一月二四日
大本営は支那派遣軍に対し大陸打通作戦を下命。
一月二六日
内務省は東京都と名古屋市に初の疎開命令。
一月三〇日
アメリカ軍、マーシャル諸島の日本軍基地爆撃。
クェゼリン環礁に侵攻。
一月三一日
連合軍、ニッサン島へ上陸。
二月一日
連合軍、マジュロ環礁に侵攻。
二月五日
第二次アキャブ作戦実行。
二月六日
クェゼリン環礁にて日本軍守備隊、玉砕。
二月十二日
連合軍、アルノ環礁無血占領。
二月十七日
馬政局長官は、本年度より能力検定競走施行要領により、能力検定競走を施行するよう指示。
同日
トラック島空襲。
二月十九日
連合軍、エンチャビ島に上陸。
二月二〇日
連合軍、エンチャビ島を占領。
二月二一日
東條英機首相が参謀総長を兼任し、独裁体制を確立する。
二月二五日
決戦非常措置要綱が閣議決定。
二月二六日
第二次アキャブ作戦中止。
二月二七日
グリーン諸島の戦いにて日本軍守備隊、玉砕。
二月二九日
連合軍、アドミラルティ諸島占領。
三月三日
政府が国民学校学童給食・空地利用食糧増産・疎開促進を行わせる三綱領を発表。
三月四日
宝塚歌劇団が休演前の最終公演を行う。
三月五日
連合軍、ビルマ北部に空挺降下。
決戦非常措置要綱により、待合茶屋、バー、料亭が閉鎖される。
三月六日
全国の新聞で夕刊が廃止。
三月八日
第二次タロキナ作戦を実行。
同日
インパール作戦実行。
日本に於ける競馬の歴史というのは悲しい程に浅い。
そもそも、日本に於ける競馬の始まりは日露戦争に於ける軍馬の育成不足によるものであるからだ。
日本人と欧州人には体格差があり、日本人含めた亜細亜人と言うのはまず体が小さい。かのロシア帝国で最強と謳われたコサック師団は旅順攻防戦や奉天会戦で、日本軍騎馬隊と戦った。
その際、日本軍の死者はロシア軍を上回っており、旅順に至っては『死者の桁間違えていないか?』という通信があるほどに悲惨な結果となった。
この時、政府は騎兵の力量差を痛烈に感じており、彼女らを強化・育成し、兵士として強い血を残す目的でそれまで外国人の娯楽であった競馬に力を入れ始めた。
より強い馬を求め、子を成して次代に繋げる。そして血をまじ合わせることでより強い子を作る。そのための素質を見出す場所が競であった。
「いずれはこうなると、思ってはいたが…」
生徒会室で、京都競馬学校の生徒会長は独りごちる。
この国はあまりにも長い間、戦争をし続けて来た。
柳条湖から始まり、満州国を作り、日中戦争と長い長い戦争期間を経て英・米・仏・蘭をはじめとした欧州列強と砲火をまじ合わせている。
「競馬開催の中止か…」
去年まで、軍事費の回収の為の娯楽として残されていたこれですら中止が決まり、所属している馬娘達への徴兵が始まった。
「なるべく多く拾い上げたつもりだが…」
既に学校自治が脅かされ、京都と東京以外の競馬場と競馬学校が閉鎖され、多くの生徒達が今年の検査から溢れてしまった。
せっかく合格を勝ち得たというのに、国の方針によって学校を追い出される。その上、徴兵検査の後に軍馬として召集される。
本人達にとって有難い話ではあるかもしれないが、セントライトとしては学校の縮小と生徒の走る機会を奪ってしまうことに難色を示していた。
八日には新潟競馬場が閉鎖され、来週には福島・小倉の両競馬場が閉鎖される。
今年、昭和十九年の競馬も間も無く始まる頃。いつもであればこの時期、新入生を歓迎する目的で入学しこの準備を行なったり、新入生の情報を仕入れたりするのだが、今年はその数をさらに減らした。
「はぁ…」
セントライトは反対であったが、阪神から訪れた生徒会役員たちは多くの馬娘を戦場に送ることに否定的ではなかった。
なにせ元々競馬学校は優れた軍馬を輩出するための国営機関であり、そこの生徒が軍に奉仕をするのは仕方のない話であるからだ。
「(私も…付き添わねばならぬか…)」
彼女は窓の外を静かに眺めていると、今年の競馬が無事に終わることをただひたすらに願った。
「ほらぁ!まだ走るぞ!」
「っ!!はいっ!」
その時、夕方の調教でカイソウは坂道を駈歩では知っていた。
場所は学校から離れた山間の山道。二人はそこで朝から階段の上り下りを行って調教を行なっていた。
「…よしっ、いい時間だ」
そこで懐中時計で時間を確認した窪田は確かな手応えを感じた。走る度に時間はどんどん縮まっており、体の仕上がりを感じざるを得ない。
「確認するぞ」
「はい」
一周走り終えたカイソウは、そこで窪田に足の温度を確認させる。
「…んっ、良さそうだな」
そこで温度の確認を行うと、そこで彼は小さく頷いてからカイソウに言う。
「だいぶ本格化も収まってきたな」
「そうですか…」
カイソウはそこで安堵して胸を撫で下ろす。自分の長く続いた本格化もようやく終わりの兆しが見えたと思うと、安心して走れる。
窪田もようやく終わる改装の本格化で、ようやく競走に向けて呼び強い調教ができると思い、調教予定の組み直しを脳内で行なっていた。
「しかし、重馬場にこれほど強いとは…」
そして同時に彼女の脚質に軽く舌を巻きながら戦略も同時に考える。
彼女の脚質は先行・差しと言ったあたりが最も性に合っていると思っている。だが彼女の強みはそれだけではなかった。
永井こと調教に付き合ってきたから分かったが、彼女の北海道の農道の泥道で鍛え上げられた鉄のように頑丈な脚は、重馬場におろそしいほど慣れていた。
