【悲報】元気おじさん、なんかよくわからん超過酷なジャングルに飛ばされてしまう   作:空豆熊

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やる事は決まった、おじさん今日から頑張っちゃうぜ!

「青の世界樹……」

 

 ウノから告げられた名称を、元気おじさんは復唱する。

 彼にとって不慣れな日本語での説明とはいえ、その単語に含まれるニュアンスは恐らく実際に日本人がその単語を使った時と遜色無いように思えた。

 

 神話や寓話に登場する、それ一本で世界を成り立たせている大樹。

 この世界(ほし)には、実際にそう名付けられるような特性を持つ植物が存在しているのか。

 と言っても、地殻エネルギーなどと言っている辺り、あまり神秘的なものは期待出来そうにないが。それでも……

 

「ええー、いや、ええー? それつまり星が内包してるマグマとかが全部その植物付近に集まってるってこと? 流石にそれはちょっと有り得ない……よね? 星が成り立たないじゃん」

 

 神秘とは違う方向で、スケールが大きすぎる。

 頭が付いていかず、更にあり得ない想像をしてしまう元気おじさん。

 そんな彼の様子を前に、苦笑しつつアントンが言う。

 

「流石に全部ってこたぁねぇよ。

 世界が球体である以上、熱の大部分は中心部の核にあると考えんのが妥当だ。

 世界樹が集めてんのは、それ以外の地表に届くような部分さ」

「海底に根深く張り巡らされた根を通して、そこに集まった地殻エネルギーが、この海域の異常さを生んでいるんです。

 元気おじさんの故郷でミネラルと括られる成分が大量に生み出され、生物達は存分な力を奮えている。世界のミネラルは、殆どが海樹から生まれているんですよ」

 

 アントンの説明に、ウノが補足する。

 何と偏った生体バランス。

 一種の生物どころか、たった一個体の生物が環境の土台となっているらしい。

 

 予想外のスケールに、流石の元気おじさんも目眩がする程だ。

 世界樹と名付けられるのも納得である。

 そんな元気おじさんの動揺はさて置き、ウノが続ける。

 

「問題なのは、その世界樹が今もなお成長を続けていること。

 それも近頃、異常なペースで成長が加速しているんです。

 結果、世界中の生態系が狂い始め、人類は存続の危機を迎えてます」

 

 生物たちの強化、地殻エネルギーの抽出と消費による環境バランスの変化。

 それで生物自体が全滅する訳ではないし、『悪化』と呼ぶには視点が人間に寄りすぎるかもしれない。

 

 しかし、元気おじさんとしてもこの世界に来てしまった以上、人類が滅びれば頼る当ても無くなる。他人事ではない、ということだ。

 元気おじさんは背筋に冷たいものを感じて、身震いする。

 そこでアントンが、口を開いた。

 

「で、俺達はその育ちまくりの世界樹を少し削って、調整するための旅をしてるんだよ。

 人間に都合が良い程度まで排出量を減らして、何とか生き残れねぇかとな」

「なるほどなぁ……」

 

 最早それしか言えない。

 人類の存亡をかけた壮大な生存戦略の旅だ。

 今こうしている間にも、世界の環境は変化しているだろう。

 このメンバーで、その変化が少しでもマシなものとなるように、世界樹を削るために進んでいる。

 思考が止まるのも無理からぬことだろう。

 

 しかし、聞きたいことが無くなった訳でも無い。

 海樹という、存在しない日本語で説明された世界樹。

 恐らく、元の言語での呼び方を直訳した結果そういう表現になっているのだろうが、だからこそ全貌が掴めない。

 

 海の樹と言い切るからには、マングローブ(淡水と海水が混ざり合う場所に生育する植物)と違い、純粋な海水に根を張っていることが想像出来る。

 一体、どのように生えて、どんな形をしているのか。

 削ると言うが、それは削れるようなものなのか。

 それらの疑問を、元気おじさんは投げかけた。すると、ウノが答える。

 

「世界樹は、この海域中心の海底に根を張っています。

 深海から伸び、海面を割るように聳え立つ太さは、島を呑み込める程。

 更に枝分かれして、海域のあらゆる場所まで伸びている。

 独立した一本の木に見えるのものが、実は世界樹の枝や葉だったりするんです」

 

 ウノがそこまで言うと、その先をアントンが引き継いだ。

 

「その枝を俺達は伐採してるって訳だ。

 世界樹の幹本体を削ぐのは至難の業、そもそもそこまで辿り着くことすら難しい。

 着いたとしても極太であろう幹をどう削るんだとなっちまうからな」

 

 ようやく世界樹の全貌が見えてきた。

 海域のそこら中にある海の森林。

 それらの殆どが世界樹と繋がる枝であり、削げば世界樹のパワーダウンに繋がる。

 本体を削れずとも、その枝を削れば環境は改善される。

 

