ソノ日ノ空ハ銀色デシタ   作:Aa_おにぎり

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#24

「お嬢様」

「…んっ」

 

朝、召使にカーテンを開けられたことで目が覚めた。

 

「老婆や…」

「おはようございます。お嬢様」

 

時刻は午前四時、

 

「お姉様はご準備なされておりますよ」

「…分かった」

 

カイソウはそこでモゾモゾとベッドから動いて起き上がる。

 

「遅いわよ」

「ごめんごめん」

 

早朝の玄関、支度を終えた私は荷車を持って待っていた姉のミネタカと合流する。

家前に用意された荷車は二台、私たちが引っ張る予定のものだ。

 

「全く、これじゃあ遅刻しちゃうわ」

「寝坊してないから許してぇ〜」

 

そんな話をしていると、玄関に一人の娘が出てくる。

 

「あっ!お母さん!」

「気をつけるのよ?今日は霜は降りていないけど、転けやすいから」

「「はーい!」」

 

二人は母にそう返すと、そこで早速荷車を引いて出ていく。

屋敷には数名の使用人が住んでおり、家は丸々北海道の一区画を大きな屋敷だ。

 

「…」

 

二人は荷車を引いて砂利道を歩いて消えていき、母は見送るとそこで側にいた使用人が声をかける。

 

「奥様」

「えぇ、二人がやりたいと言った事ですから。やりたいようにやらせるわ」

 

姉のミネタカがやっているのを見て興味が湧いたからと始めた家の管理する牧場で採取したミルク缶を軽便鉄道まで運ぶ仕事。

 

「間も無く旦那様が起床されます」

「そう、なら準備をよろしく」

「えぇ、おまかせを」

 

昔からこの家に奉公に来ていた老婆は数回頷いた後に屋敷に消えていくと、そこで彼女は屋敷に戻った。

 

「おい、ミネタカ達はどうした?」

「もうとっくに小間稼ぎに行きましたよ」

 

二人の母は朝食を出しながら答えると、先ほど起床してスーツに着替えた父は軽く頷いた。

 

「やれやれ、もう二人は出かけたのか…」

「えぇ、今日も軽便が来るまでに牧場からミルク缶を運んでいますよ」

「…まぁ、いつかは働かせようと思っていたからいいのだが」

 

父はそこで白米満載の茶碗で白米を食べる。

 

「走りたいように走らせる…私達はそうする事が一番ですから」

「ふむ…そうだな」

 

特に自分の妻はかつて帝室御賞典を取った競走だ。そんな妻の娘が、輓のようにおとなしいわけがないか。

 

「まぁ怪我さえしてくれなければ、私はいいさ」

「そうね…元気に怪我なく大人になってほしいわ」

 

そこで二人は窓の外を見て帰ってきた二人に使用人達が駆け寄って荷車の片付けをしている様を見ていた。

 

 

 

私の生まれは北海道の大地主である。

維新の後に北海道に移住した官吏の一族であり、ロシアや樺太の方で一度成功した後にこの地で多くの農民から困窮した土地を購入、開墾させて集団農法を行わせていた。

そして作った農作物を軍隊や市場に下ろして利益を出していた。

 

故に家には風呂釜があり、乗っている車もダットサンの他にキャデラック。その他に農事用にアメリカの自動貨車を持っていた。

 

「はっ!はっ!はっ!」

「ふっ!ほっ!ほっ!」

 

駆け足で走るカイソウとミネタカ。二人は早朝に自分の家が管理している牧場まで足を運び、そこで積荷のミルク缶を乗せていく。

 

「いやぁ、お嬢様方。いつも申し訳ありません」

「いえいえ、こちらの趣味ですから」

「いつも働いてくださってありがとうございます」

 

牧場で働く小作人達に挨拶をすると、ミルク缶を他の人と共に積み込んで重くなった所を引っ張る。

そして二人が去っていく直前、そこで彼等は言う。

 

「なんて優しいお嬢さん達だ。ここで働けることは、私にとって最も嬉しい話だ」

「んだんだ」

「ここの御領主様はお優しい方だべさ」

「俺たちは精一杯御奉公させてもらわなきゃならんだ」

 

私達娘の耳はとても良い。数百米離れていても人の話声が聞こえてくるのだ。

 

「ねぇ聞いた?お姉ちゃん」

「えぇ、あの方達は前は東北の方にいたそうですよ」

「ふーん…」

 

足元の砂利道は父の意向で敷かれたものだ。あまりにも北海道という大地は地盤が悪く、一部ではいまだに車鉄道での運行だ。

下手な車では地面に埋まり込んでしまうので、父が拓殖銀行から融資を受けて自動貨車(トラック)が農地から軽便鉄道の駅まで走れるように整備をしていた。

 

「他の地主の人たちってどうしているのかな?」

「噂では、地主は小作人の人たちから大量に作った作物を取っていると言うのを聞いたことがあります」

「うわぁ、それは酷いね…」

 

北海道に来て、自分たちに雇われた小作人達はそう言った人たちが多い。

当時の北海道は政府の意向で開拓が行われており、その為大量の耕作地を有していた。労働力はいくらでも欲しかった。

 

「だからこそ、私達は適正に小作人達が毎日三食の食事を摂れるように小作料を徴収する必要があるという事です」

「大変だねぇ〜」

「いずれは私たちがお父様達の事業を受け継ぐのですよ。しっかりしなさい」

「はーい」

 

小走りでミルク缶を運ぶ二人はそこで数人の娘と会う。

ここら辺では名主の娘である二人は、一国の名主のように接せられていた。

 

「おはようございます」

「おはよう」

「おはよう!」

 

