ソノ日ノ空ハ銀色デシタ   作:Aa_おにぎり

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作者はウマ娘から入ったニワカです。
間違っていればご指摘の程をよろしくお願い致します。


季節ハ巡ル
#1


「カイチョー!」

 

扉を勢いよく開けて飛び入る一人のウマ娘、トウカイテイオーは生徒会室を見回すと。そこに目的の人物はいなかった。

 

「あれ?カイチョーは?」

 

普段なら座って居るはずの人物がそこにはいない事に首を傾げていると、同室に居り。同時に彼女が来る事を予見して書類を片手にエアクルーヴは答える。

 

「会長なら、今日は夜まで戻らないぞ」

「え?どうして?」

「大事な人と会うからだ」

「大事な人って?」

「さぁ?」

 

エアクルーヴも知らされていないのか、首を傾げていた。そんな反応を見ながらトウカイテイオーはブゥと不満げなご様子。

 

「ムゥ、ボクに何も言わずに出かけるなんて……」

「……」

 

その後に部屋を出て行った彼女を見送った後にエアクルーヴ自身もわからない様子で再び書類に目をやっていた。

 

「(とは言っても、会長は一体どこに行ったのやら……)」

 

少なくとも『一日頼んだ』と言って生徒会室を託してきたシンボリルドルフに彼女はその行き先が少し気になっていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その頃。シンボルルドルフは一人、トレセン学園を後に軽い荷物と秋川理事長より携わった封筒二通を持って遠出していた。

場所は地方のとある寺、電車を乗り継いだ後は歩いてその場所に向かっていた。

 

「ここか……」

 

渡された地図を元に彼女は寺院の入り口を軽く見上げる。

 

「……本当にここなのだろうか?」

 

しかしそこは寺院と呼ぶには少し…いや、かなり寂れて居るようだった。壁はところどころが剥がれ、筋塀の本数も三本と少ない。

てっきり秋川理事長が直々に頼みを入れてきた為に相応の格式かと思ったが、少し予想外だった。

しかしこれから会う相手は嘗ての実力ウマ娘、おまけに教科書に載って居るような人物だった。これでも緊張で興奮を抑えていたのだ。そもそも、生きていたという事実に驚くほどだった。

 

「(いかんいかん、こういう先入観は失敗の元だ)」

 

なにせこういう場所への出張は初めてで、彼女でも慣れない場所だったからだ。

そして門の前で合掌しながら一礼し、そのまま敷居を踏まないように右足から中に入る。

中には手水舎もあったので、杓をとって水を汲み。右手、口、左手、柄杓の柄の順で心身を清める。

そして物静かな本堂の方まで足元の砂を踏みながら歩くとそこには小さなお堂や家もあり、そこに人の気配は感じられなかった。

 

シンボリルドルフはお寺に来たという事でなんとなくお賽銭箱に近づくとそこで小銭を取り出して優しく入れ、その後に合掌をしながら一礼。願い事を念じ、再度一礼をするとそこで声が掛かった。

 

「素晴らしい作法ですね。完璧な参拝です事で」

「……貴方は…」

 

ゆっくりと後ろを振り向くと、そこでは少し老けた手を持ち、淡い草色の着物に白い帯を見にまとう一人の片眼鏡を掛けた年老いた栗毛の老婆が立っていた。

ただ、彼女の頭には立派な長いウマ耳が立っており、彼女がウマ娘である事は一眼で分かった。ただそのウマ耳も左側は一部が欠けてしまっていた。

 

「お初にお目にかかります。シンボリルドルフさん」

 

こちらからの連絡は一才していないのに、自分の名前を知っていた事に一瞬だけ彼女は驚いた。

 

「っ!ご存知でしたか……」

「ええ、貴方の噂は予々聞いております。トレセン学園の生徒会長さん」

 

その老はそう答えると、彼女も少し頭を下げて挨拶をした。

 

「初めまして、カイソウさん。トレーニングセンター学園生徒会長のシンボリルドルフと申します」

 

