第9章
「内閣も参謀本部も消滅してしまった今、天帝を擁する我々こそがこの国の中央政府だ。
だから我々がこの国を平定しなければならない。
そのために、まずお前たちが拳王や聖帝を討伐しろ。」
最近、ジャコウがそう言って、私やソリアの尻を叩くようになった。
ジャコウはこうも言う。
「拳王も聖帝も、元はと言えば拳法家崩れではないか。
同じ拳法家のお前らなら倒せるはずだ。
それとも奴らに勝つ自信がないのか。
元斗皇拳の実力はそんなものか。」
何を言っているのだ。
現実が見えていないのか。
拳の実力がどうのとかいう以前に、我々は自分が生きていくだけで精一杯ではないか。
今の私にできるのは、この村と、隣のショウキの村を守りきることだけだ。
私がそう言うと、さすがにジャコウも現実は見えているらしく、不満そうだが引き下がった。
第10章
(天帝の村を拳王軍が襲った日 ー その日の記載がファルコの日記にはない。日記を書く余裕もなかったらしい。
だからその日の出来事については、侍従武官ソリアの手記から引用する。)
恐れていたことが起こった。
この村に拳王軍が襲来。それも、まずいことに拳王が自ら出陣して来ている。
拳王軍のザコが来たのなら俺一人で充分だが、拳王が来ているとなれば、そうはいかない。
向こうが拳王本人を出すのなら、こっちはファルコを出すしかない。
しかしファルコの腕をもってしても、拳王に勝てるだろうか?
ファルコが危なくなったら、俺たち元斗皇拳の一門総出で加勢して・・・と考えていたら、ファルコが驚くべき行動に出た。
ファルコは拳王の目の前で、突然自分の右足を切り落とし、この足をくれてやるから村人たちの生命を助けよと、そう言ったのだ。
そしてそれを見た拳王が、本当に軍を退いて引き上げたものだから、もっとびっくりした。
しかし何はともあれ、拳王は去った。危機は去ったのだ。
すぐに村の皆がファルコに駆け寄り、医者を呼べ薬を出せと大騒ぎになった。
騒ぎが一段落したところで、俺はファルコに言った。
「なんて無茶なことをするんだ。」
「・・・これで良いんだ。
あのまま戦ったら、おそらく俺と拳王は相討ち。その後、統制を無くした拳王軍の連中が村になだれこんで、この村は皆殺しだ。
それよりは、俺の足一本で済めば安いものだ。」
「しかし、お前が足を切り落としたところで、拳王が嵩にかかって襲いかかってきたら、どうするつもりだったんだ。
それこそ、ひとたまりもないぞ。」
「いや、それはない。
俺は拳王を・・・ラオウという男を知っている。
奴は人の弱味に付け込むような男ではない。
常に正々堂々の勝負で敵を破る、誇り高い拳士だ。
だから大丈夫だ。」
・・・ファルコは、ラオウという男を高く買っているということは分かった。しかしそれでも危ない真似をしたものだ。
※ ※ ※
そのラオウは、帰り際に妙な捨て台詞を残して行った。
ジャコウを見て、
「この男を今すぐに殺すがいい。
さもなくば、この男、うぬにとって最大の災いとなろう。」
と言ったのだ。
この村の皆が思っていながら口に出さなかったことを、なぜかラオウが代弁してくれた。
あの時ばかりは俺も、ラオウのことを敵ながら見事だと思った。
ファルコも日頃ジャコウには、腹に据えかねているはずだ。
そこへあのように言われて、ファルコは今日こそジャコウを殺すかと思ったが、結局殺すのを思いとどまった。
まあ、そこで非情になれないのが、ファルコの良いところであるのだが・・・。