ソノ日ノ空ハ銀色デシタ   作:Aa_おにぎり

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#18

東京優駿競走を制したクリフジ、出遅れたのにも関わらず最後には六身差に新記録と言う圧倒的な実力を見せつけて競を終えた彼女は、所属している東京競学校で早速注目の的であった。

 

「これで君も優駿か」

「よくやってくれたよ」

「有難いお言葉です」

 

セントライトとクモハタに言われ、頭を下げるクリフジ。

京都と東京、双方の競学校の生徒会長が優勝したクリフジに労いの言葉をかけていた。

 

あの後、体調も脚も問題なく、走れると判断された彼女は東京優駿競走を勝ったと言うことで生徒会室に呼ばれてクモハタから自分の名前が刻印された優勝カップを手渡した。

 

「おめでとう」

 

優勝後、一流の彫刻師によって刻印された東京優駿競走の優勝カップ。既に優勝レイは花飾りと共に渡されており、豪華な花の装飾が施されていた。

 

「ありがとうございます」

 

クリフジは一礼しながらそれを受け取ると、生徒会室では彼女に拍手が送られていた。

 

元よりクリフジは期待の新人として何かと注目の的であった。

どこに行っても目線を向けられ、一挙手一投足を見られており、彼女はそんな視線に若干飽き飽きしていた。

そしてそんな彼女に親戚として、長い付き合いのある友人として落ち着いて調教ができると前山や主任調教師の緒方を巻き込みながら誘って彼女を調教師共々京都に連れて来ていた。

 

「栗毛の貴公子と初三冠から祝福されるとは…」

「流石ですわね」

「でもあんな走りを見せられては納得ですわ」

 

そんな話を同じく生徒会室に招かれた他の競学校の生徒会長達は値踏みする様に話していた。

 

「では、私は失礼します。今日の疲れを取らなければなりませんので」

「うむ、今日の走りは見事だった」

 

そんなクリフジの心情を理解し、クモハタもクリフジを見送ると彼女は生徒会室を後にする。

 

 

 

その後も何かと寮に帰る途中までに五人以上の娘達から声をかけられており、労いの言葉や関係を持とうとして来ていた。

そんな状況に改めて優駿という名声と、公家という身分が合わさった時の影響にため息が漏れてしまいそうになりながら寮の自分の部屋に入ると、

 

「あっ!クリフジ先輩!」

「…どうして貴方がこの部屋にいるのですか?」

 

そこでは同室のヤマイワイと共に何か準備をしていたカイソウがいつも通りの陽気さで入って来たクリフジを出迎えていた。

 

「へへっ、ヤマちゃんに頼んで入れさせて貰いました」

「お、お疲れ様です」

 

その横でヤマイワイはクリフジに頭を下げると、彼女は色々と考えていた。

基本的に他校の娘が訪れた時には来客用の職員寮に泊まる事が一般的であり、普通はこっちの学生寮に入る事はない。

そしてこの時間ともなると東京駅から京都に向かう列車は車内で一夜を過ごす事になるが、問題なのは

 

「京都に向かう最終列車は出てしまいましたよ?」

「はい、分かっています」

 

今の時刻、丁度京都まで向かう急行の最終便が出た事であった。

無論カイソウは分かっていた様子で頷くと、クリフジを見る。

 

「どうしてもお祝いをしたくて…今日はこちらで泊まらせてもらう事になりました」

「…貴方のテキはどうしたのですか?」

「友人とサシ飲みに出掛けているはずです」

 

カイソウはそう言い、側に置かれた敷布団を見て察した。

 

「この部屋に泊まる気ですか…」

「はい!まぁほんとは怒られちゃいますけど…本当は姉さんと来るはずがどこか行っちゃったし…」

 

そう言い頭を軽く掻いていると、クリフジはため息を漏らした。

 

「全く…」

 

目の前の京都から来た女の行動力には目を見張るものがあるが、そもそも北海道から姉がいるとはいえ一人で出て来た時点で図太い精神を持っているに違いない。

 

「そうそう!先輩、お祝いのために色々と準備していたんです!」

 

そう言い、彼女はこれまたどこから持って来たか飯盒を取り出す。

 

「もしよかったら一緒に食べようかと思いまして」

「…ここは火気厳禁ですよ」

 

寮は京都と違って使われているが、漆喰を塗られた頑丈な施設であるが、床板などは木で出来ているため火を使うのは禁止されていた。

 

「もう既に炊いてあるので大丈夫ですよ!あとは取り出すだけです」

 

そう言い準備のやけに良いカイソウはそこで飯盒の蓋を開ける。

 

「先に先輩が戻ってくる前に、前山さんに頼んで食堂をお借りしたんです」

「なるほど、そう言う事でしたか」

 

クリフジは今までカイソウとヤマイワイが居なかった理由を察した。元々この部屋に泊まるつもりで彼女は食材を持ち込み、調理器具を食堂で借りて作ってくれたのだろう。

 

蓋を開け、中から蒸らせていた中の飯から湯気が上がると、中から熱々に炊かれた飯が出てくる。

 

「これは?」

「美唄の鳥飯です。北海道の祝い飯でよく出るんです」

 

そう言い彼女はその炊き立ての飯に手を突っ込んで手で掬って握った。

 

「あ、熱くないの?」

「大丈夫大丈夫、慣れてるから」

 

遠慮なく炊き立て飯に手を突っ込んだカイソウにヤマイワイとクリフジは驚いていると、彼女は慣れた様子で手を動かすと簡単に綺麗な三角形の握り飯が出来上がる。

 

