ソノ日ノ空ハ銀色デシタ   作:Aa_おにぎり

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今の所、作中に登場する人物は全員元ネタとなった人物や馬がいます。

本来のレースだと窪田のモデルとなった人物の管理していた馬が出走していますが、オリジナル部分で変更させていただきます。


#12

十月十一日

 

その日、カイソウの姿は阪神競場にあった。

 

その理由は単純で、今日ここで阪神優駿が行われるからだった。

三年前より走る距離が二七〇〇米から二四五〇米と短くなり、その短くなった年に一着だったヒサヨシが薬物を使っていたと言う理由で失格となったヒサヨシ事件などもあったが、今年も無事に開催されていた。

 

「うわぁ、すごい人ですね」

「当たり前だ、何たって五大競走のうちの一つだからな」

 

そんな大勢の人が観戦する中、窪田が横に立っているカイソウに答える。紫と白のセーラー服を着ているので目立ってはいるが、他にも数名の娘達が観戦に来ていた。

自分の横にいるクリフジもまた、その一人だった。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「カイソウ」

「はい、なんでしょうか?」

 

一週間ほど前の生徒会室にて、カイソウはセントライトに聞かれる。

 

「君は、競を見に行ったことはあるか?」

「え?ええまぁ、地元の競場であれば……」

 

そう言い、カイソウは実家で行われていた野良競走を思い出す。

 

「じゃあ、こっちでの競はまだ見た事がないんだな?」

「はい……」

 

するとカイソウの返事を聞くや否やセントライトは少し良い顔を浮かべると提案をした。

 

「じゃあ、実際に観に行こうか」

「は?」

 

目の前の生徒会長様は何を言っているんだと言う目を向けるカイソウだったが、セントライトはそんな提案をした訳を言った。

 

「今度、阪神で阪神優駿が行われるだろう?」

「ええ」

「最後に阪神で行われるティアラ路線の優駿だ」

「ええ、そうですね」

 

今年を最後に阪神競場と横浜競場は閉鎖され、それぞれで行われていた競走は別の場所で行われる。

それぞれの競場には阪神優駿と横浜農林省賞典があり、どちらも五大競走だ。

今の所移転先の会場と距離は決まっていないが、来月ごろには発表がされるはずだ。

 

「クラフジが来年のために観に行くついでに私も阪神に行くんだ」

「そんな予定ありましたか?」

 

首を傾げるカイソウにセントライトは頷いた。

 

「あったさ、今朝決まったばかりだがな」

「それ、絶対先輩が無茶言った奴ですよね?」

 

今まで生徒会長の有様を見てきたカイソウだからこそ彼女には多少の無理が通ることを知っており、今回もおそら()()()()事なのだろう。

 

「全く、強権発動もいい加減にしておいて下さいね」

「別に強権発動していないさ。阪神競学校の生徒会に挨拶に行くだけよ。

その序でに最後の阪神競場での阪神優駿を見にいくだけだ」

 

程の良い言い訳をしているようにしか聞こえないのだが、同じく部屋にいたクリフジが聞いた。

 

「その日、私も同行しても?」

 

すると予めわかっていた様子で、セントライトは頷いた。

 

「ああ、君の分の席も予約している」

「ありがとうございます」

 

そんな二人の会話はすぐに終わるとそんな二人の関係にカイソウは少しだけ興味が湧いていた。

 

 

 

 

 

私は元々は目黒の競学校の生徒だった。

才能があると言う事で融通してもらって入学した自分だったが、まさかクラシック三冠を獲った娘にいきなり『京都に来ないか?』と言われてその後拉致同然にこの京都競学校に連れてこられた。

 

元々は緒方藤造調教師の元で教えをもらっていた自分だが、こっちにきてからは緒方一門の門下生の調教師がついてきてくれた。

 

「クリフジ」

「はい」

 

調教師の前山長吉の指導の元、クリフジは場で数周して戻ってくるとそこで彼女は走った時間を聞かされる。

彼は緒方調教師に弟子入りし、十九歳の今ですでに半独立を許された優秀すぎる天才児だった。ただ、一般的な娘よりも下手すると身長が低い事でセントライトからはよく揶揄われている。

セントライトと同等の差の大きさをしているクリフジと比べると二十糎以上身長差があった。

 

「二分二〇秒、二千米の自己最速記録だ。おめでとう」

「わかりました」

 

娘の扱いには熟知しており、また几帳面な性格もあってクリフジとの関係は良好だった。

 

「毎回走るごとに姿勢も良くなっているから、良い兆候だね」

「ありがとうございます」

 

優しい口調で彼はクリフジの頭を撫でると、クリフジも少しだけ嬉しそうに耳を横に倒していた。

 

「よしっ、あと何周かしたら終わろうか」

「あっ、テキその前に一つお話しが」

「ん?」

 

そこで彼女は前山に今度の阪神優駿を見に行くことを伝えると彼は納得したように軽く頷いた後に言った。

 

「そうか、セントライトと行くんだね」

「はい、会長とカイソウと共に阪神競場に行きます」

「分かった。…元々見に行く予定だったから、友人と見に行くのもちょうど良いだろうね」

 

そう言われ、クリフジは納得しつつも少し残念な表情を薄らと浮かべながらも前山はそんな彼女に軽く笑いながら言った。

 

「なぁに、帰りに二人で飯でも食べよう」

「わかりました」

 

前山の言葉に嬉しくなった様子のクリフジは場を駆け抜ける。

そんな彼女を見て前山も少し微笑ましい様子で呟く。

 

「良い後輩を見つけたようで何よりだ……」

 

先ほど口にしていたカイソウと言ったか、その娘は度々噂に聞いていた。

セントライトのお気に入りやら、編入生の逸材。と言った具合で嫉妬を含めた悪口もあるが、選抜競走で見た走りは確かなものがあり、前山も実を言うと勧誘を狙っていた一人だった。

