ソノ日ノ空ハ銀色デシタ   作:Aa_おにぎり

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B’z様の『熱き鼓動の果てに』がウマ娘にピッタリすぎやしません?と思うこの頃。


私ハ走ル
#26


一月二日

米軍グンビ岬上陸。ビスマルク海の制海権を喪失。

 

一月四日

安田伊左衛門理事長は競開催停止による「整理淘汰検査」の実施を全国の競学校に指示。

 

一月七日

大本営がインパール作戦を認可。

 

一月八日

政局長官は、一九四四年(昭和十九年)度の能力検定競走に出走させるについて、日本事会理事長にあて種統制法による種検査を一月二〇日から二月十四日まで行う旨を通牒。

東京・中山・京都・小倉・宮崎・福島・函館・札幌の各競場でそれぞれ種検査を実施。

 

一月九日

英印軍がビルマのマウンドー占拠。

 

一月十二日

安田伊左衛門理事長は競開催停止に伴う人員削減について、各競場長に希望退職者を募るよう通知。

 

一月二〇日

政局における種検査が行われ、出場総数一九四七頭、うち一一七五頭が合格。東京・京都競場に移送が始まる。

 

 

 

 

 

「…」

 

調教師のために用意されている個室。京都や、他の競学校でも同様に調教師用の長屋は存在している。

 

「…」

 

窪田は貧乏ゆすりをしながら目の前のグラフを見ていた。

調教師との契約を終えた娘と共に調教を行う上で、必要となってくるものには『体調管理』が真っ先に入ってくる。

 

「…長いな」

 

そして娘にとって『本格化』とは成長期である。

この時期になると、彼女達は凄まじいまでの肉体的・精神的な成長を迎えることとなる。ひどいと先週まで使っていた靴や蹄鉄が入らなくなるといった事態になる。

 

「長すぎる…」

 

窪田はそこで軽く唸る。理由は簡単だった。

 

「こいつは、いつまでデカくなるきだ?」

 

自分の今教えている娘の本格化の長さであった。

かれこれ二年近く続いている彼女の本格化の兆候。はっきり言って『異常』だった。

 

彼女がこっちに来てからと言うもの、彼女と組んでからすぐに発症した本格化。だがそれは本当に小さな兆候で、彼女が走っている時にたまたま違和感に感じなければ気づかないほどのものだ。

本格化には個人差があり、四年(クラシック)に間に合うかどうかは個人差になってしまう。だかこれは…

 

「骨の成長が遅すぎる…」

 

毎度毎度、調教の度に足を見ているが、彼女の身長は本格化のような急激な変化がない。もし終わるのなら横浜も狙ってみようと持ったが、これではいつ終わるのかわからないので予定を立てづらかった。

 

「随分と鈍間な本格化だ…」

「その分、骨が硬いと言うことですよ」

 

その時、部屋に一人の娘が入ってきた。

 

「…ミネタカか」

 

彼女の姉のミネタカだ。すでに引退した彼女は卒業を待つばかりであった。

この前の検査も、引退済みの生徒であればそもそも検査対象になることもなかった。

 

「お前さんから来るとは珍しい」

「…」

 

窪田に問いかけにそっけない表情で彼女は外を見る。

時期は一月の半ば。この前、来年度の競を行うための検査が行われ、間も無くその結果が発表される頃合い。

 

「どうだ、一杯茶でも…」

「大丈夫です」

 

彼女はそう言って部屋を出ようとしたが、

 

「まあまあ、ちょいとは競の愚痴でもしようじゃないか」

 

彼は軽く笑って部屋にあった薬缶を見る。微かに香るお茶の香り、すでに淹れていたのだろう。

 

「茶菓子もある。近くで買った落雁だ」

「…」

 

落雁という言葉に少し耳をピンを立てるミネタカ。耳は正直であった。

彼女はそのまま沈黙をしながら部屋に入る。ちゃぶ台に正座すると、窪田は薬缶からお茶を注ぎ、落雁二つと共に前に出す。

 

