ソノ日ノ空ハ銀色デシタ   作:Aa_おにぎり

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#10

現在本格化の最中のカイソウ。その事実は隠しており、誰かに聞かれた際は『数ヶ月はお試しで本格化後の調教を行なっている。』と答えていたが、流石にこれは予想外だった。

 

「さて、始めようか」

「は、はいっ!」

 

早朝、朝早く起きた私は色々な意味で緊張しながら答えた。

なにせ、今日並走してくれるのはあのセントライトだ。三冠との併走と言う、一部の人間であれば羨望の眼差しと、後殺意を込めた目線が送られるような事だ。

 

正直、編入したばかりの自分が生徒会に入った事に一部の上級娘からは疎んだ目線を向けられるのだ。

そんな事を言ったのを聞いた時はいつも内心で『だったらテメェらも生徒会の仕事しやがれ』と思いたいぞ。確かに日常じゃあもさっとしてて人気のあるセントライト先輩だが、一回入ったら凄いんだぞ、色々と。

 

ちなみに、朝の調教に私のテキは来ない。正確に言うと、朝の調教の終わり頃にやってくるとそのまま走った距離を計算した後に脚の確認と体温を測ったら帰ってしまう。

そして授業を終えた夕方の調教の際に調教内容を口頭で伝えると偶に鉛入りのチョッキを渡して負荷を掛けて調教場まで走る。

 

「ほっほっほっほっ!!」

「はぁ…はぁ…はぁ…」

 

そして始まった並走は京都競場の朝の芝の場を走る。

そして走った瞬間にカイソウはセントライトの走りに驚愕する。

 

「(一歩一歩が…重い……)」

 

まるで重戦車の砲撃音の若き重い足音と共に踏み出される一歩が爆発的な瞬発力を生んでいた。

現役時代、彼女のテキは『ずんぐりむっくりの大型戦車』と評していたのは間違いじゃなかった。またセントライトは身長自体がまず学校でダントツ一番を叩き出すほど大柄だ。故に、場に彼女の走った足跡はくっきりと残っていた。

 

「凄い……」

 

これが史上初のクラシック三冠を獲得した娘の実力かとカイソウは戦慄する。

走った距離はまだそれほどでは無いが、恐ろしい緊張感があった。

ただの併走調教だと言うのに、カイソウはすでに汗が滴り落ちていた。するとセントライトは余裕げにカイソウの表情を見ると軽く笑った。

 

「(っ!!本気じゃないって事ですか……)」

 

セントライトのその表情を見て、対抗心に火がついた彼女はさらに速度をあげようと足を踏み込んだ時、

 

パキンッ

 

靴底で異音が響き、これには思わずセントライトもカイソウも足を止めてしまった。

 

「大丈夫か?」

「はい、特には……」

 

セントライトは最初に彼女の脚の事を懸念すると、カイソウは問題無しと答えて異音のした靴底を見ると思わず溢した。

 

「あちゃ、蹄鉄が……」

 

そこにはパックリと割れてしまった蹄鉄と、あり得ない方向に曲がった蹄釘の哀れな姿があった。

 

「おう、すまんね」

「ああいえ、よくある事なので」

「……そうか」

 

カイソウの返答にセントライトは無事なら良かったと答えていると、そこに声がかかった。

 

「今日は一段と豪華な併走だな」

 

窪田だ。彼はいつも通り、朝の調教の終わり頃にやって来て私に声をかける。

 

「収穫は?」

「その前に蹄鉄が割れちまったさ」

 

セントライトが答えると窪田は割れた蹄鉄を付けていた靴を見て軽くため息をついた。

 

()()()……」

「すみません」

「いいんだよ。教子ならいくらでも掛けられる」

 

基本的に娘の調教に関しては本人の意思を優先する窪田はそれ故に割と金欠気味だ。配給切符が日々の生活の命綱になっている時点で大分やば目な方向に走っていた。

するとセントライトが軽く首を傾げながら窪田に問いかける。

 

「何度も壊しているのか?」

「うーん、偶にな。いつもはその前に交換しているんだが……」

 

そう答えると、窪田は割れた靴を回収すると彼はやや苦笑いしながら溢す。

 

「まぁ元々、俺達は新米調教師とまだ新戦にも出ていない零細弱小組だ。お財布事情は厳しいのよ」

「……」

「おまけに、最近は正規品の蹄鉄も徐々に質が悪化している。厳しいねぇ」

 

そう答えると、カイソウは代わりに草鞋を渡され。それを履いて立った。

 

「すまんな、セントライト」

「いいさ、可愛い部下が怪我するよりはマシだ」

 

彼女はそう答えると、そのまま場を後にしていた。

 

 

 

 

 