 

「今度併走を頼んでみようかな……」

 

クリフジが求めているのは東京優駿、阪神優駿、京都農林省賞典の変則三冠だ。今まで誰も挑戦した事がない道を切り拓こうとしている彼女の背中を押してあげるのが自分の使命だと思っていた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「今日はすごい人数だな」

「ええ、馬券もよく売れていると言う話ですよ」

 

クリフジとカイソウの調教師である二人は観客席の後ろで世間話を交えながら見ていた。

 

「でも驚きました」

「ん?」

「あなた方がティアラ路線の競を見にくると思っていませんでしたから」

「ああそう言う」

 

選抜競走で実力をすでに見せており、多くの大手門下生が勧誘を行ったが。彼女が選んだのは阪神から独立したばかりの調教師。何かしらの重賞を取ったこともない零細調教師だった。

 

「誰もが驚きましたよ。まさか新人の調教師の勧誘を取るなんて」

「正直、俺もアイツに認められるとは思わなかった」

 

そんな彼の言葉を前山は否定することは無かった。

 

「なにせ実績の無い新人の調教師だ。いくら北海道から出てきた田舎の金持ちの娘とは言え、選抜競走のときに実力を示していた」

 

京都の場で走ったあの姿は今でも目に焼き付いていた。

本格化が始まって、おそらく出れるのは二年後。一つ先輩のクリフジとカチ合わないのは一つの安心だった。

 

「そんな娘が俺を選んでくれたんだ。ありがたい話よ」

「はははっ、なんだか恋人みたいな言い方ですね」

「はっ、そいつぁ心外だな。それを言うならお前さんの方がお似合いだよ」

 

窪田は前山にそう返すと、二人はこれから行われる阪神優駿を見ていた。

 

 

 

 

『間も無く阪神競場にて阪神優駿が開始されます。今の天候は晴れ、良場であります』

 

会場の司会者の声が聞こえる中、馬券もよく売れており。配当率が一定時間毎にコロコロと変わっており、今の一番人気はロツクステーツだった。

 

「一番はやはりロツクステーツですか……」

「仕方ない、社台の娘だからな」

 

名家の娘は充実した環境で走れるが故に幼い頃からの競教育はみっちりと教えられている。その為人気は圧倒的であった。

 

「二番人気はカツイハイ」

「まぁ、妥当なところだろうよ」

 

馬券の配当率を確認した二人はそれぞれの娘の状態を下見所で見ていた。

 

「しかし今年でここも閉まるので、資料はあまり使えそうにありませんね」

「まぁ、仕方ないな」

 

阪神競馬場は今年をもって閉鎖される。移転先の土地買収が行われ、この場所は隣接している川西航空機の飛行場として使用される予定である。

 

「しかし、やっぱり馬券は高いな」

「ですね、個人で買える人は一握りです」

 

当時の馬券の値段は一枚二〇円、当時の新入社員の年収が一五〇〇円程度となるといかに高いかが分かり、通常は複数の人でお金を持ちよって馬券を購入していた。

故に代表で馬券を買った人が競馬で当たった後に逃げ出さないように必ず代表者の服を掴みながら購入者達は競走を見ていた。

 

「今年はまぁ、人気通りになるかな?」

「でしょうね、有力な子は他にはあまり見られませんからね」

 

カイソウとクリフジと言う来年、再来年の有力候補を教える二人はそんな事を話しながら開始の網が跳ね上がるのを待っていた。

 

 

 

 

 

「わぁ、流石は五大競走ですね」

「ええ、ティアラの優駿ですから」

 

カイソウとクリフジは大勢の観客が応援する中を観戦しており、特にクリフジは来年この競走に出る予定なのでより注意深く見ていた。

 

セントライトは阪神の競学校に挨拶に行っており、ここにはおらず。おそらく来賓室から観戦しているのではないだろうか。

 

「来年のためにも、しっかり見ておく必要があります」

 

そう溢すと、彼女は横で辺りを見渡してその空気に圧倒されているカイソウを見て言った。

 

「優駿はこれ以上です。貴方が優駿を目指すと言うのなら、この空気にも慣れておく必要がありますよ」

「はいっ!」

 

そんなカイソウを見て少しだけクリフジは口元が緩むと、彼女に聞いた。

 

「ところで。お姉さんに、会うことはできましたか?」

 

そう問いかけると、カイソウは答える事なく少しだけ俯いてしまった。

彼女が阪神に来たもう一つの理由として、彼女の姉がここの競学校にいるからだった。

彼女の姉はティアラ路線で初めての阪神優駿や東京優駿に出たが、あまり良い成績ではなく。それで家族と疎遠になっているというのは彼女から聞いていた。

 

「はい…会うことはできたのですが……」

 

その口調から何があったのか、クリフジは容易に想像できた。そういう光景はよくある話だ。

高らかに夢を掲げ、実力を期待された娘が現実という高い壁に阻まれ、没落していく様。

結果を残さずに学校に最後まで残れなかった生徒は今までごまんと見てきていた。

おそらくカイソウの姉も同様なのだろう。

 

「少ししか話せなくて、避けられているみたいで……」

「まぁ、それは仕方ありませんね。久しぶりの再会というのもあるでしょうから」

 

やんわりとクリフジはカイソウを慰めていると、目の前で準備の整った娘達がバリアー式の発機から走り出して行った。

 

『さぁ、皆様の思い出と共に!最後の阪神競場、阪神優駿が始まりました!』




ちなみにロツクステーツの馬主さんは吉田善吉さん、有名な社台ファームの祖だとか。

毎回書くたびに難産ですので、お気に入り登録と高評価を押してください。お願いします。

IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)

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