ソノ日ノ空ハ銀色デシタ   作:Aa_おにぎり

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調べれば調べるほどクリフジってやばすぎ。


#17

ついに始まった東京優駿競走。敵性語排除によりダービーと呼ばれなくなって久しいこの時期、しかしそれでもこの熱気は収まる事を知らず、観客席は沸いていた。

 

時に大きく出遅れてしまったクリフジは群のほぼ最後尾におり、見ていた観客達からは悲鳴が上がっていた。

 

「何やっているんだ!!」

「クリフジィ!今月はお前に賭けていたんだぞ!!」

 

群の後ろに埋もれた彼女に罵詈雑言が飛び交い、それを聞いていたカイソウは

 

「…なんと醜い」

 

あからさまに表情を顰めながら耳を絞っていた。

 

「これが競ってものさ」

「しかし…」

「バリアー式じゃあこう言うこともよくある話さ。準備が整う前にあがっちまった様だな」

 

窪田はそう言い、カイソウを宥めていた。

その間も競走は続いており、第二角を過ぎた群は向正面の直線を走っている。

第一角から向正面まで落差一.九米の長い下り坂が続き、その直線の先には一.五米の上り坂がある。

 

「(やはり、前に一本挟んで正解でしたね)」

 

変化に富んだ起伏のコースであり、事前に大差を付けてゴールした前戦の経験が生きていた。

 

『難関の坂に掛かりました。トキノココロ、イチシウスイ。他を引き離しております』

 

そして向正面の急坂に差し掛かり、最初に逃げをしていた二頭が速度を上げてスパートをかけ始める。

この坂を登った先は急な下り坂が第三角半ばまで続く。

 

『第三角、後続が一斉に追い上げる』

 

そして坂を登り終え、下り坂を降りたところでクリフジの視界にハロン棒が見える。

 

「っ!」

 

第三角、クリフジは走っている途中で目線を鋭く走らせると足を踏み込んだ。

 

ッ!!

 

その踏みつけた力強い脚は爆発的な瞬発力を彼女に与え、後続の娘の額に良場であるにも関わらず芝ごと土を付ける。

 

「「「っ!?」」」

 

その丸で爆弾が爆ぜたとでも言うような音を前に周囲を囲んでいた娘達は驚愕する。

 

場所は第三、第四角の中間。クリフジは確かな手応えを感じ、目の前の開いている場所を探す。

 

「っ!(見つけた…!!)」

 

そして内側に三頭分ほどの空間を見つけ、その中に飛び込んでいく。まさに天佑であるかのように感じた彼女は第四角を曲がりながらさらに増速する。

 

「「「「っーーーーー!!」」」」

『出遅れたクリフジ、ここで差して来ました!』

 

その動きに観客も、実況もやや興奮気味にそれを見て声を上げている。

 

第四角を曲がりながら少しずつ外にずれて走るクリフジ。

 

「ちっ!」

「くそぉっ!」

「嘘でしょっ!?」

 

この角で外に膨れているのにも関わらず速度をどんどん上げて次々と娘を交わしていく彼女に思わずそんな声が上がる。

 

「っーーー!!」

 

その鬼のような形相は誰しもが唖然となるところであり、さらに大地に踏みつける蹄鉄の音は大きくなるばかり。

すでに後方から中団に取り付き、角を曲がり終えた最後の直線。

 

「さぁこっから山場だ」

「行けーっ!クリフジ先輩!!」

 

窪田はそこでだんだら坂とも呼ばれる高低差二米の坂、東京競場の最後の難所とも言える急坂を前に息を呑み、カイソウは声を上げてクリフジに叫ぶと

 

「行けー!クリフジ!!」

「差せ!抜け!」

「行け行け行け!!」

 

クリフジの怒涛の追い上げに夢を見た観客達も一斉に声を上げる。

 

「(残り四〇〇っ!!)」

 

ハロン棒を一瞥して彼女は立見所の前を通過し始める。一番前とは四〜五身。

 