「食材は一体…?」

「実家から届けてくれるんです。私の実家は地主やってて、兵隊さんに持ってかれない様にみんなでこっそり貯めてるんですよ」

「羨ましい…」

 

食料配給制の今…と言うより戦前からも珍しい白米だけの鳥飯。そんな豪華な食事を彼女は恐らく幼少の頃から取っていたのだろう。

 

この日本において、白米だけの食事が毎日摂れる様になるのは戦後の高度経済成長期を迎えてからの話であった。

 

「まぁ一応私も姉も農家の娘なんで、こう言う事は良くやっていましたよ」

「凄い…」

「流石は北海道と言ったところでしょうか…」

 

そう言いながら鳥飯の握り飯が出来上がると、最後に贅沢に乾燥海苔を一枚巻いて完成となった。

 

「あとで食堂貸してくれた前山さんに渡しに行かないと」

「テキの分まで…有難うございます」

 

そう言い四つ作った握り飯を見る。その数を見てクリフジはカイソウの調教師の分はないのかと聞くと、彼女は『どうせ飲んだくれて朝帰りだろうから、その前に腐るからいいです』と言っており、その容赦のなさに思わず二人は苦笑してしまった。

そしてそんな握り飯を前にカイソウは少し笑いながら言った。

 

「まぁぶっちゃけ道産の米で不味いですし、材料足りなくて一部端折ったり、鳥とか玉ねぎも乾燥したものをふやかしたものですから美味しいかどうかは分かりませんが…」

「いえいえ、こんな時に白米だけの握り飯が食べれるだけでも十分です」

「そうだよカイちゃん。私も食材を見た時ちょっと驚いちゃったんだから」

 

そう言いヤマイワイはカイソウが食堂を借りた時に持ってきた食材を前に目を点にしていたのを思い出す。

北海道の実家では大規模な地主の娘であると言うカイソウと彼女の姉。

大地主で、尚且つ北海道という開拓を行って来た大地で育った彼女達が強い理由が分かった気がした。

 

「しかし、これが祝い飯ですか?」

 

そう言い鳥飯を前にクリフジが聞くと、カイソウは頷いた。

 

「ええまぁ…道産子には、道産子なりの祝い方ってのがあるんですよ」

 

そう言い道産子と言う言葉を使った彼女にヤマイワイとクリフジは少し察してしまった。

 

彼女の産まれは北海道、あの地には明治維新の際に幕府側についた人間が多く移住しており、元々は日本ではなかった場所である。

 

幕府側の人間、明治以降に日本になった場所。

今でこそ北海道土人保護法により日本人とアイヌ人の融和は行われているが、どうしても東京>その他本州>北海道>沖縄という日本人としてのヒエラルキーは存在していた。

 

「…苦労されたのですか?」

「いやぁ、田舎者とか土人が本州に出て来たことに関しては色々と言われましたよ」

 

彼女は最初の授業の時に北海道から来たと教師に言われてしまったことで、優秀ではあるが産まれがアレと言うことで何かと影では言われていると言うのが垣間見えた。

するとカイソウはその話題を斬るように軽く手を合わせて叩いた。

 

「まぁまぁ、そんな辛気臭い話をしたら不味い飯がさらに不味くなるんで、さっさと食べましょ」

 

話を斬られた事で二人も手に持った握り飯を前に頷く。

 

「えぇ、せっかく作ってもらった大切な後輩からの祝い飯ですからね」

「じゃあ…」

 

そこで三人は合わせた。

 

「「「いただきます」」」

 

そしてカイソウの作ったクリフジへの細やかな祝い飯はこの前に生徒会室で食べた赤飯よりも美味く感じる。

 

「カイちゃんの作ったこれ、美味しいね」

「そう?それは良かった〜」

 

そう言い実家から送られて来た荷物でやりくりして、隠して持って来た食材で作った祝い飯。誰にも見られない様に色々と苦労したのだろうと思う。

 

「初競走の時の砂糖と言い、色々と迷惑を掛けてしまっていますね」

「いやぁ、先輩は今年から本格的に走るんですから、一番優先しないといけないですよ」

 

カイソウはそう言うが、クリフジは必ずこの恩は返すと心の内に秘めながら一口ずつ大切に握り飯を頬張っていた。

少し硬い鶏肉を噛めば中から鶏の油が滲んで白米と合わさり、その美味さは十分であった。

 

「この味で次の阪神優駿も頑張れそうです」

「それは良かったです!」

 

カイソウも褒められた様で嬉しげにすると、三人は夜まで夜食を楽しんでいた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…美味いな」

 

その後、深夜になって調教師用の机で作業をしていた前山はクリフジの後輩からの優勝祝いを片手に呟いていた。これには証拠隠滅のために協力してくれたお礼も兼ねていると言う。

 

この鳥飯は、彼女の故郷では祝い飯として出されるそうで、白米に鶏肉に玉ねぎと今の時代では確かに豪華で、優駿優勝にはお似合いの祝い飯であった。

 

「よく出来た子だよ…こっちが申し訳なくなるなぁ」

 

そう言いながら彼は空を見上げる。

時刻は丑三つ時とも言われる時刻、学校でも明かりがついているのは自分の所だけであった。

 

灯火管制の影響でその明かりもとても暗いものであったが、その分月が美しく見えた。

 

「…うしっ、やりますかね」

 

最後の一口を飲み込み、前山は再び机と向き合っていた。




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IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)

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