被っていた帽子をとって頭を下げる人たちを見ながら二人は軽便鉄道の駅前に集まるトラックや車を見る。

 

「わぁ、もう来ちゃう」

「急ごう」

「うんっ!」

 

そこで二人は車を引くと、駅前に荷物を届けた。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「…ん、」

 

朝、目を軽く擦って体を起こしてから時計を見る。

置き時計は午前四時を示す。

 

「起きないと…」

 

カイソウは少し懐かしい夢を見たと少し微笑みながら隣の敷布団で寝ている自分の姉を見る。

 

『姉と同室にしてほしい?』

『えぇ、セントライト先輩。無理を承知ですが…』

 

阪神競場が閉鎖され、その際に所属していた娘が一時的にこの京都に移籍する際に私がセントライト生徒会長にお願いした。

 

『良いのか?姉が同室となると、色々ときついものがあるぞ』

『大丈夫です!…色々と姉と話したいこともありますし』

 

そこでカイソウの脳裏には実家で優駿になって帰ってきてやると豪語して見送られていったミネタカの姿と、この前再開した時の姿とがまるで違っていた。

家を出る前はモテなくなるからとつけるのを嫌がっていた眼鏡をかけており、全体的に印象が暗かった。

一瞬だけ、本当にあの姉なのかと思ってしまったが、経済学の本を読んでいたから本人だと確信できた。

 

『…分かった。君の姉のミネタカは第一陣でやってくる。そのように手配しておくよ』

『ありがとうございます!』

 

その時、カイソウはセントライトに頭を下げて感謝をしていた。

 

「(でも結局、姉さんとはほぼ話せなかったなぁ…)」

 

たとえ同室になってもこの有様。

すでに競走として引退をした姉は調教を本格的に行う必要はなく、日々の運動程度に場を走っている。

契約はすでに切られており、姉は卒業を待つばかりであった。

 

「(姉はこのまま、家に帰ってきてくれるのかな…)」

 

家を出て行こう、文通がほぼ無く、競新聞を読んで安心していた両親だったが、引退した事を知ってからというもの、帰ってくることを切に願っていた。

そして敷布団を片付け、調教用の紫色のちょうちんブルマーに着替えるとそのまま音を極力殺して部屋を出る。

 

「行ってくるね。お姉ちゃん」

 

返事はないが、彼女はそっと寮の部屋のドアを閉じると、そのまま朝の調教に向かった。

 

 

 

「おはようございます!」

「おう、来たな」

 

朝の調教、すでに調教場には数名の娘が調教師と共に調教を始めていた。

 

「今日の予定は聞いているな?」

「はい!」

「じゃあ走るぞ」

 

走り調教を前にカイソウは窪田と確認を終えると、場に上がって走り出す。

この時期、大きな競走として残ったのは中山農商省賞典障碍のみであり、それ以外で競が大々的に行われることはなく。平日はほぼ毎日調教場としてこの場所は使われている。

 

「さぁ、来年のために走るぞ」

「はいっ!」

 

そこで窪田は時計を取り出すと、そこで手を挙げて振り下ろした瞬間にカイソウは走り出した。

 

「…いよいよだな」

 

クリフジのあの圧倒的な走りによる蹂躙した勝利を終え、彼女のクラシックが終わってから時期はまだ間もない。

カイソウの目標は東京優駿と京都農林省…今は農商省賞典か、に名前を変えたこの二つが目標だ。

 

彼女の持つ圧倒的なスタミナは中・長距離に向いている脚質だ。

ただしトップスピードに乗るための滑走距離が長い弱点があり、一八〇〇米と距離の短い横浜農林省賞典では勝ちきれない可能性があった。

 

「だがその前に…」

 

時刻を数えながら走るカイソウを見た窪田は、そこで懐からある紙面を取り出す。

 

「ご褒美をやらんとな…」

 

最近流行りのそれを前に窪田はカイソウが目の前を通過してくのを確認した。

 

 

 

「よしっ、今日はここら辺でいいだろう」

「わかりました」

 

その後、朝の調教を終えてカイソウは窪田の元によると、そこで彼は彼女に紙面を手渡す。

 

「カイソウ、そろそろ調教にも疲れてきただろう?どうだ、一回映画でも見にいかねぇか?」

「え?映画ですか?」

 

そこで窪田はカイソウに『無法松の一生』の新聞広告を見せる。

 

「おぉ!この映画は最近流行りのですね!」

「あぁ、今日は朝で終わりだ。午後から行くってのはどうだ?」

「いいですね!是非行きましょう!」

 

『無法松の一生』は当時大流行した映画である。

日本映画界屈指の名作の一つに数えられ、何度もリメイクされ、ドラマも作られることとなる映画であった。

戦後この映画はGHQの検閲に引っかかるとされ、一部が削除されてしまった。

 

「テキ、姉も連れて行っていいですか?」

「元々そのつもりさ」

「ありがとうございます!」

 

そこでカイソウは早速寮の部屋に戻って起きて自学をしていたミネタカに話しかけ、彼女は少し悩んでいたが、見たかったのだろう。ミネタカは渋々承諾し、午後は三人で京都の映画館に向かうことになった。

 

 

 

 

 


 

 

 

十一月十八日

イギリス空軍によるベルリン爆撃。

 

十一月二二日

米英中三国首脳によるカイロ会談開催。

 

十一月二三日

ギルバート諸島のマキンの戦い、タラワの戦いにて日本海軍陸戦隊が玉砕。

 

十一月二五日

台湾の新竹飛行場が空襲を受ける。

 

十一月二八日

米英ソ三国首脳によるテヘラン会談開催。

 

十一月二九日

ナボイの戦いで日本軍が勝利。




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IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)

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