『直線。イチシウスイ、キングゼヤ、フジハヤが競り合っております』

 

射程に捉えた、あとは前が開くのみ。

 

「っ…!!」

 

残り三〇〇米、先頭の三頭が競り合ったことで前に隙ができた。クリフジはその一瞬の油断を逃さなかった。

 

「っ!しまっ…」

 

思わずフジハヤが溢してしまった。しかし、クリフジはそこで最後の二回目の加速で地面を踏み抜いた。

 

『クリフジ、その間隙を突いて先頭に出ました!』

「「「「っーーーー!!」」」」

 

観客はそんなクリフジの怒涛の追い抜きにわぁっと声が上がる。残り二五〇米。

 

「ぬぉぉおおっ!!!」

 

声を唸らせ、彼女は一歩一歩を確実に、そして力強く踏み出す。二回目の加速に誰しもが驚き、同時にクリフジは汗を滴らせ、今まで鍛え上げた自分自身を信じて加速する。

 

「はあぁぁあああっ!!!」

 

そして残された最後のスタミナを用いて二度目の加速を行った彼女は先頭からグングンと距離を取って走る。

 

「くそぉ…!」

 

そんな悔し声すら置き去りにし、彼女は二〇〇米に入った所で独走状態に入る。

 

「嘘だろ…?」

 

目の前を通過していくクリフジを前に窪田はもはや苦笑いしか出来ず、一歩毎に確実に距離を離していく彼女はゴール板を勢いよく通過した。

 

「「「「「「っーーー!!!」」」」」

 

その差は六身。

後年、ティアラ路線に進んで東京優駿競走を優勝した娘はウォッカが現れるまで現れる事はなかった。その間実に六四年、現れる事のない記録を作り上げた。

 

『タイウン、トシトモ、ミヨノセンリ、トシシロも奮戦しましたがついに及ばず。そのままゴール』

 

立見所からは惜しみのない声援が轟き、ゴール板を通過したクリフジはそのまま速度をゆっくりと落とした。

 

『クリフジ、堂々と優勝しました』

 

実況も思わず座っていた席から立ち上がって彼女を見てしまう。それほどの力、圧倒的な実力が観客達を魅了していた。

あとでこの映像はニュース映画として全国で放映される。

 

「よしっ!」

 

静かに見ていた前山も拳を強く握ってゴール板を通過したクリフジを見ていた。

 

「まずは第一歩…だな」

 

前山はそう呟き、彼女の目標である『阪神優駿』と『京都農林省賞典』の為の調教予定を早速脳内で組み立て始めていた。

 

 

 

「凄い凄い!!」

「あぁ…」

 

観客と共に勝利を喜ぶカイソウに、片手に秒時計を持つ窪田は苦笑いしていた。

 

「先輩が勝ちましたよ!」

「…そうだな」

 

その窪田の手は若干震えていた。

 

「?どうしましたか、テキ?」

 

そんな彼にカイソウは首を傾げていると、窪田は言う。

 

「丸で桁違いだ…本当に娘なのか?」

「?」

 

そこでカイソウは窪田が震えている秒時計を覗くと、そこには動いた針が計測した秒数を示しており、『2:31:4』と記されていた。

この秒時計は調教師になった人に必ず一つ贈られる精密なものであり、その正確さは指折りだ。

 

「新記録だ…去年のミナミホマレから一.六も縮めやがった…」

「え…っ?!」

 

その結果にカイソウは唖然となった。彼女は序盤に大きく出遅れていてそれだ。

最終的に二著との差は六身。圧倒的な勝利であり、それでいて尚且つ新記録を樹立した。

 

いくら良馬場とは言え、中頃まで先頭と二〇身も離れていた娘がである。

 

「そんな…」

 

思わずカイソウも喜びより恐怖が勝利し、顔が稍青くなる。もはや神の領域に達しているとでも言えるようなその脚に唖然となっていた。

 

 

 

 

 

その後、クリフジと前山の二人は多くの新記録を樹立したことで記者達から詰め寄られていた。

 

