ウマ娘とは『別世界の名前と共に生まれる』と言う都市伝説がはるか昔から存在している。
いつからそれが言われ出したのか、それは分からない。ただ科学が発展した現在ではその説というものはいささかオカルティズムに富んでおり、最近では眉唾物の話としてあまり信じられなくなっている。
「ふぅ…」
カイソウはその日も丸太引きを終えて座って休憩をしていた。
「どうだ?」
「良いですね!すごく走りやすいです!」
カイソウはそう言い、自分の履いていた靴を裏返して見る。
そこには新しい蹄鉄が打ち込まれており、今までのペラッペラな鉄製から分厚くて頑丈な新しい蹄鉄を履いていた。
「でもわざわざ競走用に作る必要ありました?」
カイソウは少し首を傾げた。
調教用と競走用の蹄鉄は基本的に兼用すると言うのが常識だったからだ。
「あるさ。こいつで優駿二四〇〇走れると思うか?」
窪田はそう言って片手に先ほど外した蹄鉄を手に取る。
戦争が長引いた影響で年々蹄鉄は金属の使用制限を受けて薄くなりつつあり、カイソウほどの踏み込みでは数回の駈歩で割れてしまうほどだった。
「…無理ですね」
カイソウはそんな危なっかしい蹄鉄を前に苦笑気味に頷くと、そこで少し耳を後ろに倒す。
「はぁ…なんか年明けから忙しいなあ…」
「仕方あるまい。東京と京都以外の競馬場が閉鎖されちまうんだ」
昨年、政府は今年の競馬開催の中止を宣言した。
それにより、東京と京都の二つでのみ能力検定競走という形で競馬が行われることとなった。
「競馬は中止。賭けることもない無観客開催となるとさ」
「無観客ですか…」
そこで彼女は、去年の優駿を思い出す。クリフジの走った、あの優駿。
「きっと、とても静かなのでしょうね」
「ああ…」
時刻は朝方、坂道・単走・併せ・丸太…この時期に水泳は寒くてやれないので必要な調教を一通り終えたカイソウは、長い本格化を迎えてその馬体は大きく成長してきた。
「おぉ〜、やってるやってる」
「あっ!セントライト先輩!」
すると、もはや当たり前のように生徒会室を抜け出してきたセントライトがカイソウに声を掛けた。
そしてちょくちょくセントライトがカイソウを気にかけてこちらにやってくることが多かったので、窪田もすっかり慣れてしまった。
「またサボりか?」
「いやいや、流石に怒られて今日は真面目に仕事をしたよ」
そう言ってセントライトは近づくと、
「先輩、どうぞ」
「悪いね」
カイソウが座っていた場所を譲って立ち上がった。
「テキ、じゃあ私は走ってきますね?」
「ああ、気を付けろよ」
そしてそのまま流れるように芝を走り出し、窪田は時計を手に持って時間を測り出す。
「窪田調教師」
「?」
「気を付けたまえ。軍部の連中が、カイソウに目をつけ出した」
「…」
セントライトの注告を聞き、途端に彼の表情が険しくなる。
「冗談…ではなさそうだな」
「ああ、去年の優駿でも相当な奴が持って行かれたしな」
セントライトはそこで学校の創設理念を思い返す。
元々日本の競馬は、日露戦争以降に軍馬の重要性を鑑みた政府が軍事費から捻出して此処まで盛り上げていた。
故に優秀な軍馬となりそうな者は走る前から徴兵されてしまう。そして有力な馬はいなくなってしまった。だからクリフジは出遅れなのに六馬身差をつけて走ったのだと言われていた。
「せめて四年は走らせたい」
「無論だ。だが今の軍部はなりふり構わずやってくる。君達も少々気をつける必要があるぞ」
「…それほどか?」
「それほどだ」
セントライトは言うと、窪田は考える。
するとカイソウが馬場を一周して戻ってきた。
「二.四〇.六。よしカイソウ、もう一周できるか?」
「はい!分かりました!」
「ゆっくりと走れ。今度は三〇〇〇だ」
「はいっ!」
そこで頷くと、彼女は再度走り出す。今の時刻は、彼女にしてみれば普通ほどだった。
「本気で走らないか」
「ああ、まだ完全に本格化が終わったわけじゃないからな」
「…まだ終わっていないのか」
そこでセントライトは軽く呆れも混ざった驚きをして走るカイソウを見る。
「随分と鈍間な本格化だ…」
「俺も同じことを思ったよ」
窪田は苦笑すると、そこでセントライトは言う。
「…今年の優駿、撮らないそうだ」
「そうか…」
そして走る彼女にセントライトが少し顔を顰めた。
東京優駿大競走が、他の七大競走と比べて一段抜けて格があると言われるのには多くの所以がある。
この東京優駿大競走は開催以降、一度も開催地・開催距離の変更が行われることなく十二回行われてきた。
それは菊花賞も当てはまっていたが、菊花賞も後の時代に開催地が変更されて行われたことがあり、ついにその伝統を残すこととなったのは東京優駿のみとなってしまった。
また人気においても東京優駿はどの競走よりも人気があり、セントライトも三冠を獲得した時よりも優駿を取った時の方が観客は盛り上がっていた。
そしてこの人気を収めるために東京優駿は第一回の開催から撮影が行われていた。
「アイツが走る姿は、俺の目に焼き付けとけって事か…」
「そう言うことになるな」
セントライトは座り、そして考える。
「全く、嫌なことばかり舞い込んでくるよ。競馬場の閉鎖に競馬開催の中止。今年走る馬娘の選抜…」
そこで彼女は肩を落とす。
選抜された馬娘達は、京都に新たに立てられた寮に入ることとなり、事前の阪神の生徒達と同様に大慌てで生徒会や職員達はその対応に追われていた。
