ソノ日ノ空ハ銀色デシタ   作:Aa_おにぎり

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京都競馬場が戦前、どのようなルートで走っていたのかが分からなかったので現在のルートを使用させていただきます。


#30

四月六日

日本軍、コヒマ占領。

 

四月十七日

大陸打通作戦実行。

 

四月十九日

日本軍、鄭州占領。

 

同日

連合軍、コックピット作戦実行。

 

四月二一日

連合軍はホーランジア、アイタペに上陸。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

「カイソウ、お前の新戦が決まった」

「っ!!」

 

窪田の言葉に、カイソウの耳がピンと立った。

 

「おぉ!」

「…」

 

そして思わず声を漏らし、同じ小部屋の調教師室に用意された椅子に座っていたミネタカもわずかにだが耳と尻尾を少し伸ばす。

 

「いつですか!」

「まあ落ち着け」

 

かかり気味なカイソウに軽く窪田が諭すと、彼はそこで一枚の資料を渡す。

 

「日にちは二三日。場所はここ、京都だ」

「おぉ!」

 

日付と開催場所を聞かされ、いよいよかとカイソウは静かに目を閉じる。

二年前、編入試験でこの場所に訪れた時から待ちに待った新戦に興奮が止まらない。

 

「距離は一六〇〇米。良いか?京都の一六〇〇米だ」

「はいっ!」

 

そこで彼は黒板に白墨(チョーク)で隣にある京都競場の場の概形を記した後、そこに磁石と共に赤い線状の紙を置く。

この時代、色付きチョークというのは白チョークにペンキを塗ったようなものしかなく、色付きチョークができるのは戦後の事であった。

 

「初めは長い直線だ。そこではなるべく貯めて行け」

 

そこで窪田はカイソウに競走で使う道の注意点を言っていく。

 

「京都の一六〇〇は途中に淀の坂が入ってくる。向こう正面から第三角まで坂が続いて、第四角から一気に降っていく。足をどこまで貯めれるかが要となってくるわ」

 

ミネタカがそこで軽く詳しい説明を入れる。

 

「走る時の配分はいつもと変えなくて良いわ。まあ競走で走るのは至って普通。先行・差しが有利な場所よ」

 

経験も交えた彼女の話は、カイソウにとってためになった。

 

昔、東京優駿で彼女は逃げの一手を打って第三角で抜かれて失敗し、十著となった。

その後の阪神優駿では四著、掲示板に入ることができた。

翌年の帝室御賞典(春)でも四著。

その後は数度の勝利を収めてから計十三勝をして現役を終えた。

 

その経験者からの指摘というのは、何よりも重宝された。

 

「ありがとう。お姉ちゃん」

「…」

 

カイソウが言うと、ミネタカは少しだけ間を開けてから軽く息を吐く。

 

「わかったら、今日の調教をしに行くの。良いわね?」

「うん、すぐに行きましょう!テキ」

「ああ、そうだな…」

 

そこでカイソウはすぐに部屋を出て行って、今日の調教に向かう。

窪田もその後を追いかけようとして、部屋を出る直前にミネタカに言った。

 

「悪いな。助かった」

 

それだけ言うと彼は部屋を出て行った。

 

「…」

 

そして部屋の扉が閉じられると、そこで一人。ミネタカは窪田が書き、カイソウが凝視していた黒板が残される。

 

「…」

 

京都競場の場が書かれ、今度カイソウが走る新戦の進路が記されていた。

 

「…はぁ」

 

そしてその黒板をしばらく見つめた後に小さく彼女はため息を漏らした。

 

「…どうして、私が残ってしまったのでしょうね」

 

そして自傷するようにその言葉を漏らす。

自分の競争成績であれば、先の選抜によって学校に残っても問題ないと判断されるには十分であった。

 

「…」

 

そこでミネタカは、前に妹と交友のあったクリフジに言われた言葉を思い出す。

 

「…えぇ、分かっていますとも」

 

