【悲報】元気おじさん、なんかよくわからん超過酷なジャングルに飛ばされてしまう 作:空豆熊
「ぎゃぁぁああ!? ちょっ、ルシフ君強引過ぎ!?」
「手で直接弄った方が分かりやすいでしょ?
ほらほら、腰を曲げない。それじゃ関節痛めるし体重も乗らないから」
「うひぃいいいいい!?」
朝から元気おじさんの悲鳴が響く。
元気おじさんが正式に世界樹伐採チームへと加わった翌日。
体力を活かして薪割りを手伝おうと、斧を片手にやって来た先。
一行最小の少年、ルシフが元気おじさんに斧の持ち方を指南していた。
元気おじさん的にキャンプなどで今までにも薪割りはした事あるし、その腕力から友人や家族に頼られ、数をこなした経験もある。
しかし、真に慣れた者からすれば、それは付け焼き刃も良いところ。
薪こそ割れてはいるが、持ち方や体勢、身体の動かし方などまあ酷いものだった。
無駄に体力を消耗するどころか、腰や肘、足首などを痛めかねない。
テンポも悪く、折角力あるのに勿体ないとルシフが手解きを行っているという訳だ。
作業効率のことはさておき、余計な怪我をしないようにと他メンバーも各々の仕事をこなしつつ、遠巻きに見守っている。
「あはは、良い反応。おじさん、面白すぎない?
ささ、もう一本いってみよう!」
「君、趣味悪いってよく言われない!?
ねぇ、今やってるのって遊びじゃないよね!??」
「んー? まさか、内容はガチだよ。じゃなかったらみんなが止めてるって。
ただ、報酬として元気おじさんのリアクションを貰ってるだけ。別に痛いことはさせてないでしょ?」
「何その等価交換!? いや、確かに痛くもなければ苦しくもないけど、不意打ちでやられると心臓に悪いよ!」
悪びれないルシフに、元気おじさんはそう返す。
彼のことを、アントンが「実害のないクソガキ」と称した理由が早くも露見した形だ。
相手の反応を面白がり、悪戯を仕掛ける悪童。
相手が損をするだけの悪戯は決して行わず、利益をもたらせるような悪戯を仕掛ける。
質悪いことに、相手もしっかり選んでおり関係が拗れるような真似は一切しない。
その絶妙な塩梅が、彼を実害の無いクソガキにさせているのだ。
元気おじさんは見事ターゲットとして気に入られてしまったようであり、そのリアクションの面白さにルシフはご満悦である。
アントンはそんなルシフに呆れつつも、実際こういった指導は彼が適任だろうと静観していた。
自分は人に教えられる程の器用さがないし、他のメンバーはやや厳しさの面で欠ける。
技術があり、ナチュラルにスパルタが行えるルシフ。
体格や筋力に優れる元気おじさんが斧をしっかり扱えるようになれば、世界樹の伐採に大きく貢献することが想像される以上、ここは妥協しない。
「スクワットの延長だよ、元気おじさん。
腕力で振り下ろすんじゃなくて、膝の動きに合わせて斧を置きに行く感じ。
もっと上達したら思いっきり振りかぶって遠心力使っても良いけど、今はとにかく確実に刃を立てて体重を乗せることだけ意識すること」
「うお、ちゃんとしてるぅ。……こうかな?」
何だかんだ丁寧に説明してくれるルシフに、元気おじさんは関心しつつ斧を下ろす。
すると、ぎこちなさはあるものの、綺麗な手付きで斧が薪を両断した。
「うお、大して力入れてないのに、綺麗に切れた!」
「でしょ? 元気おじさんくらい体重があったら、フルスイングなんてしなくても大抵の物はスパッといけちゃうんだから。
斧は腕力じゃなくて下半身で使う。取り合えずこれさえ意識出来れば、今までよりずっと楽に作業出来ると思うよ」
「確かに。まだまだ毎回は上手くいかないけど、反復練習すればなんとかなりそうだ。
ありがとな、ルシフ君! 今後とも、よろしく頼むぜ!」
「うん、おじさん面白いし、僕からもよろしくー。
あっ、手の位置がズレてきてる。毎回違うとこで振ってたら安定したフォームが身につかないよ?