「どうぞ」

「ありがとうございます。いただきます」

 

そこでミネタカは湯気の立つ湯呑みを傾けると、そこで気づく。

 

「おばん茶ですか」

「ああ、美味い茶屋を見つけたんだ」

 

そこで窪田も反対の席に座る。

 

「…こんな時期に珍しい」

「お茶はまだ配給の対象じゃないからな」

「そもそも娯楽品でしょう?」

 

彼女は聞くと、窪田は軽く笑った。

 

「まあな…だがこれ一杯あるだけで変わるってもんだよ」

「…」

 

ミネタカはそうですか、とだけ軽く頷くと窪田は新聞を広げて呟く。

 

「東京と京都以外の競場は今年閉鎖だそうだ」

「競は停止ですからね。末期でしょうな」

「おいおい、俺がチクったらどうするんだよ」

 

最近は特高の監視の目が比較的強くなってきており、誰か国体に反すると見做された事を発言しただけでしょっ引かれることが増えてきていた。

 

「それをいう時点で貴方も同じ事を思っているでしょう?」

「…」

「みんな考える事は同じですよ。いよいよ競場が、私たちの舞台が潰されていくんですから」

「…はぁ」

 

窪田は遠慮のないミネタカの言い分にため息を吐く。まあそりゃあそうだ。他の調教師達も口には出さないが、競場閉鎖と競中止という異常事態に、軍部では何が起こっているのかを薄々感じてはいた。

ニュース映画では当たり前の様に駆逐艦や空母、敵の戦艦や巡洋艦を撃沈し、飛行機数機が撃墜されただけと言っている。

 

少し前まで、それは本当の事だと思っていた。

 

また新聞やラジオがメインで、SNSはおろかテレビもまだ無かった時代。情報伝達能力は今とは比べ物にならないほど低かった。

 

「競中止は喜ぶべきなのか…」

「競争が奪われないのなら、良い事かと」

「…」

 

来年の競は荒れに荒れることだろう。何せ開催地が東京と京都の二ヶ所だけ。そこに千頭以上の娘が集中するのだ。

 

「阪神ならいざ知らず。日本全国の…ここですと宮崎・小倉と言った場所から一気に移動してくるわけですから」

 

東京の方はそれ以外の学校から移動してくる事になる。

ここも新たな娘が来る影響で新しい宿舎を建てる必要があった。

 

「んで、この選抜で落ちた奴は退学だ。…まあ残酷な話だな」

「その後は、どうなるんです?」

「実家に帰るだろうよ。召集されるかどうかは知らんがな」

 

窪田はそこで一回茶を飲む。

年末はここで二人で鍋を囲んで食べたのが懐かしいと思ってしまうほどに時が経つのが早い気がした。

 

「どう思う?」

「どう思う…とは?」

「カイソウが優駿を取れるかどうか」

「…」

 

窪田のその問いに彼女は迷わず答える。

 

「取りますよ。妹なら…」

「そうか…」

 

ミネタカの答えに窪田は軽く笑う。

前に映画に誘った時も大した変化はなかった。

 

「(多分、自分の引き際を見定めいるのだろうな…)」

 

窪田は、これでも彼女達よりは年老いた大人である。だからミネタカが思っている事も想像できた。

ここで走って、地元に帰った時に優勝杯を掲げて帰るつもりだったのだろう。よくある話だ。だが彼女はそれを果たせる事もなく、四年と古級を終えた。そしてそこに追い打ちをかける様に実妹が京都に訪れた。

 

「どうだ、一杯やらないか?」

「お酒ですか?前に大変な事になったので良いです」

 

その時のミネタカの表情を見て窪田は何があったのかと疑問に思った。

この時代、未成年飲酒はダメという文化はあったが、慶事の日なんかにはよく飲んでいた。

 