「クリフジさん!新記録樹立おめでとうございます!」

「ありがとうございます」

「出遅れでの圧勝、その秘訣はなんでしょうか?!」

「日々の鍛錬の賜物です」

 

予め問題を起こさないように軍刀を持った警察官に囲まれて受け答えをするクリフジ。

 

「史上最年少での東京優駿競走調教師となった感想をお聞かせください」

「はい、とても有難いことだと自認しております」

 

前山はクリフジに目をやって警戒をしながら受け答えをする。

この時の前山は齢二〇歳三ヶ月、戦後長くなった今でも更新される事のない最年少での調教師の優勝記録を打ち立てた彼もまた、記者から質問責めに遭っていた。

 

「お二人の今回の優勝に対し、事前に緒方調教師から打ち合わせがあったのではないかと言うお話もありますが…」

「そのような事実はございません。彼女との出会いは全くの運です」

 

失礼な質問をしてくる記者に前山は思わず眉を顰めそうになるが、付けていた腕時計を一瞥すると

 

「では、これで記者会見の方は終了させていただきたいと思います」

 

そう言い、切り上げてクリフジと共に場を出ていく二人に記者達は叫ぶ。

 

「あっ!ちょっと!」

「もう少しだけお願いします!」

 

写真も焚かれ、その閃光に耳を絞っていたクリフジは今にもその記者達に暴れかねないのでそそくさと隣接している東京競学校に向かう。

記者達はそんな彼女を追いかけようとしたが、

 

「こらぁっ!!」

 

繋がっている門の前で待っていた憲兵達に睨まれて思わず足が止まってしまっていた。

一応、日本各地の競学校は国営。しかも軍から資金提供を受けていたので、学校の警備担当は軍の憲兵が行っていた。

 

片手に小銃を持って威嚇した兵士を前に記者達はそれ以上足を進めることはなかった。

 

「こう言う時は、軍人さんに感謝します」

「あぁ、おかげで助かったよ」

 

そんな光景を前にクリフジと前山は言う。すでに優駿で優勝した話は学校中に広まっており、今年の優駿に生徒達から

 

「おめでとうございます!クリフジ先輩!」

 

と言った労いの言葉を掛けられる。

優駿に勝つと言うのはそれだけの事であり、前にセントライトが言っていた『三冠競走よりも東京優駿で勝利した方が世間は騒いでいた』と言うのが納得できる瞬間だった。

 

「話が回るのが早いな…まあ当たり前か」

「…」

 

教室の窓から帰還したクリフジを見ては歓声をあげる競学校の生徒達。軽く手を振り返しただけでこの様である。

煉瓦製四回建ての施設は嘗て東京駅を作った人物と同じ人が設計したと言われている。

 

「しかし…悪いものでもありません」

「お?意外だな、君がそんなことを言うとは」

「…純粋な感情を向けられた事を知ったからではないでしょうか?」

「…ふっ、そうか」

 

そう言っていると、遠くのベンチで座っている二人を見つけた。

 

「おや?」

 

前山は知っている二人に興味深そうにしていると、一人の栗毛の少女は立ち上がって遠くで会釈をする。

 

「来ていたんだ」

 

その娘にクリフジは頷いた。

 

「はい、試合前に見かけました」

「おぉ、招待状ちゃんと届いたんだね」

 

そう言い前山はクリフジがカイソウに送っていた優駿の招待状を思い返す。

 

「えぇ、彼女は来年あそこに立つのです。私の走りを目に焼き付けてくれればと…」

「はははっ、やけに自信あるね。だから頑張れたのかな?」

「…かもしれません」

 

そう言い、彼女はカイソウの隣でまだ少し辿々しく大きく頭を下げていたヤマイワイを見て薄く笑みを浮かべる。

 

「さて、次は阪神優駿だ。しっかり整えていこうか」

「はい、よろしくお願いします。テキ」

 

クリフジはまずは一歩目と言った具合で頷くと、前山を見下ろしていた。




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IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)

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