その後、朝の調教後。授業が始まって他の娘達は皆授業に参加しており、下見所近くのベンチで窪田は朝にカイソウが踏み割った蹄鉄の打ち直しをしていた。

 

「ーー隣、空いているかい?」

 

そして蹄釘を打ち込もうとした時、彼は声をかけられた。知っている声だ。というより、朝に会って話もしている。

すると彼女は窪田の隣に座ると、開口一番。

 

「君はとち狂ったかね?」

 

その瞬間に窪田にかかった圧はまるで、試合時の彼女の時のようで。威圧感が恐ろしかった、並の人間では恐れ慄くほどのだ。

 

「……それは心外だ。生徒会長様」

 

顔を上げながら窪田は答えると、そこで彼は隣に座ったセントライトを見る。

しかし彼女の雰囲気は変わることなく、いかついのはそのまま。窪田に苦言を呈す。

 

「本格化の最中に本格化後の調教を施すだと?選手生命を絶つかもしれんぞ」

 

やはり、セントライトの目は誤魔化せなかったようだ。他の生徒は彼女が本格化に入ったことすら気付いたそぶりはなかったのだが……。

 

「ああ、だが長期的な本格化の兆候がある上に、彼女が万全な状態で東京優駿に臨みたいと言った結果だ」

「しかし、生徒会長として言わせてもらうと大変危険な行為だ。直ちに辞めさせたい」

 

ここを預かる生徒会長としての意見を窪田は聞くも、『彼女の意思が優先だ』と返すとセントライトは少し曇った表情をしながら言った。

 

「正直、今日走って感じたさ。……あの子の才能はな」

「ほぅ……そりゃあありがてぇ」

 

セントライトが直々に答えた感想に窪田は少し驚きを感じていると、彼女はそのまま続けてこう言った。

 

「だが、三冠は無理だ」

「……」

「あいつはあまりにも短距離適性が低い。最高速までに必要な滑走路が長い」

 

セントライトは今朝の短い併走で感じたカイソウの特徴を口にする。そこでハッキリと、彼女はカイソウは三冠を取れないと言った。

普通の調教師だったらブチギレて胸ぐらを掴みにかかりそうな話だが、窪田は分かりきっていた。

 

「分かっているさ、それくらいの事はな」

「君達の狙いは?」

「東京優駿と京都農林省賞典」

「二冠か……」

 

なるほど、横浜農林賞典はすでに捨てている。その事実にセントライトは納得していたが、それとは話が別だった。

 

「窪田銀造調教師、これ以上のカイソウの調教は危険とは思わんのか?」

「生徒会長様なら、長期化する本格化を迎えた娘の不安感も分かるでしょう?」

 

特にこのご時世ではと付け加えて答えると、セントライトも反論しにくい表情となる。

彼女が現役の頃、まだ日本は中国との戦争状態であり。市民にもそれほど戦争の影は広がっていなかったが、彼女が日本初のクラシック三冠を取った約一ヶ月後に真珠湾攻撃だ。

 

正直、相手をしている国が広がり。戦線が急速に広がって大勢の娘を徴兵している今では本当に勝機は有るのだろうかと思っている自分がいた。

 

セントライトは実家が良家で尚且つ父が軍需産業に携わっている。なのでその辺の事情も実家に帰ればよく分かっていた。

 

実を言うと、セントライトがこの学校に残った理由の一つにこれがあった。もし東京の学校に残っていれば実家に頻繁に帰ってくるように催促され、そこで彼女は否応にも見合いやら家業の事やらで色々と言われる。

 

そんなことを回避するために彼女は物理的に遠い京都に残ったのだ。姉妹には申し訳ないが、セントライトは実家と距離を置きたいのが本心だった。

 

「しかし、本格化後の調教を施して故障でも起こしたらどうするつもりだ?」

「ところがどっこい、調教後にトモの確認をしてみればどこも問題がない」

「……本当か?」

 

セントライトはやや驚いた表情で窪田を見返す。

 

「ああ、カイソウの脚は……例えるなら鋼鉄みたいに頑丈だ」

 

通常、娘の…特に競争の脚は貧弱だ。理由は人とほぼ変わらない骨格に時速六・七〇キロで走る筋肉が付いているのだ。当然骨や関節に負荷がかかって相対的に脆くなってしまう。

 

「俺も初めてだ。おまけに、蹄鉄を踏み割るほど強い踏み込み。流石に驚いたさ」

 

そして、窪田はカイソウの蹄鉄を打ち込んでいると、セントライトは呟く。

 

「本番前までに、特注で作って貰え」

「……そうだな」

 

蹄鉄の割れ方を見て答えたセントライトの言葉に窪田も頷くと、彼女はベンチから去っていった。




是非とも高評価とお気に入り登録をよろしくお願いします。

IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)

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