シンボリルドルフはそう答え、目の前の老婆ことカイソウはそんな彼女を見て変わらぬ柔らかな表情を見せながら答えた。

 

「中央からご苦労様です。さぁ、上がってください。お茶を準備しますので」

「失礼します」

 

彼女の案内で、本堂の横の彼女の家に上がった。

 

 

 

 

 

「こちら、秋川やよい理事長の親書と寄付金です」

 

居間に通され、椅子に座ったシンボリルドルフは早速秋川より預かってきた荷物を反対の椅子に座るカイソウに差し出した。

墨字で『親書』と丁寧に書かれた封筒と共に分厚い封筒を手渡されたカイソウ自身は軽くため息をついた後に親書を先に手に取った。

 

「毎年の事ですが、こんなに寄付金は要らないと申しておりますのに……」

「いえ、受け取ってください。これはトレセン学園全体の総意と思って下さって構いません」

「ふぅ…理事長にはこんな死にかけ老相手には手に余る金額だとお伝えください」

 

彼女の物腰や話し方、雰囲気はかつてウマ娘だったとは思えないほどだった。教科書で見ていた彼女の雰囲気とはあまりにも乖離していた。

 

「……去年まではたづなさんが訪れていたと聞いています」

 

彼女は、この仕事は今まではたづなが行って居るというのを数日前に秋川理事長から聞いたばかりであった。

 

「ええ、今年はたづなさんが用事で来れないので。代わりに貴方が来ると聞いていました」

「……そうでしたか」

 

シンボリルドルフは自分の名前を知っていた訳に納得すると共に、目の前に座る御仁のその雰囲気に少しだけ拍子抜けしてしまった。するとカイソウは少し笑う。

 

「ふふっ、幻の二冠に見えないでしょう?」

 

心を読んだように彼女は答えると、シンボリルドルフは頭下げてしまう。

 

「申し訳ありません……気に障ってしまいましたでしょうか?」

 

過去の黒歴史をつい考えてしまった事を、彼女は軽く首を横に振った後で答える。

 

「いいえいいえ、むしろあの時の事はよく覚えています。()()思い出としてね」

「え……?」

 

そこで思わずカイソウの反応にシンボルルドルフとしては驚きと疑問が残る話だった。

 

「私に取ってみれば、東京優駿……タービーを取れただけでも十分良い思い出です」

 

でも悔しいところはありますけれどね。と追加で言い残し、カイソウは懐かしむようにゆっくりと目を閉じていた。

彼女は幻の二冠と言われ、日本の競史史上、最も怒涛な人生を歩んだダービーウマ娘とも言われていた。

 

「あの……失礼を承知でよろしいでしょうか?」

「ええ、どうぞ」

 

そんな彼女の感覚に少し違和感を覚えたシンボリルドルフは目の前の一人のウマ娘に問いかける。

 

「カイソウさん…貴方の二冠と慣れなかったお話……伺ってもよろしいでしょうか?」

 

普通なら正気を疑うはずの反応。幻の二冠と言われ、怒涛の時代を生き抜いた彼女の話を彼女は本人の口から聞きたかった。どうして一生に一度の二冠を逃したのに笑ってしまうのか……。

 

「……ふふっ、懐かしいです。この感覚は…シンザンやたづなさん以来です」

 

懐かしそうに彼女達の名を口にしたカイソウはシンボリルドルフに声をかける。

 

「では、お話しましょう。ルドルフさん」

「っ!そうですか……」

 

シンボリルドルフは人生の大先輩とも言える人から聞くことのできる話に思わず嬉しくなってしまう。年齢的に言うとどのウマ娘よりもカイソウは年老いている。むしろ生きて居るのが普通はおかしいくらいには……。

 

「ただし、ここではない場所で」

「ここではない……場所?」

 

彼女の次句にシンボリルドルフは首を傾げると、カイソウは頷きながらゆっくりと席を立つ。

 

「ええ、少し付いて来てもらえますか?」

「は、はい!」

 