えい、えいっ」
「あああぁ!? またかよ! もうちょい手加減してよ、ルシフ君!?」
感動の眼差しを向けながら、元気おじさんは挨拶する。
それに応じるルシフだが、一瞬にしてその顔を悪戯な笑みに歪め、元気おじさんの手を直接操作し、位置調整をさせる。
油断も隙もない。
そんなこんなで、元気おじさんの斧講習はルシフの手により指導されるまま続いた。
────────
「ふぅ……これで最後かな。
おーいアントンさん! こっちは終わったぜー!」
ルシフの悪戯的指導を受けながらの薪割りを無事終え、運び終わった薪をアントンに報告する元気おじさん。
獣の解体や皮の加工などをしていたアントンは、その声を聞いて手を止めた。
アントンは作業を中断し、元気おじさんの元へとやって来ると労いの言葉を掛ける。
「おう、お疲れさん。随分ルシフの奴に気に入られちまったな。
あいつ、これからもあんたで遊ぶ気満々だぜ」
アントンが冗談めかしてそう言うと、元気おじさんは苦笑しつつアントンに答える。
「あはは……なんか彼凄いよなぁ。
アントンさんはルシフ君と仲良いの? 彼のことよく知ってるみたいだけど」
そう問われたアントンは、少し恥ずかしそうに頭をかく。
そして、元気おじさんにこう答えた。
「まあな。恥ずい話、あいつがいなきゃ俺はとっくの昔にくたばってた。
細けぇこと話すと長くなるから言わねぇが、あいつのタチはまあメンドくさくてな。
人の激情、そのものを好みやがる。酒場で発狂してる奴を平気で肴にするような奴でよ。
だが、だからこそか。死にかけの奴が居たら助けちまうような、お人好しな面もある。
死んじまったらそいつの感情も楽しめなくなるからってな。
……どういう育ち方したらあんな倫理観になるのかは、わからんがよ」
或いは元からそういう性分だったのかもな。
そう言って、アントンは薪の一部を手に取り窯にくべた。
アントンの話を聞いて、元気おじさんは余計解らなくなる。
先程の一件を経て抱いた印象は、「悪戯好きだが基本善良な少年」という割かし普通なものだ。
しかし、そんな単純なものでは無いことをアントンの言葉から察する。
実際はもっと歪で、一口に善悪で測りきれない、そんな人物なのかもと。
それは、人伝に聞いて理解し得るものでも、情報から感じ取れるものでも無さそうだ。
「まっ、構えるこたぁねぇよ。あいつの思考がどんだけ歪だろうが、出力される言動は只の健全なクソガキだ。
間違ってもチームに危害を加えるやつじゃねぇ。そこは保証する」
最後、食材を窯で焼きながらアントンはそう〆る。
少し不安を感じていた元気おじさんだが、今はただその言葉を信じることにするのだった。
それぞれ仕事を終え、アントンとララが作った料理を囲む。
調理は基本当番というか、他の仕事の配分に合わせ都度持ち回りで行っている。
が、サバイバル生活の中手に入れた未知の食材を扱う都合上、知識を以って精度の高い分別が可能なララとウノどちらかは主導で入り、他がその補助をする形となる。
なので、今日はララ主導での調理。
彼女は特にこのチームで料理することへの熱意が強く、それを見てウノも予定に都合がつく限り彼女へ担当を譲るようにしている。
「ふふふ、今日は不思議な槍みたいな形をした果実が手に入ったということで、朝にピッタリなさっぱりしたスープが作れました! ささ、召し上がってくださいな! 元気おじさんも!」
「お、おお。ララちゃん押しが強いなぁ。
……じゃあ、頂きます」
元気おじさんのお株を奪う程に、朝からハイテンションでぐいぐいくるララ。
引き気味の元気おじさんだが、その勢いに押されスープを口に運ぶ。
すると、一口含んだ瞬間に
槍型の実は、どうやら
それを軸に味付けされたスープは、具である肉や野菜、水から溶け出た旨味を余すこと無く吸い込み、爽やかながらも腹持ちの良い汁として仕上がっていた。
「うおぉ、今日も美味っ! ララちゃん、このスープめちゃくちゃ美味しいよ!」
スープに舌鼓を打ち、そう感想を述べる元気おじさん。
他のメンバーも、その言葉に異論なく頷きながら、同じくスープに舌鼓を打っていた。
ララはそんな彼らの反応を見て、満足気に微笑する。
皆がスープに夢中になり、勢いが落ち着いたところでアントンが話を切り出す。
「さて、今後の話だが。この島付近で切れる世界樹の枝は粗方切り落とした。
本来ならもうここは切り上げる予定だったが……元気おやじ、あんたの馬鹿力があればもう何枝か切れそうなのがある」
「えっ、そうなの? じゃあ今日とか早速?」
アントンの言葉に、スープを口に運ぶ手を止めて聞く元気おじさん。
アントンは首を横に振り、続きを話し始める。
「いや、まだだ。その枝は、島中央の
その辺りは食い物豊富で、多くの獣やら何やらが住み着いてる」
海跡湖。海の一部が陸に囲まれる形で湖となっている場所。
この島はどうやらドーナツ状になっていて、島を上から見ると地面に空いた丸い穴から世界樹の枝が幾つか突きだしているらしい。
その枝が齎す栄養により、生物の楽園となっているのだ。
つまり、元気おじさんが散々地獄をみさせられた、あの猿や蛙なども大量に生息するということだ。
どれだけ慎重に行動しても、恐らく戦闘は避けられない。
背筋に緊張が走り、唾を飲み込む元気おじさん。
その時問題となるのは、チーム内における元気おじさんの立ち回りだ。
素人がプロの連携に混ざったところで、邪魔になるだけ。
一人で動いていた時のように、ただ気合で棍棒を振り回すのでは話にならないだろう。
今のままでは、お荷物になる未来しか想像できない。
行くにしても、まずその問題を解決しなければならないという事か。
そう考える元気おじさんを見て、アントンが続けた。
「ってことでだ。あんた用の鎧を作って、盾の扱いも覚えてもらう。
細かい動きを覚えるより、前線で暴れて他がカバー出来るように形を整えた方が早い。
危険な仕事だが、俺も共に盾役を務めるし、無理に適正のない仕事やる方が危ねぇからな。それで良いか?」
アントンの提案。それに対する元気おじさんの答えは当然イエスだ。
今から弓やら刃物やらの扱いを教わるより、元気おじさんの体力にものを言わせた単純な戦い方を学ぶ方が手っ取り早い。
流石に一人で盾役をするのは心許ないが、アントンがフォローしてくれるなら危険度は大幅に下がるだろう。
世界樹の伐採。初めて行うチームでの活動。
斧やら盾やら覚える事は山ほどあるが、それでも元気おじさんの心は晴れやかだった。
「ああ、もちろんさ。みんな、改めてよろしくな!」
アントン、ウノ、ソフィ、ララ、そしてルシフ。
皆を見回しながら元気おじさんはそう告げる。
その言葉に全員が頷いた。