自分が自惚れているのだという自覚。

なぜこの学校に残る事を許されたのか。それは現役時代、七大競走に出できるほどの成績を残していたからだ。

東京優駿・阪神優駿・帝室御賞典(春)。どれも格付けでは一番上に立つ競走である。

そんな競走に出られた時点で上澄も上澄みとなる。

 

学校と言うのは競を行うための専門学校であるが、それ以前にそもそもこの競学校にいる生徒達は全国区から選び抜かれた娘である。無論、その公平な選抜は容赦なく能力のない娘を落としてきていた。

 

故に、優秀な娘はその後に競を発展させる目的で結婚相手を選ぶ事となる。

ここで学校を追い出すことは後に不利益となると判断された為であった。

 

競走で走り、優秀な成績を残すことは、それ即ち縁談の数が増えることと同義であった。

選手以前に女であると言う生物上の分類ゆえに、私たちは子が欲しい。その生理的欲求が今の自分の中には確かにあった、

 

主に阪神で活躍をしていた自分は、京都では数回走った程度で終わってしまった。

だが、淀の坂はすでに自分の足が経験していた。

 

「…」

 

先の選別の時、多くの生徒がこの学校から去っていった。その理由は競を行う上での能力と、京都と東京の競学校で養える生徒数にも限界があるからだ。

中には一度も走る事なく学校を去って行ってしまった娘も居る。

 

彼女達は皆一様に走る以前に『お前に未来はない』と言われたのだ。その為、多くの生徒は涙を流しながら学校を後にし、残る子達に向けて言葉をいくつか残していく。

無論、すでにその能力が同級生の中でも目立つカイソウに大しては多くの言葉が寄せられていた。

彼女は学舎でも多くの娘に対し、真摯に対応をしてくれたことから同級生達の間でもよく好かれていた。

彼女の少しおっとりとした性格も、下級生や上級生からも好かれる。万人に人気がある性格であった。

 

故に彼女の才能を見込んで、多くの学校を去っていく子達は彼女に口々に言った。

 

ーー優駿を、取って。

ーー東京優駿を私の代わりに勝って欲しい。

ーー東京優駿で勝って、新聞に顔を見せてほしい。

ーー優駿の日本刀を!

 

ーー東京優駿を。

 

 

ーー東京優駿を…。

 

 

 

ーー東京優駿を…!

 

 

 

 

ーー東京優駿を…!!

 

 

 

 

 

ーー東京優駿を……!!!

 

 

 

 

 

 

彼女達の願いを、カイソウは全て聞いていた。

徴兵された子達には千人針を必ず作り、先輩や年下も関係なく動く彼女に、多くの生徒達は彼女に憧れていた。

北海道から身一つで京都に飛び出し、すでに今年の有力候補として見られているカイソウ。

 

彼女に託された願いはただ一つ、『東京優駿を勝ってほしい』。

 

そのために彼女は毎日努力を欠かさない。

今日も、ついに決まった新戦のために調教に向かった。

彼女は常に鉛入りの下着を羽織っており、制服の下から毎日負荷をかけていた。

 

今年の出に合わせて調教されている彼女の肉体ははち切れんばかりの筋力を備えていた。

 

「…」

 

ミネタカは出て行ったカイソウを前に、無事に走り切ってくれることを願うしかできなかった。

 

 

 

 

 

京都の場に出て駈歩で走るカイソウ。

いよいよ新馬戦ということで、彼女は芝の上を蹄鉄を踏み締めて走る。

 

「はぁ…はぁ…」

 

この日の為に、彼女は走り続けていた。二年前、初めてここを走った時からここは変わらない。

大きな競走があるたびに、多くの観客達がここに足を運んで見にくる景色。

 

去年の冬の、クリフジ最後の四年路線であった京都農商省賞典。

そこで彼女は新戦以降無敗、七大競走初の大差勝利をした。

 

あの時の熱狂は今でも耳に響いている。

 

「今度は…私が…」

 

クリフジと同じ場所を走る。

 

私はあの走りに魅了されていた。

 

誰もかもを置いてきぼりにし、その強さを見せつける最強の

憧れすらも遠い。だが、追いかけ、追いつくことだって可能であると信じていた。

 

「っ!」

 

その時、カイソウは地面を深く踏み込む。一面の芝、この前整えられたばかりの芝の上をカイソウは容赦なく蹄鉄の跡を付ける。

 

私には脚がある。

 

幾多もの負荷にも耐えられる強い脚が。

 

日本で、いや世界でも一番の強い脚がある!