少し緊張をしたままの様子で彼女の後を追っていた。

 

 

 

 

 

「これは……?」

 

そしてついて行った先、二人は両手に擦り切れまで水の入った手水桶を持ち、カイソウはそこに更に線香やら蝋燭、マッチなどの物も持っていた。

 

「さて、いきましょうか」

「は、はい!」

 

そして目の前にはこれでもかというほど急な石階段の坂道。それが山肌に沿って永遠と続いていた。

 

「…これは何とも……」

 

水をなるべく溢さないようにと言う事でシンボリルドルフは慎重に階段を登っていると、カイソウが話しかける。

 

「意外と大変でしょう?両手に水を持ってこの坂道を登るのは」

「…はい……」

「ほほほっ、『淀の坂』よりもここは勾配が圧倒的ですからね」

 

どこか楽しんでいるように軽い口調で答える彼女はそのまま階段を上がって行った。

 

 

 

そして石階段をしばらく上がって登り終えると、そこには多くの墓石が置かれた墓地があった。

 

「ここは……」

「ここにはみんな、私たちの同期や先輩方が眠っています」

「……」

 

カイソウに言われ、シンボリルドルフは一瞬視線を彼女に移した後に再び戻すと彼女は桶を置きながらゆっくりと口を開いた。

 

「ではお話しましょうシンボリルドルフさん。まだ私達が若かった頃のお話を」

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

その日、京都競場ではの足音が響く。

 

その音はとても重いもので、歓声は無く。とても競走(レース)をやって居るようには思えなかった。

 

戦時下の金属供給で屋根が取っ払われた観客席も気味が悪いほど静かで。本当に競走をして居るのかと思うほどであった。当然の如く人がいないので券は一枚も売れていない……というか売られても居なかった。

見て居る観客は国民服を着て居る男性陣と、軍服を見にまとう男達のみ。数は二百人といったところだ。

 

念を押すと、今日行われるのは主に初競走である。

 

戦争の暗雲立ち込める中での、この競走。

 

レースは敵性語という理由でくだらない国の方針で競走と言えと言わされ続けてもう何年か。

戦争の風向きは日に日に悪くなっており、それ故に見ている軍人の表情もあまり晴れた物ではなかった。

 

当時はまだ公表されていなかったが、近々米国による本格的な東南亜細亜地域の大規模な上陸作戦があると考えられており、戦況は悪化していた。

 

すでにマーシャル諸島やアドミラルティ諸島は奪還され、数ヶ月前はトラック空襲で甚大な被害を受け、この前は海軍乙事件もあり。海軍大将は死亡、重要機密書類は敵の手に渡っていた。

 

先月末にはのちに史上最悪の作戦と言われる起死回生の一手のインパール作戦が開始され、上野では初めての集団疎開列車が運行された。

 

ミッドウェイでの大敗以降、日本の雲行きは怪しくなっていた。

 

 

 

 

 

今日は四月二三日、ここ京都競場ではとある娘が新*1を迎えようとしていた。

 

「行けるか?」

「はい、問題ないです」

 

丸坊主の国民服を着た一人の男に声をかけられ、その娘は前に立つ若い男に答えながら立つ。

 

「窪田調教師」

 

そう答えると、その娘。カイソウは靴の確認を行った後に体操服の確認を行った後に無音の下見所(パドック)に上がった。

 

「状態は?」

「上々です」

「よし、頑張ってこい」

 

彼女はそう答えると窪田も短く頷いた後に彼女を見送った。

 

 

 

 

 

下見所も人は軍人や関係者しかおらず、彼らは口々に反応を示す。

 

「名前は?」

「カイソウです。練習では良い結果を残しております」

「なるほど体はしっかりして居るようだ」

「これは良い、軍によく使えそうだ」

 

主に評価を下して居るのは軍人達だ。そんな彼らの反応を聞きながらカイソウはどこかやるせ無い気持ちを感じながらその場を後にしていた。

*1
メイクデビュー




次いつ更新できるかな……。

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IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)

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