クラシック→四年
に名称変更しました。
作業中ですが、もし修正できていない場合は誤字報告していただけると、とても助かります。
三月八日より始まったウ号作戦、またの名をインパール作戦。
目的はインド帝国北東部の都市、インパール。
作戦理由は援蒋ルートの切断。一月には牟田口廉也陸軍中将自ら記者を招いた作戦概要の説明も行なっていた。その際、とある新聞記者からの質問に彼はこう返した。
『盧溝橋でもシンガポールでも天佑神助で勝った。今度も成功して見せる。なるほど補給戦では多少苦労するかもしれないが、これもやり方一つで切り抜けられる。
ジンギスカンの故知にならって羊や牛を二万頭ほど連れていく。そして、羊や牛の肩に、干飯をつけて、それがなくなれば羊や牛を食べて進むのだ。これは立派な移動手段になるからな。まぁ見ていなさい。』
この「ジンギスカン作戦」と名付けられた作戦に対し、記者達は牟田口中将の「神頼み」を期待するような話に呆れる者もいた。
ガラガラと音を立て、牛車や馬車、ロバが山を移動する。
「…」
誰もが静かに、何も言うこともなく荷車を中心に沼地や川を移動する。
「おっと」
その時、皮を渡ろうとした時に一人の馬娘が足を少し滑らせてしまった。
「気をつけろよ」
「はい!」
そんな彼女に他の兵士達も心配して気にかけていた。
その矮小な体で大きめの荷車を引ける馬娘達は、補給線構築の上で必須の存在だった。
兵士たちもそんな自分たちの生命線である補給品を引っ張ってくれている馬娘を命懸けで守ろうとする。
同様にロバも荷物を引いており、一般兵は背嚢に一人二七キロの荷物を背負っていた。
「敵襲ぅっ!!」
その時、エンジンの音を聞いた一人が叫ぶと、上空に
「うわっ!」
「ぎゃあっ!?」
その銃弾に運悪く命中してしまった兵士は命中した場所を中心に抉れるように体が弾けると、他の兵士達は持っていた小銃を空に向けて発砲する。
「撃て!」
直後、ある馬娘が牽引していた
ドンドンと重い音を立てて
「よしっ!」
「よくやった!」
その攻撃に襲撃を受けた部隊の小隊長はすぐ様、攻撃を行い、一機撃墜を行った馬娘を讃えたが、
「馬鹿者ぉ!」
ちょうど側にいた中隊長がその賞賛をした小隊長と馬娘の双方に叱責をする。
「重要な物資だ!それをたった一機撃墜するために何発撃ったか!」
「…はっ!大変申し訳ございません!」
その事に本人も、その周りにいた兵士たちも困惑の色を隠せなかった。
だが、この中隊長の叱責に反論を行うと歩けなくなるまで殴打され、救護人が増えるので誰も意見を言うことができなかった。
「…どうしてだよ」
「意味がわからん…」
その叱責をした中隊長に聞こえないくらい小さく、二人の兵士がぼやいた。
彼女の射撃がなければ、自分たちは粉微塵にされていたかもしれなかったからだ。
そして叱責を終えると、その中隊長は叫んだ。
「これより進撃を再開する!急げ!」
その号令に、兵士達は休憩を終えて立ち上がると再び長い行軍を再開した。
この作戦に際し、軍令部は軍馬一万二千頭や水牛三万頭、象一〇三〇頭を用意。
第十五軍隷下の第十五、三一、三三師団を主力とする日本軍はインパール盆地を北進、北部から振興を行う第十五師団と合流を果たし、インパールを占領する計画であった。
「俺、後どのくらいで帰れるかな…」
「何、すぐに終われるだろうよ」
途中、ある兵士がつぶやくと、その声は静かにインドの大地に消えていった。
三月八日
新潟競馬場閉鎖。
三月二〇日
米軍、エミラウ島無血占領。
三月二一日
福島・小倉競馬場閉鎖。
三月二二日
日本競馬会は横浜競馬場の移転費用、六九五万一六四九円九九銭を受領。
三月二七日
上野より初の集団疎開列車が出発。
三月三〇日
中野競馬場閉鎖。陸軍に引き渡し完了。
三月三一日
函館競馬場閉鎖。同地は陸軍高射砲陣地に転用。
同日
海軍乙事件。
古賀峯一海軍大将殉職。
福留海軍中将より、重要機密書類がアメリカ軍の手にわたる。
四月一日
学徒勤労動員を実施。
同日
日本競馬会は主務省の認可を得て「能力検定競走施行規程」を制定、この日より施行。
カイソウの本格化も終わりを迎えつつある頃、東京では桜が咲き始める頃合いであった。
「うわぁ…」
隅田川の近く、ここまで出掛けに来たヤマイワイはその景色に思わず声を漏らす。
「綺麗…」
隅田川沿いの桜は、戦前より桜の名所としても有名である。
「昔は夏に、ここで花火が打ち上げられていましたよ」
「そうなんですか?」
着物姿でこの場所を訪れたヤマイワイは、そこで話しかけてきたクリフジを振り返る。
彼女は四月二三日から東京競馬場で行われる呼駈五年を走る。距離は芝一六〇〇米。
今年の彼女は、横浜記念を取った後に帝室御賞典(春)に出馬する予定であった。
「ええ、私がまだ子供の頃でしたが…」
千葉の帝室の保養地で誕生した彼女は幼い頃に何度も東京に訪れてきていたので、隅田川の花火大会を懐かしげに振り返っていた。
「へぇ…」
