スープ美味ぇえ!あああ、こういう味久しぶりだ!
うめぇ!」
調理された食事が与えられる。それは、元気おじさんにとって何よりの喜びだった。
自分が獲物を捕った訳でもなく、遭難した訳でもない。
食事は、人の手が入ったもの。
それは、ジャングルでの孤独に荒みきった元気おじさんの心を癒やしてくれた。
「よっしゃ、ここまでして貰ったんだ!俺も少しくらい働いて返さないとな!
そのためにも言葉覚えるぞ!」
不安の解消とはまた別の理由で、言語習得にやる気を見せる元気おじさん。
彼等の仕事を手伝おうにも、そもそも何をすれば良いのかすら分からない。
何をするにもまず言葉を覚えなければ話にならないだろう。
幸い猿語による「YES」と「NO」のお陰で、お互い何をどう呼んでいるのか、そういった擦り合わせは出来る。
時間はかかるだろうが、全力を尽くそう。
☆☆☆
などと意気込み、早三週間。
早くも言葉による意思疎通が、可能になった。
と言っても……
「元気おじさん、おはようございます」
「よっ、元気オヤジ」
「元気おじサンおはよー」
(いやみんな言語習得早すぎぃ!?)
元気おじさんが言葉を覚えた訳ではなかったが。
そう、元気おじさんが彼等の言語を覚えるより先、彼等の方から日本語を覚え、言葉をかけてきたのだ。
しかも、多少の訛りだけはあるものの、しっかりと話せるレベルで。
たった、三週間である。
たった三週間触れ合うだけで、未知の言語をマスターする彼等の学習能力。
教材があるならまだしも、元気おじさんというサンプルしか無い状態で。
その事実に、元気おじさんは戦慄するしかなかった。
「う、うん、おはよう。
みんな日本語上手すぎない?俺なんか、みんなの言葉まだ全然分からないんだけど……」
思わずそう聞いてしまう元気おじさん。
「まあ俺たちは旅慣れしてるからな、新しく言語覚えんのもそう難しくねぇよ。
何よりこいつ、ウノがあんたの言語を解読してくれたのさ」
中年の男が青年、ウノを小突く。
一緒に暮らすうち、彼らのことくらいは幾らか分かってきた。
まず最初に出会ったこの三人。
ウノと呼ばれた青年は、メンバーの中でもオールマイティに何でもこなす。
知識豊富で、サバイバル経験も豊富。
武器の扱いも安定しており、バランサー的存在らしい。
次に無精髭を生やした、中年の男。名前はアントン。
彼はガタイが良く、リーダーシップに秀でた兄貴分といった風体だ。
判断が鋭敏で、いざという時は頼りになる。
その次に、最初転んでいた栗毛の女性。名前はソフィ、ウノの姉である。
のんびり屋だが、実はメンバーで最も運動能力が高い戦闘面の主力だそうだ。
だからこそ、彼女が転んだときは彼らも焦ったらしい。
転んだ理由は、何やら上から果実が落ちてきて、その衝撃でひっくり返ってしまったのだとか。
それを聞いた元気おじさんは、もしかして自分が葉っぱばら撒いた影響が時間差で……と結局自分が原因だったことに戦慄したものだ。
「いやー、もうおじさん驚きっぱなしだよ。
三人だけじゃなくて、向こうにいるララちゃんやルシフ君も、みんな色々凄すぎ」
元気おじさんが視線を移せば、そこには薬を調合している銀髪の若い女性と、身軽に巨木の上へと飛び乗って見張りをしている小柄な少年が。
銀髪の女性がララで、少年の方がルシフである。
ララは昔、とある教会で聖女と呼ばれていたらしく、慈善活動のため薬学の勉強や体力作りをしていたという。
ウノと共に知識や技術面でこの一団を支えており、真面目で優しい性格だ。
ルシフは、田舎の村で狩人をしていたらしい。
身軽で、小柄な身体を活かした隠密行動に長けていて、各武具の扱いも上手い。
実は、元気おじさんとウノたちが初遭遇した時もずっと隠れていて、何かあったら弓で援護しようと構えていたらしい。
性格はアントン曰く、「実害の無いクソガキ」とのこと。
うん、なんとも癖の強いメンバーである。
「俺らからしたら、あんたの存在のが信じらんねぇよ。
ずっと都会で暮らしてたんだろ?それでよくこんなクソやべぇ島で七日も生き残れたもんだ」
呆れ気味のアントンに、元気おじさんは苦笑いする。
この世界の住人にとっても、この島の環境は異常らしい。
「いやいや、そんなこと言っても正直死ぬのは時間の問題だったしなぁ。
マジでここ何なの?みんなは何でこんな場所に居るの?話せるようになったところで、そろそろ聞いていい?」
何はともあれ、会話が出来るようになったなら、聞きたいことが山ほどある。
元気おじさんが、そう尋ねると、アントンとウノは互いに顔を見合わせた。
何やら難しい表情だ。
何か聞いてはいけないことだったのだろうか。
不安になった元気おじさんに、ウノが言う。
「あっ、すみません。一応秘匿義務がありますので。
ただ、元気おじさんがここに辿り着いた理由と何か関係があるかもしれませんし。
アントンさん、良いですよね?」
ウノの問いかけにアントンは頷く。
どうやら話してくれるらしい。
秘密を知る緊張を覚えつつも、元気おじさんも居住まいを正して聞く体制を整える。
ウノが手を翳し、口を開く。
「実はこの世界は、この島……いや、この海域によって危殆に瀕しています。
不自然にエネルギーが溜まり、異常な強さを持つ生物ばかりが生息する不思議な海域。
我々は、この海域をこう呼んでいます」
ウノは、アントンと視線を交わし、頷き合う。
そして、その名称を告げた。
「世界中の地殻エネルギーが、一樹の海樹に集結した場所。
通称、【青の世界樹】と」