「…まだ、今年乗り切れたら何となかるだろう?」
「…」
その時、セントライトの脳裏をある嫌な事が過ったが、それを口に出すことは憚られた。もしこれを言えば、たちまち憲兵か特高が飛んできてどこかに連れて行かれるか、教育的指導が炸裂するだろう。
「そうだな…」
セントライトはそこで軽く深呼吸をする。
「そろそろカイソウが戻ってくる。それまでに直しておけよ」
「分かっているさ」
そこで彼女は息を吐いて表情を整えると、そこで三〇〇〇米を走り終えてきたカイソウが速度を落として駆け寄ってきた。
「お疲れ」
「お疲れ様です!」
そこで軽く流したカイソウは、セントライトと窪田を見た。
その時の顔はどこか緊張した雰囲気で、同時に決意したような顔をしていた。
「?何かありました?」
「ん?何で話も無いさ」
セントライトは先ほど話していたことを特に気にしていないと言った雰囲気でカイソウに負担をかけないように答えると、彼女は首を傾げながらもそうですかと頷いて、そこでふと、空が曇って雪が降るのを見た。
「あっ、雪だ」
「この時間に雪か…」
「明日の朝に、また市電の雪かきを言われそうだな」
「おっ!本当ですか!」
セントライトにカイソウが耳をピンと立てて反応すると、そこで窪田がやや呆れた目を向ける。
「テキ、朝に走っていいですか?」
「やめてくれ。いくらお前さんが故障知らずだからって優駿前に雪で転けて怪我で回避とか…」
言い切る前に、一瞬だけ窪田は脳裏に先ほどセントライトからの注告が過った。
「?どうかしました?」
「…いや、何でも無い。取り敢えず、此処最近のお前さんは係り気味だ。雪かきで走るのはまた別日にしろ」
「えぇ〜…」
少し残念がる彼女。この時期の雪かきと言うのは、雪車を引いて重い水分の多めな雪と共に雪かきをする関係で腰を下げる必要があり、良い体幹調教となるのだ。
「姿勢に困るのはよく分かるがな。無理をしすぎて体調を崩されたらこっちも困るのさ」
「む〜…難しいですね〜」
カイソウはそこで少し唸り、それにセントライトは軽く笑う。
「はははっ、まあその前に君の場合は勉学だな」
「うげっ」
そこで少しカイソウの表情が曇った。
「聞いたぞ?お前さん、最近社会の成績が悪いそうじゃ無いか」
「いやいや!あれは授業中に先生が…」
「カイソウ、赤点で補習になってもしらんぞ」
窪田は呆れた表情でカイソウに言う。
この学校の特性上、当然競馬史の授業があり、彼女その成績が他のと比べると下がっていた。
「歴史云々を覚えるよりも数学の方が解きやすいんです〜!!」
「わがまま言うな。お前の姉さん召喚して教えてもらうか?」
「姉さん私より酷いんで大丈夫です!」
その直後、カイソウの脳天にチョップが振り下ろされた。
「うごっ」
脳天に一発喰らったカイソウはそのまま患部を手で覆ってうずくまった。
「失礼」
するといつの間にいたのか、ミネタカがカイソウの背後から現れた。
「おぉ、ミネタカくんか」
「覚えてくださり光栄です。セントライト生徒会長」
彼女はそこで軽くセントライトに会釈をすると、そのまま視線を下げてカイソウを見る。
自業自得だなと思いながらセントライトは痛がるカイソウを横目にミネタカに言う。
「この前は助かったよ。おかげで生徒達が隠れられる防空壕が作れた」
「それは何よりです」
図書室で経済学や建築学の教科書を開いている事が多いと聞くミネタカとカイソウ。姉妹だからなのか、二人の開く本は同じようなものが多かった。
実際、彼女達のおかげで教本も何も無い状態から防空壕を作る事ができ、同時に頑丈な物が学校の地下に出来上がっていた。またミネタカは、その後も防空壕の作り方を記した教本を作り、それは競馬学校に渡され、重宝される事となった。
「窪田調教師。妹をお借りしても?」
「ああ、今日の調教は終わったぞ」
「分かりました」
そしてミネタカは、何処から聞きつけたか歴史を教えると言った。
あれ?ミネタカは歴史が苦手なんじゃ無いのか?
「さあ行きますよ。まずは古代史から」
「やぁ〜だ〜!姉さんの歴史受けたく無い〜!!」
「わがまま言うな」
そしてその時の嫌がり方からミネタカは歴史が得意なんだなと、カイソウが軽く嘘をついていたのを理解する。
ズルズルと引き摺られて寮に消えていく二人を見送ると、セントライトはそこで窪田に聞いた。
「随分、聞いていたより仲が良さそうだな」
「ああ、ずっと寝る時は姉妹で寝ているんだ。慣れてきたんじゃ無いのか?」
窪田はそう答えて考えた。セントライトも二人の関係の改善の兆候に少し安堵していた。
「アイツが姉を同室にしてくれって言われた時はどうしたものかと思っていたが…」
「結果的に良かったら、それでいいんじゃ無いのか?」
「…そうかもしれんな」
そこで窪田は軽く吐息すると、そこでセントライトは少し笑って歩き出した。
主「一回でいいから馬主になってミテェなー」
友「馬かー、確か遠い曽祖父ちゃんが持ってた馬にシンザンってのが居たなー」
主「へ?」
友「あとダイユウサク?とか持ってたって聞いたー」
主「???」
それを聞いて食ってたラーメンがお亡くなりになりました。(意訳:ラーメン吹き出した)
お気に入り登録、高評価をよろしくお願いします。
IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)
-
いる!
-
いらない!