 言うだけなら簡単、しかし実現は難しそうだ。

 彼らの人数を見やれば五人、過酷な旅に付いていける者だけを連れているのであろう。

 それ程、この海域の生物や環境は厳しいと言うことだ。

 改めて彼らの凄さを実感するとともに、最後の疑問を元気おじさんは投げかける。

 

「なるほどねぇ、大体分かったよ。……じゃあさ、俺がここに来た理由と関係がありそうってどういうこと?」

 

 説明前にウノが口にした言葉。

 元気おじさんがこの地に降り立った理由と何か関係があるかもしれない、という推測。

 聞いた限りでは世界樹の特性と自分がここに来た理由に関連は見出せず、元気おじさんは首を傾げた。

 ウノが答える。

 

「元気おじさんがこの地に転移する前、確か隕石の落下に巻き込まれていたんですよね?

 そして、そのエネルギーが何らかの働きをして時空の歪みが発生し、ワープするような形でこの島に飛ばされた。

 ワープホールの入り口が、莫大でかつ特殊な働きをするエネルギーによって生み出されたのであれば、その出口も同じく莫大で特殊な力によって生み出された可能性が高い、と僕は考えています」

「莫大で、特殊な力……世界樹の熱エネルギーがその役割を果たすかも……ってこと?」

 

「ええ。実際、歴史上この海域では異星の物としか思えないような、未知の道具や生物が偶に出現していた記録が残されていますから。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()、と考えるのが妥当かなと。

 断言するには情報が少ないので、憶測でしかないのですが」

「うひぃ、何それ怖い」

 

 ウノの考察に、元気おじさんは身を震わせた。

 何が正しいのか、何が間違っているのか。

 ヒントも何も無い現状では、全て憶測に過ぎない。

 しかしそれでも、この説には説得力があった。

 

 世界樹の根は海底から伸びており、生物が持つに異常すぎるエネルギーを持っているのなら。

 様々な要素が上手くハマった時、通常では考えられない超常的な特性を持つ海域が出来上がったとしておかしくない気もする。

 分らんけど、もう何も分からんけど。

 

「薄々分かってたけど、俺ってマジでもう帰る方法無い感じ?」

 

 元気おじさんは、半ば諦め気味にそうぼやく。

 出口が開きやすいといった特性がある以上、どこかにまたワープホールは出現するかもしれない。

 だが、その入り口が地球に繋がる可能性は限りなく(ゼロ)に近いだろう。

 そもそも、滅多に開くものでもなければ、どこに出るかも分からない。

 

 如何に元気おじさんと言えど、希望を抱くにはノーチャンスが過ぎるというものだ。

 それを察してくれているのか、アントンもウノも気まずそうに黙っている。

 そんな空気を見て、今までずっとふむふむと話を聞いていたソフィが口を開いた。

 

「ねぇ、ウノ君。確か学者さん達が、世界樹を利用して時空を横断する装置が出来ないかって研究してなかった?

 そもそも今実験自体する余裕も無いってことでお流れになったやつ」

「あー、あったね姉さん。時間的にも物資的にも、技術面でも厳しいって見送られたやつ。

 ……でも、情勢が安定して文明も盛り返していけば、実現の目処が立つかもしれない」

 

 少しくらい希望もあるのでは、というソフィの言葉にウノがそう答える。

 元気おじさんも、それは良い情報だとばかりに目を輝かせた。

 然程可能性の高い話でも無いのだろうが、発生するかも分からないワープホールを闇雲に探し、何処に繋がるかもわからない中無謀に飛び込むより、少しでも期待を抱きながら生き長らえる方が幾らかマシだ。

 

 低い可能性にかけて、今を生きる。

 それこそが、今できる最善の行いであろう。

 

「まあ、なんだ。期待しすぎるのは良くねぇが、なくもねぇ話だと分かった。

 そのためにも、世界樹とやらの調整を早く済ませとかねぇとな。

 どうだ、元気おやじよ。あんたも手伝っちゃくれねぇか?

 この辺で生き延びられる人材ってのは、マジで貴重なんだよ。

 ぶっちゃけギリッギリなんだが……」

 

 アントンが提案する。

 この状況で、断る理由など今更ありはしない。

 彼らの仕事が成功しなければ、そのまま人類は衰退の一途を辿る。

 

 その時こそ希望は潰え、この世界で元気おじさんは死ぬ。

 自分が役に立てるのであれば、喜んで手を貸そう。

 元気おじさんは、アントンに頷いて見せた。

 

「ああ、勿論だ! 俺に出来る事なら、何でもやるぜ!」

 

 その言葉を受けてアントンがニヤリと笑う。

 ウノとソフィも微笑んでいた。

 知識、経験、技術。どれも足りていないが、それでも出来ることはある。

 誰よりもみなぎるその精神と身体で、最大限に彼らをアシストしよう。

 そう心に誓う、元気おじさんであった。

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