「と言うより、貴方はカイソウの面倒を見なくて良いのですか?」

「ああ、今日は朝だけ雪かきをやらせて、あとは休息だ。毎日坂やら走らせても脚がいかれちまうだろ?」

「…」

 

東京優駿、阪神優駿や帝室御賞典(春)を走った彼女は頷いた。

 

カイソウ達は朝に京都の街の方に出て雪かきをしてきていた。

今日は雪が積もっており、朝から市電を走らせる為に向こうから要請があったのだ。京都から市街地に向かって雪車を引いて走るのは冬の恒例の様なものだった。

 

「そうですね…無理をして脚を壊した子は多く見てきました」

 

一生に一度の大舞台となる四年。そこで全力を投じる事は当たり前である。たが、無理をしすぎて一生残る障がいや傷を残す事となる場合もあった。

 

「無事之名馬、たとえ一生に残る記録を打ち立てようと、娘の人生は競を終えた後の人生のほうが長い…」

「ええ、そうですね」

 

そこでミネタカは、前に映画を見た時のことを思い出す。

 

『姉さん』

『?』

 

映画を見終えて、カイソウはミネタカにいつもよりもキリッとした視線で言った。

 

『私、姉さんが取れなかった優駿。絶対取りに行く』

『…』

 

彼女は覚悟を決めた様子の表情を前に、ミネタカは軽く目を見開きそうになった。

 

『だから、待ってて』

『…』

 

その時、ミネタカは表情が少し曇った。

これでは、自分が成し遂げられなかった夢を押し付けているようだった。

 

姉が叶えられなかった夢を、妹が叶える。なるほど、泣かせてくる物語としてはよくある構成だ。だが私はそれが嫌いだった。

だってそれは、自分の代わりに夢を叶えてくれと縋っている様に見えるから。

 

『(それは違う、カイソウ)』

 

ーーだって君は、自由に…

 

だがその続きを、彼女は言えなかった。

何でか、それは自分でも分かっていた。だって私自身、それを望んでいたから。

 

ーーそれが後ろめたかった。

 

もう叶える事は一切できなくなった夢。

四年の時に、一生に一回しか走ることを許されないその祭典で、私は負けたから。

確かに、阪神優駿や東京優駿、帝室御賞典は走った。だが走っただけで、勝つ事はできなかった。

勝って帰ってくる約束は果たせなかった。

 

「ご馳走様でした」

「うん」

 

そこでお茶と茶菓子を食べ終えたミネタカは席を立つ。

 

「ミネタカ」

「?」

 

そして去り際、窪田は言う。

 

「カイソウ、お前を必要としている事を忘れるなよ?」

「…」

 

彼女はそれに頷く事もなく、部屋を後にした。

そしてミネタカを見送り、飲んでいた茶を片付けようとした時。

 

「やあ、ここに落雁があると言う噂を聞いたのだが」

 

扉を開けて入ってきたセントライトに軽く苦笑する。

 

「おいおい、どこからそんな噂を?」

「ここを通る時に甘い香りがしたから、カイソウに聞いた」

「アイツめ…」

 

窪田は軽くため息をつくと、そこでセントライトは言う。

 

「君と話がしたい。来年の競の話だ」

「…」

 

今年に四年級を走る娘の担当を持つ彼としては聞き逃せない話を前に窪田の表情も一瞬強張った。

 

「お茶は?」

「貰おう」

 

セントライトはそこで部屋に入って座り込む。

 

「お前さん、生徒会の仕事は?」

「阪神から来た子にぶん投げてきた」

「おいおい…」

 

相変わらずのやり方だと窪田は苦笑しながら薬缶から新しい湯呑みにお茶を入れる。

 

「年末はカイソウの作った鍋だったんだって?羨ましいな〜」

「お前さんも残ればよかったものを」

「本当だよ。ああ〜、これなら風邪引いたと言って残ればよかった!」

 

セントライトは悔しげに言うが、その場合ミネタカが胃袋を心底痛める事になるのでやめてほしいなあ…とも思ってしまった。




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IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)

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