岩手生まれのヤマイワイは、そもそも東京自体が珍しいものであったため、その花火大会を想像して少し頬が緩みそうになる。
隅田川の花火大会が一九三七年以降、開戦により開催は見送られていた。
「いいですね…花火」
「またいずれ見れるようになりますよ」
そんな彼女にクリフジが言うと、ヤマイワイもわずかに頷く。
「そう、ですね…」
ヤマイワイは四月二八日に新馬戦に出場し、その後に
今年の
「私が五日前に出ます。距離はあなたと同じ条件の東京・芝・一六〇〇米です。私の走り方をしっかりと見ておくのですよ?」
「は、はいっ!」
クリフジの圧にヤマイワイは少し緊張した高い声をあげてしまうと、そんな彼女にクリフジは肩を軽く叩いた後に少し微笑む。
「…大丈夫です。貴女には、貴女なりの走り方があります」
「…ありがとうございます」
その一言でヤマイワイは少しだけ励まされたことで気持ちが軽くなった気がすると、
「おーい」
二人の調教師である前山長吉が声をかけてくる。
坊主に国民服を羽織り、頭に帽子を被る彼はヤマイワイとほぼ等々身長であったためにすぐに見分けがつく。
今日、二人が東京に来ていたのは前山の所用に休憩と称してついて来て、ついでに東京の街に慣れていないヤマイワイをクリフジが案内するためであった。
前山は一五〇にも満たない身長と体重で、その体格の小ささから去年の七月の検査でその身長により丙種、つまりすぐに徴兵されない判定を受けていた。
「そろそろ行くぞ〜」
彼はその身長の小ささからくる四〇キロにもほどの体重を誤魔化すために常に鉛入りの
新米でありながらもクリフジを変則三冠に導いた腕前は確かであり、緒方調教師もそこを大変よく褒めており「保田や野平に並ぶ名調教師だ」と言っていた。
「はい!」
「わかりました」
そこで二人は前山に返すと、歩いていた川辺を離れて前山と共に東京の街を歩く。
東京は戦時下であっても大勢の人がおり、同時に銀座では多くの人々が出て賑わいを見せていた。
「ここはちっとも変わりませんね…」
その賑わいを見ていたクリフジが言うと、前山は少し驚いていた。
「そうなのか、俺。青森から出てきたばっかだからよく知らねえんだよな…」
今年で見習い調教師二年目の彼はそんな東京の街を見ながら一言。
「私も、まだ東京に来て一年目ですよ」
「はははっ、俺と似たようなもんだな」
そんなヤマイワイに前山は笑って答えた。この時、前山の年齢は二一。女学生であるクリフジやヤマイワイともそう大きな年齢差はないので、自然と話題の話も会うような年齢であった。
二人の所属は緒方厩舎、その厩舎に所属する馬娘は寮が東京競馬場外の清水が丘にあった。
「テキ、今度の調教ですが…」
「ああ、丸太引きだな?問題ない」
クリフジと前山は調教の話を初め、その様子を一歩後ろからヤマイワイは静かに見ていた。
「(やっぱり、お似合いだなぁ…)」
これが俗に言う『阿吽の呼吸』というやつなのか、と内心関心をしながらクリフジと前山の関係を見る。
少なくとも二人はお似合い、と言えるほどに仲が良く。自分が中に割って入る余裕はどこにもなかった。
「(いっそこのまま…がいいなぁ)」
そう思えるほど二人の仲は良い。
またクリフジも前山を意識しているような仕草をすることが時折あった。…前山が気がついているかどうかはさておき。
片方は常勝無敗を掲げ、唯一五大競走の一つを大差勝ち。おまけに変則三冠を有する日本初の『最強』と呼ぶに相応しい馬娘。
対する一方は、齢二〇にして日本初の変則三冠を達成した緒方調教師も認める天才見習い調教師。
相手にとって問題は無いと言っても良かった。
少なくとも、二人の間から生まれてくる子供はさぞかし優秀な子なのだろうよ容易に想像できるくらいには。
家柄に関しても、前山がどこかの家に養子入りをすれば問題なかった。
ヤマイワイは二人の関係を見た時から、一歩引いて二人のことを案じていた。
そしてそのまま二人は、府中の東京競馬学校に戻るまでずっと話し続けていた。
「あっ、カイちゃんから手紙だ!」
そして寮に戻ると、ヤマイワイの机に一通の便箋が置かれており、名前を見たヤマイワイは少し嬉しくなる。
今は京都にいる我が友人からの手紙。中身を開くと、彼女の今後の予定をざっくりと記したことが書かれていた。
「あっ、カイちゃん二三日に新馬戦なんだ…」
そこにはカイソウが四月二三日に新馬戦に出る話が記されていた。
ちょうど同じ日にクリフジも東京の芝で同じ距離、同じ頭数で走るのでどことなく縁起が良く感じてしまった。
「返事書いておこっと…」
長いこと続いているこの文のやり取りに、ヤマイワイは尻尾を左右にゆらゆらと動かしながら鉛筆を手に取った。
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IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)
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