 

この脚さえあれば、自分はどこまでだって走っていける気がする。

 

「カイソウ!」

「はいっ!」

 

そこで自分は窪田の呼ぶ声に反応をして、そこで速度を落として柵の側で待っていた窪田に近づく。

 

「一.四九.二…上出来だ。一六〇〇米の最速記録更新だな」

「よしっ!」

 

そこでグッと拳を握り、カイソウは自分の実力が着々と伸びている実感を感じる。

 

「脚も問題なさそうだな」

 

そこで窪田ばカイソウの走っていた時の姿勢が綺麗な事実に軽く頷く。

少なくとも、北海道で鍛え上げられ、同時に身についた自己流の走り方は完全に整えられ、競走としての自覚と姿勢は整っていた。

 

「はい、特に熱発もありません」

 

カイソウは自分の脚の確認を軽く行ってから答える。無論、窪田もその言葉を信用した。伊達に二年付き合っているわけじゃない。

 

「今年の横浜農商省賞典は五月二一日だ。正直、今から調教を行ってもギリギリで間に合うことは間に合う」

 

窪田はそこで、本格化を終えたと判断したカイソウに改めて聞く。

 

「カイソウ、本当に横浜は捨てるんだな?」

 

それはつまり、最初からクラシック三冠の座を捨てるということとなる。

その覚悟は出来ているのか?という問いだった。

 

「…はい。横浜は諦めます」

 

その質問に、カイソウは静かにゆっくりと。しかししっかりとした表情で頷く。

 

「三冠は諦めることになるぞ?」

「それよりも、私には東京優駿を勝つことの方が重要ですので」

 

カイソウは言った。

先の選抜で、この学校を去る事となった多くの同級生から慕われていた彼女は、彼らが去る際に彼女に『是非優駿を!』と言っていたのを窪田は知っていた。

 

「…あまり気負いすぎるなよ」

 

過剰なまでに彼らの期待はカイソウに向けられていた。

彼女の、本来のおっとりとした性格と合わせ、その脚の強さは噂になるほどには強かった。

 

「大丈夫ですよ。私、こう見えても頑丈ですから」

 

カイソウはそう言って、軽く腕を捲って自分の腕を二度叩く。

彼女は自分が心身ともに丈夫であると言うことを窪田にも伝えていた。

 

「…そうか」

 

彼女の強気な返事に、窪田も少し微笑んで彼女の頭を少し撫でる。

 

「さぁ、目標は優駿だ。それまでに完璧に仕上げるぞ!」

「はい!必ず勝ちましょう!」

 

彼女は大きく頷くと、そこで彼は言う。

 

「横浜に出ずに優駿に向かう。それなりに覚悟しろ!」

「大丈夫です!毎日走っても壊れませんよ!」

「ふははっ!大きく言う」

 

窪田はそんなカイソウに軽く笑うと、再び計測器の針を揃える。

 

「じゃあ後二周だ。次の目標は自己最高記録のマイナス二秒でいくぞ」

「了解です!」

 

そこで軽く柔軟を行い、関節のもみほぐしを行った後に彼女は再び場を走っていく。

窪田は彼女が走るのを見送ると同時に、手元の計測器で時間を図った。

 

 

 

 

 


 

 

 

 

 

四月二二日〜六月中旬

春季能力検定競走開始。

 

 

 

 

 




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IFストーリーは入りますか?(主にカイソウが三冠目指した世界線とか)

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