元々北海浪と言うのは明治以降日本が入植を行なった開拓途中の北の大地であり、いまだ大半が泥んこ砂利道である。
春のヌカルんだ泥道をある国がどれほど苦労するのもか、それは窪田も札幌生まれだから理解していた。むしろ彼女の生まれの道南よりも雪の多い札幌故にその泥んこ具合はもっと酷いかもしれない。
「どうです?私の得意分野」
「重馬場でも速度を維持できるのは強みだ。カイソウ」
窪田はそこでカイソウに無数の可能性を感じた。
彼女の夢である東京優駿。今年は能力検定競走と名を変えてしまったが、それでもまだ走れる。
優勝すればあの日本刀は授与されるというので、カイソウも窪田もそれを取りにかかった。
「よしっ、もう一本行くぞ。今度は逆回りだ」
「ハイっ!」
窪田が言うと、カイソウは少し大きく頷いてから山道を再び走り出す。
そんなカイソウを見送ると、そこで彼は足元近くに小さな祠があるのを見つけた。
「おっと」
危うく蹴り飛ばしかけたその祠の中には小さな狐の石像が置いてあり、窪田は膝を曲げて祠の前で手をあわせる。
「すまない」
そこでまずは謝罪をし、軽く祠の位置を安定させるために移動する。
「…すまないね。お揚げも酒も持ち合わせがないんだが、」
窪田はそこでカイソウの走り去っていった方を見つめると、その後視線を祠に戻して少しの間祈った。
「どうか、あいつが無事に走り切れる人生を送れるようにしてくれ」
その静かな願いは直後に吹いた風によって消えていった。
山間の道を走るカイソウは、ふと思い出していた。
それは一ヶ月ほど前の話だ。例の学校閉鎖に伴う種馬検査によって、京都に元々いた多くの生徒たちが学校を離れることになってしまった。
全生徒が受けた検査で、その中には同級生も多く含まれていた。
「そう…」
カイソウは少し気を落として反対に座る同級生を見る。
「ごめんね」
「いやいや、謝る必要なんて」
彼女は、父親がアッツ島で玉砕した際にカイソウが対応をした子であった。
葬式には出られたことで彼女とはその後も交流があり、それゆえに先の選抜で落とされたことは悲しかった。
そしてその馬娘は、この後に適正ありということで徴兵が決まっていたのだ。
「大丈夫、お国のためだから」
「…そっか」
徴兵・お国の為。彼女は軍人さんとなって戦ってきてくれるのだ。
「だから…カイソウちゃんも、優駿頑張ってね」
「ええ、もちろん」
学校を離れて戦地に向かう彼女や他の子達のためにも。自分が頑張る必要があるのだ。
自分が努力をして走れることはとてもありがたい事なのだと、自分に暗示をかけていた。
だってこれから学校を去ってしまう子達はみんな、軍人さんとして前線に赴く子達ばかりだ。
これから彼女たちを駅まで送り、同時に千人針を手渡す準備もしていた。
今まで何度もあったことで、私もすっかり慣れてしまった。
ーー無論、その時に優駿を取って欲しいと言われることも。
「気をつけて」
「ええ、ありがとう」
そこでお互いに軽く抱き合った後、その子は制服を脱いで軍服を着た。
薄紫色のセーラー服は、脱いだ後もセントライト先輩の計らいでセーラー服は生徒たちの家に送られる。
徴兵という形なので学籍も残ったままなので、戦争が終わったら帰ってくることができた。
「天皇陛下、バンザーイ!」
「「「「「バンザーイ!バンザーイ!バンザーイ!」」」」」
学校の神社で、徴兵された子たちにセントライト先輩が言葉を述べ、私たちは両手をあげて万歳三唱をする。
学校から一旦実家に帰っても同じことをすると聞いている。
そして各々名前を記した旗を持って駅まで生徒たちみんなで歩く。
道中、国民服を着た人達が一様に道を譲って帽子を脱ぐ。そしてこれから戦場に向かう子たちに敬意を払って頭を前に下げる。
「立派じゃあないか」
「これからお国を守る子たちよ。素晴らしいわ」
誰もが、これから徴兵される子たちに向かって沿道の人たちが口にした言葉の数々。
そのどれもが、これからお国のために役立つのだと喜んでいた。だが、
「私と同い年なのに…」
ふと、そんな言葉が聞こえた気がした。
耳の良い私だからなのか、その声が聞こえた方に一瞬だけ目線をやると、そこには自分と同い年くらいの人の女性と初老の女性が頭を下げていた。
人、ただの人の女性。
私たちと違って長い耳もないし、尻尾もない。
私たちと違って一人で思い荷車も引けないような非力な女性。
それを羨ましいと思った事は一度もなかった。
数人が他にも聞こえていたのだろう。私と同じような反応をしていた。
「…」
その時、私の中にはなんとも言いようのない、どうしようもできない、言い難い感情が芽生えたような気がした。
そして駅まで向かい、そこで私たちは『出征兵士を送る歌』を合唱しながら見送る。
「行ってらっしゃーい!」
「気をつけてー!」
「頑張って〜!」
私たちはそこで、笑顔でみんなを見送ると列車が見えなくなるまで日の丸の旗を振り続けた。
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IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)
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