終章
私が暫定首相、天帝の侍従長だったジャコウが副首相ということで、臨時政府が成立した。
そのジャコウ副首相が最近、天帝の近衛兵を復活させると言って、兵を集め始めた。
昔の近衛兵が着ていた古めかしい鎧兜を引っ張り出して、兵士に着せたりして、おかげで格好はついているが、元野盗上がりなどを雇っているらしく、素行不良ですこぶる評判が悪い。
そこで私がジャコウに対し、今のまま近衛兵を復活させるのはどうかと諌めたところ、旧拳王軍の残党に備えるために手兵が必要だという。
そう言われると反対しにくい。
しかし嫌な予感がする。
※ ※ ※
私の留守中に、天帝の近衛兵が突然動きだし、臨時政府の庁舎を封鎖した。近衛兵を指揮するのはジャコウの二人の息子、ジャスクとシーノ。また、ジャコウの腹心のバスクやバロナなどが、兵の間を走り回り指示を与えているのも見えたという。
彼らを中心に完全武装の兵士が充満する、ものものしい雰囲気の中、ジャコウ副首相が登壇し、帝政復活と臨時政府の廃止を宣言した。
天帝のルイ様を立てて国家元首とし、ジャコウはその下で全権を握る総督に就任。
また、臨時議会も解散、議員は全員追放と発表された。
勿論全て私のあずかり知らぬことである。
これはジャコウ一味と近衛兵によるクーデターだ。
私は、同じ元斗皇拳一門で侍従武官のソリアやショウキとともに政府庁舎に向かった。
庁舎の入口にはジャコウ配下のゲイラがおり、私達を見ると「許可のない方はここを通れません。」と言って引き止めようとしたが、私達は無視して中に入った。(この時ゲイラは庁舎入口を守っていて、無理に押し通ろうとする者がいれば、得意の催眠術をかけて追い返していたらしい。しかしゲイラの目を見なければ催眠術にかかる心配はない。要するに、ゲイラがいても無視して通れば良いのだ。)
そのまま首相の執務室に入り、勝手に首相の椅子に座ってふんぞり返っているジャコウに抗議したが、ジャコウに「これは天帝陛下のご意志である。」と一喝されてしまった。
天帝陛下の意思であるはずがない。
私は長年、天帝のルイ様に仕えているが、ルイ様は素直に成長し、ご自分の境遇を受け入れておられた。
特に核戦争後は、私たちとともに畑を耕し家畜の世話をして、一般庶民と変わらない暮らしをしておられた。
ルイ様には天帝ではなく、市井の一人の女性として普通に生きていただくのがお幸せではないか、と私は考えるようになっていた。
今さら帝政復活でもあるまい。
ショウキやソリア達も、手兵を率いてクーデター派と一戦交えると息巻いている。
しかしジャコウは、クーデターの時に天帝を立てると言いながら、実際には天帝を監禁している。
今、下手にジャコウに手出しすると、天帝の身に危険が及ぶだろう。
そう思ったので、私はショウキ達を止めた。
ここはジャコウに逆らわず、機を見て天帝を救出する策を考えるのだ。
※ ※ ※
ジャコウ総督は私とソリア、ショウキの三人を将軍に任命し、それで私たちを手なずけたと思っているらしい。
そのジャコウが先日、帝都に電気を復活させると言い出した。そして自ら発電所の設計図を書いたかと思うと、資機材を集め労務者を動員して、あっという間に巨大発電所を完成させてしまった。
ジャコウにそんな手腕があったというのも驚きだが、その電気をジャコウは自分ひとりで使っている。
さらに帝都の城門に高圧電流を流す細工をしたりして、帝都を難攻不落の要塞にしてしまった。
今やジャコウの権力は磐石で、天帝を救出するのはますます難しくなった。
何とかしなければ。
※ ※ ※
恐れていたことが起こった。
打倒天帝を叫ぶ反政府ゲリラが出現し、住民の支持を得て勢力を広げつつある。
旧臨時議会派のリハクなども合流し、「打倒天帝・議会擁護」をスローガンに掲げて、今や当たるべからざる勢いだという。
ジャコウ政権の横暴が目にあまるところへ、発電所などを造ると言って人々を強制労働に駆り出したから、民心を失ったのだ。
私もジャコウには辟易しているから、奴のために反乱軍と戦いたくはない。
しかし今ジャコウに逆らえば天帝の命が危ない。
私は難しい立場に立たされることになった。
※ ※ ※
ファルコの日記はここで終わっている。
しかし、この後のファルコの運命が、漫画「北斗の拳」のそれと同じになるとは限らない。